川村雅則・福地保馬「トラック運転手の労働条件と、睡眠および食事の状況─事例調査から(2000年)」

『交通科学』第30巻第2号pp.55-60(2000年)に「資料」として掲載された短文です。指導教員であった福地保馬氏(北海道大学名誉教授)との共著です。当時の調査・研究の方法を(とくに卒業論文を準備している)学生たちに伝えることを企図しています。どうぞお読みください。

なお、「分」と表記すべき単位を「時間」と誤って表記した箇所がありました。お詫びして訂正します。

 

要旨

トラック運転手の労働条件と、睡眠および食事の状況に加えて、前者と後二者との関連を明らかにするため、延べ9台の車両に同乗し全作業行程の観察をするとともに聞き取りを行った。彼らの労働条件にみられた特徴は、拘束時間と実作業時間が長時間にわたることおよび深夜時間帯に作業が行われていることで、これらの特徴は彼らの睡眠時間を短くする、拘束時間内の食事(休憩)時間を短くしまた食事内容を貧しくするなど、睡眠や食事にとって不利な条件となっていた。

キーワード:トラック運転手、労働条件、深夜運転、睡眠、食習慣

 

 

1.はじめに

トラック運転手の睡眠や食事には問題点が多くみられるとの指摘がある[1][2]。しかし睡眠や食事などの彼らの生活習慣は、長時間労働、深夜労働を含む不規則労働など[3]の労働条件に強く規定されて形成されている側面が小さくないと考えられる。

労働条件と生活習慣との関連を明らかにするためには、両者それぞれの具体的な状況を明らかにする必要がまずあるだろうが、トラック運転手に関するそのような研究は多くはない。とりわけ、深夜時間帯に作業を行ったり数日の運行に従事したりするトラック運転手が、拘束時間内にどのように働きどのように睡眠や食事をとっているのかを報告しているもの[4]は少ない。今回は、そのようなトラック運転手を対象として、彼らの労働条件や拘束時間内の生活の状況を明らかにしたので、以下に報告する。

 

2.調査の目的と方法

トラック運転手の労働条件と生活および健康状態を明らかにするため、1996年および1997年に調査を行った。以下で報告するのはその一部で、8人(a-h)の車両に同乗した調査の結果である(但しcの車両には2回同乗したので延べ数では9人である)。本調査では、出庫から帰庫までの全作業行程を観察する他、賃金や労使関係等の労働条件、睡眠や食事および喫煙・飲酒等の生活習慣、健康状態について聞き取りを行った。なお8人が就労する会社(A社-E社)はいずれも中小企業である。

 

3.調査の結果

1)回答者の属性

表1 回答者の属性

名前 就労先 年齢 トラック運転経験年数
a A 32 13
b A 31 10
c B 27 2
d C 44 13
e C 51 33
f D 54 28
g D 55 26
h E 48 24

注:運転経験年数は、他社でのものも含む

 

表1のとおり、年齢は27-55歳で、全員が男性である。トラック運転経験年数は、2-33年間。乗務している車両は、cのみ4t車で、他の全員は大型車である(うちa,b,fの3人は牽引車に乗務)。

8人を運行状況(運行日数)により4つに分類して、図1にまとめてみた(2回同乗したcについては、c1、c2とする)。以下は、各類型の運行概要である。

図1 拘束時間内の状況

図中の線種および表記の説明

 

①Ⅰ類型(1日運行:a,b,c1,c2):深夜時間帯に出社、出庫し、数ヶ所で荷扱い作業を行い、同日の夕方から夜にかけて帰庫する。

②Ⅱ類型(2日運行:d,e):事業所間の定期的な運行に従事。夕方に出社し、集められてきた荷物を仕分けて車両に積み出庫する。帰庫時刻は、運行場所により異なるが翌日の深夜時間帯から早朝のあいだである。但し調査日のとおり、週に1回は、帰庫時刻が正午過ぎの運行に従事する(この場合2日目は明け日となる)。

③Ⅲ類型(3日運行:f):3日以上の運行に従事。帰庫日の予定が不明のまま出庫し会社の指示に適宜従い業務を遂行する。(以上にあげた三つの類型の運行場所は北海道内。)

④Ⅳ類型(5日運行:g,h):北海道-東京間で、通常5日間の運行に従事する。往路では、下船した後、道内で積んだ荷物を数ヶ所で下ろしながら東京へ向かい、東京で全ての荷物を下ろす。復路では、東京および近県で新たな荷物を積み、フェリーで北海道へ渡り、道内数ヶ所で荷物を下ろす。但しhの調査日の業務内容は、通常に比べ、往路での荷扱い作業が少なくかわりに東京指定到着時刻が早い時刻に設定されていた。

