川村雅則「非正規公務員問題に対する労働組合の取り組みはどこまで進んだか(2018年)」

川村雅則(2018)「非正規公務員問題に対する労働組合の取り組みはどこまで進んだか」『生活協同組合研究』第512号(2018年9月号)pp.37-44 

 

公益財団法人生協総合研究所が発行する『生活協同組合研究』第512号(2018年9月号、特集:非正規化する地方公務員)に掲載された拙稿です。「労働組合の取り組みはどこまで進んだか」を明らかにすることが求められたこのときの作業は不十分に終わりました。新たな非正規公務員制度(会計年度任用職員制度)が導入されたいま、「取り組みが思うように広がらない理由」を明らかにすることも含めて、あらためて取り組まなければと考えています。お読みください。

 

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はじめに

本特集でこれまで示されているような自治体臨時・非常勤職員(以下、非正規公務員)をめぐる深刻な問題に対して、正規職員で構成された労働組合(職員団体)はどのような取り組みをしているのか、というのが本稿の問題意識である。

取り組みには、処遇の改善(雇い止めの阻止など現状維持を含む)があげられるが、その実現のためには労働組合への組織化が不可欠である。組織化とは、正職員組合への組織化と、非正規職員独自の組合結成への支援があげられる。

今回、本稿を書くにあたって、自治体の二大産業別労組、すなわち、全日本自治団体労働組合(略称、自治労。組合員数は約81万人)と日本自治体労働組合総連合(略称、自治労連。同15万人)の担当役員から話を聞き資料提供を受けた[1]。本稿では、この問題への労組の取り組み状況を自治労データで整理した上で、自治労連で紹介された実践を取り上げたい[2]。補足資料として、自治労北海道本部加盟の単組の協力を得て筆者がこの間行ってきた調査の結果も使用する[3]

なお、日本で言う産別組合は、1でみる企業別組合の連合体であり、企業の枠を超えて横断的に組織される欧米のそれとは異なる。産別本部-県本部-各単組という構図になっているが、財源も権限も単組に集中している。

 

 

1.非正規雇用問題と日本の企業別労働組合

1970年代に1200万人を超えた日本の労働組合員数は、その後は横ばいで、1990年代前半をピークに減少に転じた。戦後の一時期に50%を超えた組織率は減少し続けて17%台にまで落ち込んでいる。パートタイム労働者の組織化が進んでいる(組合員数120万8千人、推定組織率7.9%)とは言うものの、全労働組合員数に占める割合は12.2%にとどまる(数値は、厚生労働省「2017年労働組合基礎調査」より)。

企業を単位に、正規雇用者を中心に当該企業に雇われた労働者で組織される企業別組合という日本の労働組合の特徴は、終身雇用・年功賃金と並ぶ日本的経営の「三種の神器」として評価され、新技術の導入や柔軟な人員配置などに労使が一体となって取り組み日本の高い経営パフォーマンスを支える要素となったが、一方で、とくに低成長時代あるいは企業経営の困難時においては、労働市場の規制力は発揮できず、労働者の権利保護の観点も後景に退かせた。

本特集テーマと重なる雇用の非正規化についても、使用者側による労務政策が起点となっている一方で、他方では、積極的か消極的かの幅はあるものの、労働組合による何らかの「容認」があって成立している。男性が主たる稼ぎ主で女性は被扶養者である、という性別役割分業に基づく生活保障のあり方が、女性がその多くを占めた非正規雇用者を組合の組織対象から外すことを等閑視させた。その惰性のためか、規約上、非正規雇用者の加入をいまなお認めていない労働組合は多い[4]。大手・公務職場に偏在する労組が、深刻な雇用格差問題にどう対峙するか、労組は職場の全ての構成員を代表しているのかが問われて久しい[5]。職場の不条理と闘う姿勢の構築、企業別組合主義からの脱却と新組織戦略の確立などは、今なお労組の克服課題であり続けている。

 

