佐藤陵一「清掃労働者の賃金・労働条件──札幌市の「履行検査」に対する受託企業の「報告書」より」(2014年1月発行)

NPO法人労働相談・組合づくりセンター理事長の佐藤陵一氏によってまとめられた調査報告書です(2014年1月発行)。札幌市の「履行検査」に対する受託企業の「報告書」から浮かび上がる現実が整理されています。新年度の労務単価(925円〔当時〕)と清掃員賃金(734円の最賃水準〔当時〕) との間には、日額191円、月額32,088円の著しいかい離が生まれ、年間では給与の3ヶ月分にもなります。公共清掃は税金で行われています。札幌市は積算単価にもとづき「賃上げする企業」と委託契約をすべきである──佐藤氏による問題提起です。

 

 

はじめに

 

官製ワーキングプア(働く貧困層)防止の第一歩となるはずだった、札幌市の建設工事、保全業務、指定管理等で働く労働者の賃金底上げを目的とする札幌市公契約条例案が2013年11月1日、市議会で否決されました。市議会の議論は「生煮え状態」[1]のまま、混迷を極め、「資本」の論理が優先し、「条例による貧困対策の道はついえた。だが現場には低賃金に苦しむ労働者が確実にいる」[2]という現実が残されました。

小論は、官製ワーキングプア対策の緊急性は「何ら変わりがない」という認識から、あらためて「公契約」(清掃業務の委託)における「積算」と「仕様書と履行確認」のあり方およびビルメンテナス企業など受託企業の「対応の実際」の双方向から接近し、清掃労働者が強いられている低賃金構造を明らかにし、札幌市と受託企業・業界に対して賃上げを求めています。

検証対象は、〔表1〕の本庁舎、10区役所・区民センターの清掃業務[3]と受託企業が札幌市に提出している「報告書」です。なお、2区民センターは指定管理者が管理業務を受託し、清掃業務は再委託され、本庁舎8-19階は公益社団法人・札幌母子寡婦福祉連合会が随意契約で受託しており、両者は今回の検証から外れています。対象を絞っているのは、筆者の主体的力量とともに、他の公共施設の仕組みも基本的に同様との認識にあることによります。

 

〔表1〕 本庁舎、10区役所・区民センターの清掃業務の受託企業と契約額
(企業名、契約額は市のHPの公開情報。契約管理課、各区の資料による)

業務範囲 2013年度受託企業 契約金額(円)
(消費税込))
備考
本庁 地下2-1階 東邦リライアンス(株) 2,635,500 ※1
キョウワプロティク(株) 月450,000 ※2
2-4階 キョウワプロティク(株) 2,445,975 ※1
(株〕セントラルサービス 月395,000 ※2
5-7階 東邦リライアンス(株) 2,635,500 ※1
(株〕セントラルサービス 月395,000 ※2
8-19階 (社)札幌母子寡婦福祉連合会 49,045,500 随意契約
中央 区役所 北洋ビル管理(株) 6,678,000 ※3
区民センター 指定管理者 清掃再委託
西 区役所 (株)シムス 6,510,000 ※3
区民センター 三城美装(株) 7,358,085 ※3
清田 区役所 ホクビサービス(株) 1,4502,600 ※3
区民センター 指定管理者 清掃再委託
厚別 区役所 ライラック興業(株) 15,120,000 ※3
区民センター
白石 区役所 (株)和幸 11,644,000 ※3
区民センター
区役所 (有)五十嵐美装興業 7,686,000 ※3
区民センター 道東急ビルマネジメント(株) 7,104,300 ※3
区役所 (株)拓研 11,778,000 ※3
区民センター
区役所 日本クリーン北海道(株) 12,675,600 ※3
区民センター
豊平 区役所 北陽ビルサービス(株) 16,392,000 ※3
区民センター
手稲 区役所 (株)特殊衣料 13,314,000 ※3
区民センター

※1 2013.4.1~9.30まで随意契約。
※2 2013.10.1~2016.9.31の「3年契約」。
※3 各区役所、区民センターは2013.4.1~2014.3.31までの「単年度契約」。

 

市は「履行検査」のために報告書[4]を求めている

 

