小川遼「新型コロナによる住居喪失者への影響と対応の現在(2020年度反貧困ネット北海道オンライン連続学習会)」

2009年に設立された反貧困ネット北海道では、生活相談や貧困問題に関する学習・啓発など様々な活動に取り組んできました。2020年は新型コロナウイルスの感染で活動が制約される中、反貧困ネット北海道を構成する諸団体(運営会員)が、それぞれの現場でどのような事態に直面しているのか、またそうした中でどのような活動に取り組んでおられるのか、共有することを目的に、連続学習会をオンラインで、6回にわたって開催してきました。事務局の責任でまとめた全記録は、反貧困ネット北海道のウェブサイトで読むことができます。

以下はそのうちの、2020年8月18日に開催された第3回目の学習会で講師を務められた、小川遼さん(札幌市ホームレス相談支援センターJOIN相談員)のご報告です。内容は当時の状況に基づくものです。司会は、山内太郎(札幌国際大学/反貧困ネット北海道事務局長)です。/(反貧困ネット北海道事務局)

 

 

 

札幌市ホームレス相談支援センターJOINの小川と申します。「新型コロナによる住居喪失者への影響と対応の現在」と題してお話しをさせていただきます。

 

JOINの事業内容、運用

 

まずJOINについて紹介します。

事業の内容ですが、自立相談支援事業と一時生活支援事業というものを、札幌市のほうから委託を受けて運営しています。これは生活困窮者自立支援法という法律に定められている事業なのですが、自立相談支援事業が総合相談みたいな感じでいろんな相談を聞いて、生活の再建の支援をしていくということです。そして一時生活支援事業というのがいわゆるシェルター、家の無い方に一時的な住居を提供する事業です。

この二つの事業の札幌における運用はとてもややこしいのですが、簡単に説明します。もともとホームレス支援をやっていた団体が4つありました。「ベトサダ」、「アジール」、「みんなの広場」、「れおん」という4つの団体。生活困窮者自立支援法の制定とその事業を札幌市が始めるのに合わせて、この4団体で一緒にやりましょうという話になり、JOINというものが作られました。この4つの法人の協議会として、新しく「一時生活支援協議会」という法人をひとつ作って、計5つの法人で運用しています。僕はこの一時生活支援協議会の職員というような扱いです。

この協議会の機能は、この4つの分室(施設)の調整と、最初の相談窓口です。相談者がまず一時生活支援協議会の相談窓口に来て、家が無くてシェルターが必要だということであれば、状況に合わせてこの4つのうちのどこかに振り分けます。もともとそれぞれに支援をやっていたところなので、それぞれ特色があって、その特色に合わせたところに振り分けています。例えば「ベトサダ」だと、この事業の前までは、生活保護を使わずに就労を目指す人のためにやってきたところなので、仕事につなげるのがすごく早いです。この「アジール」さんだと、女性の支援ですね、女性のDVのシェルターとして使われていて、女性専用になっています。また、協議会は調整役にもなっているので、「ウチの施設に合わなかった」「トラブルになって出さなきゃいけない」という時には、協議会のほうにケースを戻してもらって、また別なところに振り分けるということもできます。利用者さんにとっては悪くない仕組みかなと思います。

それからこのゲストハウスというのは、後述しますが、今回のコロナウイルスに合わせて札幌市で借り上げたところで、これも一時生活支援事業としてやっています。

 

JOINの利用者像

 

JOINはホームレス相談支援センターという名前ではありますが、いわゆる「ホームレス」という言葉のイメージからは離れた利用者さんがほとんどです。どんなものにせよ問題がこじれにこじれると、本当にいろんな領域の人たちが住居を失くすのでうちの支援の対象になります。例えば独居のおじいちゃんの認知症がいつのまにか進行してしまって、生活できなくなってくる。家賃も払えなくなる。そうなると裁判所の職員がやってきて、家の中の荷物全部とおじいちゃんを出してしまう。そうして家が無くなり、うちの方に来るということもあります。

