川村雅則「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(2)」

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(2)──2024年調査に基づき」『建設政策』第216号(2024年7月号)pp.36-43

下記の続きです。

川村雅則(2024)「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(1)──2024年調査に基づき」『建設政策』第215号(2024年5月号)pp.8-12

 

 

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札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(2)──2024年調査に基づき

 

川村雅則

 

〔略〕

前号で伝えたとおり、(1)札幌市発注の仕事の全体像や市の仕事で働く労働者の現状を札幌市の資料や市の調査結果に基づき整理すること、(2)総合評価落札方式などを中心に、札幌市の公共調達における入札・契約に関する取り組みを知ることを目的に、札幌市から聞き取り調査を行いました。追加で行った質問(以下、追加質問)への回答や提供資料もあわせて、本稿では調査の結果をまとめていきます[1]。資料提供をはじめ、契約管理課のみなさんには大変にお世話になりました。ここに記して深く感謝申し上げます。但し、本稿に残りうる一切の誤りは筆者の責任です。

なお、(1)本稿は情報サイト「北海道労働情報NAVI」に転載をしています。(2)出典サイトのURLは、本稿では割愛していますがNAVIには掲載しています。(3)札幌市からの回答を含め、文体は、ですます調で統一しました。

 

 

4.札幌市の問題意識と対策の概略──建設工事を中心に

建設工事を中心に、札幌市から伺った問題意識をまとめると、この数年、建設資材の高騰や建設労働者の不足が顕在化して、入札・契約においても大きな影響が生じています。とくに管工事では、入札不調が顕著でした。今年は、千歳市のラピダスの工事の本格化や昨年度からの建設資材の高騰の継続、建設労働者の時間外労働の規制強化などで、建設労働者の確保に大きな影響が出ることが予想されています、とのことでした。

札幌市への追加質問で提供された、市の入札不調等の件数データによれば、例えば、工事では2022年度には5.9%だった不調件数の割合が2023年度には10.7%にまで増加しています。

 

表4-1 入札不調等の発生状況について(市長部局)

令和4(2022)年度 令和5(2023)年度
告示件数 A 割合 B/A 告示件数 C 割合 D/C
うち不調件数 B うち不調件数 D
応札者なし 予定価格超過 全社失格 その他 応札者なし 予定価格超過 全社失格 その他
工事 862 51 31 15 3 2 5.9% 910 97 62 22 7 6 10.7%
業務 508 28 26 1 0 1 5.5% 558 65 52 11 0 2 11.6%

注1:告示件数は、告示ベース(契約件数の実績値ではない)での集計値を示す。
注2:入札不調等の件数には、入札中止は含めていない。
出所:札幌市提供資料より。

 

市民生活に影響が出るような事態は生じているか、という「求める会」からの質問への回答とあわせて、市からは次のような見通しが回答されました。

令和5年度から衛生設備工事など一部の工事において入札不調や不落が増加しており、入札不調等の対応として、格付等級の追加・市内要件の除外や発注時期の見直しなどの取組を進めていますが、今のところ市民生活に影響が出るような事態は生じていません。

令和6年度は更なる対応策として入札不調・不落となった際に「見積活用方式」の活用を検討しています。

注:「見積活用方式」とは本市の積算と市場価格に乖離がある場合に、入札参加者から見積書の提出を求め、予定価格作成の参考とする方式をいう。

 

以上のような事態に対して契約管理課で行ってきた(いる)対策は次のようなことです。

第一に、国に準じて、年明けに発表される新しい設計労務単価が、年度初めを待たずに前倒しで適用されています。第二に、社会保険未加入業者への対策が行われてきました。第三に、週休2日工事を原則とするために、「受注者希望型」から「発注者指定型」へ発注方式が変更されています(土木工事は2023年10月から、営繕工事については2024年4月から)[2]

そして、第四に、企業の人材確保・育成の取り組みの推進、企業の品質確保や技術力向上のために総合評価落札方式が活用されてきましたが(表4-2)、前号の拙稿のとおり、2024年度の早期発注工事等から同方式の本格実施が開始されています。その柱は、Ⅰ.ダンピング対策の強化、Ⅱ.工事の品質確保、Ⅲ.その他の見直しの三つに分けられます(詳細は次号)。Ⅲには、奨学金返還支援事業の認定企業への支援が含まれます。

 

