川村雅則「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信

 

 

 

大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答

川村雅則

 

はじめに

地方自治体で働く会計年度任用職員の離職問題[1]にかかわって、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書制度の自治体での運用・遵守状況に関する疑問を取りまとめ、北海道労働局に対して質問をしました。本稿は、その質問と、北海道労働局からいただいたご回答をまとめたものです。

 

筆者は、2023年、2024年と、北海道及び道内各市町村からハローワークに提出された、労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書制度の情報開示請求を行ってきました。また、開示請求を行うと同時に、通知書を提出された自治体や、提出されていない自治体への電話・メール照会を行ってきました。そのなかでいくつかの疑問をもつに至りました。

例えば、そもそも、本来は通知書を提出すべきところを提出していない自治体があることや、年度が替わってから通知書を提出するなど期限を守っていない自治体があること、制度の趣旨にそった記載をしていない自治体があることなどです。

質問のなかで言及するとおり、本制度を所管する厚生労働省と会計年度任用職員制度を所管する総務省によって本制度の取り扱いが調整され、通知が発出されたのが2023年6月のことですから、制度が定着をしていない、とみることもできるかもしれませんが、一方で、本制度を以前から知っていて通知書の提出実績もある(例えば、自治体で直営で行っていた事業を民間委託に切り替える際に提出したことがある、など)という自治体も筆者調査のなかで確認されています。本稿の最後でも述べているとおり、本制度の形成過程や、自治体側でこの制度がどう運用されてきたかを明らかにすることが研究上の課題です[2]

ところで筆者は、大量離職通知制度を定着させることを最終のゴールとしているわけではありません。ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の重要な柱として安定した雇用の実現が必要であって、大量離職発生時のルールを自治体に遵守させるということはその第一歩となる、というのが筆者の考えです。一会計年度ごとの雇用(任用)、一定期間ごとの公募の実施など、会計年度任用職員に準備された制度は、公共サービスの担い手である彼らの存在を軽視している、と筆者は認識しています。大量離職通知書制度を定着させる過程で、自治体が、会計年度任用職員の離職の大量発生そのものを直視し、離職が発生しないような取り組み、さらには、雇用安定の実現に向けた取り組みを始めてくださることを期待しています。それは何も難しい話をしているわけではありません。自治体や民間企業を問わず、一般的に、離職を恒常的に大量に発生させている組織は自らの雇用・労務管理を省みるものなのではないでしょうか。

自治体の首長・幹部職員はもちろんのこと、自治体の労働組合や議員・議会は会計年度任用職員の離職・大量離職にどう向き合うのかが問われていると思います。

 

話を戻すと、本稿は、調査のなかで感じた筆者の疑問を取りまとめ、北海道労働局職業安定部安定課職業紹介係に対して質問をし、後日にいただいたご回答をとりまとめたものです[3]

ご回答に理解(納得)ができた部分もあれば、制度の改善が必要ではないかと筆者が個人的に感じた部分もあります。後者は今後研究を深めていきたいと思います。

なお、大量離職通知書の情報開示請求(2024年)の結果は、近日中にとりまとめる予定です。開示請求は4月1日に行ったのですが、年度が替わってから通知書を提出している自治体が少なからずあったため、6月3日に第2回目の開示請求を行い、現在、結果・決定通知を待っているところです。

以下、筆者の調査・研究テーマである会計年度任用職員、地方自治体に限定して話を進めていきます。

 

(大量の雇用変動の届出等)

第二十七条 事業主は、その事業所における雇用量の変動(事業規模の縮小その他の理由により一定期間内に相当数の離職者が発生することをいう。)であつて、厚生労働省令で定める場合に該当するもの(以下この条において「大量雇用変動」という。)については、当該大量雇用変動の前に、厚生労働省令で定めるところにより、当該離職者の数その他の厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。

