北海学園大学経済学部で取りまとめられている『地域研修報告書2023』に掲載された、ゼミで実施した調査結果の一部です。

すでにお伝えしているとおり、ゼミでは、例年と同じく、聞き取り調査とアンケート調査を通じて学生アルバイトの実態把握につとめました。今年の調査の特徴は、ワークルールの認知・理解状況に焦点をあてたことです。加えて、今年は、労働組合からの聞き取りも行いました。アルバイト問題の解決には、ワークルール(労働法)を知ることに加えて、それを使うという主体的な行動が必要と考えてのことです。本稿では、ワークルールに関するアンケート調査の一部を紹介しました。

なお、アンケート調査結果の詳細は以下をご参照ください。

■川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載4)』

川村雅則ゼミナール『北海学園大学 学生アルバイト白書2023(連載4)』

 

北海学園大学に在籍する全ての学生を対象にして2023年11月にウェブアンケート調査を実施。有効回答410人のうち「現在アルバイトをしている」368人(1部280人、2部88人)を対象に集計・分析を行った。以下では、1部生の結果を中心に報告する。

 

表1 最初のアルバイトの際及び現在のワークルールの認知状況/単位:人、%

最初 現在
280 100.0 280 100.0
よく知っていた/いる 8 2.9 30 10.7
まあ知っていた/いる 53 18.9 143 51.1
あまり知らなかった/ない 143 51.1 67 23.9
全く知らなかった/ない 76 27.1 39 13.9
無回答 1 0.4
(再掲)知っていた計 21.8 61.8

注:対象は1部生(以下、同様)。

 

第一に、最初のアルバイトを始めた際にワークルールを知っていたか尋ねたところ(表1)、約8割が知らなかったと回答。「現在」ワークルールを知っているかを尋ねると約6割が知っている状況にまで改善されるが、ただ、実際にどこまで知っているかは後でみるとおり検証が必要である。

 

表2 ワークルールを知った手法・契機(複数回答可)/単位:人、%

173 100.0
高校の授業を通じて 14 8.1
大学の授業を通じて 100 57.8
インターネットや本など自分で調べて 54 31.2
アルバイト経験を通じて 75 43.4
メディアを通じて 19 11.0
イベントや講演会を通じて 3 1.7
友人や家族を通じて 22 12.7
その他 1 0.6
無回答 4 2.3

注:対象は、現在ワークルールを知っているもの。

 

第二に、最初のアルバイトを始めたのが「高校生」だったのは27.9%(2部生では47.7%)であるが、おそらく、高校の授業では十分なワークルール教育は実施されていないと思われる。それを推測させるのが次の調査結果である。すなわち、現在ワークルールを知っていると回答した者にどこで/どのように知ったかを複数回答可で尋ねたところ(表2)、「高校の授業を通じて」は8.1%に過ぎず、「大学の授業を通じて」が57.8%、「アルバイト経験を通じて」が43.4%であった。

第三に、現在のアルバイトで働き始める際に労働条件や雇用契約書などの書面を受け取ったか(インターネット上で確認できる場合も含む)は、「受け取った」は74.3%を占めるものの、「受け取っていない」が9.6%、「わからない、覚えていない」が15.4%である。過去のアルバイトを含め、求人情報と実際が違った経験が「ある」のは27.5%であることを考えても、契約・入職時に労働条件をチェックするという姿勢が必要である。

なお、重要な労働条件は書面での明示義務が使用者にあるのを「知っている」のは80.0%であった。

 

表3 有給休暇制度の認知状況と、現在のアルバイト先で使用可能か/単位:人、%

280 100.0
学生アルバイトも条件を満たせば有給休暇を取得出来ることを知っているか よく知っている 118 42.1
まあ知っている 106 37.9
あまり知らない 32 11.4
全く知らない 24 8.6
無回答
280 100.0
現在のアルバイト先では学生アルバイトは有給休暇が使用できるか 使用できる 108 38.6
使用できない 42 15.0
わからない 129 46.1
無回答 1 0.4

 