表4-2 人材確保、品質確保や地域貢献等に取り組む企業の支援に関する発注方法

推進する取組 取組に対応する現行の発注方法について
① 企業の人材確保・育成の取組の推進 総合評価落札方式(人材の育成や支援の取組を評価)
② 企業の品質確保や技術力向上の取組の推進 総合評価落札方式(施工実績や技術力、品質確保の取組等を評価)、入札参加資格の設定(成績重視型、品質マネジメントシステム認証取得)
③ 除排雪や災害対応の体制維持 総合評価落札方式(地域貢献の取組を評価)、入札参加資格の設定(雪対策事業の実績)

出所:札幌市「さっぽろ建設産業活性化プラン」p.89より。

 

第五に、2024年度の早期発注工事等から、建設キャリアアップシステム(CCUS)活用工事が試行導入されます[3]。加えて、第六に、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定[4]されたことをうけた取り組みが今後、重要になると考えている、とのことでした(調査当時。法案は6月に可決。)。

同法案では、「建設業の担い手を確保するため、労働者の処遇改善に向けた賃金原資の確保と下請事業者までの行き渡り、資材価格転嫁の円滑化による労務費へのしわ寄せ防止、さらには、働き方改革や現場の生産性向上を図るための措置」が盛り込まれています。

以上は、建設工事に関連することですが、役務委託については以下のとおりです。

第一に、複数年度契約の実施です。札幌市では、履行品質の確保と労働者の雇用安定化を図ることを目的に、建物の清掃、警備等業務のうち長期継続契約による複数年契約が可能なものについて、2013年度発注分より順次、複数年契約が導入されています[5]。提供された資料によれば(表4-3)、2022年度の数値では48件です(同表の注3に記したとおり、各年度の値は当該年度での契約件数を示す点に留意)。

 

表4-3 複数年度契約の実施状況/単位:件

2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
清掃業務 25 24 31 32
総合評価・WTO 4 6 8 7
一般競争 21 18 23 25
警備業務 6 5 10 7
運転・監視等業務 5 5 7 5
電話交換業務 3 3 3 4

注1:契約管理課で契約締結事務を集約している契約の件数のみ。
注2:長期継続契約・債務負担行為問わず履行期間が12か月超の件数。
注3:各年度の値は当該年度での契約件数を示す。
出所:札幌市提供資料より。

 

第二に、公正取引委員会等から「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」[6]が2023年11月29日に出されたので、同指針を意識していくとのことでした。同指針には、発注者、受注者の双方が採るべき行動などが整理されています。

この点について、追加質問で、具体的な内容を尋ねたところ、複数年契約のスライド制度などは実施済であり、庁内には同指針について周知済みです、とのことでした。

 

 

5.社会保険未加入対策とCCUSの活用(試行)

4で言及した、社会保険未加入対策とCCUSの活用(試行)について5にまとめます。

 

1)社会保険未加入対策

札幌市では、社会保険の未加入対策が行われてきました。

札幌市のウェブサイト[7]によれば、「札幌市では、社会保険等未加入対策として、平成29(2017)年4月から一次下請を社会保険等の加入業者に限定する取組みを実施していますが、平成30(2018)年4月1日以後に告示する工事から、「札幌市建設工事請負契約約款」を一部改正し、二次以下の下請負人(下請業者)についても、社会保険等の加入業者に限定する取組」が実施されています。

確認方法は、「受注者(元請業者)から提出された施工体制台帳の「下請負人に関する事項」、再下請負通知書の「再下請負関係」の健康保険等の加入状況の欄の記載内容から適否を判断」する。「未加入・適用除外に〇印のある場合あるいは事業所整理記号等に疑義のある場合については、直接、受注者(元請業者)や下請負人(下請業者)に内容を確認することがある」とのことです。

違反が発覚した場合で、「指定する期間内に加入確認書類を提出できなかった場合」には、全ての下請負人(下請業者)が加入手続きをせず、契約違反状態が継続している場合は、受注者(元請業者)に対して、参加停止措置と工事成績評定の減点が行われます。

但し、聞き取りによれば、現時点では、違反事業者は報告されていない、とのことです。

加えて、年に2回、8月のお盆休み前と12月の年末に、登録事業者に対して、事故防止や雇用・労働条件及び元請・下請関係等の適正化に関する注意喚起文書を配布する、という取り組みが行われていました。この文書[8]を追加で提供いただきました。「建設労働者福祉の向上について」という項目にまとめられた内容は下記のとおりです(一部を転載)。

 

⑴建設業退職金共済制度(以下「建退共」という。)の加入促進について

⑵労働者の雇用・労働条件改善について

ア 労働基準法の改正に伴い、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、使用者が時季を指定して取得させることが必要となっているため留意すること。

