川村雅則「過労死の背景と過労死防止の取り組みを考える」

北海道過労死を考える家族の会第9回総会(2021年2月7日、かでる2・7)でお話しした内容が認定NPO法人働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センターの『にゅーす』第435号(2021年3月1日号)に掲載されました。紙幅の都合で削った部分を加筆し、かつ、文体を「ですます調」にあらためて、転載します。

 

 

0.卒業生、若者の労働状況

卒業生からの労働相談では、まだ新人だというのに、過重な労働と支援の欠如が共通して聞かれます。北海道労働局の調べでは新規学卒者(2016年3月卒)の早期離職率は高卒で45.5%、大卒で35.9%にのぼっています(2019年11月21日発表)。北海道による「職場定着に向けた離職状況調査」でも過重労働が主たる離職理由になっています。厚生労働省が発表する、精神障害の労災請求の半数が39歳以下であることに象徴されるとおり、メンタルヘルス不全者の増加が顕著です。

 

1.現代資本主義と過重労働

日本の年間総実労働時間は1800時間をとうに割っていますが、パートタイマーなど非正規雇用者と足し合わせての平均のマジックです。週60時間以上働く者は、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年平均で、就業者で458万人、雇用者に限っても378万人です(総務省「労働力調査」より)。

経済のグローバル化、高度に発達した情報通信技術の活用など、働きすぎを助長する現代資本主義の多面的な様相をその背景にみる必要がありますが、とくに日本の場合、労働分野の規制がもともと脆弱なところにもって、新自由主義政治による労働法制の規制緩和や各産業の競争強化が図られました。

 

2.脆弱な労働法制、さらなる緩和

「働き方改革」で時間外労働に上限規制が設けられました。法定労働を超える時間外は月45時間、年360時間が原則とされましたが、特例として年720時間、休日を含めると月80時間×12か月=年960時間の時間外・休日労働が可能とされました。過労死水準のこうした法認可を規制強化と評価できるでしょうか。抱き合わせで高度プロフェッショナル制度が導入された点も看過できません。時間外労働に歯止めをかけるためには36協定が重要ですが、実態は、協定締結当事者の一方である過半数代表者の選出段階からしてずさんな状況です。

 

3.安心して失業できない日本社会

働きすぎの防止には労働市場の整備が必要です。日本の失業率はOECD加盟諸国の中で最低水準ですが、相対的貧困に陥っている労働者割合はアメリカに次いで高い状況です。失業しても生活保障や職業訓練制度が充実している欧州に対して、それらが未整備の日本では、労働力の窮迫販売を余儀なくされ、働いても貧困状態(ワーキングプア)になってしまいます。そうした生活困窮に陥ることを回避するため正規雇用者は、きつくても仕事をやめられません。長時間労働と低賃金・非正規雇用にみる「地続きの相互補強関係」(熊沢誠 甲南大学名誉教授)をみる必要があります。

 

4.日本型雇用と過労死

欧米では「仕事に対して人をつける」ジョブ型雇用システムに対して、日本は「人に対して仕事をつける」メンバーシップ型雇用です。その雇用契約は、職務のない、空白の石版(濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)状態であることが特徴です。企業側の裁量が著しく広い。しかも私生活を含め全人格的な評価を受けるために、時間外労働もいとわぬ態度が評価されまる。「働きすぎ」が助長され過労死につながる危険性を内包した雇用といえるでしょう。

 

5.労働組合による規制の弱さ

法制度とは異なる規制(主体)である労働組合はどうでしょうか。企業別に組織された日本の労働組合は、経営の理屈にどこまでも引きずられやすい。企業横断的な労働条件規制は期待できず、労使一体型の労働組合が増えています。労働争議・紛争が減少する中での労働者のストレス増を指して、二重の意味でのストレス社会と森岡孝二先生(関西大学名誉教授)は特徴付けました。

 

6.私たちに何ができるか?

家族の会の皆さんへの期待もこめて列挙すると、第一に、時間外労働の適正な規制です。勤務間インターバルの拡充や、働かせすぎを高コスト化する時間外の割り増し増なども必要です。働き方改革を逆手にとった、過半数代表の適正な選出、適正な36協定締結運動を提起します。

第二に、過労死の認定基準の適正化に期待します。月「80時間」「100時間」の時間外を「65時間」に設定することで、それ以上の労働は社会的に許されなくなります。

第三に、私たちの暮らす足元からルールの整備を。建設工事や業務委託など、自治体が民間に発注する業務で結ばれる契約(公契約)の適正化を通じた、労働条件「規整」が必要です。公契約条例の制定を提起します。

第四に、労働組合の産別化を通じた企業横断的な労働条件規制です。過労死防止などシングルイシューをその切り口にできないでしょうか。

第五に、いわゆるブラック校則など不条理にも耐え忍ぶことが学校教育段階から始まっている現状で、ブラックバイト・ブラック企業への批判的視座の獲得はいかにして可能でしょうか。労働教育がその答えです。過労死等防止法・「大綱」に位置付けられた、家族の会の皆さんの生の体験を伝える「啓発授業」に期待をしております。

 

(参考資料)
厚生労働省『過労死等防止対策白書』。

 

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