第四に、学生アルバイトが有給休暇を取得出来ることはおおむね知られているものの、自分のアルバイト先で、学生アルバイトが有給休暇を使用できるかは、「わからない」が46.1%で、「使用できない」も15.0%となり、「使用できる」は38.6%にとどまる(以上は表3)。ここ数年同様の結果が出ているが、ワークルールを知ることと職場で使える/守らせることとの間に乖離がみられる。

なお、それは、(1)給料の支払い単位時間が1分単位でなければならないことを「知っている」が全体の3分の2に及ぶ(66.8%)ものの、実際に「1分単位」で処理されているものが46.9%にとどまることや、(2)制服への着替え時間にも賃金が支払われる必要があることを「知っている」が65.4%であるものの、制服への着替えに賃金が支払われていないという訴えが50.7%に及ぶことにも共通してみられる。

第五に、逆に、まだ十分に知られていない制度もある。例えば、休業手当制度は「あまり知らない」が33.6%、「全く知らない」が26.4%。シフトカットや早上がりにも適用される同制度だが、それぞれ4分の3が、適用されることを「知らない」と回答。ゆえに、普段に、「シフトカットの経験があり、なおかつ、休業手当は支払われていない」ものが26.6%、「早上がりの経験があり、なおかつ、休業手当は支払われていない」が32.5%(飲食店で働いているものに限定すると、それぞれ32.0%、51.0%にまで増加)。

 

表4 これまでのアルバイト経験の中でのハラスメント経験の有無(複数回答可)

280 100.0
店長や従業員から暴力や暴言を受けた 22 7.9
自身の性格や人格を否定されるようなことを言われた 29 10.4
店長や従業員に威圧感を感じる 79 28.2
店長や従業員に交際を迫られたりひわいな言動をされる 10 3.6
差別(男女差別、学歴差別)を受ける 5 1.8
無視されたり仲間はずれにされる 7 2.5
達成できないような過大な要求をされる 15 5.4
シフトに入れてもらえなかったり仕事を与えられない 9 3.2
客・利用者から、理不尽なクレームや言動を受ける 91 32.5
客・利用者から、交際を迫られたりひわいな言動をされる 9 3.2
ハラスメント被害を店長やアルバイト先に相談したのに、被害を軽視されたり、自分のせいにされたりした 1 0.4
その他 3 1.1

 

第六に、これまでのアルバイトの中でのハラスメントの経験を尋ねた(表4)。職場先の店長や従業員からのハラスメントは、「店長や従業員に威圧感を感じる」が28.2%と多いほか、「自身の性格や人格を否定されるようなことを言われた」が10.4%、「暴力や暴言を受けた」が7.9%など。また、客・利用者からのハラスメントでは、「理不尽なクレームや言動を受ける」が32.5%で、これを小売店で働いている者に限定すると49.2%であった。

最後に、過去のアルバイトを含めアルバイト先の労働条件や労働環境を改善したいと思ったことはあるか(表5)。改善の行動を起こしたかどうかはともかく、改善したいと思ったことがあるものは約6割に及んだ。そのうち改善の行動を起こしたものでは、「店長や従業員に相談した」が46.9%、「アルバイト先にトラブル改善を訴えた」が28.6%だった。逆に、行動を起こさなかったものでは、「面倒だったため」が7割に達し、「何も変えられないと思ったため」が42.0%で続く。

学生のこうした意識をふまえて、労働法・労働組合を教えていくことが教育機関の課題になると思った。なお、ワークルールを学ぶ必要性は、「とても感じている」に限定しても43.2%であった。

 

今年度の『白書』は、次のURLにアクセスし「学生アルバイト」のカテゴリを選択してご覧ください。https://roudou-navi.org/

 

 

(参考)

○「コロナ下3年目における学生アルバイト等(地域研修報告書2022)」

○「新型コロナウイルス禍の下での学生アルバイト等(地域研修報告書2021)」

○「新型コロナウイルス禍の学生生活等をめぐる問題(地域研修報告書2020)」

 

 

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