近藤紘世「コロナ禍の路上生活者と労福会の支援活動(2020年度反貧困ネット北海道オンライン連続学習会)」

2009年に設立された反貧困ネット北海道では、生活相談や貧困問題に関する学習・啓発など様々な活動に取り組んできました。2020年は新型コロナウイルスの感染で活動が制約される中、反貧困ネット北海道を構成する諸団体(運営会員)が、それぞれの現場でどのような事態に直面しているのか、またそうした中でどのような活動に取り組んでおられるのか、共有することを目的に、連続学習会をオンラインで、6回にわたって開催してきました。事務局の責任でまとめた全記録は、反貧困ネット北海道のウェブサイトで読むことができます。

以下はそのうちの、2020年8月18日に開催された第3回目の学習会で講師を務められた、近藤紘世さん(北海道の労働と福祉を考える会事務局長)のご報告です。内容は当時の状況に基づくものです。司会は、山内太郎(札幌国際大学/反貧困ネット北海道事務局長)です。/(反貧困ネット北海道事務局)

 

 

 

北海道の労働と福祉を考える会(労福会)の近藤紘世と申します。本日はよろしくお願いします。

 

労福会の概要

 

労福会は、1999年に北海道で設立された団体です。主な活動として、路上生活者や生活困窮者への支援を行っています。

路上生活者に対してアウトリーチ的な支援活動していて、街中にいる生活困窮者に対して、パンを配ったり、会話したりする「夜回り」を毎週行っております。また、炊き出しもしています。炊き出しでは、困窮者に対して温かい料理や衣類、その他必要な生活物資等を困窮者に提供しています。そのほかに、電話相談、各種手続きへの同行、概数調査など、幅広く活動をしております。

 

札幌市の路上生活者の現状

コロナウイルスの環境下におかれた、ホームレスの人たちの実際の声を紹介します。感染防止のためか、北海道では、ホームレス支援の活動が縮小されていると考えられます。そのため、「炊き出しが無い」、「マスクの要望」、「肌着が欲しい」など、支援が十分に行われていない現状を示しています。

路上生活者の支援件数についてですが、生活保護申請数を見てみますと、前年度が2件、今年度は8月時点で3件となっております。コロナウイルスの影響で、困っている方が増えていると言えます。また、シェルター等を含む部屋探しの件数も、前年度は1件、今年度は8月時点で3件と、増加傾向にあると思います。

 

コロナウイルス流行下の支援活動

 

 

では、コロナウイルスの流行下で生じた、支援活動の変化について説明したいと思います。

まず、メインの活動である夜回りの変化についてです。コロナウイルス感染防止のため、次のような対策を実施いたしました。集合時のソーシャルディスタンス、集合場所を屋外にすること、調査エリアごとの参加人数の制限などです。また、調査範囲も以前より拡大しております。参加人数制限の方針とちょっと食い違うようですが、これは、コロナウイルスの影響で増えていると思われるホームレスの人たちの状況をより確実に知るために、より広い範囲での調査を行う必要があるからです。また、コロナウイルスの影響からか、夜回りへの参加希望者の人数が増加しました。これを受けて、活動拡大と感染防止の両立のためにも調査範囲を拡大することにしました。

ホームレスの人たちが特別定額給付金を受け取るための支援もしていました。夜回りで出会った人に、給付金の制度について説明しました。給付金申請に関する相談対応や、申請への同行を行っておりました。成功した給付金申請支援の件数は7件です。

炊き出しも変化しました。

先程述べた通り、コロナウイルスの影響で、札幌市では、炊き出しを自粛する団体が増えるなどで、ホームレスの人たちへの支援が十分になされていませんでした。そのことを考慮して、労福会は炊き出しを続けることにしました。ただし、感染防止のために支援の内容を縮小せざるを得ない状態にあります。以前は料理を提供していたのをお弁当の配布に切り替えたり、散髪と衣類配布を中止したりと、内容を削る必要が出てきました。炊き出しでの感染対策としては、事前の体温チェックや、ソーシャルディスタンス、消毒液の設置なども行っております。

 

概数調査

労福会は、毎年札幌市から委託を受けて調査を行っております。そのため同様の手法でホームレスの人数調査ができます。

今年度の概数調査の目的は、コロナウイルスの影響で路上生活者の人数が増えているのではないかと仮定して、昨年の路上生活者の人数と比較することです。また、昨年度から問題となっている、路上生活者以外の困窮者について、車上調査も実施します。

 

学生への生活保護の周知活動

労福会はホームレス支援のほかに困窮者支援も行っています。その一環として、夜間学生を対象に、生活保護制度についてのポスターによる周知を行う予定です。コロナウイルスの影響で仕事を失い、大学を辞めざるを得なかった学生が既に発生しています。コロナウイルスの影響での失業は、大学生も例外ではありません。

Ⅱ部(夜間)学生を対象にした理由は、生活保護別冊問答集によれば、「〔前略〕自立更生を目的とした惠与金等により、夜間大学、一定の専修学校及び各種学校に就学する場合は、入学の支度及び就学のために必要と認められる最少限度の額について収入認定除外することができる」とあるからです。

Ⅱ部学生にまずは周知を図り、その後、専門学校生やⅠ部(昼間部)の学生にも、生活保護制度のことを伝えていきたいと思います。

 

まとめ

コロナウイルスの流行によって、ホームレス支援の活動にも制限がかかるようになってしまいました。私たちは新しい方法で活動を継続しなければなりません。また、ホームレス支援に関心を持つ人が増加しています。その人たちの力も借りて、さらに活動を拡大していきたいと考えております。ご清聴いただき誠にありがとうございます。以上で報告を終わります。

 

質疑応答

 

 

山内 ありがとうございました。それでは質疑に移りたいと思います。

 

 

参加者C 夜回りなどに参加者が増えているということですが、増えているのは学生でしょうか、それともいわゆる一般の人、中高年の人ですか?どんな人の参加が増えていますか?