また例えば精神障害があって、あんまり支援につながれていなくて、それで家賃を払えなくなると、また同じような形で部屋を出されてしまって、うちに流れてくるというケースもあります。ほかにもDVで逃げてくるパターンもよくありますし、あとは刑務所を出所して行き場が無い人。でも更生保護施設には行きたくないとか、あるいは更生保護施設に断られた人。コロナウイルスの影響で、微熱があるからうちでは受けられませんと言われて、行き場所が無くなってうちに来るケースもありました。それから長らくひきこもり状態だった人が親元を離れる決意をして相談に来ることもあります。親子関係が深刻に悪化している場合はシェルターの利用に至ることもあります。

また女性の割合が大きいのもJOINの利用者の特徴です。外で寝泊まりしているいわゆる「ホームレス」はほぼ男性ですが、うちは女性の割合が大きいです。これも「ホームレス」というイメージからはちょっと離れている利用者像ですね。それから、住み込みの派遣労働者たちというのが本当に多いです。住み込みの工場労働とか、住み込みで何かの収穫とか、例えばホタテの殻剥きとかをするのですが、季節が終われば期間満了で契約終わりますよね。あるいは何かのトラブルで解雇されるだとか。そうなると、寮だからもう住居が無い。仕事も無くなると同時に家も無くなってしまう。普通に賃貸であれば、失業してから家が無くなるまでの間に生活保護を申請するなどできますが、住み込みの派遣労働者の場合だと失業と住居の喪失が同時になってしまいます。なので路上で生活する期間はほぼ無かったりします。家が無くなってその日のうちにJOINに来るとか、あるいは、「もうすぐ仕事が無くなって家が無くなるから行きます」と事前に連絡をして来る、または2、3日のうちに来る。こういう人たちは、外で長期間寝泊まりしているような「ホームレス」ではなくて、もっと大雑把に「住居喪失者」、居場所のない人たちというイメージです。

札幌市のほうから委託を受けて労福会でホームレスの人数を数えているのですが、この人数があんまり少ないとJOINの予算に影響があるかもしれないみたいな話を前にボソっとされたりしました。全然対象者がかぶってないのに「ホームレス」という言葉に引っ張られて、JOINのほうと、路上で寝泊まりしているホームレスというのが関連付けられてしまっています。これはちょっとまずいので、認識を変えていかなければならないと思っています。

資料をいくつか持ってきたので、お見せします。ちょっと画像が荒いですけど、赤い線が国の方でやった路上生活者を対象にした実態調査です。黒い線が、うちの事業、一時生活支援事業の利用者の線になります。住居喪失後の期間の比較です。いわゆるホームレスたちは、今すごく高齢化、長期化していると言われていて、3年以上やっている人たちが65.6%になっている一方で、JOINの利用者さんたちは、相談に来た段階で、住居喪失してから1か月未満の人が83.4%です。例えば、札幌市のホームレスは直近だと30人。一方で、JOINへの相談件数というのは年間700件以上。実際に施設を使う人も300人前後なのです。だから数としても全然合わないし、うちの利用者さんたちはいわゆる「ホームレス」ではないのです。

年齢構成で比較しても、全然違います。「ホームレス」の人たちはすごく高齢化していて60代が中心ですが、うちの施設の利用者さんたちは20代~40代と、働ける年代の人たちが中心になっています。

男女構成は、これはちょっとデータが古いのですが、これも「ホームレス」とJOINの利用者とでは全然違うということです。また、全利用者に占める女性の割合は年々増えています。直近のデータはまだ出していませんが、増えている感覚があります。

うちの利用者さんの年齢構成を男女で分けてみると、けっこうグラフの形が違うんですよね。女性の利用者さんは20代が一番多いです。これは、風俗で、住み込みで働いている人たちがけっこういたりするのでそういう影響があるかもしれません。あとはDVから逃げてきた人たちもいます。男女で住居の失い方が違うのだろうというのが見えてきています。

 

住居喪失時の場所の内訳

 

JOINの利用者さんが最後にどこの住居を失ったのかというデータを取っていくと、市内の人は半分ぐらいで、残りの半分は市外から流入してきていることがわかりました。利用者全体の4分の1は道内の札幌市外から来ています。

