安田真幸「自治体非正規公務員の現状と歴史」

自治体非正規公務員(会計年度任用職員)の現状を考える上で歴史に学ぶことが役に立ちます。安田真幸さん(連帯労働者組合・杉並)からの投稿です。お読みください。

 

目次

<「会計年度任用職員制度」の現状>

2020年4月1日、自治体で働く大多数の臨時・非常勤職員が会計年度任用職員に切り替えられました。この会計年度任用職員は地公法の一般職非常勤職員として位置付けられ、自治体非正規公務員の大部分を占めることとなりました。新制度移行直後の2020年4月現在の総務省調査によれば、694,473人の非正規地方公務員のうち、会計年度任用職員が622,306人と89.6%を占めています。今回初めて調査対象とした「6か月未満の雇用期間」と「19時間25分未満/週の勤務時間」の431,273人を加えると1,125,746人となります。同時期の正規地方公務員が2,762,020人ですから、非正規率は30.0%にのぼり、女性が76.5%を占めていることが大きな特徴です。

 

2020総務省調査:「別添1」1枚目の表とグラフより

 

総務省は法改定の趣旨を「任用の適正化」と「期末手当支給などの処遇改善」と説明しています。しかし私たちは、期末手当支給は大きな前進としつつも、①「雇用のブツ切り」による一層の不安定化、②賃金の抑え込みと休暇の国並み平準化、③労働基本権剥奪、と捉えてきました。

非正規公務員にとって最大の課題は「雇用安定」です。しかし、総務省は1年雇用を法定化し、従来の「更新」を認めず、「再度の任用論(毎年の雇止めと公募選考を経て、毎年改めて採用する)」との解釈を自治体に押し付けました。この強引な解釈変更は、だれが考えても不合理な「毎年の条件付き採用期間(試用期間)」を生み出しています。

その一方で、毎年の雇止め~公募選考の膨大な事務量を考慮してか、国に倣って「3年公募制」を推奨しました。全国的にみると「毎回公募する」が1,254自治体で42.2%、「公募を行わない回数等の基準を設けている」が1,255自治体で42.3%で、「毎回公募を行わず再度任用する」は15.5%となっています。特に都道府県と指定都市を合わせた67自治体中、「毎回公募を行わず再度任用する」自治体は1ヶ所のみで、雇用不安定を促進する総務省による「助言」が大規模自治体ほど浸透していることがわかります。東京都内23区・26市=49自治体においては、2016年総務調査で約半数が「任用上限(5年公募制)」を導入していましたが、その一方で「任用上限なし」だった自治体が25ありました。しかし、法改定を受けた総務省マニュアルによって、2020年には5自治体(50%から10%)へと激減しています。

今年度(2022年度)は、多くの自治体が採用している「3年公募制」の3年目となります。来年3月に向け、数十万人(推定)もの会計年度任用職員が雇止めされ、公募に応じて「合格」しなければ働き続けられない状況に置かれます。この「3年公募制」を辞めさせるための取組が求められています。会計年度任用職員の多くは地域の住民であり、その多くが女性です。労使交渉はもちろん、議会や住民の方々への働きかけを進めていく必要があると思います。

 

2020総務省調査:「別添2」P5より

 

※「3年目公募問題」について、「はむねっと」(公務非正規女性全国ネットワーク)の皆さんが特集ページを作成しています。ぜひご一読ください。https://nrwwu.com/topics/1651/

 

★以下は、会計年度任用職員制度と「3年公募制」に至る自治体非正規公務員の歴史について、私なりにまとめたものです。

・非正規公務員の制度的は様々な紆余曲折があります。いささかマニアックですが、歴史をたどることが現状理解の助けになると思っています。

・非正規公務員に公務員法が適用されるとはいっても、無期雇用原則と身分保障原則はいずれも適用されていません。パート・有期労働法や無期転換や均衡待遇を定めた労働契約法などの重要な労働法も適用されません。「法の狭間の非正規公務員」といわれるゆえんです。

 

<非正規公務員の歴史>

1 源流は戦前の嘱託員制度

 ⑴ 戦前の公務員制度

戦前の公務員は「公務員=官吏」に限られ、それ以外に「公務労働者」として、民法上の雇用契約による「雇員(行政職)・庸人(技能・労務職)」と委嘱による「嘱託」とが存在していた。嘱託制度の趣旨は「主として特殊技能や学識経験者の活用にあった」が、「定員不足を補うために幅広く利用されるようになった」とされている。