以上のとおり各類型の運行概要を示したが、出庫時刻、帰庫時刻、荷扱い等の運行内容に関しては、Ⅱ類型を除き定型化することは困難で、日々の運行内容は全くの同じというわけではない。

図では、調査日の時間をつぎの4つに分類した。①運転作業時間。②荷扱い作業時間。③付帯作業時間:車両の整備や給油作業、運転日報や伝票の記録、フェリーターミナルでの乗船手続き、会社への電話連絡など業務に関連する作業に要した時間。④その他時間:手待ち(荷扱い待ち)、食事休憩、コンビニ停車、自販機停車、血圧測定、用便、睡眠に要した時間である。横軸上の「運」、「荷」、「付」、「そ」は上記四つの作業をそれぞれ示しているが、いずれも短時間(数分)で終了したものである。

図中の△(お菓子や飲料水等は除く)は食事休憩開始(または食事開始)時刻で、薄い網掛け帯は睡眠時間を示している。

なお、会社の都合や調査者の都合により観察できなかった部分(dの荷積み作業、eの荷積み・荷下ろし作業、hの4日目23時以降の状況)は、聞き取りに従い図示した。

 

2)労働条件(拘束時間と、拘束時間内における実作業時間の構成)

表2 出社時刻、出庫時刻、帰庫時刻、拘束時間、実作業時間の状況

注1:出社時刻は会社に到着した時刻
注2:拘束時間は出社時刻から帰庫時刻まで
注3:実作業総計時間の比率は、拘束時間を分母とし算出
注4:実作業各時間の比率は、実作業総計時間を分母とし算出
注5:牽引車の場合、荷扱い作業にはシャーシの接続・切離作業を含む

 

表2は、調査日の出社時刻、出庫時刻、帰庫時刻、拘束時間[5]、実作業(運転作業、荷扱い作業、付帯作業)時間をまとめたもので、以下はその特徴(問題点)である。

①Ⅰ類型:拘束時間は887分から1140分と長く、実作業総計時間も753分から930分と長い。またとりわけc2にみられるとおり、連続した作業時間が長い。これは全類型で共通することであるが、例えば、1連続運転時間(1回が連続10分以上で、かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいう)[6]が4時間を超えた事例は、fを除く全てで確認された。

②Ⅱ類型:拘束時間は1300時間分台で、実作業総計時間は1000時間分を越えている。長い連続作業がやはりみられ、例えばeの場合、出庫してから荷下ろし作業を終えて復路につくまでのあいだでとられたのは、往路での35分の食事休憩のみである。

③Ⅲ類型およびⅣ類型:拘束時間は、Ⅲ類型では約3000時間分で、Ⅳ類型では5500時間分前後と極めて長い。但し両類型の運行は数日間にわたり、また拘束時間には睡眠時間等も含まれているので、1日ごとの状況をまとめてみたところ以下の問題点がみられた(表3)。

 

表3 Ⅲ類型およびⅣ類型の、就労時間、就労間隔時間、実作業時間の状況

注1:調査日は暦日上のものであるが、fの「1日目」のみ2日目にわたっている
注2:実作業総計時間の比率は、就労時間を分母とし算出
注3:実作業各時間の比率は、実作業総計時間を分母とし算出
注4:就労間隔時間の括弧内(g,h)は、乗船終了時刻を就労時間の終わりとして算出したもの

表中(「就労時間」)の表記の説明

出社-乗船手続き  =出社時刻から、フェリーターミナルに到着し乗船手続きを終えるまで
出社-作業(翌日) =出社時刻から、同日の全作業終了時刻まで(但し翌日にわたっている)
作業-作業     =作業開始時刻から、同日の全作業終了時刻まで
作業-乗船手続き  =作業開始時刻から、フェリーターミナルに到着し乗船手続きを終えるまで
作業-帰庫     =作業開始時刻から、同日の帰庫時刻まで
下船-作業     =下船開始時刻から、同日の全作業終了時刻まで

 

第一に就労時間(便宜上設定したもので、原則として「作業開始時刻からその日の作業終了時刻まで」)が長い。9時間(540分)以上の長い事例として、「1日目」のg、「2日目」と「3日目」の全員があげられる(Ⅳ類型の場合、乗船手続きを終えてから乗船を終了するまでの時間も加えると、就労時間はさらに長くなる)。