そしてこれは、その人たちが具体的にどこから来たのかというのを白地図上にプロットしたものです。例えば稚内は、田舎なのに結構多いですけど、じゃあこの稚内から来た人たちは何なのかというと、ホタテです。派遣会社が関東から稚内に人を集めてホタテの殻剥きなどをさせるのですけど、労働者がいざ行ってみたら仕事が無いとか、なのに寮費だけかかるとか、労働そのものが過酷だったとか、賃金がすごく安かったとか、逃げてきた人たちからそのような話を聞きます。利尻島も派遣会社が人を入れています。皆さんいろんな事情でうちに来ますけど、中心になっているのは派遣の人たちで、あちこちから来ています。

 

新型コロナウイルスによる影響

新型コロナウイルスによる影響についてお話します。これは2月28日から1週間ごとの相談件数をグラフにしたものです。ピークは6月3日時点の過去1週間。ここは1週間で31件の相談がありました。5月末あたりでは、「どこまで増えるんだ?」と思ってヒヤヒヤしていたんですけど、6月始めあたり以降は、もうずっと減っているような感じで、8月12日になると1週間に4件しか新規の相談が入っていません。だいぶ落ち着いてきた印象があります。

ピーク時の部分が、住居確保給付金に関する問い合わせでした。ですから、「家が無い」という相談というよりは、住居確保給付金に関する相談がたくさん来て、いつもの相談に上乗せされているような感じです。6月の始め以降になると、住居確保給付金に関する相談はもうほぼ無いです。そういう意味で落ち着いたという印象があります。

この資料は、本人主訴に基づいてコロナウイルスの影響を受けたと思われるもの、相談者が「コロナのせいでこうなった」と言った相談の件数です。つまり間接的な経済的影響が客観的に反映された資料ではないという留保のもとでご覧ください。

3月が2件で、4月が43件、5月が49件、6月が14件、7月になるともう3件。最近では「コロナで」という相談はほぼありません。またコロナが主訴の相談のうち住居の喪失を伴っている件数を見ていくと、他の月が1、2件の中で4月が15件というのは突出しています。4月は緊急事態宣言の月です。さっき言ったような、流動する、不安定な居住の派遣労働者たちが4月に一気に来ているのです。緊急事態宣言が出て、例えば工場が止まったというときに、そのまま寮に入れておけばいいのに、追い出す。どうせ空き家になるんだから入れておけばいいのではと思うのですが。工場やホテルが営業できない状態で仕事が無いからと部屋から追い出された人たちや、居候をしていたとかで、「お金を入れられないなら出て行ってくれ」と言われたみたいなケースも入ってはいますけど、そんなふうにもともと住居が不安定だった層が緊急事態宣言の影響を受けて4月に集中して相談に来ているということです。

これは、月ごとの相談件数の前年度との比較のグラフです。7月の分は集計が終わったばかりで反映されてないですけど、一番上の水色の丸いポチが付いた線が、今年度の4月からの相談件数です。4月113件、5月99件、6月109件。これはかなり多いです。黄緑色の線が前年度ですけど、4月48件、5月55件、6月60件、7月72件でした。前年と今年で2倍近い開きがあります。相談件数はかなり増えている。ただし、今年度も7月に入れば、さっきの1週間ごとの件数を見てもわかる通り、かなり落ち着くと思います。

とはいえちょっと気になるのは、プラン策定件数という下の方の線です。支援するときに一緒に計画を立てるのですが、その計画の策定件数を表しています。JOINの場合は、一時生活支援事業を利用した時にプランを立てるのがほとんどです。そうなると、プラン策定件数は、住居喪失を伴う相談件数とだいたい一致するはずなのですが、これを見ると、今年度のプラン策定件数は増加傾向を示しています。感覚としても、相談件数は減るものの、1件1件がちょっと重たいような感じがします。もしかしたら今後、住居喪失を伴うようなケースは増えていくのかなという気配があります。

 

事業拡充に向けた活動と成果

こういった状況を受けて、事業拡充に向けて活動しました。事業というのは、自立相談支援事業と、一時生活支援事業を指しています。これは労福会のほうで出した要望書になります。一時生活支援事業の拡充と、市営住宅の空室等を活用した居宅の確保を要望して、市議会議員のほか、各会派に要望書をわたしてきました。ちょっと話も聞いてもらって。これは本当にスムーズにうまく行って、一時生活支援事業の拡充と、相談支援員の増員が決定しました。