 

1931年

総数 吏員 雇員 庸人 嘱託
794,399 138,400 403,748 246,793 5,458
100% 17.4% 50.8% 31.1% 0.7%
1941年

東京市

総数 吏員 雇員 庸人 嘱託
47,879 10,119 12,576 24,949 235
100% 21.1% 26.3% 52.1% 0.5%

<参考>戦前の国と東京市の身分別職員数と割合

 

 ⑵ 嘱託制度の廃止から臨時職員制度を経て非常勤制度へ

1947年に国家公務員法が成立、1948年7月1日に施行された。しかし施行直後の「政令201号」を受けて、年末には国公法改悪により労働基本権が剥奪され、労基法も適用除外とされることとなった。この嘱託制度も1948年に廃止され、暫定的に臨時職員制度が設けられる。この時点での嘱託員数は4万2千人と言われている。1949年、この臨時職員制度が廃止され、常勤の臨時職員は定員内に組み入れられる一方で、非常勤の臨時職員は新設された人事院規則「非常勤職員の勤務時間及び休暇」により非常勤職員とされることとなった。

自治体となった東京都でも国と同様に、1948年に嘱託員規程廃止から臨時職員制度に移行した。

 ⑶ 国家公務員法の制定と臨時職員の限定的運用

まず、自治体とは異なる、国における臨時職員制度の限定的運用について触れたい。臨時職員の採用については、国公法60条に規定されている。この規定中「臨時の官職に関する場合」の運用を、人事院規則で「常勤官職に欠員を生じた場合」との縛りをかけて停止させた。この措置により、非正規国家公務員の主軸は「非常勤職員」となった。ちなみに「公務員白書」によれば、2000年の臨時職員数は492名で郵政事業庁に限られており、2003年の郵政民営化以降、その数は掲載されていない。この点から、現在はほぼゼロと推測でき、自治体の約26万人との差は著しい。

臨時職員の採用が「常勤官職に欠員を生じた場合」に限定的されたため、フルタイム勤務の非正規現業職員が必要な建設・農林・運輸などの現業官庁から、非正規公務員を採用する新たな手法が求められた。このため、「常勤労務者」制度とともに「日々雇用」というフルタイム非常勤類型が創設された。フルタイムであっても「非常勤」としたのは、「その日限りの雇用で、毎日働くわけではないから」との屁理屈のように思える。しかし、人事院規則の「別段の措置をしないときは」、「更新されたものとする」との自動更新条項に見られるように、毎日勤務が常態化する。

地方公務員法においても、国と同様の臨時職員に関する規定が22条にある。自治体では「臨時の職に関する場合」規定をそのまま使い、多数の臨時職員が採用されて働いてきた。会計年度制度創設前の2016年総務省調査では、260,298人にものぼっている。

 ⑷ 抜け道としての「日々雇用非常勤」と「常勤労務者」の誕生

1949年制定当初の人事院規則「非常勤職員の勤務時間及び休暇」では、その勤務時間を「常勤職員の3/4以下」としていた。しかし前述の通り、フルタイムの勤務を求める現業官庁からの強い要望により、ふたつの抜け道が用意された。ひとつは上述の通り、「フルタイムの日々雇用職員」を非常勤職員として組み込むことである。もうひとつが「2ヶ月以内の期間雇用者」を定員から除外している条項を利用した、「常勤労務者」制度の創設である。この日々雇用非常勤職員制度は2010年の「期間業務職員制度」に移行し、廃止された。一方、正規職員並の労働条件が確保された常勤労務者は、1958年当時の6万人が、1961年の新規採用禁止によりゼロを目指したものの、2021年においても林野庁30名、国交省2名の計32名が在職している。

これらの制度は、本来公務員法の適用の特例として用意された、国公法付則13条「職務と責任の特殊性に基づく特例」の拡大解釈により創設された。一方、自治体においては国のように付則と人事院規則を使った、掟破り(?)の「フルタイム非常勤制度」は創設されなかった。自治体の場合、地公法57条の特例は「別に法律で定める」とされており、学校教職員、公営企業や現業職員、警察・消防職員などへの特例的適用が定められた。自治体の場合、日々雇用などの「便利」な方策は国会で法律を通さねばならず、容易ではなかったこともあるだろう。しかし、少なくない自治体が法によらない抜け道として「国に倣って」日々雇用制度を採用していた。

