田中綾「(書評)ユキノ進歌集『冒険者たち』」

 

『北海道新聞』朝刊2018年5月6日付「書棚から歌を」からの転載です。

 

 

・十四人を五つの階層【ランク】に振り分けて課長は神の手口をまねる

ユキノ進【すすむ】

 

2010年代、短歌総合誌の新人賞候補作に、折々「ユキノ進」の名を見掛け、その作風に注目していた。1967年、福岡県生まれ。現在は東京在住で、異動や単身赴任の経験なども歌材となっている。

 

たとえば、2015年度の「角川短歌賞」佳作「中本さん」は、派遣社員の「中本さん」の仕事ぶりを「課長」である「おれ」が見つめ、分断化された日本の職場を可視化させた連作として、話題を集めた。

 

その一首が掲出歌。正社員、契約社員、派遣社員が集うフロアで、「課長」として、正社員を減らして派遣社員を増やす計画を進めている。けれども、いかに「神の手口」を真似ようとしても、中間管理職は、決して神にはなり得ない。そんな苦悩の表情がうかがえる。

 

森岡孝二は『雇用身分社会』(岩波新書)で、政府と経済界が雇用形態の多様化を進めた結果、非正規労働者が大幅に増え、労働者が〈〇〇社員〉といった「身分」に分断されてきた現状を指摘していた。その現状が、内省や口惜しさも含めて率直に歌われており、誠実さが伝わる。

 

・正社員がたらい回しにした仕事を中本さんが黙って捌く

 

・人がひとを裁く疚しさ 意欲とか責任感まで評価するのか

 

これらを収めた初の歌集が、この度刊行された。職場詠以外に、心象をスケッチした歌もあり、バランスの良い編集と思う。

 

・遠い海がわたしの胸の内にありいつまでもいつまでも飛ぶ鳥

 

今週の一冊 ユキノ進歌集『冒険者たち』(書肆侃侃房、2018年)

 

 

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