それでこのふたつの事業は5月1日から拡充されています。さっき話したゲストハウスは、この一時生活支援事業の拡充です。そして支援員も1人増やしてもらっています。この要望は厚労省の動きに合わせたもので、事前に僕らも通知を読んでいて、支援員の増員に関しては10割国庫負担ということだったので、これは行けるのではと見込んで要望しています。この要望以前には、市の担当者もこの拡充の話に関して、―僕らは明らかにもう必要だろうと3月の時点で思っていたのですが―検討する気配が全然なくて。しかし、これをお願いした以降は一気に進んだので、意味があったと思っています。

それで、一時生活支援事業の拡充ですが、CRASSISTの四井さんのアドバイスもあって、観光客の減少で困っているであろうゲストハウスを借り上げることになったのです。これが本当におもしろくて。今までのシェルターは、とりあえずの生活の場をなんとかしようというところに焦点化されているので、利用者同士の交流や生活空間のデザインなどはあまり考えられていなかった。その点ゲストハウスは、宿泊施設でありながら単純なホテルとは違って、国内外のバックパッカーとかが交流を求めてやって来るところです。ですから、アーキテクチャからして交流を前提に作ってあるんですよね。ここもまたそういう感じで、おじさんたちが本当に楽しそうに、仲良くしていて。そこで友達になって、施設を出たあとにも連絡を取り合ったりしていて、釣った魚を分け合ったりしているんですよ。こういうことは今まであまり無かったことです。これは面白いなと思っています。

それで、これがあまりに面白いので、ちょうど今日助成金を申請するところなのですが、このゲストハウスの代表と、他のいくつかの団体と協力して、500万ぐらいの助成金がたぶん降りるんじゃないかなと思っています。ゲストハウスは今、観光客が全然いなくてカツカツだと思うんですよね。だから、このように施設化するのにはもってこいの状況にあります。そこで、この札幌のゲストハウスに加えて、今回の助成金を使って、家が無い人を緊急的に保護する施設として、江別のゲストハウスも活用するという話が進んでいます。江別にはシェルターはないんですよね。これは今後の展開が楽しみなものです。コロナでみんな大変ですけど、このようにちょっと新しいものが発見されることもあり、悪いことばかりじゃないかなと思っています。

札幌のゲストハウスの庭はこんな感じです。この掃き出し窓の中が、みんなが交流できる居間です。掃き出し窓の外は縁側になっています。タバコはここで吸うことになっているので、入居者たちがいつもここでプカプカとタバコを吸いながら交流しています。日差しがちゃんと入る庭で、ガラスの雨よけひさしもあります。とても素敵な空間です。

 

ホームレスの特別定額給付金受給に向けた取り組み

ホームレスが特別定額給付金を受給するのはけっこう難しいです。電話や住所など、手続きに必要な基本的な資源が不足しているからです。おそらく皆さんのお家には普通に申請書類が届いたと思いますけど、ホームレス、家が無い人には届かないですね。ホームレスの人たちも給付金のことが気になってコールセンターに公衆電話から電話をかけます。ところが、電話に出るのは役所の人ではなくてコールセンターなのです。コールセンターのスタッフというのはその場限りで臨時的に雇われているわけで、親身で柔軟な対応があまりできません。コールセンターのスタッフを責めるつもりはなくて、ガバナンスの問題です。コールセンターに電話しても「あぁそれだめですね」などと言われて、やりとりが終わってしまったというケースも見ました。これもすごいハードルになりますよね。

それから、住民登録が遠隔地の場合は、郵送以外ではどうにもならないですよね。例えば「遠軽にあります」とか言われても、書類取りに遠軽まで行くというのは無理があります。手紙を受け取るための住所がやっぱりどこかには必要になるということです。また、住民票が消除されていた場合は新たな登録が必要となります。つまりこれは、原則的に、ホームレスのままでは給付金をもらえないということを意味しています。それに対してはもちろん反対運動も起こっていますけど、今のところこの問題を解消するようなものは無いままです。