第二に就労間隔時間が短い。例えばgは、「1日目」の762分の実作業を終え、235分の乗船時間のなかで夜眠をとり、下船後はすぐに運転作業を開始し、その日は843分の実作業を行っている。(fの「1日目」と「2日目」の状況も参照。)

第三に実作業時間が長い(連続作業時間もまた長い)。実作業時間が8時間(480分)以上の長い事例としては、「1日目」のg、「2日目」の全員、「3日目」のgとfがあげられる。例えばfは、約2時間の夜眠がとられた後の「2日目」では、516分の運転作業を行い、「3日目」では、386分の運転作業と277分の荷扱い作業を行っている。またgは、「1日目」から「3日目」まで各日とも実作業時間が8時間を超えている。

 

3)睡眠生活の状況

表4 普段(勤務日)の睡眠時間、調査日前日からの睡眠状況

名前 普段の、自宅での睡眠時間 前日の退社時刻 前日から調査日までの睡眠時間 調査日の起床時刻
a 4時間 17:00 3時間 2:00
5-6時間
b 3時間 公休日 2時間 1:30
4-5時間
c1 4-5時間 17:30 4時間 0:00
7時間
c2 c1と同じ 16:30 4.5時間 0:00
d ※7時間 公休日 8時間以上 9:30
e ※6-7時間 2:30 7時間 10:00
f 7-8時間 19:00 8時間 6:30
g 8時間 公休日 8時間 6:00
h 8時間以上 公休日 8時間以上 9:00

注1:eの退社時刻のみ、調査日のもの
注2:普段の睡眠時間が二つある場合、上段は早い出社時のもの、下段は遅い出社時のもの
注3:※がついた睡眠時間は、うち数時間が不熟睡

 

普段(勤務日)の睡眠状況と調査日の睡眠状況は、表4のとおりである。

①Ⅰ類型:睡眠時間の長短はその日の出社時刻によるが、但し「長い」場合でも、5-6時間(a)または4-5時間(b)に過ぎない。出社時刻が早かったために調査日の睡眠時間は、前日は退社時刻が早かったまたは公休日であったにも拘らず、2-4.5時間である。彼らによると、「早い時刻に眠ろうとしても、なかなか眠ることはできない」(a,b)または、寝坊による遅配を防ぐために早めに出庫して手待ち時間内に睡眠を補充する(c)という。

②Ⅱ類型:普段の睡眠時間は6-7時間であるが、うち数時間は熟睡できない時間であるという。彼らの睡眠状況は、早朝に帰宅し食事を摂ってから入眠して、4-5時間後に起床し再び食事を摂り、その後2-3時間再び眠る(横になる)というものである。

③Ⅲ類型およびⅣ類型:自宅での睡眠時間は充分だが、数日運行に従事しているためそのような自宅での睡眠機会は当然少ない。拘束時間中の彼らの睡眠状況をみてみる(表5)。

 

表5 Ⅲ類型およびⅣ類型の、拘束時間内の睡眠状況

注1:実作業終了時刻の括弧内は乗船終了時刻
注2:※がついた睡眠は、下車による一時中断があったもの

表中(「睡眠場所」)の表記の説明

車=運転室ベッド
船=船室ベッド

 

まず時刻についてみる。就労間隔時間(表中では「○日目~○日目」)での睡眠(夜眠)では、就寝時刻は早くはない(最も早い事例で22:55)。実作業終了時刻が早いにも拘らず就寝時刻が遅い事例もみられるが、それは、乗船時刻が遅い(22:50-23:40)からと推測される。就労時間内の睡眠(昼眠)では、睡眠は手待ち時間内にとられることになるので時刻は様々である。

次に時間についてみる。就労間隔時間が短い場合、睡眠時間は短い(とりわけ翌日の作業開始時刻が早いときはその傾向が強い)。例えば「1日目から2日目」のg(235分)とf(114分)、「2日目から3日目」のh(270分)がそれにあたる。夜眠時間がこのように短い場合には、翌日の就労時間内に昼眠がとられている。睡眠時間が逆に長い事例は、Ⅳ類型の「3日目から4日目」の船内での睡眠である。ここでは約8時間の夜眠の他に朝食後にも約3時間の昼眠がとられている。聞き取りによると、往路での睡眠負債をここで解消しているとのことである。

最後に睡眠場所は、両類型とも運転室内のベッドが主であり、睡眠環境はよくないといえよう。

 

4)食生活の状況

表6は、拘束時間内の食事休憩開始-終了時刻と摂取場所(形態)および食事内容をまとめたものである。特徴(問題点)は以下のとおりである。

 