イ 「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」(国土交通省)を踏まえ、雇用保険、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)、健康保険及び厚生年金保険への加入が義務付けられている下請企業がそれらの法定保険に加入していない場合、元請企業は下請企業に対し、各種法定保険への加入等について指導を行うこと。

ウ 下請企業も含め、可能な限り4週8休以上の休日確保に取り組むこと。

出所:札幌市「工事及び除雪業務関係事故の防止等について(2023年12月20日)」より一部を転載。

 

2)CCUSの活用(試行)

札幌市においてもCCUSの試行的な活用が開始されます[9]

推進協議会で配布された資料(「札幌市発注工事におけるCCUS活用(試行)について」)によれば、CCUS活用により、以下の3つの効果が期待され、建設業が抱える人手不足等の課題に対処していくことで、働き方改革や建設現場における生産性向上、ひいては将来にわたる担い手の確保・育成につなげていくのがねらいとのことです。

①若い世代がキャリアパスの見通しを持てるようにする。

②技能・経験に応じた賃金の支払いを確保し技能者の処遇を改善する。

③中長期的な技能者の確保・育成を図っていく。

具体的には、令和6年度発注から主要3工種(土木・下水道・建築)のA1・A等級工事(年間3~5件程度)を「CCUS活用モデル工事(受注者希望型」として試行する予定で、モデル工事を選定し、当該工事における受注者がCCUS活用を希望した場合に、その取組内容に応じて「工事成績評定」で加点評価する仕組みとする、とのことです。

 

 

6.資料にみる札幌市における公共調達と労働者の賃金

公共調達のあり方や入札・契約のあり方を考える上で、まずは、自治体の公共調達に関連する基礎的なデータの整理が必要です。札幌市のそれについては、川村(2022a)から川村(2022d)まで4回にわけてまとめています。その続きのデータを札幌市から提供いただきました。1)で公共調達の規模を整理し、2)でそこで働いている労働者の賃金データを整理します。

 

1)札幌市の公共調達の規模

表6-1は工事、表6-2は工事関連業務、表6-3は役務委託と物品購入の発注状況を入札・契約の種類別に整理したものです(札幌市の工事と工事関連業務では、現在指名競争入札は行われていません)。データは、市部長局、交通局、水道局及び病院局の合計です。

 

表6-1 工事の発注状況/単位:件、億円

2020年度 2021年度 2022年度
件数 契約金額 件数 契約金額 件数 契約金額
競争入札 1,221 1011.29 1,101 834.21 1,169 1444.85
一般競争入札(WTO) 1 37.40 2 51.9 5 254.38
制限付一般競争入札 1,220 973.89 1,099 782.31 1,164 1190.47
一般案件 856 604.60 757 479.75 781 758.94
成績重視型 148 197.89 123 166.62 146 252.17
総合評価方式 216 171.41 219 135.94 237 179.36
随意契約 126 32.64 114 39.32 84 29.76
見積合せ 79 0.99 72 0.92 50 0.6
特定 47 31.65 42 38.4 34 29.16
合計 1,347 1043.94 1,215 873.53 1,253 1474.61

注1:契約金額は、当初の契約金額を集計したもの。
注2:各数値ごとに四捨五入しているため、合計値が一致しないことがある。
注3:「一般案件」とは、制限付一般競争入札のうち、成績重視型及び総合評価方式を除いたもの。
注4:指名競争入札は、現在、札幌市では実施していない。
注5:令和元年度に発注した詳細設計付工事の一般競争入札(WTO)案件については、上記の集計対象に含んでいない(「清田区里塚地区市街地復旧工事」・契約金額3,706百万円)。
出所:札幌市提供資料より。

 

表6-2 工事関連業務の発注状況/単位:件、億円

2020年度 2021年度 2022年度
件数 契約金額 件数 契約金額 件数 契約金額
競争入札 565 33.01 549 41.29 554 38.83
一般競争入札(WTO) 0 0.00 0 0.00 0 0.00
制限付一般競争入札 565 33.01 549 41.29 554 38.83
一般案件 427 22.86 428 32.08 428 28.61
成績重視型 58 4.15 57 4.26 56 4.97
総合評価方式 80 6.00 64 4.94 70 5.24
随意契約 209 13.30 168 10.08 213 14.55
見積合せ 18 0.13 4 0.03 7 0.06
特定 191 13.17 164 10.05 206 14.49
合計 774 46.31 717 51.37 767 53.37

