林亜紀子「放課後児童支援員(学童保育指導員)の雇用と労働」

私たちは、自治体が関与する(自治体が発注する、自治体が補助金を出す)仕事で働く人たちの雇用、労働を適正化するための研究や活動に取り組んでいます。コロナ禍で注目を集めた、子どもたちの発達を保障し働く親の就労を支える学童保育指導員という職種もその一つです。「第1回 なくそう!官製ワーキングプア北海道集会」(2016年2月20日開催)の記録に収録された原稿から、学童保育をめぐる基本的な問題の構造をお伝えします。(川村雅則)

 

 

学童保育(放課後児童クラブ)の現状

景気の悪化、ひとり親の増加などを背景に全国的に学童保育(放課後児童クラブ)の必要性が急激に増しています。2005年から2015年を比較すると、全国の学童保育は、か所数で5割増、国庫補助総額は94億円から575億円に増えています。1ヶ所あたりの補助金は、262万円増えて2015年度は430万6千円となりました(36人~45人規模で290日開設の場合)。

補助金の人件費が非常勤職員の想定で計算されていることは実態に合わず、学童保育の指導員(放課後児童支援員)の処遇を圧迫しています。

 

学童保育と放課後児童支援員(学童保育指導員)

学童保育の指導員は、全国に約9万2500人います(2012年全国学童保育連絡協議会調べ)。

対人ケアの専門職として、放課後児童支援員(学童保育指導員)の役割は、保育士とも学校の教員とも異なる専門性が求められます。競争原理や自己責任論が肥大化し、生き辛さに満ちた大人社会を、子どもの社会も反映しています。様々な生き辛さを抱えた子どもたちを受け止め支える資質が、放課後児童支援員にもとめられています。また、学童保育は働く親たち自身の孤立し分断された状況での子育ての辛さを受け止め合える地域の社会資源として必要とされている側面もあります。

学童保育が「働く親の就労を支える」「子どもの安全安心を確保し成長発達を支援する」などの役割を果たすために、指導員の資質そのものがその学童保育のあり方を左右します。

これまで学童保育指導員について、規模にたいする配置基準や公的な資格制度はありませんでした。しかし、子ども・子育て支援新制度により、学童保育の開設時間を通じて必ず1名の資格保持者を含む複数の職員の配置が必要な事業になりました。

さらに、都道府県による認定資格研修も定められました。「子どもが好きならだれでもできる」「遊ぶだけ」「怪我がないよう見ている」仕事だと思われていたところから、認定資格研修を受講して初めて「放課後児童支援員」という資格が認められる職業、専門職へと、念願だった一歩を踏み出しました。実践を重ね実態を訴えて続けてきた運動の成果です。

放課後児童支援員研修は、「放課後児童クラブ運営指針」に示されたあるべき放課後児童クラブ(学童保育)が日本全国どこでも一定の水準で実施されるために必要なカリキュラムとされています。北海道でも、すでに放課後児童支援員認定資格研修の6分野16科目(24時間)を修了した第一期生の「放課後児童支援員」が誕生しています。

 

札幌の学童保育の運営の課題と新制度

札幌市では、児童クラブ方式と民間児童育成会方式の2形態において放課後児童健全育成事業をおこなっています。

「保育料を支払って子どもを学童に通わせる保護者」と「労働力を提供し報酬を受ける指導員」とが協働で学童保育の運営を支えるという特異性が、札幌の民間児童育成会にはあります。労働者全般が低賃金と長時間労働に苦しんでいて、民間学童保育の父母も例外ではありません。