あと総務省がホームレスへのアウトリーチ用に作ったチラシの出来が非常に悪いという問題がありました。一応、家が無い人にもちゃんと案内してください、という通知が全国の自治体に行っていて、案内の際にはこの総務省が作ったチラシを使ってねという話なのですが、そのチラシがひどく出来が悪い。彼らはマイナンバーの話をしたくてしょうがないようで、マイナンバーの話を無理やり盛り込んできて、そのせいでチラシのレイアウトがぐちゃぐちゃになっていて、そこでまず読む気力を失くす。そして、このマイナンバーの話のさらに下のところだけがホームレス宛の内容なのですが、「住民票が無い人でも給付金を受け取ることができる可能性があります」って書いてあるんです(笑)。なんだかすごくもらえなさそうな表現ですよね。そもそも特別定額給付金は、全員に給付するはずのものだったのに、まるで「もらえたりすることもあるかも」みたいな表現になっている。おかしいですよね。

そういうわけで、ホームレスの給付金受給のために、労福会のほうで市と交渉、申し入れを行いました。申し入れの一つ目の要望が、「住民登録の無い方に給付する対策を講じること」。4月27日時点で住民登録のある自治体で申請が可能で、登録が無い人については新しく住民登録すれば支給できますという通知が出ているのですが、その際に家が無いままでもネットカフェなどを長期間利用しているのであれば、事業者の同意を得てそこに住民登録できるならそこでもいいよ、ということになっているんです。けれども、これもハードルがめちゃめちゃ高いです。現実的じゃない。ネットカフェの店長に「住民登録してもいいですか?」と聞いて「いいよ」って言ってもらうのがそもそも難しいし、仮にネットカフェに住民登録する許可を得たとしても、戸籍課のほうで登録をはねられる可能性もあるわけですよね。通知は戸籍住民課宛ではないからです。こういう非常にハードルの高いことをホームレスにやるように案内しろというような通知がされていたわけです。「ネットカフェで住民登録」というその話は、通知から大分経った後で、「認めるように」という通知が別途戸籍課のほうにも行ったので、今はその点が解消されてはいますけど、依然としてこれはあんまり現実的じゃない。「もうちょっと何とかならないのか?」という要望になります。

二つ目の要望は、さきほどの総務省の作った周知のチラシがあまりにもひどいから、もうちょっとわかりやすいものを札幌市のほうで作って欲しいというものです。

三つ目は、ホームレスの人の中には口座を持ってない方もけっこういらっしゃいますので、現金給付をやって欲しいという要望です。

交渉の結果としては、チラシをJOINと一緒に作る約束を得たのと、現金給付はもともとやるつもりだから心配するなという回答です。ただやっぱり、住民登録の無い方に給付するための対策という点については ―これはもうダメ元で書いたようなものではあったのですが― 住民票と連動させるのは国の方針なので自治体のレベルではそんなに簡単にはいきませんという回答でした。

ところで、チラシを一緒に作るという提案はこちらから持ちかけたのですが、それはホームレスへの給付の支援を私たちがするにあたって、給付金担当課とちょっと仲良くなっておきたいという狙いがあってのことでした。これはうまくいきました。これが札幌市が新たに作ってくれたチラシです。総務省のものと比べてはるかに見やすいですよね。チラシの最後のところにJOINの連絡先も入れてもらいました。ホームレスに配るものなので、イレギュラーな対応に難のあるコールセンターの番号を載せるよりは、JOINの番号を載せてくれと。これを路上生活者に配りました。おかげで給付金担当課との関係ができて、連携する体制が出来上がりました。そうして具体的な個別のケースについても、コールセンターを経由せずに、給付金担当課と直接やりとりできるようになりました。ややこしいケースについても、「これどうしましょうね」とお互いに相談できるし、コールセンターを噛ませるよりも迅速です。

とはいえ、これはもともと彼らがやるはずの仕事なので、僕らがタダ働きさせられている感じではありますけども。それでも、おかげでややこしいケースについてもちゃんとお金をもらえるように対応してもらえているので、悪くはないかなという感じです。

 

