コロナは私たちの暮らしを支えるエッセンシャルワーカーの存在を浮き彫りにしました。彼らの働く分野の一つが、国や自治体など公務の分野です。彼らは、①非正規公務員として、②公共民間労働者として、不安定な雇用、低い賃金・労働条件で私たちの暮らしを支えています。
反貧困ネット北海道では、自治体における公務非正規問題をテーマにしたオンラインの連続学習会を2022年7月から開始しました(主催団体は反貧困ネット北海道で、「札幌市公契約条例の制定を求める会」が後援)。
公共サービスの拡充、再生という課題も意識しながら、格差・貧困の温床である公務非正規問題をみんなで共有し、問題解決に取り組むことが学習会の目的です。
2022年9月12日(月)18時から行われた第3回学習会の報告内容と報告者は以下のとおりです。
■会計年度任用職員制度導入後の実態──自治労賃金・労働条件制度調査報告」も含めて──
吉田雅人さん(自治労北海道本部組織強化・拡大推進室)
本稿は、当日の吉田さんのご報告を反貧困ネット北海道事務局の責任でまとめたものです。
なお、当日は、川村雅則(北海学園大学教授、反貧困ネット北海道副代表)が、(1)総務省調査データに基づく北海道における非正規公務員の人数や、(2)無期雇用転換制度の欠如など、民間非正規制度と比較した際の会計年度任用職員制度の問題点などを短時間で報告しました。あわせてご参照ください。
川村雅則「道内の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員の任用実態──総務省2020年調査の集計結果に基づき」『北海道自治研究』第626号(2021年3月号)
川村雅則「北海道及び道内35市における非正規公務員等データ──総務省2020年調査結果に基づき」『北海道労働情報NAVI』2021年12月12日配信
川村雅則「札幌市の会計年度任用職員制度の現状を調べてまとめました」『NPO法人官製ワーキングプア研究会 Report(レポート)』第37号(2022年2月号)
(反貧困ネット北海道事務局)
Ⅰ.自己紹介
吉田と言います。
道北の上川町出身でして、元々、上川町役場の公務員で組合の仕事もしていたんですけれども、今は職場を辞めまして、自治労北海道本部という労働組合で、非正規公務員や、委託や指定管理などの仕事で働く民間労働者──いわゆる公共民間労働者と呼びますが──を対象に、労働組合を作る仕事をしております。組織拡大が仕事です。本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが「会計年度任用職員制度導入後の実態」ということでお話をさせていただきます。資料を使って説明します。
Ⅱ.2020法改正の意義と課題
■「法の谷間」の改善
まず初めに2020年度に、いわゆる自治体の臨時職員、嘱託職員・非常勤職員と呼ばれる方々が会計年度任用職員に転換しました。2年前のことですが、このときの法改定をちょっと振り返っておきたいと思います。
(1)任用根拠の明確化
まず初めに、法の谷間の改善です。それまで非正規公務員は、法律に基づいて、非常勤職員とか臨時職員という呼称で雇われていました。しかし、任用根拠──公務員の場合、雇用ではなくて、任用という言い方をしますけれども──や賃金、手当の定めがあいまいでした。それらを見直そうということで、法律が改正されて、会計年度任用職員という新しい名称の職員制度が誕生をしました。
(2)常勤職員並みの手当の支給
常勤職員──いわゆる正規職員ですけれども──と同じような手当の支給が、地方自治法の改正で可能となりました。
ただこれは、会計年度任用職員のうち勤務時間がフルタイムの職員に限ってのことであって、後ほど説明しますが、フルタイムよりも短いパートタイム労働者には同じ手当が支給されるとはなりませんでした。
加えて、法律上は、あくまでも手当の支給が可能となっただけで、支給が義務ではありません。さらに「条件付き」で──これは正規職員も同じなんですけれども──地方公務員の給与を決定するときには、自分の自治体だけではなくて、国家公務員とのバランスであるとか、他の自治体の職員とのバランスなどを見ながら、決めることになっています。ですから、法律上、手当の支給が可能となったとしても、周りを見ながら、もしくは、国を見ながら支給する、という枠組みは残りました。
(3)再度の任用
これは法改正前もそうだったんですが、任用期間というのは、1年もしくは半年という枠組みだったんですけれども、会計年度任用職員であっても、任用期間は1年で変わりません。2年目、3年目の再度の任用──一般的には更新という言い方をしますが──は今までも可能だったんですが、法改正後も可能であることが前提となっています。