注:表6-1と同じ。
出所:札幌市提供資料より。

 

表6-3 役務委託及び物品購入の発注状況/単位:件

役務委託 物品購入
2020年度 2021年度 2022年度 2020年度 2021年度 2022年度
一般競争入札 1,355 1,313 1,357 609 541 524
WTO協定適用(総合評価を除く) 28 32 71 138 112 106
市内限定型 0 0 0 0 0 0
総合評価落札方式 13 17 17 0 0 0
WTO(建物清掃) 6 8 7 0 0 0
WTO(その他) 2 3 4 0 0 0
その他 5 6 6 0 0 0
その他 1,314 1,264 1,269 471 429 418
指名競争入札 79 73 43 0 0 0
(簡易)公募型 0 0 0 0 0 0
事後審査型条件付き 0 0 0 0 0 0
総合評価落札方式 0 0 0 0 0 0
その他 79 73 43 0 0 0
随意契約 751 808 720 1,224 1,194 1,120
見積合せ 24 21 17 1,124 1,081 1013
プロポーザル 85 97 103 0 0 0
特定随意契約 642 690 600 61 70 67
その他 0 0 0 39 43 40
その他 0 0 0 0 0 0
2,185 2,194 2,120 1,833 1,735 1,644
総額(億円) 460.51 602.58 532.61 87.01 85.77 64.66

出所:札幌市提供資料より。

 

年度によって増減がありますが、2022年度の数値でみると、(1)工事は合計で1,253件、1,474.61億円、(2)工事関連業務は合計で767件、53.37億円、(3)役務委託は合計で2,120件、532.61億円、(4)物品購入では1,644件、64.66億円となっています。(1)~(4)の合計で2,000億円を超えます。

以上のほかに、指定管理制度や各種の補助金事業、そして、言うまでもなく公務員(非正規公務員を含む)によって、私たちの暮らし=公共工事・サービスは支えられています。これだけの規模におよぶ公共調達のありかたを通じて、まちや経済を豊かにしていく道筋を描くことが私たちの課題です。

 

 

2)建設工事労働者や役務契約労働者の賃金

適正な入札・契約行政を自治体が実施する上で、自らが発注した仕事でどのような賃金・労働条件になっているかを把握することが重要であると考えています。

札幌市では、市が発注する建設工事で働く労働者の賃金調査や役務契約で働く労働者の賃金状況の確認(以下、賃金調査等)が行われています。それぞれの調査の設計などは、「札幌市工事請負契約に係る労働者賃金実態調査試行要領(令和2年2月14日決裁)」や「役務契約における労働社会保険諸法令遵守状況確認実施方針(平成26年2月12日決裁、令和4年9月5日最終改正)」を参照されたい[10]

筆者は、先にあげた拙稿のほか川村(2023b)で札幌市の賃金調査等データを整理しています[11]。今回の調査では、その最新のデータを提供いただきました。

 

○工事契約における賃金調査の結果

建設工事における賃金実態調査は2020年度から実施されています。「市発注工事に従事する労働者の労働環境の改善に資する入札契約制度改善の基礎資料とすることを目的」としています。概ね設計金額3憶円以上の工事の中から、土木系及び営繕系の工種から各5件程度(計10件程度)が選定されています。4年間の調査概要は表6-4のとおりで、2023年度の調査平均額と公共工事設計労務単価(以下、設計労務単価)を主な職種別に整理したものが表6-5です。

 

表6-4 札幌市工事賃金調査結果の概要

2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
有効回答 96社・296人・25職種 75社・241人・28職種 132社・490人・31職種 149社・339人・25職種
調査平均額(時間額) 1,871円 1,857円 1,935円 1,990円
設計労務単価 2,476円 2,621円 2,663円 2,753円
設計労務単価比 75.6% 70.9% 72.7% 72.3%

注1:有効回答の事業者数は、回答のあった事業者から「対象外事業者」を除いた数値。
注2:調査平均額、設計労務単価はともに提出のあった職種の加重平均値。
出所:札幌市「工事賃金調査」より作成。2022年度までは、川村(2023b)より転載。

 

表6-5 主な職種別にみた調査平均額と設計労務単価との比較(2023年度)

調査平均額(円) 設計労務単価(円) 設計労務単価比(%)
特殊作業員 18,048 22,800 79.2
普通作業員 15,736 19,100 82.4
軽作業員 16,328 16,300 100.2
とび工 15,728 26,100 60.3
鉄筋工 22,632 26,300 86.1
運転手(特殊) 18,032 23,400 77.1
運転手(一般) 11,952 19,200 62.3
型わく工 15,856 25,200 62.9
大工 27,300
左官 15,080 26,700 56.5
交通誘導警備員A 10,768 16,200 66.5
交通誘導警備員B 10,512 13,400 78.4

