田中綾と学生たち「学生アルバイト短歌2021(1学期編)」

北海学園大学人文学部1部「人文学演習A(田中綾担当)」を受講した、2年生18名による作品です。授業の最後には、合同歌集『歌面舞踏会』も刊行しました。

コロナ禍のただ中でしたが、ドラッグアストアやスーパーではむしろシフト増(!)だったそうです。現2年生は入学時からオンライン授業が多く、学内よりも、バイト先での交友関係のほうが濃厚、という話も耳にしました。少々切ないですが、前向きで観察眼豊かな短歌のかずかず、どうぞご高覧ください。

※短歌中の【 】はルビです。

 

 

 

【アルバイトの現場】

1・天井のカメラで監視 スタッフが話してないか止まってないか    W・Y

(カラオケ店/過去)

2・「バイト募集」常にしているこのバイト そこには一体どんな事情が  W・Y

(カラオケ店/過去)

3・「いつもの」となんのことだかわからないとりあえずブレンドアメリカンかーい O・Y

(喫茶店/過去)

4・「レジ袋はご利用ですか?」「持ってます」いるかいらないかで答えろや!  O・Y

(ドラッグストア/現在)

5・誕生日一年に一度のはずなのにバイトに行けば毎日がサプライズ  M・H

(イタリアンキッチン/現在)

6・やすらぎとともにまどろむひるさがり着信音にため息一つ  K・S

(パン屋/過去)

7・かじかむ手オーブンに救われる朝 でもほんとは家にいたい  K・S

(パン屋/過去)

8・先に入った年下、後に入った年上。敬語かタメ口か。  S・S

(パン屋/現在)

9・だるさと給料を天秤にかけ今日も靴底を減らす 出勤  K・M

(寿司屋/過去)

10・新商品出るタイミングと金曜日被った時には行列確定   K・Y

(ドーナツ店/現在)

11・売り上げと共に上がるは店長の機嫌よければ賄い特盛   A・M

(某中華料理チェーン店/過去)

12・「キウイフルーツはいかがでしょうか?」まるでマッチ売りの少女だな  A・M

(果物の推奨販売/現在)

13・ふと気づくいつものようにあと4つ緑の香りアイコスメンソール  A・N

(スーパー/現在)

14・ラストまで先輩いないか期待する無料のご褒美廃棄菓子パン  A・N

(スーパー/現在)

15・菓子棚に客が戻した冷蔵品見逃されてる営業妨害    A・W

(スーパー/現在)

16・「申し訳ございません」の呪文も虚しく理不尽客【モンスター】にひれ伏す私 A・W

(スーパー/現在)

17・4月早朝昇る陽光飛ばすサイクル襲う寒風漏れる「さっっっっむ」  U・S

(スーパー/過去)

18・労働とは 私の時間と労力を、紙切れに変換すること。  K・M

(塾/現在)

19・「先生!」 私の心に関わらず、生徒は今日も元気だなあ…  S・S

(塾/現在)

20・わからんぞ困り顔して悩んでる 助け舟だす先生の我   I・S

(個別塾/現在)

21・息をのむこれは難問むむむむむ これはまずいぞ冷や汗たらり  I・S

(個別塾/現在)

22・たんとんたん 軽快にキーを叩いてく 今じゃ家でもバイトができる  K・H

(在宅ワーク・データ入力など/現在)

 

【〈労働〉全般について】

23・世の中にある人、錬金術師なれば、同一性を、差し出せるなり。  S・M

 

24・歯車になるっていう気分はどうだい? 僕は君が怖いよ、かがみ  S・M

 

25・ツイッターで見るブラック会社と労基法 その乖離の激しさ   I・M

 

26・誰がため君のため人のために動くぼくを労わってくれないか   K・N

 

 

 

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