但し、川村先生から先ほど紹介のあった民間でいう5年超で無期転換ルールは公務員には適用されませんし、労使対等の雇用関係ではありませんので、1年でも2年でも5年でも10年でも、いつでも切れることには変わりはありません。
■「会計年度任用職員」制度の問題点
次に、新設された会計年度任用職員制度の問題点です。
(1)任期の定め
期限の定めのない任用(無期雇用)とはならず、1会計年度内の任用(有期雇用)ということで、この点での問題は改善されませんでした。雇用の安定にはなっていません。
(2)会計年度任用職員間の格差
同じ会計年度任用職員でも、フルタイムの常勤職員と短時間のパート職員とでは、手当の支給の中身が異なります。
フルタイム職員には、全ての手当が支給可能と一応、法律上はなりましたが、短時間職員のほうは、期末手当のみしか支給対象になりませんでした。それ以外の手当は、絶対に出せないとは言いませんけれども、出しにくい状況です。
ですから、同じ会計年度任用職員でも格差がもたらされるという新しい問題が生じました。
(3)労働者の法的効力低下
この点は、直接的な影響はあまりないんですが、地方公務員法3条で任用される特別職非常勤職員の方々は、一般職ではなくて特別職のため、旧制度下でも労働組合法が適用になっていました。
ですから、労働協約の締結とか労働委員会の活用が可能だったんですが、会計年度任用職員は一般職になるため、労働協約締結権が失われて、いわゆる正規職員の「職員団体」と同じく、労働組合としては、あるいは、労働者の権利面ではトーンダウンすることになりました。
なお、公営企業職員や現業職員は労働組合法の適用となっています。
■制度導入時の懸念
そもそも、新制度が導入されるときに少なからぬ懸念がありました。
(1)既得権のはく奪
一つ目は、既得権のはく奪ということです。
法的根拠が曖昧な中でも、労働組合が労使交渉で積み上げてきた実績・労働条件がありました。ところが、制度が新しくなることでリセットされかねないおそれがありました。
さらに、先ほど述べた通り、地方公務員法の中で新しい職員として明確に位置づけられましたので、「国準拠」という考え方によって、国を下回っている労働条件は国並みに引き上げられることになりますが、逆に、国を上回る労働条件があった自治体では、国並みに切り下げられるおそれがありました。
加えて、2020年4月からスタートする際に、会計年度の職員となることから、一旦クビだよと雇い止めが起きかねないという懸念がありました。
以上のような懸念に対して、結論から言うと、まず、国並みの労働条件への切り下げは実際に行われました。
ただ、新制度移行時に一旦クビにされたという話は、我々自治労ではあまり聞いてはいません。後ほど触れますけれども、地方の町村レベルでは、切り捨てができるほどに人的な余裕はありませんので、結果的に、この段階での雇い止めは──ゼロではなかったと思いますが──大きな問題としては現れなかったのかなと思っています。
(2)国家公務員との権衡(けんこう:バランス)が強調
第二は、国家公務員にも非常勤職員と呼ばれる方々が働いています。そこと比較をして会計年度任用職員の労働条件が決められていきますので、国次第という状況が多くの自治体で生じました。
(3)自治体の事情。労働組合の影響力が反映
第三に、以上のことについては、自治体の事情や労働組合の影響力が反映しました。
非正規職員の皆さんが組合に加入している自治体では、そこの処遇を自治体側も常日頃気にしていますし、労使交渉で改善をさせてきていました。そこをどう守るかということが制度導入時の大きな課題となっていました。
ただ、そうではない自治体では、失礼な言い方になりますが、非正規職員のことはあまり気にかけられず、処遇も低いままで終始したと思います。
■任用の移行
図表Ⅱ-1 任用の移行の概念図
出所:吉田氏が当日配布されたレジュメより(以下、同様)。
任用の移行の概念図をご覧ください。左側が旧制度下の状況で、特別職非常勤職員、一般職非常勤、臨時的任用職員と分かれていたのが、ほとんどが会計年度任用職員に移行しました。特別職非常勤職員や臨時的任用職員の枠は当然残っているんですが、そこに残る人たちは厳格化されました。
特別職非常勤というのは、本当に特別な職種の方々──例えば、大学の先生とか、医者とか、そういう方々に限定されました。臨時的任用職員についても、臨時的に雇われる人たちということで、年間を通してずっと働く人たちは会計年度任用職員に移行しました。
図表Ⅱ-2 給付体系の変更
こちらは給付体系の変更をまとめた図表です。