注1:「設計労務単価に占める割合」は、調査平均額(1日当たり)を設計労務単価で除した値。
注2:職種別の回答数などの情報は公表されていない。理由は川村(2022b)を参照。
出所:札幌市「工事賃金調査」結果と国土交通省「公共工事設計労務単価」より作成。

 

2023年度の結果をみると、設計労務単価比は2022年度に比べると0.4ポイント下がって72.3%になっていますが、調査平均額は2022年度を上回って1990円(前年比55円増)になっています。設計労務単価比は、職種別にはばらつきがみられますが、回答者数が多いのではないかと思われる「普通作業員」では、82.4%に及んでいます。但し、設計労務単価比が50、60%台の職種もみられます。

 

○役務契約における賃金状況の確認の結果

役務契約については、建物清掃業務、建物警備業務、建物設備運転・監視等業務従事者の賃金状況の確認が実施されています(以下、建物清掃、建物警備、建物設備運転等)。2022年度、2023年度のデータを提供いただいてまとめたのが表6-6~8です。

 

表6-6 調査の概要

年度 建物清掃業務 建物警備業務 建物設備運転・監視等業務
件数(件) 業務従事者数(人) 受注業者数(社) 件数(件) 業務従事者数(人) 受注業者数(社) 件数(件) 業務従事者数(人) 受注業者数(社)
2021 135 549 48 53 262 23 26 117 12
2022 143 635 50 53 278 25 26 122 15
2023 147 635 53 52 258 26 26 126 16

出所:札幌市提供資料より作成。2021年度分までは川村(2022b)からの転載。

 

表6-7 実績賃金(時間給)の分布/単位:人、%

最低賃金 ~950円 951円~1000円 1001円~1050円 1051円以上
建物清掃業務従事者 2021 106 182 56 27 178 549
19.3 33.2 10.2 4.9 32.4 100.0
2022 38 206 36 4 351 635
6.0 32.4 5.7 0.6 55.3 100.0
2023 109 66 101 17 342 635
17.2 10.4 15.9 2.7 53.9 100.0
建物警備業務従事者 2021 90 127 22 11 12 262
34.4 48.5 8.4 4.2 4.6 100.0
2022 88 128 30 7 25 278
31.7 46.0 10.8 2.5 9.0 100.0
2023 93 60 56 12 37 258
36.0 23.3 21.7 4.7 14.3 100.0
建物設備運転・監視等業務従事者 2021 2 26 13 8 68 117
1.7 22.2 11.1 6.8 58.1 100.0
2022 0 24 8 6 84 122
0.0 19.7 6.6 4.9 68.9 100.0
2023 8 6 8 6 98 126
6.3 4.8 6.3 4.8 77.8 100.0

出所:札幌市提供資料より作成。

 

表6-8 実績賃金(時間給)の平均額、最低賃金との比較、建築保全業務労務単価との比較

建物清掃業務 建物警備業務 建物設備運転・監視等業務
2021 2022 2023 2021 2022 2023 2021 2022 2023
実績賃金 1,004 1,150 1,153 925 964 999 1,194 1,252 1,257
918 950 993
最低賃金 861 889 920 861 889 920 861 889 920
建築保全業務労務単価(1時間当たり) 1,175 1,238 1,325 1,300 1,338 1,425 1,763 1,838 1,938
実績賃金マイナス最低賃金 57 61 73 64 75 79 333 363 337
実績賃金マイナス建築保全業務労務単価 ▲ 257 ▲ 288 ▲ 332 ▲ 375 ▲ 374 ▲ 426 ▲ 569 ▲ 586 ▲ 681
実績賃金が建築保全業務労務単価に占める割合(%) 78.1 76.7 74.9 71.2 72.0 70.1 67.7 68.1 64.9
(参考)建築保全業務労務単価(日額) 9,400 9,900 10,600 10,400 10,700 11,400 14,100 14,700 15,500

注1:川村(2022b)で示した表に「実績賃金が建築保全業務労務単価に占める割合」を加えた。
注2:建物清掃業務の「実績賃金」は、上段が総合評価方式を含むデータで、下段が総合評価方式を除くデータである。
注3:建築保全業務労務単価は、順に、清掃員C、警備員C、保全技術員補のそれを使った。
出所:札幌市提供資料より作成。2021年度分は川村(2022b)からの転載。

