『北海道新聞』朝刊2016年4月24日付「書棚から歌を」からの転載です。
・生活の最低線に生きる吾媚びることなくへつらうこと無く
女性労働者
ノンフィクション作家の澤宮優が、平野恵理子のイラストとともに、「昭和」を象徴する仕事を解説した新刊『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』を読んだ。生活感あふれるイラストは郷愁も誘うが、働く人々の表情が、いずれも毅然としているのが印象的だ。
掲出歌は、「エンヤコラ=女性の日雇い労働者のこと」の短歌として紹介されている。主に昭和30年代、夫を戦争で失ったり、行方不明のままという女性たちは、生活のために肉体労働にも従事した。美輪明宏の「ヨイトマケの唄」で知られるように、エンヤコラは「ヨイトマケ」とも呼ばれた。
彼女たちは早朝、モンペ姿で家を出て、職業安定所へ。戦争の焼け跡の整理や、道路の補修作業、草取り、大きな道路の工事など、さまざまな仕事を担った。とはいえ、日当は最低賃金で、しかも男性の7割という場合もあったという。
そのわずかな給金で子どもや家族を支え、掲出歌のように「媚びることなくへつらうこと無く」、日焼けした腕で米をといでいたのだろう。
昭和ならではの女性の仕事として、ほかに、バスガール、電話交換手、カフェーの女給、髪結い、タイピストなどの項目もある。また、それらとともに「パンパン」「オンリー」の項目もあるが、平成生まれの若者たちに両者の違いはわかるだろうか。
全115種、現在では「消えた仕事」がほとんどだが、昭和を知らない世代に、生活者の息づかいを感じてほしいと思う。
◇今週の一冊 文・澤宮優、イラスト・平野恵理子『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』(原書房、2016年→角川ソフィア文庫、2021年)
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