まず左側。今まで非常勤職員は、報酬および費用弁償の支給であって手当は支給できない、となっていたのが、改正後は、フルタイムの方には給料を支給しなければならず、各種手当も支給できる、となりました。
短時間職員には、報酬を支給しなければならないに加えて、費用弁償と期末手当が支給できると変わりました。
Ⅲ.制度導入後の実態
以上のことを踏まえて本日のメインに入っていきます。
■労働組合の対応
(1)非正規職員の組織化の遅れと新型コロナ感染症の発生・拡大
先ほども少し触れましたが、臨時・非常勤職員の皆さんが組合に入っていたところといないところとでは、状況は大きく異なります。後者の場合、労働組合の側も、この制度改正に対して十分な取り組みはなされませんでした。そのため、制度導入でどう変わったかとか、どういう不具合があったかとか、そういうことが詳細には把握されていないと思います。
加えてご承知のように、この法改正がスタートする2020年4月の直前に新型コロナ感染症が発生・拡大をしました。そのことによって、自治体職場はもちろんですが、公立病院や保健所等では、患者対応や感染防止対策に追われて、会計年度任用職員制度への対策を十分に果たせない状況になってしまいました。社会全般にそうでしたが、コロナ対応に本当に追われました。
ですから我々も、札幌からそれぞれの自治体に足を運んで、職場はどうだい?というような労働組合的な活動をストップせざるを得なくて、状況がなかなか把握できなかったというのが実態です。
(2)条例・規則による実態把握
そのような中で私達自治労北海道本部が取り組んだのは、各自治体の条例・規則による実態把握です。4月段階ではまだでしたが、各自治体が会計年度任用職員制度の条例や規則を徐々にホームページにアップしていきました。それを一つ一つダウンロードというか印刷をして、条例・規則から当該自治体の会計年度任用職員制度を読み取る作業を始めたわけです。この作業結果を後ほど報告したいと思います。
■自治労本部「自治体会計年度任用職員の賃金・労働条件制度調査」報告
まずその前に、自治労中央本部が行った賃金・労働条件制度の調査結果から幾つかのデータを紹介させていただきます。
(1)調査の概要
集めたデータのご紹介をします。自治労に加入をしている自治体単組のうち、おおむね半分ぐらいを抽出しました。北海道には165の自治体単組があるんですが、10の自治体単組の回答を抽出しました。
図表Ⅲ-1 自治労調査にみる会計年度任用職員数、組合員など
正規職員数は、全国では63万1,585人、北海道では1万6,904人です。会計年度任用職員は、39万2,881人と6,309人です。あくまでも抽出調査ですから、川村先生が最初に紹介された数字とは全然違う数字になっています。
では、全国の数字の紹介になりますが、ご紹介します。
(2)勤務時間
勤務時間は、「フルタイム」の自治体が7.2%、「週35時間以上」が20.9%、「35時間未満」が71.9%%です。圧倒的に、「週35時間未満」です。月曜日から金曜日まで平日を毎日勤務したとしても、1日の勤務時間数は7時間未満です。
正規職員の勤務時間が1日7時間45分ですから、週35時間ですと、45分が短いだけです。多くは、60分・1時間ぐらい短い勤務時間です。
(3)賃金、時給、月給
賃金はどうでしょうか。
まず、賃金の支給方法は、「日給・時給」が54.6%、「月給」が45.4%です。月給者が想定していたよりも多いです。この点は良くなったのかなと感じています。
次に時給の金額です。「平均時給」は1,084円です。「800円以上」が3.3%、「900円以上」が24.8%、「1000円以上」が71.9%です。
官製ワーキングプアからは逃れられていません。1000円以上ということですから、最賃に張り付いた状況よりいくらかは良いという水準です。
月給の場合はどうでしょうか。「平均月額」が17万4000円ということで、一般的なアルバイトの人たちよりかは高い水準かもしれませんが、正規職員との格差は非常に大きいです。内訳も、「14万円未満」が9.4%、「14万円以上」が54.8%、「18万以上」は35.7%です。
賃金は改善されたケースが多いのかなという印象はありますけれども、それにしても安いということに変わりはありません。
(4)期末手当
新しい制度になって一番のメインであった期末手当の支給及び月数については、フルタイムでは、「2.6か月」、つまり当時の正規職員の期末手当と同じ支給月数が66.5%ですが、「1.45か月」が12.6%、そして、「支給なし」も7.4%みられます。
短時間職員でも、13.3%で「支給なし」です。そして、「2.6か月」が59.0%、「1.45か月」が13.6%です。