公共施設清掃等の受託企業は、2013年4月1日以降に役務提供される契約から、契約後、直ちに契約金額に対する積算根拠(=積算内訳)として、❶「業務費内訳書」(様式1-1)、❷「従事者賃金支給計画書」 (様式1-2)および➌「社会保険事業主負担分調書」(様式1-3)を提出しています。また、業務の開始日までに「従事者名簿」(様式2)と➍「従事者配置計画書」(様式1-4)を提出しています。

なお、従事者の「健康診断受診状況報告書」(様式3)は、契約期間中の提出です。

受託企業がこれら報告書を提出している根拠は、札幌市が「役務契約」に対し、「低入札価格調査制度」[5]と「最低制限価格制度」[6]を適用していることによります。すなわち、予定価格の範囲内の最低価格で落札した企業が「契約内容に適合した履行ができないおそれがあると認めるか、否か」について「履行検査」を行い、落札者としないことがあるという制度です。道ビルメンテナス協会の要望にある「不良業者」を排除し、清掃業務の品質確保を図っているといえます。

この「履行検査」は、あくまでも「低入札価格調査制度」による検査ですが、さらに一歩すすめて「適正」労働条件についても、「品質」を担保する基底的な要因と位置づけることが可能です。公契約条例はこうした内容と税の「適正」執行を図るという理念にもとづくものでした。

小論は、札幌市の「低入札価格調査制度」を踏まえ、2013年度に受託企業が提出している❶、❷、➌、➍の報告書の「開示」を求め、記載内容について労働者ヒアリング等を踏まえながら検証作業を行っているという経緯にあります。

 

積算が「支給計画」を上回っているのかをチェック

 

最初に、報告書では「何がどう報告されているのか」、その事実を整理し、リアルに認識します。

 

(1)「業務費内訳書」は、受託企業が契約金額(消費税抜き)の範囲で「きちんと仕事ができます」という積算根拠ですが、大きくは、①直接業務費、②業務管理費、③一般管理費に分けられています。

札幌市は国土交通省の「建築保全業務積算要領」にもとづいて構成比率を「直接人件費+直接物品費(直接人件費の4~6%)を『直接業務費』とし、これに6~10%の『業務管理費』を加えたものが『業務原価』となり、さらに一般管理費(法定福利費など)として20~25%を加算したもの」と説明し、これが予定価格になると説明しています。

賃金という視点からは、直接業務費のうち、「直接人件費その1」が重要です。これは清掃業務で日常的に働いている労働者の賃金合計[7]です。この記載金額が、後述する「従事者賃金支給計画書」の合計額以上となっていなければ、「合理的な根拠による積算をしていない」とされ、ダンピングとして失格理由となります。

「直接人件費その1 ≧  様式1-2(業務従事者賃金支給計画書)の合計額(Aの金額)」が発注者のチェックポントの一つです。

注意が必要なのは、「Aの金額」そのものの「合理的な根拠」です。公契約条例が制定されず、「作業報酬下限額」が設定されていないので、最低賃金を上回っていれば「問題なし」であるからです。なお、直接業務費には「直接人件費その2」が加わりますが、これは残業手当や定期清掃など臨時的な賃金支出です。

〔表2〕は、「業務費内訳書」で報告されている「直接人件費その1」と「その2」についての契約金額に対する比率です。

〔表2〕 「直接人件費その1」「その2」の契約額に対する比率
その1-日常的な清掃労働者の賃金比率
その2-臨時雇用、定期清掃の人件費等

報告書の対象業務 契約額(消費税抜き) 直接業務費  

その1(%) その2(%)
本庁 地下2-1階 月450,000 82
2-4階 月395,000 73 10
5-7階 月450,000 75 9
8-19階

(随意契約)

中央 区役所 6,360,000 62 14
区民センター

(指定管理)

西 区役所 56 8
区民センター 57 17
清田 区役所 62 1
区民センター

(指定管理)

厚別 区役所 14,400,000 76 10
区民センター
白石 区役所 11,080,000 75 9
区民センター
区役所 7,320,000  62 16
区民センター 6,766,000 67 13
区役所 11,778,000 47 34
区民センター
南区 区役所 12,072,000 60 17
区民センター
豊平 区役所 14,040,000 54 6
区民センター
手稲 区役所

区民センター

12,680,000 64 16
平均 65 12

(2013年4月1日現在、※補正12月)

 