 

2 地方公務員法施行と自治体臨時職員の闘い

 ⑴ 1950年地方公務員法成立と臨時職員制度

1950年に地公法が成立したものの、任用関係条文の施行については、大規模自治体は2年、小規模自治体は2年6月後とされた。難題は臨時職員の取り扱いだったと推測する。それまで「臨時職員=期限付き職員」として安易に活用されてきたものが、22条の創設によって「(1年以内に廃止が予定される)臨時の職」に厳しく限定されたからである。この困難に当たって当時の自治庁は「現に在職している者」は「任用更新しても差し支えない」との通知を発出した(1952.12.4第52号)。この通知により、「地公法22条に基づく臨時職員」と特例的な「(22条によらない)臨時職員」とが並立して存在することとなった。この特例的な臨時職員制度を残したことが、その後の自治体臨職闘争の素地を形作ったといえよう。

 ⑵ 定数削減政策のもとで増大する自治体臨時職員と臨職闘争

1950年前後、レッドパージとともに人員削減の嵐が吹き荒れた。現在に共通する人件費削減政策の下、増加する行政需要への対応は、国においては「日々雇用職員(常勤的非常勤職員)」、自治体においては「(22条によらない)臨時職員」により賄われた。国においては「常勤的非常勤職員」の常勤化(定員化)闘争、自治体においては「臨時職員」の正規化(定数化)闘争として闘われ、大きな成果を上げた。

東京都においては、1954年に「臨時職員協議会」が結成され、約14,000名の参加を得て臨職闘争が闘われた。1956年の事務臨時職員の人事委員会への提訴などを駆使した闘いにより、1957年には正規職員化が勝ちとられる。1960年代には、主に23特別区で臨職闘争が継続された。次々と職種ごとに労働組合が結成され、正規職員化が勝ちとられていく。その背景には現在と同様に、新たな行政需要の拡大に非正規公務員を充ててきたこととがある。具体的には、学校給食の整備・拡大による給食調理員、教員の宿日直廃止による学校警備員、通学路の安全確保のための学童擁護員、放課後学童の保育のための指導員、などである。

1950年代後半から60年代にかけて、全国的に展開された臨職闘争の成果として、自治労が「臨職3原則」と呼ぶ「1956年自治庁事務次長通達」を引き出したことが挙げられる。①恒久的職務に期間を限って雇用することは妥当性を欠くので、今後は臨時職員採用を行わない、②現に雇用されている臨時職員はすみやかに正規職員に切り替える、③定数内職員に切り替えるまでの間は正規との均衡待遇に向けて改善する、がその内容である。しかしこの通知後においても、①は実現されることなく、今日においても「恒常的業務に1年有期雇用を当てはめる」ことは全く改められていないのである。

 

3 「長く働かせない=臨職闘争を再現させない!」労務政策へ

 ⑴ 正規化闘争の終息に当たって発出した政府の通知

国においては常勤化闘争の終息に当たって、1961年「定員外職員の常勤化防止について」との閣議決定を行った。①常勤労務者を新規に採用しない、②日々雇用職員は任用期間終了後は引き続き勤務させない、がその骨子である。自治体においても閣議決定を受けて自治事務次官通知「定数外職員の定数化について」を発出し、「本来臨時の職に臨時的に任用された職員が繰り返し任用されることによって、事実上常勤の職員と同一の勤務形態となるような事態を絶対に防止するものとすること」と極めて強い調子で縛りをかけた。「常勤的非常勤職員」や「長期の臨時職員」という言語矛盾とさえ言える事態を二度と生じさせない。つまり、非正規公務員の雇用を絶対に長期化させない → 常勤化闘争・正規化闘争を未然に防止する → 雇用は1年以内の短期で打ち切る、という強い意思の表明に他ならない。

元人事院総裁浅井清の著書「国家公務員法精義」(1970年)からの引用を以下に掲げる(雇用を短期で打ち切ることの最大の目的が、正規化闘争の未然防止にあることを裏付ける記述である、と私は考えている)。