ちなみに、この1.45か月とは、私どもも想定外でありまして、この月数は、自治体の再任用職員、つまり退職をされて年金支給までの間に再任用(再雇用)される方々の期末手当の月数なんですよ。会計年度任用職員への支払いについて、そこに足並みを合わせるという理屈だと思うんですが、そういう実態があります。
(5)職種別にみた勤務時間数
続いて、職種別にみた勤務時間数です。全ての職種ではなく、特徴的な職種だけ取り上げます。
図表Ⅲ-2 職種別勤務時間数
フルタイムの割合が多いのは「保育士」ですが、それでも19.1%にとどまります。残りは「短時間35時間以上」が25.8%と「短時間35時間未満」が55.1%です。どの職種も「短時間35時間未満」が多数です。
「一般事務」では73.7%が「短時間週35時間未満」です。ちなみに、保育所などでは正規職員の保育士を配置しないでまわしている実態もあります。
(6)職種別前歴換算及び昇給
図表Ⅲ-3 職種別前歴換算
職種別の前歴換算です。今まで働いていた人が引き続き働く場合に、ゼロベースではなくて、若干高い給料を出す換算制度があるかどうか、です。
結果は、職種によりますが、「あり」が4割前後で、「一部あり」が10%前後、そして、「なし」が5割弱と、大きく分かれています。前歴がある方々の処遇をゼロベースとするのか、それとも、前歴を踏まえてゼロの人よりかは若干でも高く給料を設定するのか。これらは当該自治体の労働組合や当事者の皆さんが処遇改善を求めない限り、「なし」となってしまうかと思います。
図表Ⅲ-4 職種別昇給
続いて昇給です。私どもは「昇給」と呼んでいますが、会計年度任用職員の皆さんは1年雇用ですから、昇給という概念ではなく「経験加算」という言われ方をしている場合もあります。要は、1年働いて2年目も継続する場合に、去年と同じ給料なのか、今年は若干上がるのか、という話です。
正規職員の場合には、1年働くと給料表で4号俸が上がります。若年では8,000円とか9,000円が上がるという水準です。会計年度任用職員も同じ給料表を使う場合、正規職員と合わせて4号俸が上がるべきなんですけれども、そもそも昇給が「なし」という自治体が20%から25%弱です。
また、本来は4つ上がるべきところを「1号俸」しか上げないとか、「2号俸」とか「3号俸」と刻んで昇給させている自治体がそれなりにあります。「4号俸」を上げている自治体の割合は、「なし」と同じぐらいです。正規職員が4つ上がるのに会計年度任用職員は4つ上がらないのはなぜなんだと思います。
もちろん、労働時間が短いとか、そういうことを理由にされるのかもしれませんが、我々労働組合としては大いに不満があります。
(7)職種別時給最高到達額
図表Ⅲ-5 職種別時給最高到達額
職種別の時給最高到達額です。これは職種によって大きな差があります。「一般事務」は「900円~1000円」とか「1000円~1500円」が上限の自治体が多い(42.7%、46.3%)ですけれども、「看護師」においては「1500円~2000円」が上限という自治体が多い(31.4%)です。
とはいえ、給料表から換算をすると、最高額が1500円までの自治体が多いですから、新制度が始まってまだ2年しか経っていませんけど、もう給料が上がらないのか、という問題が、今後5年、10年経ったときに出てくるんではないかなと思います。
(8)任用期間の上限
図表Ⅲ-6 任用期間の上限
最後に、任用期間の上限をみます。
民間の無期雇用転換の話が先ほどありましたが、公務員は適用外ですから、何年でも有期雇用で働かせ続けられるルールになっています。その上に上限がつけられています。
今までも臨時職員や非常勤職員には3年とか5年とかというルールがありました。それを継承して、結果的には、「3年」が上限という自治体が25%前後と最も多くなっています。
なお、上限が「なし」というのが3割ぐらいあるのは評価できると思います。そもそも1年雇用が前提ですから、ずっと働き続けられる保障はないわけですが。
ただここでの「上限」というのは、その年数が経ったら必ず雇い止めをするかというとそういうことでは必ずしもなくて、例えば3年というのも、3年間は無試験・無審査で働けます、但し3年が終わった時点で、もう1回、履歴書を出させたり面接を行うことによって、合格すれば、またあらためて3年の任用を継続するなどの場合も含まれているかと思います。
ですからこの任用の上限については、自治体の実情を聞かないと、どうなっているのか一概には言えないかと思います。
Ⅳ.道内自治体の動向(164自治体の条例・規則を根拠に)
以上が全国の数字です。続いて、道内の自治体です。
先ほどご紹介した通り、私どもで条例や規則を一つ一つ確認してカウントした数値です。実態を調べたのではなくて、あくまでも条例・規則から引っ張っているということをご了承ください。