確認は、基本給に交通費を加え、日常的に清掃業務を行っている労働者の賃金である「その1」が契約金額の平均65%[8]であり、さらに企業の人件費負担となる定期清掃など臨時費用の「その2」を加えると平均は77%に及ぶことです。

「その1」の「82%」(本庁舎)とか「47%」(東区役所)の違いは、一般管理費が2%であるとか、交通費の支給がないなど理由がありますが、ここでは清掃業務は「労働集約型」であることを指摘するにとどめます。(各費目の詳細は  資料1  を参照)

 

企業の「考え方・体質」が伺える報告書の内容

 

「業務従事者賃金支給計画書」(様式1-2)は受託企業が契約後、直ちに提出を求められます。

計画という名称の通り、「あくまでも計画」であり、経営状況によって「計画は変わる」という「弁明」が用意されています。

他方、計画書により、清掃労働者の賃金に対する企業の「考え方・体質」がリアルに伺えます。

〔表3〕に「支給計画書」に記載されている時間額、労働者の技能・経験のランク区分、社会保険の適用、「賞与」の有無を抜き書きしています。(「様式1-2」と「支給計画書」の全体は、資料2、資料3を参照。)

具体的に試みる検証[9]は以下の通りです。

(1)受託企業が2013年4月1日現在で賃金支払いの「計画」として記載している時給額。

(2)受託企業が労働者を技能・経験によって区分し、「A・B・C」のランクをつけている実態。

(3)労働者に対する社会保険の適用状況。

(4)交通費の支給基準に対する企業対応の違い。

(5)「賞与」など年間の一時金の「支給計画」。

具体の検証作業では、2013年4月、記載時の労務単価の清掃員Cが838円であり、最低賃金は719円であること、さらに2014年度は労務単価(清掃員C)が925円となり、最低賃金は734円であることが比較の指標となります。(〔表4〕札幌市の清掃業務の労務単価。)

 

(1)賃金の基本形態は98%が時間給

賃金の基本給形態は、「支給計画書」に記載された就労者108人[10](〔表3〕の「A・B・C」の合計)のうち、月制[11]は2人であり、残り全員が時間給でした。

時間給の金額は719~850円の範囲[12]ですが、2013年度、719円の最低賃金を比較すると労務単価(838円)とのかい離は、119円に及びます。この事実からは「実際の賃金と労務単価の著しいかい離」が問題となります。すなわち、積算は「何のため」という合理性そのものが問われ、「積算額が適正賃金であるはずだ」とか「税金が目的外に使用されている」などが論点となります。

労働者にとっては「最賃しか払わないのなら札幌市が直接雇えばよい。その方が安くつく」との憤りが逆に説得力を持ちます。

なお、本庁舎8~19階を受託している「札幌母子寡婦福祉連合会」は随意契約で清掃業務を受託していますが、仕様書が「同じ」もとで、4年間に委託費が22%も減額されています。こうした中、団体の性格から「直接人件費は90%」[13]という努力に対し、札幌市の育成・助成の政策的な位置づけ強化が不可欠となっています。

〔表3〕 「賃金支給計書」に記載されている主な労働条件

報告書の対象業務 時給額 区分 健保・厚生年金 雇用保険 賞与
C
本庁 地下2-1階 750 2 2 0 3 ×
2-4階 720 3 2 0 0 ×
5-7階 720 3 2 0 0 ×
8-19階
中央 区役所 720 1 1 3 1 1
区民センター
西 区役所 719 1 2 0 2 ×
区民センター 720 5 0 0 0 0 ×
清田 区役所 800~850 0 0 1 1
区民センター
厚別 区役所 720~800 14 0 0 0 0 ×
区民センター
白石 区役所 750 0 7 0 1 7
区民センター
区役所 730 3 3 0 1 1 ×
区民センター 726 0 1 4 0 3 ×
区役所 720 5 2 ×
区民センター
南区 区役所 720 0 9 0 0 2
区民センター
豊平 区役所 780~850 6 0 1 2
区民センター
手稲 区役所

区民センター

730 2 9 2
合計 33 57 18 7 25

(2013年4月1日現在、※補正12月)
A:作業内容が判断できる技術力及び作業の指導等の総合的な技能を有し、実務経験6年程度以上の者。
B:作業内容が判断できる技術力及び必要な技能を有し、実務経験3年以上6年未満の者。
C:A又はBの指示に従い、作業を行う能力を有し、実務経験3年未満程度の者(「札幌市有施設維持管理業務に係る労務単価表」による)