2 国又は地方公共団体に係る大量雇用変動については、前項の規定は、適用しない。この場合において、国又は地方公共団体の任命権者(委任を受けて任命権を行う者を含む。第二十八条第三項において同じ。)は、当該大量雇用変動の前に、政令で定めるところにより、厚生労働大臣に通知するものとする。

3 第一項の規定による届出又は前項の規定による通知があつたときは、国は、次に掲げる措置を講ずることにより、当該届出又は通知に係る労働者の再就職の促進に努めるものとする。

一 職業安定機関において、相互に連絡を緊密にしつつ、当該労働者の求めに応じて、その離職前から、当該労働者その他の関係者に対する雇用情報の提供並びに広範囲にわたる求人の開拓及び職業紹介を行うこと。

二 公共職業能力開発施設において必要な職業訓練を行うこと。

 

[1] この問題は例えば、拙稿「⾮正規公務員が安⼼して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて」『KOKKO』第55号(2024年5月号)pp.27-43などをご参照ください。

[2] 本制度のことは初めて知った、という自治体が筆者の調査のなかではほとんどであったことから推測すると、会計年度任用職員制度が導入される2020年4月以前には、本制度はほとんど活用されていなかった可能性もあります。そもそも旧制度下では、空白期間の設置や勤続上限年数の設定など、臨時・非常勤職員の雇用(任用)ルールは、自治体側の過度の裁量の下で決められ運用されていた、という印象をもっています。もっとも、それが新制度で改善されたかと言えば、制度は整備されたものの、整備された制度の内容は、雇用安定に逆行するものとなっているというのが筆者の認識です(注釈1の拙稿を参照)。

[3] 正確に書くと、質問を文書にまとめて6月3日に北海道労働局に持参し、6月13日に担当職員の方より、1時間弱お電話でご回答・ご説明をいただきました。そして、筆者がまとめたご回答の内容を、担当課でご確認いただきました。それが本稿に記載した内容です。関係者の皆さんには、お忙しいなか、ご回答をご準備いただき、ご説明などしてくださったことに、この場を借りて感謝申し上げます。

 

北海道労働局への質問とご回答

前文

  • 大量離職通知書制度の趣旨は、国がすみやかな再就職支援を行うためにも、大量に離職者を発生させる場合には、ハローワークに事前に届け出をすることを自治体に義務づけ、なおかつ、自治体自身にも離職者に対する再就職支援を図ることを促すものと理解しています。
  • 自治体では、3年・5年など、会計年度任用職員を一定期間ごとに公募にかける仕組み(以下、公募制)を導入することで、結果として、民間企業に比べても離職が発生しやすくなっています。このような公募制の是非はここではさておくとしても、少なくとも、公募制を導入するのであれば、定められたとおりのルールで大量離職通知書の作成・提出を可能とするような体制は整備しておくべきである、と考えます。私自身は、離職は極力発生させないような努力がそもそも必要だと考えていますが(この点は、強調しておきたい点ですが)、以下では、公募制が採用されることを前提に話を進めていきます。

 

 

【質問1】

大量離職通知書の提出にかかわる通知が2023年に厚生労働省や総務省から出された今でも、制度の周知が図られていないように感じています。

私は、北海道と道内35市に対して2024年1月に、(条件に該当する場合)大量離職通知書を作成しハローワークに提出するよう、文書で要請を行いました[4]

その後、大量離職通知書に関する情報開示請求を4月1日に行い、その結果(開示された情報)をふまえて、通知書を提出した自治体に内容の照会を行ったほか、5月の中旬に、通知書を提出していない(会計年度任用職員を多く任用する)自治体6件に照会しました。結果、後者で、本来は提出を必要とする自治体が4件みられました。うち2件は私からの照会を機にハローワークに問い合わせたところ、提出が必要だと知ったとのことでした。また、そのうち1件は、(必要だと知ったが)今回は提出しないことにしたと後日に回答をいただきました。

お尋ねしたいのは、以下のことです。

 