■任用
(1)任用回数の上限、前歴換算制度
図表Ⅳ-1 任用回数の上限及び前歴換算制度の有無
第一に、任用回数の上限があるかないかは、「あり」が53、「なし」が111です。北海道においては「なし」の割合がかなり高いです。
ただ、これは条例・規則に書いていないだけで、実際はあるかもしれません。あくまでも、条例・規則で「あり」と明文化されているのが53ということになります。
第二に、賃金の前歴換算は、過去の就業経験をそのまま新給料にあてはめるというのが「あり」が158ということで、かなり高い割合です。何らかの前歴換算制度を適用する自治体が多いということになります。
(2)採用の方法及び任用の更新
採用の方法については、新規採用は公募をしてちゃんと試験をしなさい、となっていますので、そのような方法が採られています。
再度の任用の選考方法としては、ここはまさに組合の出番なんですけれども、先ほど言った通り書類審査で終わらせたり面接であったり、それから自動更新もあります。条例・規則にはそこまで書かれていませんので、自治体の実態を今後調べるしかありません。
任用の更新も、先ほど言いました2回更新、3年までは自動・無試験だよ、としている自治体もあれば、1年上限としている自治体もあります。「なし」としていても、毎年試験は受けてもらうよ、という自治体もありますから、ここはかなりバラバラになると思います。
「3年上限」は、国の非常勤職員に合わせて総務省が助言してきたことに従った結果であったり、労基法の第14条で有期雇用の契約期間の上限が3年となっていることに合わせた自治体もあると考えています。
いずれにせよ、今回の制度改正を経て、この任用のあり方がどう変わったのかの把握はできていません。
(3)パートタイムへの置き換え及び準職員への対応
フルタイムからパートタイムへの置き換えは、想定していた通り進んだようです。フルタイムになると退職手当の支給対象者になりますから、職場の仕事の実態などとは無関係に、退職手当の支給を回避するために、フルタイムで働いていた人たちをパートに置き換えるという動きが顕著でした。
ただ逆に、パートからフルタイムにこの際変えようという動きをみせた自治体もあります。具体的な数値は私どもでは把握できていません。
次に、いわゆる「準職員」問題への対応も分かれました。北海道には、準職員という正規職員と臨時職員との間に位置するような職員制度が存在しました。この方々は、賃金水準とか手当も支給されたり、休暇も正規職に近いという曖昧な立場で任用されていました。その方々は新しく始まる会計年度職員とのギャップが大きいということで、会計年度職員に合わせて条件を引き下げるという自治体もあれば、逆にこれを機に、正規職員に振り分けた自治体もあるなど、対応は大きく分かれました。
(4)前歴換算及び昇給制度
前歴換算については、2020年度に継続して任用された方々は、労働時間に変更がない場合は、それまでの給料は保障された自治体が多いと聞いています。
ただ、時給は変わらなくても、労働時間が短くなったことで、その分だけ支給額が減額となった自治体も多くあります。そこは労働組合が頑張ったり当事者が物を言うことで現給が保障されたかどうかが分かれたと思っています。
一方、継続して働いている方々はそれまでの給料が保障されたものの、2020年度から新たに新規で採用された方々はその現給がありませんから、給料表で言うと一番安いところからスタートし、同じ会計年度任用職員であっても、格差が生じたという実態もあります。
続いて昇給制度については、ほとんどの自治体で給料表が導入をされました。正規職員と同じ給料表です。
ただ、繰り返しになりますが、正職員の4号俸と異なり、1つとか2つとか3つとか刻んだり、上限が決められてそれ以上は上がらない、という決め方をしている自治体もあります。
ほとんどの自治体では条例がホームページで示されていますから、同じ一級でも、最低限いくらもらえるのか、何号まで上がっていくのかは分かるようになっています。旧制度下では、今年の給料がその時々で決められたり、昇給がなくずっと同じ給料という運用がなされていましたが、制度改定でほとんどの自治体で給料表が入れられたので、何らかの昇給、上がっていくルールは確立されたのではないかと思っています。
国家公務員に合わせると、「行政職一表」というのがいわゆる事務職に適用されるものなのですが、医療職の人には「医療職表」とか、あと現業職には「行政職二表」を適用している自治体もあります。それによって給与水準が高かったり低かったりということになっています。
■休暇
図表Ⅳ-2 休暇制度