 

〔表4〕 札幌市の清掃業務の「労務単価」

区分 2013年度 2014年度
清掃員A

最高

9,200(1,150)

東京12,000(1,500)

10,200(1,275)
清掃員B

最高

7,600(950)

東京 9,800(1,225)

8,400(1,050)
清掃員C

最高

6,700(837.5)

東京8,700(1087.5)

7,400(925)

(国交省は労務単価について「保全業務の委託に際しての積算に使う単価であり、雇用契約における労働者への支払いを拘束するものではない」と強調しています)

 

(2)賃金と結びついていない技能・経験区分

「報告書」に見られる技能・経験区分は、A-33人、B―57人、C-18人でした。全員をAと記載している厚別区役所・区民センター(14人)、西区民センター(5人)や、全員をBとしている南区役所・区民センター(9人)、白区役所・区民センター(7人)など、合理的には解釈できません。

札幌市は清掃面積の広さに応じ、国土交通省が定めた「標準歩掛り表」[14]にもとづく「A・B・C」の人員配置を積算し、契約金額上もその積算分を措置しています。すなわち、「A・B」分の賃金は契約額に含まれているのです。

他方、受託企業は、本来は、必要な労働総量について、「A・B・C」の各労働者の「歩掛りに機器の台数、点検回数並びに清掃面積、清掃回数を乗じて算定し、労働者を配置」しなければなりません。しかし、札幌市が、「積算上の人工および配置人員の技術水準は履行にあたっては、一致させる必要はない」[15]といっているので、労務管理は企業の「裁量」で行うという立場です。

こうして見ると、受託企業にとっては、記載欄があるからランク付けしているが、賃金は「労使の契約」であり、最低賃金額以上なら違法性はなく、賃金額はランクに規制されないということです。そして発注者もこの点は「問題にしない」という関係が常態となっているといえます。こうして2014年度には労務単価がさらに引上げられ、最低賃金とのかい離はAが541円、Bが円316円、Cが191円となり、状況はいっそう深刻化します。

 

(3)増える社会保険未適用のパート清掃員

清掃労働者の社会保険加入は、各保険の制度上の制約[16]がありますが、次の状況にあります。

社会保険料の企業負担は発注者の説明では、「一般管理費」に含まれています。しかし、受託企業は負担の「重み」から、短時間パートを多用する状況が強まっています。1人も社会保険を適用せず、短時間パートのみで業務を行っている企業が8社に及んでいます。中には、14人全員を技能・経験はAランクとしていますが、社会保険は未適用の例もありました。

 

協会けんぽ・厚生年金

雇用保険

人員 × ×
108 101 25 83

 

道ビルメンテナス協会の3役との懇談では社会保険料の企業負担増が業界の深刻な問題として提起されています。制度改善をはかり、社会保険・雇用保険の加入促進とともに、雇用の安定、業務の品質確保の両面からも、道ビルンテナス協会等が求めている「社会保険料の別枠支給」など、政策的な対応が必要といえます。

 

(4)交通費の支給基準[17]はバラバラの実態

交通費の報告書への記載は、一律支給が8社です。しかしその金額は、4,000円、6,920円、8,400円、10,000円(3社)、12,000円、16,500円と各社間で統一性が見られずバラバラでした。

一律支給の最高、16,500円の企業には、実際は交通費の「支給なし」の労働者が存在します。さらに、基本的に交通費の「支給なし」(東区)があります。

企業内において各人の交通費が、8,640円~10,080円~15,120円などの違いは「実費支給」と思われます。

小論は、賃金調査が中心でしたが、あらためて交通費の自己負担などを再調査する必要性を感じています。

 

(5)「計画だけ」にとどまる「賞与」の例も

「賞与」の支給を「支給計画書」に記載している企業が6社ありました。1人あたりの金額はフルタイム常勤者で20,000円、60,000円、80,000円、100,000万円です。

短時間パートでは12人全員が一律20,000円、2企業では12人を対象に30,000円、18,000円、12,000円と分かれています。

以上が「賞与」の報告書への記載内容ですが、その内実には不条理が存在します。具体的は、「7人分、40万円の『賞与』の計画が誰にも支給されていない」「5人のうち、1人だけが2万円支給される」などですが、昨年末の12月の実態は現在、再調査中です。