(1)大量離職通知書の提出は、法的に義務づけられたものではないのでしょうか。

→→→義務づけられたものである。

但し、制度の趣旨、すなわち、離職の実態を事前把握した上でハローワークにおける再就職支援に活かしていくということをふまえると、大量離職通知書を所定の期日までに提出していなかったからといって遡及して提出を求める性格のものではない。

〔筆者注記:労働施策総合推進法の「罰則」の適用対象には、大量離職通知書に関する同法第27条第2項は含まれていません。但し、民間企業を対象とした同法第27条第1項は罰則の対象となっています[5]。〕

 

(2)各自治体、とりわけ会計年度任用職員の多い自治体には、大量離職通知書制度の周知はどのように図られているでしょうか。

→→→厚生労働省、総務省から通知が出されたことをうけて、北海道労働局としても周知を図ってきた。

但し、今回の質問内容などふまえ改めて周知について北海道労働局として検討をしていきたい。その際には、会計年度任用職員を多く採用している自治体を中心に、メリハリをつけて対応することなどもあわせて検討していきたい。

 

[4] 川村雅則「北海道及び道内35市に対して大量離職通知書の提出を要請しました」『NAVI』2024年1月24日配信

[5] 労働施策総合推進法
(罰則)
第四十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第二十七条第一項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の届出をした者〔以下、略〕

 

【質問2】

昨年(2023年)にも、大量離職通知書を提出していない自治体に照会をしています。そのうち北海道からは次のような回答をいただいています(北海道は2024年も通知書を提出されていませんが、下記の回答を2023年にいただいておりますので、2024年には照会をしていません)。

 

「道知事部局では、本庁のほか総合振興局・振興局、各出先機関などに分かれていること、加えて、そもそも、本庁であれば各部、総合振興局・振興局であれば総務課・建設管理部・保健環境部などを1つの事業所ととらえていることから、1つの事業所で30人以上の離職者は発生していない。」(以上、北海道からの回答)

 

「道知事部局では、本庁のほか総合振興局・振興局、各出先機関などに分かれていること」という点は、労働市場を地域単位でとらえるという観点で理解できるのですが、「本庁であれば各部、総合振興局・振興局であれば総務課・建設管理部・保健環境部などを1つの事業所ととらえている」という点には違和感をもちました(但し、北海道からは、「ハローワークからの説明を踏まえた対応である。」との回答もいただいています)。

おそらくこれは、通知書の「提出の単位」である「任命権者ごと」をどう理解するか、によるのではないかと思います。

お尋ねしたいのは、以下のことです。

 

(1)「任命権者ごと」はどのように理解すればよろしいでしょうか。

→→→法律やリーフレットに記載しているとおり、文字どおり、任命権者ごと、である。

 

(2)北海道のように、「課」や「部」を1つの事業所ととらえることは、認められているのでしょうか。

→→→一般論として、雇用保険における資格取得・喪失届出の事業所の判断と同じとなる。判断が難しい場合には、社会保険の取り扱いの情報や人事や労務管理の情報なども参考にする。

本制度の趣旨をご理解の上、ご対応をいただくよう北海道局として周知を検討していく。

 

【質問3】

大量離職通知書の離職者数には、任期満了後に再度任用されるものは含まれず、選考などの結果により「離職することが確定したもの」を記載することになっていると理解しています。

年度末で忙しい時期ではありますが、離職のすみやかな確定は、離職者の再就職活動・生活を支援する上でも、不可欠のことと思います。実際、公募・選考の時期を早めたり公募・選考の開催時期を複数回に分けるなどの措置をとっている自治体もありました。

確定した離職者数の記載がそもそもできない、というのであれば、公募制(制度の分だけ離職を多く発生させるおそれのある公募制)を導入する基本的な条件を欠いているのではないか、という思いを禁じ得ません。