休暇について。主な休暇の一覧をここにあげました。休暇制度があるかないか、また、休暇制度があったとしても給料が出る有給なのか無給なのかがポイントですが、先ほど話したとおり、国家公務員の非正規職員とのバランスが強調され、そこに合わせたパターンが多いです。
まず一番上の「①忌引休暇(血族)」。これは、調べたところ全ての自治体で忌引き休暇が設けられて、さらに「有給」で処理されています。当然と言えば当然ですが、改善されて一歩前進したのかなと感じています。
「②結婚休暇」について、こちらも「有給」が多数ということで、制度改定にあわせて見直しがされたのかなと感じています。
それから、一番下に「⑪夏季休暇」というのがありますけれども、こちらもほとんどの自治体で「有給」で付与されています。
一方で、マイナス改定になったのが「③病気休暇」です。これは「有給」での処理が54件しかありません。会計年度任用職員だって病気になることはあるにも関わらず「無給」が多いのは、国家公務員の非常勤職員が無給だからです。ですから、病気休暇が「有給」であった自治体では、「無給」に制度改悪されたところが少なくない。個人的には憤りを感じるところです。
但し、感染症の休暇に関しては、たまたまコロナが発生したこともあって、有給の休暇を新たに設けた自治体もあったようです。
それ以外の「④ドナー休暇」とか「⑤介護休暇」とか「⑥産前産後休暇」、「⑧子の看護休暇」、「⑨妊娠障害休暇」、「⑩育児時間」など、これらについては、「有給」扱いが軒並み低い結果となっています。正規職員と比較したときの大きな格差が残されています。
■社会保険、厚生年金、共済組合
続いて、社会保障に関してです。
旧制度下では、フルタイムの臨時職員の皆さんは正規職員と同じく共済組合に入れたんですけれども、残りの方々は、社会保険、厚生年金加入でした。
それが、法律は今年(2022年)6月に改正をされていたんですけれども、なかなか施行されず、中身が決まって、この10月からようやく施行されることになりました。会計年度任用職員の短時間パート職員であっても、週20時間、月額8.8万円以上の条件があれば、社会保険ではなくて、共済組合に加入できるということになりました。
ですから今私どもは、各自治体の組合に周知をして、会計年度任用職員でも10月からは、フルタイムもパートタイムも、共済組合に入る手続きをしましょう、と呼びかけているところです。
■賃金・手当
図表Ⅳ-3 手当制度の有無
賃金手当に関しても自治体の対応は大きく分かれました。手当の支給状況をまとめた図表をご覧ください。
「①時間外勤務手当」については、本来これは支給されて当然のものでした。
「②通勤手当」も、全ての自治体で支給されることに。これも当然です。
「③期末手当」については1自治体を除く全ての自治体で支給されています。ただ、月数など中身はバラバラですからチェックが必要です。この点は後で触れます。
「④勤勉手当」は、パートタイムの会計年度任用職員には本来支給できないんですが、フルタイムには支給可能です。幾つかの自治体で支給されています。
「⑤特殊勤務手当」とは、いわゆる特別な業務をしている方々への上乗せの手当なんですが、これも想定よりも多くの自治体で支給が認められていると感じました。
「⑥扶養手当」、「⑦寒冷地手当」、「⑧住宅手当(持家)」「⑨住宅手当(借家)」もいくつかの自治体で支給されています。
ただこれらは、フルタイムと短時間の会計年度任用職員とを分けていません。分けた場合には、フルタイムの会計年度職員には支給されるけれども、短時間の会計年度任用職員は支給されていないという制度設計ではないかと思います。その点でデータが精査されていなくて申し訳ありません。
こうして結果をみると、そもそも短時間職員にはもちろんのことフルタイム職員にも、手当が支給されていない自治体が多数ということが分かるかと思います。
なお、「⑩退職手当」については、「あり」が138件です。一般職となるため、フルタイムの会計年度任用職員は、(ア)任用が事実上、継続している場合において、(イ)常勤職員以上の勤務時間の勤務日が18日以上ある月が6か月を超えるに至った場合(北海道退職手当組合は12月)で、(ウ)その日以後、引き続き当該勤務時間に勤務する場合は、「職員の退職手当に関する条例」の対象者となる資格を得ます。
しかし、「制度」としては制定されるものの、フルタイム職員がいなければ支給対象者は不在ですし、短時間・パートタイム職員については、そもそも支給がされません。
図表Ⅳ-4 2020年度に支給された期末手当の内訳
期末手当について補足します。2020年度の期末手当の内訳をご覧ください。当時、正規職員の期末手当は2.6月でした。ただ、この年に人事院勧告で0.05か月分が下げられてしまいましたので、2.6か月から0.05か月分マイナスで2.55か月となりました。図表でも「2.55か月」が一番多いです。
