労働安全衛生活動の歴史と職場での労安衛活動の進め方/職場のパワハラ防止をめざして

学習講演
「労働安全衛生活動の歴史と、職場での労安活動の進め方」

 

田口 恭平(全労働北海道支部)

 

私は労働行政、ハローワークとか労働基準監督署に働く職員でつくっている労働組合、全労働省労組に所属しています。日ごろは労基署の安全衛生分野を担当していて企業の安全衛生担当者などに安全衛生に関する話などをしています。今日は皆様にお話をするのですが、皆さまの活動に少しでもお役に立つことが出来ればと思っています。

労働安全衛生法の目的

労働安全法とは、事業者の責務。労働者が安全で健康に働くことが出来るように、企業が守らなければならない最低限の決まりを定めています。

「安全」と「健康」の確保、「快適な職場環境の形成」を促進し、労働災害をなくすことが目的です。最近はコロナ禍の関係で労災申請が増えています。私のデスクには「労働者死傷病届書」が山のように届いており、業務に追われています。

労働安全衛生法は企業に最低限の基準として定めていますが、企業がそれを上回って対応して職場環境を改善することが出来ますが、その場合は労働者の協力を得るとされています。労使が協力していい職場環境を確保していくことを目的にしています。

労働安全衛生法の成り立ち

労働者保護の制度は1911年(明治35年)の工場法成立から始まりました。工場の労働者をターゲットにしていましたが、小さな企業は対象外で主に年少者や女性労働者保護を足かがりとして始まりました。その後、屋外作業、運送作業も対象にし、1931年(昭和6年)に労働者災害扶助法が成立しました。

その後、今の労働安全衛生法の基礎となる労働基準法が、1947年(昭和22年)に成立し、労働省が設置されました。2001年に省庁再編により労働省と厚労省が併合して、厚生労働省となって今日に至っています。

1972年(昭和47年)労働基準法から独立して労働安全衛生を管理する法律として、労働安全衛生法が公布されました。ただし、労働基準法の年少労働者の高所作業や建設業の宿舎管理などはそのまま労働基準法に残されています。

諸外国のうごきですが、1970年代はアメリカ(1970年)、イギリス(1974年)、西ドイツ(1975年)フランス(1976年)などの国々で安全衛生関係立法が成立し、世界が動き出しました。

労働災害の推移

労働災害の推移ですが、1972年ごろの死亡者数は3,000人を超えていましたが、2018年頃には1,000人を切り大きく減少してきました。死傷病者数も約6割に減少してきました。労働安全衛生に関する職場の取り組みは成果が出てきていると思います。しかし2000年代になると死傷病者数と死亡者数の減少幅が狭まってきています。ある程度の安全管理は整ってきていますが、これからは、さらに工夫して事故の防止を図って行くことが必要な時期になっていると考えています。

労働災害の原因

どうして労働災害が起きるのでしょうか?事故は危ない機械設備と人が接触することで起きます。機械設備が不安定な状態で、手すり等が整備されていない場合は、人に接触をさせない事です。また、人が不安定な行動を起こす場合は、機会に接触させない事などの対策を行うことが事故防止に必要です。安全管理上の欠陥を発生させないようにすることが求められます。

今まで労働災害がないから大丈夫ではなく、労働災害の実態を明らかにしていくことが必要です。ハインリッヒの法則というのがあります。アメリカの保険会社に勤務していたハインリッヒは統計を分析して、重大事故、軽傷事故、事故になる恐れのあるヒヤリハットの割合が1:29:300だとして、仕事をしてケガしたかもしれないという事が300件になると重大事故になることを踏まえて現場管理するべきとしました。

効果的な安全対策を

事故防止の取り組みとして「リスクアセスメント」が国際的に取り組まれています。特にヨーロッパで先駆けています。まず、その業務の危険性や有害性の特定を行います。次に危険性、有害性のリスクを見積もります。そして、リスク低減のするための優先度と低減措置を検討し、それに基づいて低減措置を実施します。これを日頃から行ってゆくことが大事です。

効果的な安全対策に関してですが、「人間は必ずミスをするもの」と考えることが必要です。人間の脳は「錯覚」します。ヒューマンエラーはだれでも起こします。

それを踏まえて効果的な対策を講ずることです。①設計や計画段階における危険性または有害性の除去または低減。②局所排気装置や防音囲いなどの工学的対策の実施。③マニュアルの整備、立ち入り禁止措置、ばく露管理、教育訓練などの管理的対策。④上記で除去・低減できない場合に個人用保護具の使用。などの手順を参考にして進めてください。