なお、この間の調査では、民間施設のみの受注企業から、「(賞与を)わずかですが支給している」との回答も2社ありました。

 

労働者に犠牲を強いる「不条理」の克服を

 

 

小論のここまでは、清掃業務が「労務集約型」の業態にあり、委託契約額も人件費をベースに積上げられ、業務の「適正」執行のための「履行確認」も人件費と社会保険加入にチェックの焦点があることを確認してきました。

他方、「従事者賃金支給計画書」で報告されている賃金等が、実はそのまま労働者に支払われてはいないという不条理が労働者ヒアリング等から明らかになりました。

そもそも清掃労働者の低賃金構造の大本には、(1)積算の労務単価との著しいかい離が存在します。加えて、(2)受託企業が報告している「支給計画」が計画通りに履行されていないという問題が浮上しています。

札幌市の公共施設清掃で働く労働者は、その構図として、積算されている労務単価と実勢賃金のかい離に加え、札幌市には「支払う」と報告されている受託企業の「計画」が実際には履行されていなかったり、あるいは過大に「計画」されていたりするなど、「グレー(灰色)」な現実のもとに日々働いています。以下、その現実を直視します。

 

(1)労務単価と最賃のかい離を試算

低賃金構造のそもそもの大本である積算されている労務単価と実勢賃金のかい離を見てみます。

 

2013年度のかい離は給与の2ヶ月分

(a)2013年度の労務単価である時給838円による年間賃金総額は1,689,408円です。(計算式:838円×8時間×21日×12ヵ月=)

公契約条例が想定している労務単価の90%を仮に「最低報酬下限額」とすると、2013年度の受託企業の支払い義務は1,520,467円でした。

(b)最低賃金による年収の試算は、月21日稼働で2013年10月18日の最賃改定前を135日、改定後は2014年の3月末までの115日で行っています。

結果は改定前が776,520円、改定後は675,280円の合計1,451,800円です。(計算式:(719円×8時間×135日)+(734円×8時間×115日)=)

8時間フルタイムの場合の(a)-(b)は1,689,408円-1,451,800円=237,608円となります。

この期間の月額は、最賃改定前が120,792円、改定後が123,312円ですから、かい離はおよそ2ヶ月分といえます。

 

2014年度は給与の3ヶ月分にもなる

〔表5〕は2014年度の試算です。清掃員Cの労務単価は2014年度、時給925円(前年比10.4%、時給87円アップ)に引き上げられます。

年額は(A)1,864,800です。(計算式925円×8時間×21日×12ヵ月)

最低賃金の改定は、10月中旬なので試算は、仮に2013年と同額の15円引上げを想定し、時給749円で行っています。試算結果は、最低賃金の引上げ前、引上げ後を分けて考え、年間(B)1,481,800円となりました。

 

(A)1,864,800円-(B)1,481,800円=(C)383,000円

 

かい離額は、仮定した時給749円で働く清掃員の月収125,832円の実に3ヵ月分に及びます。(計算式749円×8時間×21日)

税金で行われている仕事で「賃金として支払うべき予算の21%が実際には支払われない」という不条理が現実に起きるわけです。

なお、「最低制限価格制度」による90%落札ではかい離が344,700円となります。

 

(2)異なる札幌市への報告と支払いの実際

受託企業が「賃金支給計画」に記載している時給は個別企業で異なります。他方、実際にもらっている賃金が最低賃金水準に張り付いているのは、この間の調査で明白です。

①例えば報告額750円と記載されているケースで具体的に見てみます。

 

 〔表5〕 労務単価(C)と最低賃金との間のかい離の試算

2014年4月 2014年11月  

 

労務単価(清掃員C) 925円 925円 前年比10.4%up
年間(8×21×12=) (A)1,864,800円
最低賃金 734円 (749円) 2%up
改定前135日(8×21×135)

改定後115日(8×21×115)

792,720円

 

 

689,080円

年間の最賃の計 (B)1,481,800円
労務単価と最賃のかい離 191 (176円)
(A)-(B)=(C) (C)383,000 給与の3ヵ月分(C)/(D)
最賃引上げ後の月額 (D)125,832円(749×8×21=)