一方で「2.6か月」を守った自治体もあります。4月に契約をしているわけですから、当然翌年の3月までは2.6か月で働くという契約であって、年度途中で下げさせないという、ある意味でまっとうな態度を堅持させた自治体もあります。もっとも、翌年度にこれが2.55に変えられるということはあり得ると思います。
なお、2.55を下回る自治体が一定数みられます。何が根拠かは分からないのですが、いろいろ刻んだ設定になっていて、一番低いところでは「0.9425か月」──多分時間数で割り返しているのでしょうけれども、このような数字もあります。
逆に、正規よりも高い月数を支給している自治体もいくつかあります。正規職員には勤勉手当が支給されていますから、その分を2.6か月に上乗せしている可能性があります。つまり、会計年度任用職員にも勤勉手当相当の期末手当を支給しているという自治体があったのかなと思います。あるいは、先ほど話したとおり、準職員に対して若干高く支給していた分を残している可能性もあります。
いずれにせよ、正規職員に2.6か月を出しているのに会計年度任用職員がそれ以下というのはおかしいと思います。
Ⅴ.まとめ
最後に、ざっくりとしたまとめを話します。
■法改正による処遇改善と後退
冒頭にお伝えしたとおり、法改正による改善と後退がありました。
臨時職員、嘱託職員・非常勤職員など色々な言われ方をしていたのが、会計年度任用職員と明示されたことで、肩書きと言ったら変ですが、正規職員と同じ地方公務員なのだという意識づけが、正規の側にも会計年度職員の側にも、そして、当局の側にも、一定程度されることになったのではないかと思っています。
よく聞くのは、職場で、正規職員が臨時職員を指して「臨時さん」と言ってみたり、逆に臨時職員の皆さんが正規職員に対して「正規の人」という言い方をするんだけれども、今後は、全員が地方公務員として明確に位置づけられたわけですから、そういう「正規」とか「臨時」とかという言い方はしないよう、職場の中で一定程度意識が変わったのかな、と思っています。
二つ目に、労働条件の改善です。
例えば、給料表が導入されたのは意義があると考えています。たとえ1号俸しか上がらない場合でも、ルールが決まっていれば自分の給料が来年いくらになるかが見えるわけで、今までは昇給も何も見えませんでしたから。正規職員と同じ給料表が使われて、自分が1年間働いたらこれだけ上がるというのが見えることの意味は大きいかなと思っています。それから期末手当の支給が可能になった点も収入の改善には一定程度の効果があったのかなと思います。
一方で、繰り返しになりますが、この間、曖昧だったことで逆に労使自治で決められたことが、国家公務員に準拠とされたために制度改悪された事例もあります。
特に、任用の回数とか任用時の試験制度というのは、繰り返し任用を前提としてきた自治体では、継続雇用の不安材料となって会計年度職員の皆さんにのしかかっているという実態があります。
■新たな格差と職場の実態
制度改正前との比較では「改善」が多いんですけれども、フルタイムと短時間パートとの間での格差、それから、フルになったんだけれども、正規との間の格差というのが新たに発生をしています。
フルタイムになって働いていて、制度的には手当も全部支給できるのに未だに支給されていないという実態があります。その理由は、繰り返しになりますが、国家公務員の非常勤職員には出ていないのだから地方も出させません、という理屈ですね。突破できない理屈ではないと思うんですが、総務省の姿勢に自治体は大きな影響を受けています。
あわせて職場では、先ほども触れましたが、元々フルタイムで働いていた職員が無理やり短時間パートに切り替えられたことによって、当事者の皆さんの収入の減という問題だけでなく、職場では「労働者不在の時間」が増えて、残った人たちの間の負担増にもつながっています。もちろんその分人が新規で雇われればよいのですが、そうはなっていません。1日あたり45分とか1時間短く働かせたり、もしくはフルで働かせておきながら金曜日だけ休みにして対応する「フルタイム逃れ」の実態もあるだろうと思っています。
■新型コロナ感染で処遇格差が顕著に
今回は新制度開始時に新型コロナが広がったわけですが、自治体は本当に大変な事態にありました。そして正規、非正規に関係なく、感染防止、感染拡大の業務に追われたわけですが、そうした中で、非正規労働者に対するあからさまな差別がありました。