図表1 「労働組合基礎調査」にみる自治労及び自治労連の組合員数の推移

出所:厚生労働省「労働組合基礎調査」各年版より作成。

 

以上をふまえて、あらかじめ概観すると、自治体の労働組合は、非正規公務員に関する新しい制度(会計年度任用職員制度)の導入を視野に入れ、非正規公務員へのアプローチをこれまで以上に強めており、一定の成果も得られている。しかしながら、組合が立てた大目標にははるか及ばず、そもそも正職員組合員も減少を続けている(図表1)、と整理できるのではないか。国主導の地方行革──ピーク時(1994年)からの54万人・16%もの地方公務員の定数削減・公務リストラや、新規入職者の組織化に追いつかぬほどの組合員の定年退職が、その背景としてあげられる。

 

 

2.自治体労組の非正規組織化の取り組みの全体状況

(1)「壁」を壊す──単組における豊かな組織化・処遇改善実践

公務員には労働基本権の制約という、組合活動を進める上での不利がある。また税金を原資とすることから生ずる制約・住民の監視のもとに置かれ、費用負担増を伴う処遇改善には議会の同意を必要とするというのも民間の労使関係と異なる点である。そのなかにあっても、処遇改善とセットで組織化は進められてきた[6]。公務労働の非正規化は、非正規公務員化と(アウトソーシングによる)公務員の民間化という二方向で進められているが、自治労も自治労連も現在、両者すなわち公共サービスの担い手全体の組織化を方針としている。

数々の成果も生まれている。自治労加盟単組から一例をあげると(参考文献を参照)、「荒川区方式」として知られることになった非正規職員の処遇改善例では、「主任非常勤職員」「総括非常勤職員」など職層を新たに設けて、不十分ながらも昇給を可能にしたほか、休暇制度の大幅な拡充が図られることになったが、2007年に導入されたこの制度は、正職員労組と非正規職員労組とが共同で実現したものだ。あるいは、2007年11月にほぼ全員で組合を結成した町田市図書館嘱託員(同市では嘱託員と呼称)労働組合の事例では、当事者の主体的な取り組みによって、報酬引き上げと各種の休暇制度の獲得などを実現した。しかもその成果は、図書館嘱託員に限定されず、町田市で働く全ての嘱託員に適用されている。さらに同労組では嘱託員の業務マネジメントのために主任嘱託員制度の導入を図るなど働きやすい職場作りにも積極的な関与をしている。

なお、組織化と結びつけられたこうしたすぐれた実践報告では、賃金・労働条件の改善にとどまらず、正規と非正規の「壁」が壊されたこと、端的に言えば、職場の風通しがよくなった効果についても言及されている。それは筆者の調査結果とも符合する。

 

(2)全体的には低調で単組間で温度差がある組織化状況、非正規問題への対応

しかしながら、総務省調査(2016年4月1日時点)でも64万人に及ぶとされる非正規公務員全体へのアプローチはどうか、となると労組の実績は厳しい。自治労の資料・データ(2018年5月に開催された中央委員会で配布)でそのことを確認してみよう。未回答単組もあるとはいえ、おおよその傾向が示されており貴重な情報である。

自治労は、組織率が低下したとはいえ、2017年1月時点で全国各地に2708単組、約81万人の組合員を擁し、(正職員の)組織率は7割程度を維持している。しかしながら、非正規労働者の組合員は3万7千人にとどまる(以上は、自治労ウェブサイト、川本(2016)による)。

こうした状況をうけて自治労は、2015年8月の第88回定期大会で「第4次組織強化・拡大のための推進計画」を決定した。同計画における三つの最重点課題のうちの一つに位置づけられたのが「公共サービスを担う非正規労働者10万人組織化」であり、この組織化では、自治労加盟組合のある自治体で働く非正規労働者の20%以上の組織化が掲げられた。

