有期雇用労働者の雇用安定(無期雇用転換)の実現を求めてたたかう東北大学職員組合の訴えに対して、仙台地方裁判所が不当な判決を下しました(東北大学職員組合・東北大学雇止め訴訟弁護団「東北大学雇止め訴訟での仙台地裁判決に対する声明」を参照)。執行委員長の片山知史さんからの訴えです(2022年7月4日)。ご支援をよろしくお願い致します。
組合・組合員の訴えが退けられる
2022年6月27日午後、仙台地方裁判所は、東北大学職員組合の組合員による地位確認請求を求める訴訟(2018年4月4日)について、原告の請求を棄却する判決を出しました。裁判長から「原告の請求をいずれも棄却する」「訴訟費用は原稿の負担とする」と告げられ、4年の裁判が一瞬で終了しました。大きな虚脱感に見舞われたのですが、判決文を読んでみると、これまでの常識を逸脱しており、例を見ない判断だったことが判りました。組合は、原告、弁護団と相談の上、控訴を決めました。
この訴訟は、有期雇用契約を12年間継続して毎年更新してきた原告が、2018年3月31日に雇止めされた事案です。原告と同様に、長期間にわたって契約更新を繰り返してきたにもかかわらず、東北大学から雇止めされた有期雇用契約者は300名以上にのぼります。本件雇止めが労働契約法18条に基づく無期転換申込権の発生を阻止する目的でなされた違法無効なものであることを明らかにし、原告の労働契約上の権利、労働者としての尊厳の回復を求めました。
争点は、同じ職場で同様の業務を担い12年も更新を重ねてきた原告の契約更新の合理的期待権があったかどうか、本件雇止めが客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性があったかどうかでした。すなわち、東北大学における無期転換を回避するための雇止めが労働契約法第19条第1号または第2号により無効かどうかが問われた裁判でした。
以下、判決文の内容を紹介し、裁判所の判断の論理と、それらの問題点について、私見ではありますが述べていきたいと思います。
契約更新を期待する合理的理由があるか
判決文では、この合理的理由については、雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合的に考慮して判断されるべきと、位置付けました。
原告は東北大学経済学部で、雇用財源やプロジェクトの変更によって契約がその都度変わり、途中謝金業務期間(1年間)があったものの、学生連絡ネットワークシステムの制作・管理を中心に恒常的な業務を担っていました。しかし判決文では、原告が担当する主たる業務は、各期間において異なり、時給単価も変っていたことから、「労働契約を締結した回数や通算期間のみを重視することは相当ではない」「原告の契約期間管理は厳格に行われていた」「雇用継続の期待をもたせる使用者の言動があったということはできない」として、合理的期待権を認めませんでした。
私たちは、雇用関係が継続していれば5年を経た段階で無期転換権が発生するものと信じていましたが、業務内容や業務形態が変わるとその権利は得られないようです。これは厚労省の説明(パンフなど)とは明らかにことなります。また労働条件通知書(兼同意書)の署名捺印についても、署名捺印しないと雇ってもらえないような場合は無効であると、過去の判例から理解していたのですが、これも違っていたようです。加えて、雇用継続の期待をもたせるような使用者の言動がないと合理的期待権が得られないとなると、労働者にとってはとてもハードルが高い条件となってしまいます。
関連して、以前の東北大学における時間雇用職員の更新上限は3年でした。ですが、例外条項(部局の判断で、総長が認めれば延長可能)によって、2年を超えて更新された職員のうちの7-8割が3年を超えて契約が更新されてきました。このように以前は、普通に更新上限3年を超えて働けていたことに対して、判決文は、3年を超えて更新された職員は採用者全体の28.3%であったとして、逆に3年未満で「雇止めされた職員が相当の割合であった」として、3年上限を超えて更新してきた運用が「常態化していたということはできない」と述べています。労働者からみたら、周りに3年を超えて働く方々が一人でもいれば、この3年上限ルールは緩いものだと認識します。入職した過半数が3年を超えないと常態化していないとは、あまりに現場感覚を逸した判断です。
本件雇止めに客観的に合理的な理由、社会通念上相当であったかどうか
私たちは「本件雇止めは、無期転換申込権の発生回避を目的としたもので、労働契約法18条を潜脱するものである。本件雇止めは経営上の理由によるので、その可否は整理解雇に準じるが、整理解雇の要件を満たしていない」と主張しました。
しかし、就業規則に定められた5年上限について「3000名を超える有期雇用契約に係る職員を雇用し、人件費の財源の減少が見込まれることといった被告の置かれた状況を考慮すれば、時間雇用職員に適用される就業規則に通算契約期間を5年以内と定めることは相応の合理性がある」としました。5年の更新上限を設けること自体の違法性については、認められない判例が多いようです。ただ、東北大学の雇用人数とか運営費交付金の問題は全く関係がありません。
さらに判決文は「通算契約期間を5年以内と定め、無期転換申込権の発生直前に雇止めをするという意味で、無期転換申込権の発生を回避することを目的とした雇止めをしたことをもって、直ちに同法(労働契約法)に抵触するものではない」と言い切りました。
実は東北大学当局も、雇止め目的についてはさすがに「無期転換逃れ」とは言っていませんでしたし、訴訟の中でもそのような主張はしていませんでした。しかし裁判所は「無期転換逃れ」だと認識していたということになります。
司法が、「無期転換逃れ」を許すとは、にわかに信じられないことです。厚労省も、何回も国会で「無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的で雇い止めを行うことは、労働契約法の趣旨に照らして全く望ましくない」と答弁してきました。本判決が、有期労働契約者の雇用の安定のための労働契約法の趣旨を理解せず、我が国の労働者の約4割を占める非正規労働者の地位と待遇をますます悪化させるものとして、社会全体に大きな影響を与えるものと思われます。この判決文が今後の基準にならないように、私たちが取り組んでいく必要があります。控訴審では必ずや本判決の不当な判断を是正させ、非正規職員の無期転換に向けた全面的解決を求めていきます。
大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間を5年から10年とする特例が法的に設けられました。2023年3月末がその10年にあたり、我が国では2500名以上が雇止めの対象となっています。東北大学においても、約240名が雇止め対象なのですが、6月30日に行った団体交渉において当局は、雇止め方針に変わりないことを明言しました。本訴訟が来春の雇止めに影響していくことも考えられます。控訴で逆転するためにも、来春の大量雇止めを阻止するためにも、取り組みを強化していく必要があります。
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