伊藤誠一「過労死・過労自死の根絶・救済の取り組みと日本労働弁護団北海道ブロック」

日本労働弁護団北海道ブロックによる、過労死・過労自死の根絶・救済の取り組みをまとめた一文です。お読みください。

 

 

 

労働弁護団は表題と関連して、現に進行している過労死等事案の労災認定手続を支援することや、使用者に対する損害賠償請求をする上での代理人として、何人もの会員がこれに参加している。もっとも、過労死等防止法(2014年11月施行)のもと、「過労死等[1]」の防止は、全国民的に取り組まれなければならない課題であるから、過労死等が発生した後の労働弁護団による救済活動への参加は、その大きな取り組みの部分でしかない。もっとも、その壮大な取り組みの他の幾つかのポジションでも会員が懸命に取り組んでいるので併せて紹介する。

ところで、北海道労働局は本年2021年6月25日、厚労省の令和2年度「過労死等の労災補償状況」の発表(2021年6月23日)に合わせて「過労死等の労災補償状況(北海道)」を発表した。それによると、業務に起因する脳・心疾患による死亡(いわゆる過労死)は、この1年間でみると労災申請件数7件[2]、労災認定された件数6件(脳・心臓疾患で幸いにも死を免れた人の労災申請件数は、28件)である。また、業務による心理的負荷が高じて精神障害になり自死(いわゆる過労自死)した労働者について、この1年間でみると、労災申請件数4件、労災認定された件数8件である。業務によって精神障害に罹患したことそのものに限定してみると、労災申請68件、労災認定31件であった。北海道労働局による同種発表は、数年前から続いているが、この統計にみる限り、過労死・過労自死とも労災申請はいずれも高い水準で続いている。

 

さて、本年6月30日、過労死等防止対策推進北海道センター(共同代表理事佐々木潤弁護士、同川村雅則・北海学園大学教授、事務局長皆川洋美弁護士)が「次期過労死等の防止のための対策に関する大綱」について意見を述べた。過労死防止大綱は「法」7条に基づき、概ね3年に一度見直され、掲げられることになっている行政目標である。厚労省に設けられた市民参加の防止対策推進協議会(法条の根拠、第4章)の意見を聴いて閣議決定される。決定前にパブリックコメントに付されたので、これに応じたものである。この度の「協議会」では、勤務時間インターバル制の導入について言及すべきではないか、いわゆる過労死等認定基準の100時間、80時間のハードルが高きに失し、過労死が続く現場の実状とかけ離れているのではないか、などの意見を承けて、議論がなされたが、必ずしも実を結ばなかった。北海道センターの意見は、それら議論の結果を見据えながら、制定されるべき大綱に、それらの内容が少しでも反映されるよう、具体的な配慮をした上で作成されたことが見てとれる。

 

さて、「いのちと健康をまもる北海道センターにゅーす」(認定NPO法人働く人びとのいのちと健康を守るセンター、理事長細川誉至雄医師が月1回発行する。同センターには長野順一弁護士ほか多くの弁護士が役員として参加している)によると、

・吃音のある青年看護師の過労自死(行政訴訟で労災認定)の損害賠償請求事案が開始されており、大賀浩一弁護士ほかが代理人として奮闘されている。

・道東標津町青年職員の過労死が公務災害に認定された件につき、島田度弁護士ほかが町に対する損害賠償請求を担当している。

この「ニュース」の外でも、畑地雅之弁護士(旭川)が陸上自衛隊員訓練死事件で、国に対し公務災害による損害賠償請求をするなど、会員の活躍が続く。

 

 

[1]「法」は「過労死等」について「業務における過重な負荷による脳出血疾患者若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務による強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡またはこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」とする(2条)。

[2]過労死等の申請から業務上外の決定まで年を跨ぐことが一般である。したがって、その年度の決定件数は同年度の申請件数に対応するものとなっているわけではない。(なお、決定件数には、その年度内に行政事件訴訟で取消しが確定したものと含まれている。)

 

(文責 伊藤誠一)

 

(参考情報)

厚生労働省「過労死等防止対策」

過労死等防止対策推進北海道センター

 

(関連記事)

過労死防止北海道センター「「過労死等の防止のための対策に関する大綱(改定案)」に対する意見(2021年7月10日)」

 

 

 

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