自治労は従来も非正規労働者の組織化に取り組んではきたが、重点単組に指定された組合だけの取り組みになっていたのを、この組織化では全ての単組が実施主体と位置づけられたのが特徴である。組織化計画が2015年10月には策定され、非正規労働者の急増の一方で組織化が遅れていること、組織化に関する意識の共有が重要であること、処遇改善や雇い止めの問題と組織化を結びつけていくことが確認され、2015年9月~2019年8月の4年間を取り組み期間とすることが決まった。取り組み期間は三つのステージ、 すなわち、 第1 ステージ(2015年9月~16年3月)、第2ステージ(16年4月~17年12月)、第3ステージ(18年1月~19年8月)に分けられる。

第1ステージからとくに力を入れているのは、非正規組織化の意義を各単組に伝えて、単組役員や正職員組合員の意識改革を図ることであった。本調査実施時点では、28県本部で全単組に向けたオルグが実施済みで、「現在実施中」も含めるとその数は41県本部となった。

聞き取りによれば、組織化とあわせて非正規問題の改善を春闘期のトップ課題に据えて、各単組で意識してもらえるようにしたこと、また各県本部に対しては、公共民間労働者を含む組織化計画の提出とその到達状況についての総括も求めているほか、労働条件担当と組織化担当の連携を促している(組織化と処遇改善を連動させた取り組みを意識させている)ことが語られた。

組織化第3ステージに入った現時点での到達状況をみると、第一に、この期間内に新たに組織された組合員数は、目標である10万人にははるか届かないとはいえ、1万260人に達した。第1~2ステージで9716人、第3ステージ(2018年4月まで)で544人である。県本部ごとにみると、東京都の1674人を筆頭に、5県本部(「社保労連」を含む)で500人以上が新たに組織されている。当該地域における正職員組合の組織化状況も反映されているだろうが、聞き取りによれば、「臨時・非常勤等職員協議会」が設置されている15の県本部では、組織化の意義や効果などが理解されており、すでに組織された非正規職員当事者の意識も高く、また、そのことによって情報発信など諸活動が進められるなどの効果・好循環がみられる。現在はまだ15県本部である拠点をさらに拡大して全国的なネットワークを構築することが課題である、とのことであった。

 

図表2 自治労加盟各単組の2018春闘における臨時・非常勤等職員及び会計年度任用職員制度に関する要求・交渉等の状況

注:A、B それぞれについて具体的な要求項目や前進回答の有無なども把握されているが、後者の一部(B-2)を除き割愛。

出所:2018春闘に関する自治労提供資料より作成。

 

第二に、春闘要求に関わって、臨時・非常勤等職員の労働条件の改善を提出した単組が43%、労使交渉を実施した単組が29%である(図表2のA)。「事務組合広域連合」や「公共民間等」を除くとその値はさらに高くなる。また、会計年度任用職員に関わる要求書提出も全体で51%、労使交渉を実施したのも全体の3分の1強(36%)を占める(同B-1)。

もっとも第三に、要求項目に関わって前進回答を得られたという単組が必ずしも多くないことは自治体との交渉ごとである以上やむを得ないこととしても、労働組合側の主体的な姿勢に関わること、すなわち、会計年度任用職員制度に関わる組織拡大の取り組みで、「執行委員会で組合加入に向けて取り組むことを決定した」単組は222単組(13%)、「当事者に対して組合加入を呼び掛けている」のは195単組(12%)にそれぞれとどまるのは気がかりである。そもそも、「現在の単組規約は臨時・非常勤等職員を組合の加入対象としている」のは340単組(20%)にとどまる(同B-2)。

こうした状況を自治労本部では、県本部の理解は進む一方で、単組段階では「取り組みの温度差が見受けられ、全体としては極めて低調な結果となった」とまとめ、その背景は、「依然として臨時・非常勤等職員が職場の「仲間」であるという意識が低いこと、業務過多や人員不足による負担増など余裕がないこと、組合活動全体の低調化など、厳しい現状がこれらの一因」と厳しく総括されている。