「(常勤的非常勤職員が)はじめて机の前に坐した時こそ、公務員試験にも合格しないで、正規の常勤職員と同じ座を得たことを喜びもすれ、静かに周囲の同僚を見廻し始めると、給与その他の処遇が、自分たちの勤務の実態に適合しないことに不満を抱くようになる。」、「やがてこれらの非常勤職員の群れから「常勤繰り入れ」すなわち正規の定員内の常勤職員への任用の叫び声が、ここかしこに起こってくる。そうしてそれが野党にも反映して、国会にまでもこだまするようになるのである。」

 ⑵ 「空白の1日」や「名前替え」などの横行

しかしそれでも、恒常的職に臨時職員を充てることがやむことはなかった。厳しい定数管理下に置かれた現場では、常勤職員採用が困難だったからである。恒常的な職に充てた臨職を無理やり「短期(6ヶ月)」で打ち切る自治体も出てきた。しかし、このやり方は6ヶ月ごとに人が入れ替わることとなり、多くの自治体が採用することはなかった。そこで「悪知恵」が出てくる。ひとつは雇用の途中に「空白期間=クーリング期間」を置くことであり、もうひとつが「名前替え」である。

「空白期間」は「継続勤務」としないために、主に国の非常勤で多用された。年度末に置かれる空白期間が僅か1日というケースも多々あった。また、ある県では、6ヶ月雇用の次を5ヶ月で更新し、残り1ヶ月を空白期間として雇用保険給付で凌がせ、翌年度にまた6ヶ月~5ヶ月~1ヶ月空白を繰り返す、巧妙な事例もあった。

「名前替え」とは、「初めの6ヶ月はA~次の6ヶ月はB」として同一人を1年を超えて雇用し続ける手法で、東京都をはじめ多くの自治体で採用されていた。

 ⑶ 1990年代以降、臨時職員から非常勤職員への切り替えが進む

1990年代以降、「名前替え」などの手法は地域の合同労組の闘いもあり、使えなくなった。1992年川崎市で、臨時職員の駆け込み訴えを受けた地域の合同労組が、「名前替え」を公文書偽造、所得税法違反などの告発を交えながら追及し、雇用継続や退職金を支給させるなどの画期的な成果を獲得した。東京23区においても1997年、各区の臨時職員要綱が人事委員会の承認を受けていないこと、2月雇用で「更新2回(法律上は1回だけ)」としていること、などを人事委員会に持ち込んで追及し、全区での要綱改正を行わせることができた。

これらの取組により、23区では非正規公務員活用の軸が臨時職員から特別職非常勤職員へ大きく移行していくこととなった。臨時職員とは異なり、非常勤職員は(短時間勤務とはいえ)恒常的業務に充てられるからである。それまで曖昧だった非常勤職員の位置付けを特別職としたきっかけは、1978年に東京都が再雇用制度を導入する際、再雇用非常勤職員を特別職としたことにある。定年制がない時代、自治体は60才を超える職員に、割増退職金により退職を促した。この勧奨退職制度を一層促進させるために、東京都は割増退職金に加えて5年間非常勤職員として再雇用する制度を創設した。この再雇用非常勤を特別職とした最大の理由は割増退職金の支給維持にあったと私は考えている。なぜなら、常勤職員が同じ一般職の非常勤職員となる場合は、「転任」となり退職とはならないため、退職金の支払いが難しくなるからではないか?と推測している。全国的にも非常勤講師や消費生活相談員など各種相談員を特別職として位置付けてきたことに加えて、特別職であれば採用や処遇などに地公法の適用がなく、自由度が高いことも挙げられる。この東京都の特別職としての非常勤職員採用の手法は23区に広がり、更にほぼ全ての指定都市に広がっていった。

 

4 国の期間業務職員制度と「3年公募制」 ⇒ 会計年度任用職員制度へ

 ⑴ 雇用年限制度の登場

自治体も国と同様に非常勤職員が非正規公務員の主流となってきた。そこで課題となるのが「長く働かせない」とする労務政策との兼ね合いである。非常勤職員は恒常的業務に従事するのだから、雇用を打ち切るには合理的理由が必要となる。そこでひねり出されたものが雇用年限制度である。雇用年限とは、あらかじめ働き続ける年限を定める、例えば「1年任期で更新限度2回」として、3年で雇用を打ち切る手法のことで、私たちの組合用語である。

