佐藤誠一「自殺者の6割は稼働年齢層、高齢者は経済的要因も影響か~令和4年度版「自殺対策白書」から」

認定NPO法人働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センターが発行する『ニュース』第459号(2023年3月1日号)に投稿した記事の転載です。どうぞお読みください。

 

「自殺者の6割は稼働年齢層、高齢者は経済的要因も影響か~令和4年度版「自殺対策白書」から」

理事 佐 藤 誠 一

 

 

厚生労働省の令和4年版「自殺対策白書」によると、2021年の自殺者は21,007人(男性13,939人、女性7,068人)でした。1998年~2011年までは毎年3万人を超える状況が続き、「自殺対策基本法」(2006年)、「自殺総合対策大綱」(2017年)などの制定を経て2019年には20,169人に減少しました。しかし、2020年からは男性は微減でしたが女性はすべての年齢階級で増加しました。特に、「10歳台」「20歳台」での増加が顕著になっています。コロナ感染症との関係かと思われますが不明です。

自殺者の半数以上は無職者

2021年の自殺者を年齢階級別にみると、多い順に「50歳台」「40歳台」「60歳台」でした。男性では「40歳台」「50歳台」「60歳台」の順で、女性は「50歳台」「60歳台」「70歳台」の順でした。

自殺者の職業別分類では「無職者」が11,639人(55.4%。)、「被雇用者・勤め人」が6,692人(31.9%)、「自営業・家族従業者」1,298人(6.2%)でした。「無職者」は男性48.4%。女性69.1%でした。男性自殺者のうち「無職者」の占める割合は、70歳代以上では約9割で、「60歳台」は66.4%、「50歳台」48.9%、「40歳台」33.7%、「30歳台」33.9%、「20歳台」26.5%でした。「無職者」の中には「失業者」「年金・雇用保険等生活者」が含まれています。

内容の精査が必要な原因・動機

原因・動機別の内容では総数、男女、年齢階級ともに「健康問題」が最多で全体の49.8%を占めました。次いで「経済生活問題」17.0%、「家庭問題」16.2%、「勤務問題」9.8%の順でした。

「勤務問題」の内訳は仕事の失敗、職場の人間関係、職場環境の変化、仕事疲れ、その他となっていますが、「経済・生活問題」の倒産・失業、就職失敗、生活苦などは勤務問題に派生して起こっています。また、健康問題の中で近年その増加が著しくなっている「うつ病」などの精神疾患は、業務に起因しているとして精神障害の労災請求・認定件数が増加しており、「勤務問題」として把握するべき事項です。

職業別統計では自殺者21,007人のうち、「被雇用者・勤め人」の6,692人、「自営業・家族事業者」の1,298人を合わせて7,990人、約38%が就労者の自殺です。加えて「無職者」のうち70歳以上の人を除く就労可能者5,174人を加えると13,164人が働く世代の自殺者と推定でき、併せて62.7%に上ります。

厚労省の自殺統計で「勤務問題」とされているのは1,935件ですが、自殺の背景にある「経済生活問題」「健康問題」などとの関連を注視し、総合的に判断し対応することが必要です。

2021年に精神障害による自殺で労災、公務災害(国及び地方公共団体)を請求した件数は199件でした。うち、認定されたのは98件でした。認定率は49.2%です。内訳は労災46.1%、地公災30%、国公災77.3%でした。

過労死の疑いはないのか調査・対応が必要

勤務問題での自殺者のうち、労災等の請求を行うのは1割程度で認定は5%程度です。家計を支える家族の突然の自死に遭遇し、遺族はその後の対応にまで思いが至らない状況と思いますが、職場の同僚や労働組合の協力を得て、「業務に無理はなかったか」「業務管理に問題はなかったか」など「過労死」を疑って、調査し対応することが大切です。労災の補償では「葬祭料」「遺族補償給付」がありますが、「葬祭料」の時効は2年、「遺族補償給付」は5年です。また、会社に対する損害賠償請求の時効は10年です。

過労死防止対策推進法が出来て今年は9年目を迎えます。「過労死防止シンポジュウム」や過労死啓発授業に、行政と北海道過労死家族の会や過労死防等防止対策推進北海道センターなどが連携して取り組んでいます。こうした活動は自殺対策上も重要です。「職場にゆとりと安心を」「自己責任ではなく、助け合う職場」をつくるため日ごろの努力が必要です。

コロナ禍で自殺者2年ぶりに増加~警察庁

警察庁の統計に基づき厚労省が公表した速報値によると、昨年の自殺者数は21,583人でした。性別では男性が14,543人で前年より604人増加し67.4%となっています。女性は27人減少しましたが、コロナ禍の影響で3年連続7千人を超えました。職業別では無職者の「失業給付や年金で暮らす人」が5,347人と26.6%を占め、その6割が男性でした。厚労省の担当者は「経済的な要因も影響している可能性もある」とコメントしています。

 

 

佐藤誠一(働く人びとのいのちと健康をまもる北海道センター理事)による投稿記事

 

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