あわせて、聞き取りでは、組合に加入して現状を変えることができるという発想がそもそも非正規職員にはなく、労働組合の意義を伝え切れていないことなども課題としてあげられた。上からの指導によるのでなく、ボトムアップ型の運動をつくるためにも、決定権をもつ各単組に対して、県本部からの働きかけが今後重要になるとのことである。

 

(3)自治労連の非正規組織化状況

自治労連(「非正規雇用・公務公共関係評議会」)も同様の課題を抱える。

正職員の利害を中心に組合運営を図る、いわゆる本工主義からの脱皮を2003年定期大会で宣言した自治労連では、2008年定期大会で非正規労働者の10万人組織化を目標に掲げて運動を展開し、今般の会計年度任用職員制度の導入に対しても2017年定期大会で「力を合わせ、なくそう雇用格差!築こう充実した公務公共職場!(略称、正規・非正規つなぐアクション)」(期間は2017年8月~2020年8月)を提起して取り組みを進めている。

しかしながら、ピーク時には400単組で2万5千人にまで膨らんだ非正規労働者の組合員数は、現在は2万人(臨時・非常勤職員1万5千人、公共民間労働者5千人)にまで落ち込んでいる。組合員の退職・組織の消滅に拡大のスピードが追いつかず、また、取り組みにはやはり単組間で温度差があり、全く手つかずの単組もある、とのことだった。

組織化意欲の高い産別労組本部に対して、現実主義的な対応を取らざるを得ない単組との間の「熱意」の差を埋める作業は、民間の労働組合にも共通する課題である。

 

 

3.先駆的な組織化事例の報告

(1)組織化・組合活性化戦略の模索

組織化の取り組み状況が「可視化」されたこと(自治労データ)は意義深く、今後は、取り組みが思うように広がらない理由の検証も重要な調査・研究テーマになるだろう。

ところで、正職員組合からの働きかけ・支援は引き続く重要課題であることを前提にした上で、例えば、東(2015)で紹介された、行政区を越えて(仕事を軸に)組織された職種別ユニオンの経験など、非正規職員の組織化、組合の活性化戦略が様々に模索されている。以下で示すのは、新奇性には欠けるかもしれないが、産別組合の機能を強化して自治体間の労働条件の標準化を図る意義や、仕事を軸にした組合の結集の可能性を示唆する事例である。調査結果の一部を紹介する。

 

(2)自治体を越えた労働市場規制の事例──大阪府衛星都市職員組合連合会(略称、衛都連)の取り組み

衛都連は、戦後の急速な労働組合結成ブームの下、大阪府下の自治体職員組合の大同団結を目指し1946年に8市で結成。その後加盟組合は順次拡大し、衛都連の中で1980年代に結成された、パート保母・ヘルパー・学童保育指導員といった3つの非正規職員職種の連絡会を基礎に「大阪自治労連関連評議会(大阪関連評)」が設立され、ここに、大阪府庁と大阪市の「非正規公共労組」も加入して全大阪的な非正規職員の闘いの基礎組織ができあがった。大阪関連評にはピーク時(2001年)で、27自治体・103単組・3600人の非正規職員が加盟していた。

関連評議会の構成団体である職種別連絡会で月1回開催される幹事会での、自治体間の労働条件格差などの情報交流を基礎に、毎年の団体交渉にのぞむ。正規職員労組と共同で行う各自治体との団交では、非正規職員関連項目については大阪関連評が中心となって重点要求を確定し、設定された一斉要求書提出日(ゾーン)に要求書を提出する。賃金確定期である秋季闘争期には4回の交渉のうち、第2回目の交渉を非正規職員の要求の一斉交渉日として設定し、重点要求を追及する。非正規関連の要求だけで交渉を行うことが要点である。この日は、関連評選出の執行委員は深夜まで各単組を巡回し、激励と情報収集・発信でブロック内単組の「横並び」の成果獲得・「到達闘争」につとめた。