ホームレスの給付金受給支援の状況

この表が労福会とJOINで関わった長期路上生活者、ホームレスに該当するようなケースの給付金受給状況の記録です。8件となっていますが、これは最新版ではないです。ちょうど昨日1件、コールセンターから「もうすぐ〆切だし間に合わない」「そもそも住所がないと何も送れません」といった冷たい対応を受けた人が、JOINに相談に来ました。明日一緒に給付金担当課に行って申請書をもらって来ることになっています。すぐに申請書も用意してもらえて、その話も進む予定です。なので長期路上生活者に関しては全部で9件になりますね。ここにはシェルターを使った人は入ってないです。シェルター使った人にもどんどん申請させているのですが、シェルター使った人も含めると膨大になってしまうので、ここには入っていません。また夜回りなどで話を聞いていくと「自分で出来たよ」とか「宗教団体が隣町まで車で連れてってくれて申請できた」と言う人とかもけっこういるので、札幌のホームレスの受給率はかなり高いのではないかと思っています。

 

今後の課題

今後の課題は、今後の経済的な影響がいつどの程度の規模でやってくるのかがまだ全くわからないことです。したがって、どのぐらい備えればいいのかも、どのぐらいの覚悟でいればいいのかもわからないというところです。

そして、コロナ禍にあわせた今回の臨時措置、事業の拡充が、とりあえず10月末までと言われているのも課題です。10月以降どうなるのかということは、まだ何も聞かされていなくて、おそらく延長されるのではないかとは思っていますけど、まだわかりません。これは延長してもらわないと困るな、というところですね。

それから、先月の僕の時間外労働が50時間を超えていて、つらい。なんとかならないかというところも今後の課題です。報告は以上になります。

 

 

質疑応答

 

山内 ありがとうございました。質疑のほうに移りたいと思います。

 

 

参加者H JOINの予算とホームレスの数の関係を、もうちょっと詳しく教えて欲しいです。

 

 

小川 これは何なのかよくわからなくて、けっこう前の2~3年前の話で、もう認識が変わっているのかもしれないですが、概数調査のときに、チラっと口頭で言われたんですよ。労福会で委託を受けてホームレスの人数を数えているのですが、この調査って、ホームレス自立支援法のほうの話なんですよ。それで、ホームレス自立支援法で、30人を下回ると、ホームレスの支援を重点的に行う都市の枠から外れるみたいな話があって、それのことを言っているのだと思うんですよね。一時生活支援事業のほうは関係ないので、それで判断されちゃうとちょっと困るなということです。

 

 

参加者E 家が無くて困っている人が、ポテンシャルとして潜在的にどのぐらいいるか、ざっくりでもわかりますか?そのうちの何パーセントぐらいが実際に相談に来られるのか、捕捉率はどのぐらいあるのですか。

 

 

小川 なかなか難しいのですが、少なくとも、長期で路上生活をしている人たちは、うちの事業を使っていません。一応、僕らも声をかけて歩いてはいますけど、「まだいい」とか「もうちょっと頑張る」とか言われちゃいます。そういう意味では、対象者だけど使ってもらってない人は、札幌の路上には今少なくとも30人以上いるということになると思います。

あとは、住居喪失不安定就労者などと言われる「ネットカフェ難民」ですけど、これがもしかしたら意外と札幌にはいないのかもしれないというのが、今回コロナのことで思ったのですよね。大阪や東京の調査では、もうものすごい数がいるということになっていますけど、うちには意外と来ませんでした。緊急事態宣言にあわせて押し寄せて来るんじゃないかと当初は思っていたのですが。もしかしたら、札幌ではネットカフェ難民みたいな人たちは意外と少ないのかもと思いました。

 

 

参加者E あと、家でDVに悩んでいる人、あるいは家に居づらい人の中には、思い切って相談に来る人もいれば、我慢している人もいると思うのですが、アウトリーチで積極的にそういう人を見つけに行くみたいなことは難しいですか。

 

 