一つは、例えば学校が休校にされたときに、給食調理員の皆さんは、給食を作らなくてよくなりますから、自宅待機となりました。給食センターの清掃や設備整備関連の業務もあるんですが、休みですよ、となりました。そして、自宅待機ですから賃金は無給となりました。正規公務員の場合は自治体の裁量で賃金を出して有給休暇にしてもよかったのですが、非正規公務員にはそのような対応はありませんでした。
正規職員は、職務専念義務免除とか特別休暇で有給で在宅ができたのに、会計年度任用職員は賃金がカットされたり、それから自分がコロナに感染したり濃厚接触者となった場合にも、ダメージは大きかったです。病気休暇制度は無給扱いですから。
幸い、感染拡大が長引いた後にはさすがに特別休暇扱いになりましたけれども、ただコロナの初期の頃には、非常に差別的な扱われ方がしていました。
自治体で働く労働者がエッセンシャルワーカーと呼ばれるようになり、正規、非正規に関係なくそのような宣伝を私どもも行ったのですが、「公正労働」の実現にはほど遠いと感じています。
その点で私どもの対応も遅れがちになったことは認めざるを得ません。当時感染拡大がひどかった札幌にいる我々がよその地域に行ったり、ましてや保育所や病院などに行くことは、はばかられましたので。今現在もそういう懸念があり、対応が遅れています。
■非正規労働のシステムをどうしていくか
最後に私の問題意識を話します。
公務員だけではなく、いわゆる非正規労働というこのシステムをどうしていくかということをこの間、考えさせられました。
(1)組織化に対するマイナスの影響
これまで、臨時・非常勤職員の皆さんの位置づけや労働条件は曖昧であったことから、組合に加入していただき、労働組合として一緒に処遇改善をしてきました。ところが、新制度導入で、昇給制度が設けられ手当も出るようになりました。また賃金は、例えば国準拠とか人事院勧告準拠で、黙っていても改善されることになりました。今年の人事院勧告でも、若年層が3,000円から4,000円上がります。
こうした状況下で組合の必要性というのが感じられなくなってしまわないか、組合に頼られない可能性が高まるんじゃないか、というのが頭の痛いところです。会計年度任用職員の処遇改善が喜ばしいのは言うまでもありませんが、じゃあ組合に入らなくてもいいんじゃないの、みたいな感じになっていくのが非常に危惧しているところです。
(2)非正規職員が主体の公務職場への懸念
非正規職員が主体となった公務職場という懸念もあります。つまり、非正規職員の皆さんが法律上もしっかり位置づけられ、公共サービスの提供が可能になり、処遇改善もされるなど、正規職員と同様の業務内容や処遇が可能になった場合、もう、正規職員の定義というのが無意味化するのではないかと懸念しています。
実際既に、正規職員のいない保育所、児童館、給食職場が出ています。管理職がかたち上はいるのですが、現場にはおらずに別の事務所にいるとか、そんな感じです。会計年度任用職員による管理者も存在しています。
それがよいか悪いかということではなく、これは民間職場でも起きていることですが、自治体職場でも、非正規労働が職場の中心になっていく。これは、非正規労働者の皆さんが悪いわけではもちろんありません。ただ、1年任期の雇用形態の方々が自治体の中枢に位置づけられ、地域社会を維持していくためのスキルや経験が果たして蓄積されていくのだろうか、という懸念です。
(3)非正規労働というシステムをどうするのか
現状の非正規労働者の皆さんの処遇改善は絶対的に必要です。ただ、非正規イコール有期雇用という現状をふまえると、働き続けられる雇用契約はどうあるべきか。正規職員との間の格差はどうあるべきか。正規職員がいれば格差や差別は意識できますが、正規職員がいなくなったときにそれらはどうなるのか。公正労働の中身が問われます。
安定した労働者による労働組合・組合運動ではなくて、会計年度任用職員さんたちも含めた労働組合作りが必要でしょうし、労働組合と議員さんたち、そして、市民の皆さんと連携しながら、自治体作りを考えていく必要があるかと思います。会計年度任用職員制度は議論の素材になると思います。
最期のまとめにつきましては、今後の大きな流れの中で課題として浮上してくるかと思いましてお話をさせていただきました。
ご視聴いただきありがとうございました。
■2022年度反貧困ネット北海道連続学習会
川村雅則「自治体の新たな非正規公務員制度問題(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『北海道労働情報NAVI』2022年7月31日配信
神代知花子「石狩市の非正規公務員問題と問題解決に向けた議員活動(2022年度反貧困ネット北海道連続学習会)」『北海道労働情報NAVI』2022年7月31日配信