 

2023年度の結果をみると、建物清掃(総合評価方式を除く)でも建物警備でも、実績賃金(平均額)は、最低賃金を50円以上上回っています。建物設備運転等では実績賃金は1257円です(但し前年比では5円増)。

もっとも、分布をみると、最低賃金と同額の割合も一定数みられ、建物清掃では17.2%で、建物警備では36.0%と全体の3分の1強を占めます。建物警備に比べて建物清掃で相対的に賃金が高い理由は、総合評価方式を含むことによると思われます。

また建築保全業務労務単価との比較でみると、建物清掃で74.9%、建物警備では70.1%で、前年比からそれぞれ1.8ポイント、1.9ポイント低下しています。建物設備運転等では64.9%で前年比3.2ポイントの低下です。

2023年10月から北海道の最低賃金は960円に改定されています。最低賃金の引き上げは今後も続くでしょうから、とくに建物警備と建物清掃(総合評価方式を除く)で、最低賃金ないし近傍の労働者への対応が急がれます。

 

 

3)各種賃金調査等結果への札幌市の評価

札幌市の賃金調査等の結果のほか、とくに建設工事の賃金調査の設計に対して、当日の聞き取りをふまえて再度質問を行いました。

質問の第一は、札幌市の建設工事で働く労働者の賃金実態を把握する上で、現在の調査規模は十分かを尋ねました。とくに、今後、賃金の行き渡りが実現しているかの判断をする上で、調査の規模を拡大したり対象の設定を検討する必要があるのではないかと思われたので、この点を尋ねました。

札幌市からの回答は、賃金実態調査は、対象工事に限定した賃金支払状況の確認と入札契約制度改善の基礎資料と位置付けており、現在のサンプル数に不足はなく調査規模は十分であると考えています、とのことでした。

第二は、調査結果の公表方法について、職種別のサンプル数という基本情報が示されていないほか、賃金の分布や最高額・最低額、元請/下請別の結果などが示されていません。賃金の行き渡りなど判断する上でも改善が必要ではないかと思われたので、現在の公表方法を採用している理由を尋ねました。

回答は、本調査で収集されたデータは、あくまでも賃金支払いの実態確認のための内部資料として活用しているものです、とのことでした。

第三は、建設工事でも役務委託でも、公共工事設計労務単価や建築保全業務労務単価を下回る金額であることはすでにみたとおりです。そこで、賃金調査にみる結果(支払賃金、実績賃金)を札幌市としてはどのように評価されているか、労務単価の○%を適否の判断としているか、を尋ねました。

回答は、調査結果によって労務単価の適否の判断を行っていない。公共工事に従事する労働者の賃金支給状況や他都市の設計労務単価との比較を行うための参考として活用しています、とのことでした。

 

(かわむら まさのり 北海学園大学教授)

 

 

[1] 3月28日に札幌市から聞き取り調査を実施。4月8日に追加の質問を札幌市に送付し5月22日に回答をいただきました。なお分からない部分は残りましたが、今回の調査はここでいったん打ち切りとなりました。機会をあらためて調査に臨みたいと思います。

[2]札幌市「監督・検査」→「週休2日工事について」を参照

[3]札幌市「監督・検査」→「建設キャリアアップシステム(CCUS)活用工事の試行について」

[4]国土交通省「「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定」より。

[5] 札幌市「物品・役務契約に関するお知らせ」→「建物の清掃、警備等業務における複数年契約の導入について(平成25年1月23日)」

[6] 内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月29日)

[7]札幌市「札幌市発注工事における社会保険等未加入対策について」(最終更新2022年7月20日付)

[8]項目は大きく8つに分かれている。工事及び除雪業務関係事故の防止について/建設労働者福祉の向上について/適正な下請契約の締結等について/労務費、特定の資材価格に著しい変動が生じた場合の契約変更について/地域建設業経営強化融資制度等の活用について/地元事業者の活用促進について/経営事項審査の取扱いについて/その他。

[9]「監督・検査」→「建設キャリアアップシステム(CCUS)活用工事試行要領」

[10](1)札幌市「札幌市工事請負契約に係る労働者賃金実態調査について」→「札幌市工事請負契約に係る労働者賃金実態調査試行要領」。(2)札幌市「物品・役務契約に関するお知らせ」→「役務契約における労働社会保険諸法令遵守状況確認実施方針」

 

 

 

【参考文献・資料】

 

 

 

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