小川 DVでのアウトリーチはすごく難しいですよね。まず家庭内で起こっているのでそんなに簡単に見えてこないし、「もしかしたら」と思って僕らが下手な干渉の仕方をすると、家庭内でどういう反応が起こるかというのも予想がとても難しいところでもありますね。あと、しょっちゅうあることとしては、「DVだから逃げたいです」って言っている人をうちで保護すると、すぐに家に戻っちゃうというようなこともあります。そこにはやっぱり、夫婦間のいろんな力学が働いているので、予測が難しいですね。あるいは、僕らが家庭内の政治の中でちょっと利用されている面、例えば「私は避難するほど苦しんでいるんだ」というのを夫に示すために使うというのもあるでしょうし。すごく複雑なものが働いているので、安易にアウトリーチとか、干渉するのは、なかなか難しいなと思っています。

ただし、うちに来る人たちのかなりの部分が、まずはDVの専門機関、専門の相談員のところに行っているんですよね。保健センターに母子婦人相談員というのがいて、なぜか嘱託職員らしいのですが、この人たちがまず相談を受けています。そしてDV被害者用のシェルターとして道立女性相談援助センターというのがありますが、そこがなんだかんだと理由をつけて受け入れてくれないことがすごく多くて、それでうちに回されて来るのです。ですから、DV対策をより拡充していくというなら、JOINのほうでというよりは、この道立女性相談援助センターをちゃんと使えるようにするとか、あるいは母子婦人相談員の雇用形態を変え専門性を高めていくというような方向で考えていった方がいいと思っています。

 

 

参加者C ゲストハウスに入った利用者さんは、その後はだいたいどういうふうにしていますか?たとえば道立女性相談援助センターは基本的に2週間とか、滞在期間が決められていますけど、JOINの場合はこの期間内に次の落ち着き先を見つけろ、みたいな決まりは特にないですか?

 

 

小川 事業としては、原則3カ月ということになっています。実は延長もできて、もう3カ月延長できるので、最長で6カ月使えることになっています。基本的には3カ月の間で出られるような見通しを一緒に立てて、その計画に沿って支援を進めていきます。ただ、生活保護になる方が半数以上なので、とりわけ今はコロナの影響で仕事が無く生活保護につながる割合も高まっていると思いますけど、生活保護だと、申請してから2週間以内に決定が下りることになっていますので、3カ月もかからず、長くても1カ月くらいのスパンで回転していくという感じです。

 

 

山内 ホームレスの人数が今どうなっているかという話で、思ったより増えていない印象だということでした。JOINの相談件数も、6月に急上昇したけれどもその後は落ち着いてきているという状況ですよね。このように、春先の予測とすこしずれているというあたりは、どんなふうに考えていますか?

 

 

小川 そうですね。先ほどの相談件数の資料には6月分までしか反映されていませんが、7月には相談件数が一気に落ちていると思います。ただし、4~6月の相談件数を大きく底上げしているかなりの部分が、住居確保給付金に関する相談なのです。住居確保給付金はうちで扱っているものではないのですが、うちに相談が流れ込んできたんです。

むしろ見なければいけないのは、どちらかというとプラン策定件数の増加傾向です。これは一時生活支援事業の利用者の策定したプランの数になるので、これが今後、このまま上がっていくのか、あるいはこちらも落ち着いて行くのかというのが、わからないところです。実感としては徐々に増えてきている感覚があります。確かに、路上生活者は、夜回りをしていても増えたという印象はないです。ただ、うちの事業の対象になるような、家を失った人に関しては、今後このまま増えていくような気がします。まだ始まったばかりなので、なんとも言えないところですが。

 

 

参加者I プラン策定とは、具体的にどういうものなのでしょうか?例えば、生活保護を受ける方はそうしましょうとか、あるいは生活保護を利用したくないという人はこういうふうにしましょうかとか、何か提案して話し合って決めていくとか、そういうことなんでしょうか?

 

 

小川 はい、そうです。生活保護にするとか、障害の手帳を取るとか、こんなサービス使ってみるとか、そういったものをプランとして書いていきます。そして、目標も設定して、その達成に向けて、このくらいの費用が必要だよねとか、こういう物が要るよねとか、生活保護申請しないとねとか、部屋探さないとねとか、そういうことを書いていって、プランを作るというかたちです。

 

 

山内 それでは時間になりましたので終わります。非常に中身の濃い報告と質疑でした。お疲れさまでした。

 

 

 

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