①試算は1日8時間、月21日稼働、②労務単価は年度計算(4.1~翌年3.31)、③最低賃金は最賃発効日を10月18日と仮定、改定前を135日間、改定後を115日間としている。

 

「計画書」に基本給形態、時給750円と記載されていると、それは区役所の担当者だけでなく、市民的にも「750円が支払われている」と受け止めるのが、常識です。しかし、清掃業界の解釈は、「あくまでも計画」[18]です。

実際に労働者に支払われる賃金は、10月の最低賃金改定までは前年の最賃719円のままで労務単価との格差は時給31円(日額248円)です。2013年10月に最賃が改定され、734円となり、賃金は初めて最賃を1円上回り、735円となりましたが、それでもかい離は16円(日額128円)です。

1年間のかい離額、すなわち会社が市役所に「払う」と報告している額と実際にもらっている賃金の差は、前述の稼働日数で試算すると、1人あたり改定前が28,520円、改定後が17,280円で合計45,800円となっているのです。

受託企業の「弁明」は、10月の最低賃金の改定額を見込んで、年間を通して見たときの「あくまで計画」として「750円」としたものであり、4月からの賃金は719円だというものです。

なお、この問題は、企業努力で積算額を上回る賃金の支払いもあり得ます。また、民間受注もあるので「丁寧」な議論が求められます。

②前述しましたが、「交通費」「賞与」にも「計画だけ」が存在しており、あらためて交通費の自己負担あるいは「賞与」の実態調査の必要性を感じています。

なお、「計画だけ」の問題は「直接人件費その1」の信頼性に関わる問題であり、「企業には労働者の仕事に見合った賃金を支払う社会的責任がある。とりわけ公共事業には、賃金について透明化が欠かせない」[19]ことが重要です。

 

「仕様書」に規制されている賃金・労働条件

 

 ここでは、本庁舎の「仕様書」を基準に置きながら各区役所の「仕様書」について「作業時間」「配置体制」「監督者」「作業日誌」の違いを  資料4  に見ています。

 

(1)早朝出勤から10時間拘束も

「従事者配置計画書」で気づくのはフルタイム常勤者の早朝業務と拘束時間の長さです。

「仕様書」では、日常の清掃作業は「7時30分から始業し、執務時間の30分前(8:15)までに終了する」とされています。驚いたのは、清掃業務は「原則として17:15から翌朝8:15までの間に行うこと」[20]を求め、執務時間中の清掃は、「委託者が必要と認めた場合」という考え方の「常識」でした。

9時間を超える長時間拘束の例は、「始業6時30分、10時間拘束で3回の休憩が計2時間30分、実働7時間30分」(白石区)、「始業は7時、10時間拘束でその間3回、3時間の休憩、実働7時間(南区)、実働8時間(中央区)」「始業7時、拘束9時間30分、休憩2回で1時間30分、実働8時間(清田区)、実働7時間30分(豊平区)」などです。

現状は、早朝から10時間も拘束され、業務上の必然性のない休憩をとり、しかもその間もトイレの汚れなど、突然の業務に対応しながら、結果として「法定内」[21]の実労働時間にあるということで賃金が抑えられているといえます。

 

(2)「責任者」の任命もなく責任業務

「配置体制」については、「執務時間内においては1名以上の従業員が庁舎内に常駐していること」という明文規定がある本庁舎・2区役所とその記載のない8区役所の違いがあります。

この問題は、フルタイム常勤者が1人しか配置されていないので、昼食休憩の「自由使用」が妨げられ、違法性は明らかです。また、記載がなくても、職員の執務時間内は、「随時、臨時清掃及び雑役を行うこと」(南区)とされており、実態調査が必要となっています。

 

(3)「監督者(責任者)」と「作業日誌」

この問題は、フルタイム常勤者の「責任と権限」とさらに「責任者」に対する待遇(手当)に関係します。各区の仕様書は、中央区と同文の「業務遂行を指揮監督するため、従業員から1名を責任者と定めること」となっています。

現状は、発注者(市・区役所)が清掃員に直接作業の指示をする「偽装請負」を形の上では避けられるように、「責任者」を通じて行うことで受託企業の責任管理のもとでの業務であるとする「たてまえ」を貫いています。