 

 

近藤 どちらも増えていると言えますが、体感としては、学生の参加者の割合が増えていると感じられます。

 

 

参加者C ありがとうございます。私も以前、労福会の会員で、支援活動に関わっていたのですが、年々、学生が減っている状態だったので、今学生が増えてきているということであれば、それはとてもよかったと思います。

 

 

山内 参加希望者の増加の原因は何でしょうか。

 

 

近藤 おそらく一つの要因としては、私たちの活動がマスメディアに取り上げられたり、コロナウイルスの貧困の影響などがニュースで取り上げられたりなど、世論の関心が向いてきたということがあると思います。

 

 

山内 マスコミに何度か取り上げられたというのが大きかったでしょうね。今年は、寄付も例年よりずっと増えました。

 

 

参加者D 事務局長さんも学生だと思うんですけど、この活動に興味を持たれたのは、どうしてですか?

 

 

近藤 きっかけはゼミの先生の紹介です。ゼミの先生と進路のことについて一度話し合ったとき、私自身が道を決めかねているのもあってか、実際に社会がどのようなものであるかを知る手掛かりになると紹介していただきました。

 

 

参加者E 現時点で札幌市のホームレスの方の人数はどれくらいで、それは去年と比べてどの程度増えていますか?

 

 

近藤 ホームレスの具体的な人数に関してはこれから調査を行う予定です。昨年度の調査では30人前後という結果になりました。

 

 

参加者E 感触としては、30名から増えているというふうに思われますか?

 

 

山内 近藤さんは今年に入ってから労福会の活動を始めたので、昨年との比較ということで僕の方から補足をしますと、僕の感触では、そんなに大きく増えたという印象はまだないです。それでも「コロナの影響でホームレスの人数はどうなっているのか」というもともとの関心で、実は来週に人数調査を行う予定になっています。コロナの影響で人数の変化があるのではという議論が春先にあって、どんな状況かというのを8月末くらいに調べようと決めたのですが、そのときに僕らが考えていたように増加しているという印象も今は無く、毎回夜回りで会う人数も30人前後で、いつもとそんなに大きく変わらないという印象です。

 

 

参加者F 特別定額給付金の申請支援を7名にされたということですけども、なにか苦労した点などはありましたか?近藤さんが同行した方は、スムーズに申請ができましたか?

 

 

近藤 スムーズとは言い切れなかったかもしれません。私は、後でお話する予定の小川さんのサポートという形で関わったので。

 

 

山内 特別定額給付金の話は、この後のJOINの小川さんの報告にもかかわるのですが、労福会がわりとJOINと一緒にやるようなところもあるので、そこを合わせて、このあとの小川さんの報告のほうで。

 

 

参加者G 路上生活者以外の生活困窮者の調査もされるとありましたが、具体的にはどういう方を対象にして、どういう方法で調査をされるのか教えていただけますか?

 

 

近藤 車上生活者です。事前に情報を集めて、何回か下見をして、どこの駐車場に車に寝泊まりしている人がいるのか、車を使って確認していきます。

 

 

松本 北大の松本です。コロナの影響下で、路上生活をされている人の暮らしそのものに何か変化がありますか?こんなことがより困難になったとか、あまり変わらないとか、何かお感じのことはありますか?

 

 

近藤 ホームレスの人たちの声の中に、炊き出しが減ったことによって必要な生活物資などの確保が難しくなっていたり、食べるもの自体が少なくなっていたりというものがありました。生活が厳しくなっていると私は思います。

また、座る場所がないという問題もあります。これはソーシャルディスタンスの一環で、建物の管理者などが、座る場所自体を減らしているのです。そのためホームレスの人たちが居る場所も変化しています。それから、ホームレスの人たちが座っていた商業施設がつぶれてしまって、そこから他の場所に移るなどの変化があります。ほかには「競馬がなくて困る」という声もあります。娯楽に困っている方もいらっしゃるみたいですね。暮らし向きに関してはこのような感じです。

 

 

松本 ありがとうございます。大変勉強になります。もう一点伺います。路上生活をされている方は、強い感染リスクにさらされていますよね。一方で、街にいる人たちから、逆にそのホームレスの人たちが感染源になるんじゃないかというようなことで、「近寄るな」とか「出て行け」とかいうようなこと、差別や排除がむしろ強まったということはありますか?

 

 

近藤 そういった声は、我々に話していないだけという可能性もありますが、あまり聞きませんね。札幌のホームレスの特徴として、一般の人とあまり見分けがつかないというのがあり、それでホームレスだと認識されていない可能性もあります。

 

 

山内 近藤さんどうもありがとうございました。

 

 

 

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