雑誌『ひろばユニオン』第690号(2019年8月号)に掲載された山下弘之さんNPO法人官製ワーキングプア研究会理事)のインタビュー記事(シリーズ・起つ人⑰)です。非正規公務員制度をめぐる問題が分かりやすくコンパクトにまとめられています。お読みください。

 

自治体で非常勤や臨時などで働く「非正規公務員」。「官製ワーキングプア」とも呼ばれるその実態はどうなっているのか。研究会で調査・相談活動などに取り組む山下弘之さんに聞いた。

 

 

なぜ増えた 非正規公務員

 

────「安定・高給」のイメージが強い公務員ですが、その公務職場で大量の「官製ワーキングプア」が生み出されていることはあまり知られていません。公務員なのにワーキングプア・・・どういうことでしょう?

 

民間企業のパートタイマーや契約社員のように、自治体職場にも有期雇用で正規職員より低い賃金で働く臨時職員や非常勤職員がいます。とくに多いのは保育士や学童指導員、給食調理員、図書館職員など、暮らしに身近なところで市民サービスを支えている部門ですが、利用者である市民の皆さんはだれが正規でだれが臨時・非常勤かなんて、いちいち考えません。やっている仕事は正規職員とほとんど同じですが、その賃金は平均で時給988円(自治労16年調査)。1日8時間、1日も休まずに働いても年収200万円前後です。こうした労働者が今や自治体職員の3人に1人を占めている状況にあるのです。

 

────低賃金の非正規公務員がなぜそんなに増えたのでしょうか。

 

自治体の厳しい財政事情と、業務の拡大が大きな理由です。国からの地方交付税が減らされて財政が厳しさを増す一方、少子高齢化などにともなって福祉サービスなどの業務は増えています。限られた予算で働き手を確保しなければならず、こうしたなかで非正規公務員が増えていったのです。

 

市民サービスに影響も

 

────非正規公務員が増えることで、市民サーピスになにか影響があるのですか。

 

たとえば災害対応で学校が避難所となった場合、備蓄や備品の状況を把握しているのはその学校の用務員ですが、先の自治労調査では学校用務員の57%、2人に1人以上が有期の臨時・非常勤です。いざというときの災害対応のノウハウが蓄積・継承されておらず、実際、水害に見舞われた一部の自治体では「現場で対応できる職員がほとんどいなかった」とする実態が報告されています。市民の命と安全に関わる問題です。

 

────「官(公)から民」という流れのなかで、公共サーピスの民間委託が加速しています。

 

ごみ収集や図書館運営などの住民サービスを民間企業に「丸投げ」するものですが、こうした公共民間サービスに携わる人々の労働条件はきわめて低く、これも役所が生み出しているワーキングプアと言えます。

一部の自治体では受託企業が不採算を理由に撤退し、公務サービスが消えてしまうという事態も起きています。こうした「公務の切り売り」は住民サービスの専門性やノウハウの喪失につながり、地域にとっても大きな損失です。

 

「命の格差」も?

 

────仕事は同じなのに賃金に差があることほど、働き手にとって理不尽なことはありません。

臨時・非常勤職員には基本的に昇給がないので、何年働いても賃金が上がりません。勤続を重ねるほど格差は開き、勤続2年未満では正規職貝の年収の約半分、7~10年未満では4割弱、全体平均では正規職員の賃金の3割弱です。それに有期とは名ばかりで、実際には10年以上も契約を更新して働いている人が少なくありませんが、更新のたびに経験年数はリセットされ、勤続10年以上でも初任者と同じ賃金です。

賃金だけでなく、正規職貝にはある一時金・退職金、諸手当も多くの場合、支給されません。休暇制度についても、夏季休暇や育児休暇はほぼ半数がありませんし、忌引き休暇すらないところも少なくありません。

しかも、臨時・非常勤職員は民間とちがって労働契約法やパート労働法などが適用されず、保護法制の谷間に置かれています。非正規雇用の状態で何年使用しても無期雇用への転換を義務づけられることもなく、また、合理的な説明のつかない格差を埋める義務もありません。このことが問題の解決を難しくしています。

 

────労災申請をめぐる「格差 」も問題となっています。北九州市で働いていた非常勤職員の過労自殺をめぐり、遺族が公務災害を申請したところ、市は「非常勤職員に労災申請をする権利はない」として門前払いとしました。現在、裁判となっています。

 

正規職員は地方公務員災害補償法(地公災法)にもとづいて公務災害を申請することができ、非常勤職員も、ごみ収集や学校給食などの現業部門であれば民間と同様に労働者災害補償保険法が適用されます。他方、事務部門などの臨時・非常勤職員の公務災害申請については地公災法にもとづき自治体の条例で定められていますが、条例・規則に被災者や遺族が申請できるような規定がなかったことで北九州市の事案を招きました。

私が理事を務める官製ワーキングプア研究会が昨年5月、全国165自治体に臨時・非常勤職員の公務災害申請への対応をたずねたところ、92自治体のうち15自治体が本人や遺族から「申請できない」としており、ほとんどの自治体が条例で手続きを明文化していない実態が判明しました。雇用形態による「命の格差」など、あってはならないことです。

 

公務員バッシングをこえて

 

────「同一労働同一賃金」の動きが活発化するなか、自治体職場でも来年4月から「会計年度任用職員 」という新しい制度が始まります。「非常勤職員にもポーナスが支給される」と注目されていますが・・・。

 

これまで自治体で採用も処遇もばらばらだった臨時・非常勤職員について、これを1年任期の「会計年度任用職員」として法律に明記し、支給する賃金や手当について規定したものです。正規職貝と同じ勤務時間の「フルタイム職貝」と、正規より時間が短い「パートタイム職員」の2つがありますが、フルタイムには期末手当(ボーナス)をはじめ正規と同様の諸手当の支給が可能となり、パートタイムにも期末手当を支給できます。

一歩前進ですが課題も多く、最大の問題は、法律に任期1年と規定されたことで雇い止めが多発しかねないことです。処遇改善といっても雇用を切られてしまっては元も子もありません。労働組合が厳しく監視しないと、この制度は「官製ワーキングプアの合法化」となりかねません。雇い止め防止の条例・規則や労働協約づくりの取り組みが強く求められるところです。

 

────官製ワーキングプア研究会が発足して8年、どのような取り組みを?

 

一言で言えば、まだ十分に知られていない非正規公務員の実態を「見える化」することです。集会やシンポジウム開催、調査活動、政策提言、さらには相談活動など、粘り強く取り組んでいます。同じ労働者として、一人でも多くの人に関心を持ってほしいと思います。

 

────公務員バッシングがいまも根強くあります。どう感じますか。

 

「税金で食っているのだから、少しくらいの理不尽は当然だ」、そんな意識から来ているのではないでしょうか。公務職場の無権利労働の拡大は、結果として市民サービスの劣化となって返ってくることを知ってほしい。ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の追求は官民共通の課題であり、正規も非正規もない、ということです。

 

 

(参考資料)

「命の重さも違うんですか」『NHK生活情報ブログ』2019年05月28日 (火)

 

(関連記事)

瀬山紀子「非正規公務員の現場で起きていること—働き手の視点から—」

千葉伸次「会計年度任用職員、取り組む処遇改善」

反貧困ネット北海道学習会「「なくそう!官製ワーキングプア」運動に学ぶ」

安田真幸「非正規公務員に無期転換を!均等待遇を!労働基本権を!」

山下弘之「会計年度任用職員制度新設と自治体における課題」

 

 

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