(但し、通知書提出後に、離職者の人数が合理的な理由で変わること──例えば、自治体の再就職援助によって、離職を予定していた職員が新たに選考をうけて、別の部署での任用が決まるなど──はあり得ることだと理解しています。)

しかし実際には、2023年の両省からの通知を経た2024年の時点でもなお、確定した離職者数ではなく、公募にかける人数を記載している自治体があります。

例えば、札幌市では、3年公募にかかる予定の職員の人数を機械的にカウントして通知書に記載しています(市長部局分のみ)。当然、1年ないし2年で離職をする職員はここには含まれません。

お尋ねしたいのは、以下のことです。

 

(1)大量離職通知書に記載する離職者数とはどのような職員を指すのでしょうか。

〔筆者注記:3月末の会計年度任用職員の離職について、自治体では、公募に落ちたケースや本人都合によるケースなどの一切を「期間満了している」とようであることから、理由を問わず、「期間満了」のケースで、当該自治体での再就職が決まっていない者はすべて離職者に含まれるかを補足で説明しました。〕

→→→リーフレットに記載されているとおり、6か月を超えて引き続き任用されており、期間満了で離職が確定した職員を指す。

 

(2)札幌市のような、確定した離職者数ではなく、公募にかかる予定の職員数を記載して提出することは、認められているのでしょうか。

→→→一般論として、選考がまだ済んでおらずに、最後の離職が生じる日の1か月前までに離職が確定していないケースはありうる。その場合、離職者として計上して通知書を提出していただくことにしている。

 

(3)上記(2)の場合、「⑦再就職の援助のための措置」をほどこすことは最初から放棄されているように考えられるのですが、この点からも問題はないのでしょうか。

〔筆者注記:質問6の回答を参照〕。

 

なお、参考までに申し上げると、札幌市に年度明けに照会をして提供された(a)実際の会計年度任用職員の離職者数(全ての部局)である400人超と(b)大量離職通知書に記載された会計年度任用職員の離職者数300人超との間には100人以上の差がありました。(b)の通知書に記載されていた職員数は市長部局の数値のみですから、他の(任命権者による)部局で公募にかかる予定の離職者数も記載することで、(a)と(b)の差を埋めることは可能かもしれません。しかしその場合でも、上記(3)の点で問題が残るのではないか、というのが私の考えです。

〔筆者注記:質問としては記載しておりませんでしたが、電話によるやり取りのなかで質問をさせていただきました。公募の年数(例えば3年公募の場合、3年)で機械的に処理をすれば、1年で離職をする職員、2年で離職をする職員が含まれないことになります。そのような事情(に加え、市長部局だけの分を提出しているという事情が)反映して、札幌市では、上記のとおり、100人以上の過小報告になっています。この点について補足で説明をし、回答を求めました。なお、上記の札幌市の離職者数の詳細情報については、大量離職通知書の情報開示請求(2024年)結果の報告で紹介します。〕。

→→→一般論として、制度の趣旨について理解を求めていきたい。

 

【質問4】

(最後の離職が生じる日の1か月前までの)大量離職通知書の提出が間に合わないと主張される自治体のなかには、確定された離職者数の把握・整理作業が間に合わない、というのではなく、選考そのものを行ったり合否を当事者に知らせるのが3月に食い込んでしまう、という自治体があります。その場合、当該職員の離職(3月31日)までの期間が1か月を切ることになり、再就職のための準備期間としても不十分ではないかと考えます。

しかしながら、通知書の提出が年度明けになっている自治体が散見されることは上記のとおりですが、そのことについて尋ねたところ、「それで構わない」などとハローワークからも指示されたという趣旨のことを聞きました。おそらくは、今回に限って「それで構わない」「年度をまたいだ以上、仕方がない」と言われたのであって、今後は解消されるとは推測しているのですが、そのような自治体が複数ありました。