民間共同学童保育では、運営主体としての「父母会」は、子どもを通わせる当事者である父母が役員として自分の生業の片手間で役割を分担する者の寄せ集めとなりがちです。さらにその父母が子どもの成長とともに入れ替わってゆくため、指導員の労働条件改善に責任をもって継続的に目配りを行き届かせることが困難です。「父母会のお財布事情を知っていて低賃金に甘んじる指導員」と「指導員に感謝し長く働き続けて欲しいと思いながらも『ない袖は振れない』父母会」という構図を、共同学童保育の運営は何十年も取りつづけてきました。「子どもと遊んでいる仕事」だから、という感覚で指導員の報酬を判断してしまい、「支払えるだけしか払わない」状態に甘んじ続けたことも、指導員の低賃金状態の固定化を生み出しています。

 

父母の運営がもう限界にきている。 指導員の給与面を上げていく働きか けが活発になっているが父母会費の 負担面は?安月給の中から毎月1万 円以上の負担、運営面の負担、もう ヘトヘトです。(父母)

 

毎年変わっていく父母によって、クラブや指導員に対しての考え方が違い、少しずつ若手時代の情熱(モチベーション)が減ってきた。父母の就労状況も変化してきている中、父母会運営の限界も感じる。(指導員)

 

新制度で補助金額は前年度比で増えはしたものの、常時複数の指導員配置が基準で求められ、指導員の労働時間、最低賃金などギリギリの労働条件を守りつつ綱渡りの運営は改善されていません。どんなに児童数が少なく人手をかけなくても良い時間帯でも配置を減らせません。とくに児童数20人未満の小規模の学童保育では指導員数も少ないなか、正指導員の労働強化で補わざるを得ない実情があります。

新制度で資格が認定され専門職としての社会的認知を得ることは、そうした状況に揺さぶりをかけることができると期待されます。しかし新制度そのものが、二宮厚美氏のことばをお借りすれば「保育・学童保育などを公的補助金つきで市場化する」ものであり、民設民営の共同学童保育でも財団委託の児童会館児童クラブでも、採算性の責任が事業者にある限り、指導員のケア労働が「安く買い叩かれる」要因を含んでいることになります。

新制度では「質の向上」が打ち出されたことで「放課後児童支援員等処遇改善等事業」という補助メニューが創設されました。2015年度にはクラブ1ヶ所あたり153.9万円の補助金が出されました。指導員の処遇改善のみに使える補助金で、これまでの低処遇への慰労のようなイメージですが、民間児童育成会だからこそその補助金に手を伸ばせたとも言えるようで、指定管理を受託している児童クラブ方式では、指定管理の条件の壁に阻まれ、国の補助金がその意図の通り指導員の待遇改善に資することはなかったのが実情のようです。

 

運営の主体が親なので、共同という点で、最近はなかなか一緒に子どものことを考えるというスタンスになりづらい。残すお金がたくさんあるのに、仕事をあまり理解してもらえないので、給料がなかなか上がらない。働く時間も年々長くなり、働く条件が厳しくなってきている。人数が多いのにも関わらず、正職が1人というのは厳しい。残業が朝、夕と多くなってきている。(指導員)

 

それだけの役割を求められている放課後児童支援員の人件費を、資格制度を足がかりに、まずは国の補助単価の計算で非常勤的常勤職員扱いではなく常勤職員として位置づけることで運営費そのものの算定額を実態に合わせて引き上げることが求められます。そして運営費として「丸める」ことで職員の報酬のあり方を事業者任せにするのではなく公的責任においてあるべき報酬のかたちを示すべきです。運営者である父母会も、指導員の報酬をどう考えるか、基準を持ち、あるべき報酬が支払えないとすればその時点で対策(バザーなどをするのか、運動するのかなど)を検討する、というように、「ない袖はふれない」論から発想を転換することが求められています。

放課後児童支援員の待遇が確立し守られ、長く働き続けることができ、子どもの最善の利益が実現される札幌市へと変わることが望まれます。

 

(関連記事)

林亜紀子「コロナ禍下で、子どもの権利を守り抜く──学校一斉休校、保育自粛要請で揺れた 学童保育の現場」

 

(参考)

全国学童保育連絡協議会

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