表6 拘束時間内の食事状況

注:「食事休憩開始-終了時刻」で一つしか時刻を記していないのは
1)休憩に該当しないもの(運転しながら)
2)食事休憩の開始と終了が明らかではないもの(船内食堂での食事休憩)

表中(「摂取場所(形態)」)の表記の説明

車=運転室
運=運転しながら(運転室)
店=食堂、高速道路上の食堂、船内の食堂
他=ホーム、事業所、船内のドライバーズルーム

 

①Ⅰ類型:摂取場所(形態)は、朝食でも昼食でも「車内(運転しながらを含む)」が多い。

②Ⅱ類型:出庫後に摂られる夕食の開始時刻が遅い。また、2日目に早朝の荷扱い作業を終え帰路についた後、正午ごろまで食事は摂られていないことが特徴である。

③Ⅲ類型およびⅣ類型:食事時刻が日によって異なる、深夜時間帯の食事がみられる、二食しか摂られていない日がある、等が主な特徴である。食事内容は、高速道路上の食堂および船内食堂での定食(Ⅳ類型)を除けば、コンビニ食が多い。

全類型の食事状況に共通している特徴の第一は「運転しながら」という摂取形態に典型なとおり食事休憩時間がないまたは短いこと。第二は摂取時間が短いこと。第三は食後の休憩がないまたは短いこと(即作業再開または即入眠)。第四は「運転しながら」の場合、食事内容が簡租なものであること。

 

4.考察

労働条件にみられた第一の特徴は、拘束時間(または「就労時間」)が長時間に及ぶことであるが、このような特徴は、第一に自宅での休息期間(または就労間隔時間)を短くしていた。労働省告示[7]では、「勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与えること」とされている(特例あり)が、その実現は困難なようである。また第二に、休息期間が短いことや出社時刻が早いこととあわさり、運転手の睡眠を短くする(とりわけⅠ類型)主因になっていると考えられる。

労働条件の第二の特徴は、一部を除き、実作業時間が長くて拘束時間に占める実作業時間の比率が高いことである。数日運行のⅢ類型とⅣ類型では、1運行全体でみると実作業時間の比率は低く示されるが、1日ごとでみると高くなった。

第三は、実作業時間のなかでも運転作業時間が長く、また一連続の運転作業時間も長いことである。運転作業が血圧を上昇させる[8][9]ことや、自動車運転労働者には循環器疾患が少なくない[10]ことから、長時間の運転作業は問題と考えられる。またこのような過密さは、トラック労働の性格(道路上での車両移動という労働内容、荷物の到着時刻の設定等)とあわさり、拘束時間中の食事摂取を時間的なゆとりがなく不規則なものにし、また食事内容を簡粗なものにする。運転労働者に多くみられる消化器疾患(自覚症状)の要因には、車両の振動や自動車運転作業に伴う交感神経の極度の緊張持続[11]の他、食生活のありかたも影響していると推察される。

 

参考文献及び注

[1] 細川汀「トラック運輸労働者の健康と災害」同「現代『合理化』と労働医学」pp145-163、1978年

[2] 井奈波良一「健康管理の必要性の周知を-長距離トラック運転手のライフスタイル-」労働安全衛生広報no647、pp22-27、1996年

[3] 野沢浩「路面輸送労働の労働条件の諸問題(第4報)-トラック運転労働の勤務制と労働時間制・生産性・事故発生率などの関係-」労働科学49巻6号、pp315-342、1973年

[4] 酒井一博「深夜トラック運転の負担と勤務条件の改善方向」神奈川大学法学部研究所研究年報13、pp37-59、1992年

[5] 本来は帰庫後の作業時間も拘束時間に含めるべきだが、作業遂行に要した時間なのか私的な行為に要した時間なのか不明な事例もあったので、今回は帰庫時刻までの時間を拘束時間とした。

[6] 労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改正 平成9〔1997〕年労働省告示第4号)。文中の定義は同告示にもとづく。

[7] 同上

[8] 万井正人「自動車運転中の連続血圧測定」人間工学3巻1号、pp45-52、1967年

[9] 李卿ら「自動車運転作業の血圧に及ぼす要因について」労働科学70巻4号、pp160-166、1994年

[10] 上畑鉄之丞「過労死の研究」日本プランニングセンター、1993年

[11] 渡部真也ら「自動車運転手の自覚症を中心とした一調査例」北方産業衛生第29号、pp59-62、昭和38〔1963〕年

 

 

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