鈴木雄大「物価と物価指数」

雑誌『経済』2023年2月号に掲載された、北海学園大学経済学部の鈴木雄大さん(経済統計)の原稿の転載です。鈴木さんは、名古屋高等裁判所における「生活保護基準引下げ処分取消等請求事件」の控訴審で、専門家証人として証言されるなど、ご活躍です。どうぞお読みください。

 

 

「物価と物価指数」

鈴木雄大

 

 

最近は「物価高騰」といった言葉を目にすることが多くなり,食料品,日用品,光熱費などの値上げが話題になります。物価の上昇は日本だけでなく,米国や欧州でも問題となっており,これらの国と比較すると,日本の物価上昇率は低い方です。物価の変動を見ようとするときに最もよく利用されるのは「消費者物価指数」(Consumer Price Index,以下CPI)です。2022年9月のCPIを前年同月比で見ると,日本は3.0%の上昇,米国は8.2%の上昇,欧州(ユーロ圏)は9.9%の上昇となっています。

 

「物価」と「物価指数」

「物価」という言葉は,日常的に使用されているにもかかわらず,その意味を説明しようとすると,意外と難しいことに気づきます。「物価」に類似した言葉として「価格」がありますが,「価格」は個々の商品に設定されているもので,商品に付いている「値段」と考えてみてください。「物価」は,世の中にたくさんある商品の「価格」を「平均」あるいは「総合」したものです。それぞれの商品の価格を見れば,上がっているものもあれば下がっているものもあります。また,価格の変化が大きいものもあれば小さいものもあります。このように,価格の変化が異なる無数の商品がある中で,それらを均(なら)したものが「物価」です。

「物価指数」は,「物価」の動向を指数の形で表したものです。「指数」とは,「ある時点を基準にして,その基準を100とするといくらか」を表すものです。たとえば,2022年9月の日本のCPIは,2020年の平均を100として103.1となっており,これは2020年の平均に比べて消費者物価が3.1%上昇したことを意味しています。

 

具体的な物価統計

代表的な物価指数には,総務省統計局が作成しているCPIのほかに,日本銀行が作成している「企業物価指数」(Corporate Goods Price Index,以下CGPI)や「企業向けサービス価格指数」(Services Producer Price Index,以下SPPI)があります。

CPIは,私たちがふだん店舗で目にする小売価格から計算され,CGPIやSPPIは企業間で取引される価格から計算されます。CGPIはさらに「国内企業物価指数」,「輸出物価指数」,「輸入物価指数」という3つの基本分類に分けられます。最近は物価上昇の原因として「輸入物価の上昇」という言葉を聞くことも多いですが,これはたとえば,輸入物価指数と他の物価指数を比較することで確認できます。2022年9月の輸入物価指数の対前年同月比は,円ベースで48.5%の上昇となっています(国内企業物価指数は10.2%,輸出物価指数は20.2%の上昇です。)。

CPIとCGPI・SPPIでは,小売価格と企業間の取引価格という違いや,対象となる商品の違いはありますが,基本的な作成方法は共通なので,以下ではCPIを例に物価指数の算出方法などについて解説します。

 

CPIの算出方法

CPIの対象となる品目(品目とは商品分類の用語で,「食パン」,「あんぱん」などの細かい分類を表します)は,2022年時点では582品目です。指数の対象となる品目は,家計の消費支出の中での重要度が高いものを指数に含めるという観点から,原則として家計の消費支出の中で1万分の1以上の割合を占める品目とされています。

CPIは総務省統計局による「小売物価統計調査」から価格に関するデータを,「家計調査」から支出額に関するデータを得て,「加重平均」によって算出されます。加重平均とは,平均を計算するときに,それぞれの要素に「重み(ウエイト)」を付けて平均したものです。

たとえば,毎月支出する上に金額が大きい「(民営)家賃」が10%値上がりするのと,頻繁には購入せず価格も高くはない「はさみ」が20%値上がりするのとでは,上昇率は「はさみ」の方が大きいですが,家計への影響は家賃の値上がりの方が大きいでしょう。2020年基準では,「(民営)家賃」の1万分比のウエイトは225で,「はさみ」のウエイトは5なので,約45倍となっています。

この例について2020年の基準(100)に対する価格指数を単純に平均すると,(110+120)÷2=115で15%の上昇となりますが,加重平均だと(110×45/46)+(120×1/46)≒110.2で10.2%の上昇となります。

CPIは「ラスパイレス指数」という式によって計算されています。ラスパイレス指数は,基準時と比較時のデータと,基準時(現在は2020年基準で,5年ごとに改定されます)のウエイトデータを使って計算される加重平均指数です。

少し分かりづらいと思いますので,次のような例をイメージしてください。スーパーで色々な商品をカゴに入れてレジに向かうとしましょう。カゴの中身(これは基準時のもので変えません)が全く同じでも価格が変わっていますから,2020年の値札が付いた状態でレジを通したら会計が10,000円,2022年の値札が付いた状態でレジを通したら11,000円だったとします。この時,ラスパイレス指数による2022年の物価指数は(11,000/10,000)×100=110,つまり,10%物価が上昇したということになります。

これは一例にすぎませんが,こうした指数の計算方法が統計と実感の「ズレ」を生じさせることがあります。統計を利用する時には,その統計がどのように作成されているのかを確認した上で利用することが大切です。

 

 

 

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