労働安全衛生委員会の設置

こうしたことを考えて法は安全衛生委員会・衛生委員会を企業に設置するとしています。

工業的業種は安全衛生委員会、非工業的業種は衛生委員会としており、それぞれ安全管理者、衛生管理者、産業医の選任が義務付けられています。多人数の場合は総括安全衛生委員会を設置することとしています。

委員会は労働者50人以上の事業場で設置することとなっていますが、50人を下回る場合、設置義務はありませんが労働者の意見を聞きながらすすめることとされています。労使が協力し合って進めることとしており、労働者は働く環境の改善を求めて参画することが必要です。

委員会は会社を総括する立場の人が議長になってすすめますが、管理者の意見を良く聞きながら議事をまわすことが求められます。

委員の構成は管理者・産業医・職場管理者等の企業が推薦する委員と労働者側の委員を同数選任することになっています。労働者側は、労働者の過半数を組織する労働組合の場合は労組が推薦します。過半数労組がない場合は過半数を代表するものが推薦することになっています。企業側ではそのことを知らない場合があり、説明会で企業側に伝えています。委員会のスタート時は参加した人が意見を言える体制づくりが大切です。

安全衛生委員会の議論と報告

安全衛生委員会での議論内容ですが、①職場で事故につながるような問題がないのか、あるとすればその改善をどうするのか、②職員検診やストレスチェックなどの年間計画の作成、③長時間労働のチェックなど過重労働対策、④仕事に出られない、自殺の恐れなどメンタルヘルス対策、⑤安全衛生に関する規定の協議などがあげられます。

「あまり意見が出ない」「早く終わってほしい」との意見も聞きますが、労働者側としては職場環境改善に向けて積極的に議論に参加することが必要です。同じ職場の人の立場を考えてこう思っている人がいるかもしれないとの意見も含めて発言することが大事です。また、委員会の議論の報告を職場に返すことが大事です。

労働災害と企業の責任

労働災害が発生すると、企業側には様々な責任を負うことになります。

まず、刑事上の責任として「安全配慮義務違反」「業務上過失致死罪」があります。行政上の責任として作業停止・使用停止などの「行政処分」を受けます。社会的責任として、企業の信用低下、存在基盤の喪失につながります。また、労災補償などの補償責任を負います。そして一番重要と思うのは、不法行為責任や安全配慮義務違反による損害賠償責任の民事責任を負うことになります。

こうしたことも労組、労働者側からいろんな機会にアピールして事故防止の重要性を喚起してもらえればと思います。

労災補償

最近の労災補償から見た実態は、特に精神障害の労災請求・認定件数が年々増加傾向にあります。過重労働とともにパワハラなども含めて職場環境が精神障害につながるようになってきています。現場の実態として触れておきたいのですが、請求件数が増えていますが、担当する職員は不足していて給付認定が遅れている状況です。私たち、全労働は労働行政の職員確保を求めて署名活動も行っていますので、ご協力をお願いいたします。

メンタルヘルス対策

精神障害を防止する取り組みは大きな課題となっています。メンタルヘルス対策として4つのケアの推進を呼びかけています。

第一はセルフケアです。事業者に教育研修、情報提供などの支援を求めています。第二はラインによるケアです。職場環境の把握と改善、相談対応を促しています。第三に事業場内産業保健スタッフによるケアです。セルフ、ラインのケアが効果的に進むように労働者、管理者を支援する役割を担ってもらいます。第四は事業外資源の活用です。情報提供や助言などのサービスを活用します。

四つの柱の取り組みが具体的にまわるように、計画を立てて進めてほしいと思います。①メンタルヘルスケアの教育研修、情報提供、②職場環境の把握と改善、③メンタルヘルス不調への気づきと対応、④職場復帰における支援などについて、具体化し、衛生委員会でも検討しながら機能させてほしいと思います。

高齢者の労災事故対策

最後に高年齢労働者の労働災害に関してお話します。

年金支給開始年齢が65歳以上になったため、高年齢労働者が増加しています。その関係で高年齢労働者の死傷災害の発生が増加しています。2008年は60歳以上の発生は全体の18%でしたが、2018年は26%になっています。高年齢労働者の事故は休業期間も長くなっています。厚労省は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を出しています。段差の注意、腰痛への対応、予防危惧の活用など体の負担をなくす工夫が重要です。各職場での検討をお願いします。

最後です。コロナ感染症対策が重要です。「三密」を避けることなど、各職場の衛生委員会で是非、対応を検討してください。

 

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