実績の一例をあげると、支給水準は様々であるが、加盟自治体の5割以上の自治体で非常勤職員に一時金が支給されている。一時金の支給が「違法支出」という裁判判例が出てもなお、3自治体では、条例化して非常勤職員に一時金を支給している。これも、非正規にも一時金支給を、という正論に基づき横並びの統一方針で闘ってきた成果であると組合では考えている。但し近年では、自治体の財政事情の差や労組役員の継承の困難による力量の差、大阪維新の会による政治的影響力などを背景に、横断的な規制力が低下してきており、その回復が課題とのことである。

 

(3)職種を軸にした高い組織率で処遇改善に取り組む事例──広島市の嘱託労組の取り組み

正職員と1200名を超える嘱託職員とで運動に取り組んでいる「広島市嘱託労働組合連絡会」は、5つの単組で構成されており、とくに、広島市留守家庭子ども会指導員〔放課後児童クラブ指導員〕労働組合は8割、広島市児童館指導員労働組合は9割超の組織率を誇る主力部隊である。

組織化の経緯は、同じ広島市で働く臨時・嘱託職員の待遇改善を正規職員組合が求めるなかで、正規職員がおらず臨時・嘱託職員のみの職場であった留守家庭子ども会や児童館、家庭奉仕員[ヘルパー]は、独立した労組を結成。1973年に留守家庭、1974年に児童館、家庭奉仕員による組合が結成され、2009年に消費生活相談員を中心に広島市嘱託職員労組が結成され、現在に至る。ほかに、臨時職員や指定管理者施設で働く関係団体職員の組合も組織されている。

団体交渉は2ルートで行われ、各単組では、当該職種の所管課の課長との交渉を行う。予算措置を伴う要求についても、まずは所管課との交渉が不可欠である。職種ごとに組織された単組では、執行委員会や集会・学習会、アンケート活動を機動的に行いながら、細やかに要求の取りまとめが行われている。もう一つの交渉ルート、すなわち、人事部長・給与課長を相手とした統一交渉では、賃金・休暇・福利厚生など、すべての嘱託職員の要求実現を目指した交渉が行われている。統一交渉の時期は6月と11月で、「正規職員との均等待遇」が基本要求である。報酬の改定、「増額報酬(一時金)」の支給のほか、休暇制度の改善などをこの間実現している。仕事を軸にした結集・交渉・活動と、組織力を背景とした交渉・活動で処遇改善の実績をあげている、とのことである。

なお、子どもの発達を守るため、保護者・市民との共闘組織を設け、広島市への要望などを定期的に行い、公設公営の学童保育の無料の堅持、公立保育園の民営化阻止という成果があげられている点は、公共サービスの質を守るための、サービス提供者と受益者との共同行動として、示唆に富んでいる。

 

 

4.まとめに代えて

雇用、生活を守る手段としての労働組合という発想が人々から遠くなって久しいが、労働組合が不要とみなされているわけではない。厚生労働省「2014年労使コミュニケーション調査」によれば、パートタイム労働者に限っても、労組を必要という回答(「是非必要」15.9%、「どちらかといえば必要」24.6%)が「必要でない」の合計(17.0%)を上回り、「どちらともいえない」が多数であり、また、労組のある職場では、必要という回答が圧倒的に多い(各45.3%、37.1%)。労働組合に対する未組織非正規労働者の評価は可変的であると理解するのが自然だろう。

もちろん、労働組合を必要とするのと実際に組合費を支払って自分が組合に加入するかどうかは、同視できない。しかし、労組加入の意思を尋ねた筆者による非正規公務員調査(2自治体)によれば、「現時点ではわからない」と判断を保留する層が最多(4~5割)であったとはいえ、加入する意思はないと明言する回答は全体の4分の1程度にとどまった。組合の効果を直接的に得ているわけではないこの段階でも、前向きな反応を示す者(「ぜひ加入したい」と「話だけでも聞いてみたい」の計)が2~3割も存在することは積極的に受け止めるべきではないか。同じく筆者調査(4自治体)で、「今の職場で働き続けること」を希望する者が、6割弱から3分の2と多数だった(残りは「とくに希望しない」「わからない」)という事実も、労働組合への非正規公務員の結集の可能性を示唆する。