古くは1980年代の大阪大学で「3年」、枚方市図書館の「5年」雇用年限があった。この大阪大学の雇用年限が大学から国に徐々に広がっていった。1989年、自治体での先行グループだった杉並区では、従来からの非常勤職員「6年」に加え、臨時職員から非常勤職員に切り替えた人には「3年」の雇用年限を付した。「長く働かせない」労務政策を非常勤職員にも拡張適用したのである。1990年代以降、非常勤職員活用の進展とともに、雇用年限は徐々に各自治体に広がっていった。

当初の雇用年限は、年限該当者に応募を認めず、一律に全員解雇するものだった。しかし、組合の反対や業務に支障が出ることなどもあり、再応募することも可能なものと変換させてきた。この変換が国の期間業務職員の「3年公募制」につながっていったと考えている。

 ⑵ 国における期間業務職員制度の創設

国においては、前近代的な日々雇用職員制度の改善を余儀なくされ、2010年に「期間業務職員」制度が発足する。「日々雇用」という前近代的な雇用形態が廃止されたこと自体は歓迎できるものだが、「臨時的業務に従事」と強弁し任用期間1年としたこと、「3年公募制」を全面導入したことが大きな問題として残っている。より根本的な問題としては、公務員法上、業務の性格により規定される「臨時の職」の概念を、使用者の意向に合わせて変質させた罪は深いと言わねばならない。

 ⑶ 手直しを迫られた総務省

1990年代以降、各地で自治体関連の合同労組が結成され、労働基本権を駆使した非正規自治体公務員の闘いが大きく前進する。東京では公務公共一般労組、大阪では大阪教育合同労組が労働委員会での闘いで「再度の任用論」を打ち破り、最高裁で確定する。加えて、期待権侵害や期末手当支給を認める判例の積み重ねや官製ワーキングプア問題の取組の前進が相まって、政府/総務省も対応を余儀なくされる。これまで頑なに拒否してきた期末手当支給などの「処遇改善」で譲りながら、闘いの根源的な力である労働基本権剥奪に舵を切った。これが2017年の地公法改定であり、会計年度任用職員制度の創設である。

 ⑷ 私見:会計年度任用職員制度の法制度的疑問

① なぜ、17条による正式採用としなかったのか?

当初私たちは、総務省の促す「一般職非常勤化」=17条採用と考えてきた。2016年総務省通知で17条採用を推奨してきたからだ。現実的にも、(「再度の任用論」を打ち破られて)一般職化に舵を切った東京都と大阪府も、17条採用だった。

しかし法改定に当たり、総務省は17条採用とはせずに、これまでの「22条臨時職員」とは別に「22条の2」を新設し「例外的採用」としたのである。なぜか? 17条採用は「正式採用」であり、地公法の「無期雇用原則」が無視できなかったのだと思う。非常勤職員の従事している業務はいずれも恒常的なものであるから、素直に17条採用とすれば無期雇用とせざるを得ない。「1年任期(=雇用を安定させない)」とするためには、「17条採用」ではない別の方法を編み出すしかなかったのだ。

② どのような手法で「1年任期」を導入したのか?

そこで総務省は22条の2を新設し、「一会計年度を超えない範囲内で置かれる非常勤の職」という定義を導入し「1年任期」法定化したのである。恒常的・臨時的という職の性格付けからすると、無期とせざるを得ない。そこで職の性格付を避けて、つまり理屈抜きで「1年」を定義して法律に入れ込んだものに他ならない。「置かれる」とあたかも他律的であるかのような表現を使っているが、任命権者がその意思に基づいて「置く」こととなる。恒常的な職であっても、任命権者がその意思に基づいて「(一会計年度を超えない範囲で)置く」とすることによって「1年任期」を設定することを法律化し、入口規制の公務員法制を変質させたのである。

非正規公務員の雇止めを巡る裁判は「雇止め無効」には至らないものの、「期待権侵害」での慰謝料支払い判決が相次いでいる。「期待権」を発生させない、裁判になっても負けない、そのための強引な手法がこの「1年ポッキリの職」との定義と解釈に現れているのだと考えている。

 

5 会計年度任用職員制度に替わる制度を構想しよう!

 ⑴ これまでの労務政策が手直しされつつある?