他方、対応する受託業者は「手当」をあいまいにしたまま、フルタイム常勤者に対して最低賃金のまま「名ばかり責任者」としての「任命」さえ行なわず、「発注者との実務連絡」や「職場のとりまとめ」そして「日誌記載・提出の業務」を強いているといえます。こうした労務管理は、2社が常勤者に対して月給制を採用していることから見ても、その他の受託企業における現状の不合理は明らかです。

 

まとめ

 

小論のまとめは、表題とした「新年度の労務単価(925円)と清掃員賃金(734円の最賃水準)との間には、日額191円、月額32,088円の著しいかい離が生まれ、年間では給与の3ヶ月分にもなる」という不条理な現実に対する告発とならざるを得ません。

同時に、「複数年契約」の導入にともなう新たな「矛盾」[22]が存在し、労務単価の引上げと契約額のあり方が、今後、受託企業の「賃上げしない」理由として強調される危ぐのあることを指摘しておきます。

最後に別項に「記者発表の要旨」を付記していますが、そこでは、①2014年度の試算、②かい離問題の論点整理、さらに③札幌市・市議会およびビルメンテナス企業に賃上げを求める「提言」を行っています。

 

 

[1]「道建設新聞」(2013.11.6)。

[2]「道新」(2013.11.2)。

[3]資料は本庁舎、10区役所・区民センターの警備・案内・駐車場整理等の諸報告書も提供されていますが、検証は別途行います。

[4]報告書の提出は「建物の清掃業務」とともに「建物の警備業務(人的警備)、「建物のボイラー等設備運転監視等業務」において「履行検査の強化」として実施されています。

[5]低入札価格調査により、「調査基準価格を下回る入札」の場合又は「契約内容に適合した履行が可能か、調査が必要」な場合は、落札決定が保留されます。地方自治法施行令第167条の10第1項。

[6]あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限の範囲内で最低制限価格以上に価格のうち最低価格者を落札者とする制度です。地方自治法施行令第167条の10第2項。

[7]清掃業務に従事する全員の基本給、交通費など所定内手当と「賞与」の合計額です。

[8]交通費を除くと平均56%である。〔表3〕。

[9]有給休暇に関し、①同僚に迷惑がかかるので取得しづらい、②1年雇用の繰り返しで6ヵ月後でないと権利が発生しないなどの問題がありますが、「報告書」では表面化していません。また、積算上も「あいまい」です。別に整理が必要です。

[10]本調査研究の対象業務の労働者数は、②指定管理者と「札母連」の随意契約を加えると150人前後と思われます。

[11]基本給は126,000円、170,000円でした。

[12]時給800円を超えているのは、全体の中で850円1人、800円が2人ときわめて限定的です。

[13]2013年12月25日、「札母連」との懇談会。

[14]「歩掛り」とは予定価格の算出のための単位あたりの標準作業量のことである。例えば土木工事では1m四方の穴を人力で掘る場合に3人で6時間かかるとする。3×6=のべ18時間。1日の労働時間を8時間として18/8=2.25となる。これを普通作業員2.25人工(にんく)という言い方をする。

[15]道ビルメン協会の市議会への「陳情第60号資料」(2012.10.31)。

[16]雇用保険:所定労働時間が週20時間以上、65歳未満の者。健康保険、厚生年金:所定労働時間・所定労働日数がおおよそ正規労働者の3/4かつ健康保険は75歳未満、厚生年金は70歳未満の者。

[17]通勤定期代は、地下鉄が1区間、1ヵ月8,400円、「バス⇔地下鉄」が1区間、1ヵ月13,660円です。

[18]道ビルメンテナス協会は、「労務管理(賃金)は個々のいわば受託者の裁量の範囲」「(国の積算基準は)方便として定めた積算上のルール」という立場です。(「公契約条例に反対する陳情」2013.10.31)。

[19]「道新」(2013.11.2)。

[20]この原則規定の記載は、白石区だけですが、「1回目の清掃は30分前に終了」は全区役所で共通しています。

[21]労働基準法では休憩は「6時間~8時間は45分」「8時間以上は1時間」となっているが、長時間拘束でその間の2時間の休憩とか3回の休憩の是非など、規制がありません。やはり労使の交渉事項です。

[22]「複数年契約」では当初契約額が3年間維持され、毎年の労務単価の改定とは「連動」しない。

 

 

 

 

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