お尋ねしたいのは、以下のことです。

(1)最後の離職が生じる日の1か月前までに大量離職通知書を提出するように定めているのは、どのような理由によるのでしょうか。

→→→労働施策総合推進法施行令第4条に定めるところによる。制度の趣旨としては、大量の離職者が発生する場合に、これを事前に把握することで、職業安定行政としてすみやかな対応ができるようにする観点から、あらかじめ通知を求めているためである。

〔筆者追記:離職者の再就職の準備への配慮や、1か月前の解雇予告という労働基準法上のルールも反映されているのではないか、と思って尋ねてみましたが、この点は不明でした。この点は、立法過程における審議内容にさかのぼって調べる必要があります。〕

 

(2)提出日に関して、自治体にはどのような説明をされているでしょうか。あるいは、今後どのような説明をされていく予定でしょうか。

→→→今回の質問もふまえ、改めて制度の周知を図っていきたい。

 

【質問5】

会計年度任用職員の離職者数は、通知書の「うち非常勤職員」欄に記載されるものだと理解しております。

しかしながら、フルタイム型の会計年度任用職員の離職者を「常勤職員」欄に記載している自治体があります。そのような誤解を誘発する一因として、大量離職通知書の裏面の下記の記載があるのではないかと推察します。

③欄の「非常勤職員」とは、「常勤職員」以外の職員をいう。勤務形態としては、①日々雇い入れられる職員、②勤務時間が常勤職員の1週間の勤務時間の4 分の3以下の職員、③再任用短時間勤務職員等をいう。ただし、審議会の委員等毎日勤務に服することを要しない者等は除く。

出所:大量離職通知書より(下線は筆者)。

 

お尋ねしたいのは、以下のことです。

(1)フルタイム型を含め、会計年度任用職員の離職者数は「うち非常勤職員」欄に記載する、という理解でよろしいでしょうか。

→→→その理解のとおり。

 

(2)通知書でいう「常勤職員」「非常勤職員」の概念を教えてください。

→→→大量離職通知書の裏面に記載のとおり。

〔筆者注記:「「非常勤職員」とは、「常勤職員」以外の職員をいう。」という点がポイントであると思います。会計年度任用職員は、時間数が長かろうが短かろうが、非常勤職員(一般職非常勤職員)であることには違いありません。〕

 

(3)この点について、自治体にはどのような説明をされておりますでしょうか。

→→→今回の質問もふまえて、周知のあり方を検討したい。

 

【質問6】

【質問3】の内容の一部と重複しますが、お尋ねしたいのは、以下のことです。

(1)通知書の「⑦再就職の援助のための措置」欄はどのような趣旨で設けられているのでしょうか。

→→→職業安定行政として、離職者に対してどのような支援を行うか、あるいは、どの位の体制で支援を行うかを判断するための材料として情報提供を求めている。あくまでも、職業安定行政にとっての必要性から情報収集を行っている。

 

(2)同欄を何も書かずに(空欄で)提出している自治体も少なくありませんが、どのような説明をされているでしょうか。あるいは、今後、説明をされていく予定でしょうか。

→→→自治体に対しては、上記(1)の観点から情報提供を求めるにとどまる。

 

 

 