行財政改革・公務リストラ圧力下で切り離されていく労働者を労組に「包摂」することは、容易な作業ではなかろう。しかしながら、正職員と非正規職員の間の処遇や組織率の巨大な格差を前にすると、自治体労働組合が戦後に擁護してきた憲法に規定された諸権利や価値は、自らの足下の公務職場においてこそ、実現が急がれるべきではないかと思えてならない。

 

 

【参考文献】

東洋志(2015)「産業別個人加盟ユニオンの到達と課題──自治労連の実践から」『労働総研クォータリー』第99号(2015年夏季号)所収

川本淳(2016)「(インタビュー)非正規の待遇どう改善するか 非正規10万人の組織化目指す 正規職員の意識改革が必要」『日経グローカル』第293号(2016年6月6日号)所収

川村雅則(2018)「無期雇用転換運動と公共部門における規範性の回復運動で、貧困をなくし雇用安定社会の実現を」『月刊全労連』第257号(2018年7月号)所収

熊沢誠(2013)「(新春インタビュー)変革期を迎えた自治体労働組合:変えるべきものはなにか、守るべきものはなにか」『月刊自治研』第640号(2013年1月号)所収

熊沢誠(2013)『労働組合運動とはなにか──絆のある働き方をもとめて』岩波書店

斎藤力(2006)「公務員労働組合の組織拡大──非常勤職員の組織化をめぐるとりくみ」鈴木玲・早川征一郞編著『労働組合の組織拡大戦略』御茶の水書房所収

白石孝(2008)「荒川区における非常勤制度改革」『月刊自治研』第591号(2008年12月号)所収

中村圭介(2009)『壁を壊す』第一書林

野角裕美子(2015)「公共サービスを担うすべての非正規労働者の組織化をめざす」『季刊労働者の権利』第312号(2015年10月号)所収

野角裕美子(2017)「自治労「非正規労働者10万人組織化」の意義と取り組み」『北海道自治研究』第578号(2017年3月号)所収

早川征一郞、松尾孝一(2012)『国・地方自治体の非正規職員』旬報社

松尾泰宏(2015)「公務労働の非正規化・民間化、自治体業務のアウトソーシングに対する自治労連の取組み」『季刊労働者の権利』第312号(2015年10月号)所収

 

 

【注】

[1] 調査は、自治労、自治労連関係者が執筆した論文などを読んだ上で、組合事務所を訪問して担当者から話を聞いた。また書き上げた本稿の内容確認をしていただいた。もちろん、執筆内容の責任は筆者にある。

[2] 非正規問題に関する両者の取り組みは、野角(2015)、 松尾(2015) のほか、 早川・松尾(2012)の第5章「地方自治体の臨時・非常勤職員をめぐる政策動向と労使関係、労働組合運動」を参照。

[3] 政令市や中核市を含む6つの自治体で行った調査・研究成果や、筆者が主査をつとめる公益社団法人北海道地方自治研究所非正規公務労働問題研究会の研究成果は、筆者研究室や研究会のウェブサイトを参照。

[4] 厚生労働省「2016年 労働組合活動等に関する実態調査」によれば、事業所に正社員以外の労働者がいる労働組合で「組合加入資格がない」のは、パートタイム労働者67.7%、有期契約労働者64.4%、派遣労働者88.9%、嘱託労働者69.3%である。

[5] 連合評価委員会「連合評価委員会最終報告」2003年9月12日。

[6] 北海道においても、函館市の嘱託臨時職員労働組合(1976年結成。2013年に公共サービス民間労組に改組)、帯広市嘱託職員労働組合(1983年結成)、釧路市児童厚生員ユニオン(2002年結成)など自治労加盟単組から聞き取りを行い、結果をまとめているので参照されたい。

 

 

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