① 自治体非正規公務員の主軸が非常勤職員に

1950年代から始まった臨職闘争によって、正規職員化を余儀なくされた政府の総括が「長く働かせない=1年以内の短期で打ち切る」であった。しかし、1年ごとに人が入れ変わるのでは安定的な行政運営は確保できない。様々な脱法行為によって継続して働くことを確保してきたものの、その脱法行為が労働組合の取組によって打ち破られた。そこで1990年代以降、非正規公務員の主軸を継続雇用が可能な非常勤職員に移行させてきたのだ。

② 「3年雇用年限制度」⇒「3年公募制」へ

非常勤職員への移行の際に、「長く働かせない」こととの関係で編み出されたものが「3年雇用年限(=3年で雇用を打ち切る)」であった。しかし、3年ごとに人を入れ替えることも、(1年よりはましだとしても)業務に支障をきたすことに変わりはない。また、年限満了者が次年度の公募に応じてきた時、断る理由が簡単にはいかない。「3年働いてきた人は応募できない」と応募資格に書き入れることは難しい。それまで働いてきた人を排除し、働く権利を一方的に剥奪することになるからだ。実質的にみても、その職務に経験を有することが排除につながる理由とはなりえない。むしろ経験者は歓迎されるべきはずのものだ。労働組合の取組もあって、再応募を認めざるを得ない自治体が増え、「3年公募制=応募を認めて選別する」に転換してきたのである。

 ⑵ 総務省に矛盾の解決を促そう!

① 「長く働かせない」労務政策の転換を!

この「3年公募制」は「長く働かせない」労務政策と矛盾する面を持つ。3年ごとに応募して採用されれば、長く働き続けられるからである。総務省調査によっても、10年を超えて働き続けている非常勤職員は少なくない。問題はこの現状を十分知りながらも、いまだに「繰り返し任用されることは、長期的、計画的な人材育成・人材配置への影響や、会計年度任用職員としての身分及び処遇の固定化などの問題を生じさせるおそれがあることに留意が必要です」とマニュアルに記載していることである。

会計年度任用職員にも研修制度などが、正規常勤職員に準じる形で導入されている。充実した研修と職場での経験蓄積によって、「長期的、計画的な人材育成・人材配置」は充分に図られる。「身分及び処遇の固定化」とは「不安定な身分、低位の処遇の固定化」を意味しており、それこそ噴飯物の言い訳に過ぎない。キチンと雇用を安定させ、差別的な処遇を改めることにこそ力を注ぐべきなのだ。

② 総務省も一枚岩ではない?

個人的には、総務省も一枚岩ではないように受け止めている。確かに、主軸は労働法制と一線を画した公務員法制の確立にあるように思える。1990年代以降のパート労働法や労働契約法の適用を拒絶してきたことがその根拠である。しかし2010年代、総務省公務員課編集の「地方公務員月報」に掲載された論文に驚いた経験がある。2010年の『地方公務員と労働法』(http://hamachan.on.coocan.jp/chihoukoumuin.html)では、「(地方公務員法制と民間労働法制は別ものという主張があるが)労働法はそのような公法私法二元論に立っていない」、「地方行政に関わる人々自身が、地方公務員ははじめから労働法の外側にいるかのような誤った認識の中にあるのではないかと思われる事案があった」と論じられていた。2013年には『非正規公務員問題の原点』(http://hamachan.on.coocan.jp/chikouhiseiki.html)と題して、中野保育士事件を取り上げ、戦後公務員法制について「公務員は現在でも労働契約である」と断じている。つまり、これらの論文を掲載する必要性があると考える人が存在しているようなのである。

2009年以降の総務省通知においても、労基法、職安法、労安法、均等法などに触れながら叙述されている。パート労働法は適用されないものの、その趣旨に沿った運用を促す記載もある。一方で、労働契約法については、その趣旨に沿った運用は全く記載されていないことが大きな課題として残されてはいるが・・・・・。

 ⑶ 私たちの目指すべき制度を構想しよう!!

全国の自治体組合に共通する目標は「任期の定めのない短時間公務員制度」の実現です。このために本格的に知恵を集め、めざすべき制度を共有化する論議が必要な時期にきているように思われます。私見では、公務員法の無期原則を活用した「一般職非常勤条例」の制定で実現できるはずですが、無期転換のことも含めて共同して検討を開始できたら、と思っています。

国・自治体の議員の皆さんの協力を得て、厚労省も巻き込みながら総務省に対して会計年度制度に替わる私たちの制度を求めていけたら、と願っています。

 

 

 

(関連情報)

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