労働局からのご回答をふまえて

  • 取り組みを進めていながら矛盾をするようにも聞こえるかもしれませんが、そもそも、大量離職通知書制度に過度に期待をするわけにはいきません。本制度は、離職そのものを防ぐために設けられた制度ではありません。本制度の趣旨は、離職の実態を事前把握した上でハローワークにおける再就職支援に活かしていくことにあるわけですから。「⑦再就職の援助のための措置」欄も、上記の趣旨に基づいて設けられているものでした(【質問6】)。そこは冷静にみる必要があります。
  • しかしながら、ごく限られた規模の調査ではありますが、本制度に基づく大量離職通知書の提出状況を調べた筆者の調査結果からは、冒頭に述べたとおり、本来提出されるべき通知書が提出されていない、遅れて提出されている、制度の趣旨にそった記載になっていないなどの問題がみられました。大量離職発生時における本ルールは果たして守られなくてもよいものなのだろうか──これが、北海道労働局への今回の質問の動機でした。
  • たしかに、「民間企業」・「大量離職届」とは異なり、国や自治体が大量離職通知書を提出していないことに対して罰則があるわけではありません(【質問1】の筆者注記)。
  • しかしながら、罰則がないことをもって、大量離職発生時のルールを守らなくてよい、制度の趣旨にそった通知書の作成を行わなくてよい、とはならないでしょう。(筆者はこの分野は門外漢ですが)罰則が設けられていないのは、法に反するようなことを国や自治体が行うことは想定されていなかったか、法に反するような状況が万が一発生してしまった場合には、すみやかに是正が図られると想定されている、と理解するのが自然ではないでしょうか。民間企業に率先垂範する役割が国や自治体には求められている、という考えです。
  • 北海道労働局からの今回の回答では、制度の周知を図っていきたい(周知のあり方の検討などを含む)、制度の趣旨の理解を求めていきたい、などの回答が中心でした。
  • 冒頭に述べたとおり、自治体の労使ならびに議会が、会計年度任用職員の離職の大量発生を直視し、離職の発生そのものを防ぐような取り組みを始めてくだされば、と筆者は考えていますが、とてもそのような段階にはまだありません。まずは、大量離職発生時のルールの遵守を自治体側に定着させる必要があります[6]。北海道労働局やハローワークからの働きかけをまたずに、関係者にはそのことを自覚いただきたいと思います。
  • 最後に研究上の課題です。旧・雇用対策法における「大量の雇用変動の届出等」は、どのような経緯で制定されそして今日のような内容になったのか、これまで自治体側ではどのぐらい理解がされ、実際に使われてきたのかを明らかにすることが課題です[7]

 

[6] 本稿では大量離職通知書制度を適切に運用することに話を限定してきました。いわゆる総務省マニュアルには、再度任用を繰り返していた会計年度任用職員を雇い止めする際の配慮なども記されています。総務省マニュアルもご参照ください。

[7] 濱口桂一郎(2018)『日本の労働法政策』労働政策研修・研究機構p.228(「第2部労働市場法政策 第3章雇用政策の諸相 第2節雇用対策法とその後の雇用政策」)で、大量雇用変動の場合の届出のことに言及されていました。

 

 

参考表 北海道及び道内35市における会計年度任用職員数(2023年)

職員A 職員B 職員A 職員B 職員A 職員B
北海道 6,495 1,873 4,622 留萌市 293 274 19 千歳市 739 470 269
札幌市 3,586 2,775 811 苫小牧市 668 404 264 滝川市 471 399 72
函館市 1,067 1,046 21 稚内市 433 373 60 砂川市 373 344 29
小樽市 846 535 311 美唄市 263 248 15 歌志内市 61 42 19
旭川市 1,918 1,499 419 芦別市 147 98 49 深川市 204 190 14
室蘭市 614 569 45 江別市 1,003 658 345 富良野市 224 184 40
釧路市 1,168 991 177 赤平市 146 137 9 登別市 407 287 120
帯広市 1,238 811 427 紋別市 218 177 41 恵庭市 382 311 71
北見市 1,406 771 635 士別市 422 322 100 伊達市 174 174 0
夕張市 107 40 67 名寄市 613 478 135 北広島市 309 232 77
岩見沢市 611 594 17 三笠市 155 130 25 石狩市 374 202 172
網走市 215 196 19 根室市 270 261 9 北斗市 252 156 96

注1:職員Aは、フルタイム6か月以上+パートタイム6か月以上かつ19時間25分以上。
注2:職員Bは、フルタイム6か月未満+パートタイム6月未満又は19時間25分未満。
出所:総務省「令和5年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」の北海道分データから筆者作成。

 

 

 

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