田中綾と学生たち「学生アルバイト短歌2021(2学期編)」

1学期に引き続き、北海学園大学人文学部2部「人文学演習B(田中綾担当)」を受講した、2年生12名によるアルバイト/労働についての短歌です。授業の最後には、合同歌集『百歌繚乱』も刊行しました。

コロナ感染状況も若干落ち着いた時期で、対面で雑談しながら楽しく短歌を創作してもらいましたが、コロナで一時期、時短営業となった飲食店の現場では問題が……。フリーターが職を離れ、その反動か、通常営業に戻ったときの学生アルバイトのシフトが予測不可能となり、学業に影響が及んだ時期もあったそうです。

巻末に、アルバイト短歌に対する学生同士の評も掲載しましたので、どうぞ最後までご覧ください。

※短歌中の【 】はルビです。

 

【アルバイトの現場】 

1・アルバイト行く前に泣きそうになる疲れてるのか休めってこと? T・R

(飲食店/過去)

2・三人のバイト vs 百人の客で迎える(不)自由時間【フリータイム】よ K・R

(ネットカフェ&カラオケ/現在)

3・「申し訳ございません」の声だけは上手な自信ついてしまった  K・R

(ネットカフェ&カラオケ/現在)

4・クリームの甘い香りが手に残り家に着いても働いている様  O・Y

(ケーキ屋/過去)

5・親にはね、もう迷惑かけられない。だから、遠征費稼がなきゃ……。 K・R

(シーズンオフに朝からバイト中!/現在)

6・30分わずかな休憩 分勝負 カップ麺も2分でオープン  I・T

(カー用品専門店/現在)

7・店閉めてみんなで食べる山岡家心と体にジワッとしみる   I・T

(飲食店/現在)

8・「おつかれさま」店の前で解散しこっそり2人待ち合わせする  I・T

(飲食店/現在)

9・「休みます」今月何度目? フリーター次会う時には礼もない T・H

(飲食店/現在)

10・協力もしないくせして休み希望多し代わりに出るのはオレしかいない T・H

(飲食店/現在)

11・米足りないアレも足りないそれ足りないほうれんそう【報連相】足りない足りない T・H

(飲食店/現在)

12・今日もまた色眼鏡外して労働あなたに問いたい白か黒か O・M

(書店/現在)

13・深夜まで帰れぬチーフ1月3日【翌日】の明朝出勤上は休日  M・M

(スーパーマーケット/過去)

14・友達に「有休いくつ?」とたずねたら「有休ないよ」僕恵まれてる?  M・M

(スーパーマーケット/過去)

15・「祝日は1時間早く店開けよ」お客はまばら この仕組みいる?  M・M

(スーパーマーケット/過去)

16・真剣になるほど時間ばかり奪われていく授業準備のセンセー N・N

(塾/現在)

【〈労働〉全般について】

17・レジ係のあの声が今日は枯れていてあと何時間立ってるんだろう N・N

18・休日がロウドウの餌に変えられてあすの賃金が排泄される N・N

(就職した先輩のようす)

19・知らぬ間に貯まり溜まった有休でハワイに行こうパリにも行こう O・Y

20・最低賃金【じきゅう】あがり喜ぶわれの知らぬ間に物価も一緒に上がってました W・K

21・除雪の仕事に集まる人のうち私以外は全員七十代  W・K

22・夏は昆布、秋はミカンと移りゆく定住しない人がこんなに  W・K

 

【学生同士の評(の、一部を紹介します)】

 

11・米足りないアレも足りないそれ足りないほうれんそう【報連相】足りない足りないT・H (飲食店/現在)

 

【評】「足りない」と何度も使うことで、作中主体のあきれた気持ちが伝わってくる。最後に2回続けて「足りない」と念をおして、不満を表現しているように感じた。だが、「たりない」と「t」の音がおもくなりすぎず、ポップにしている。(I・T)

【評】「足りない」を5回言うことで、飲食店の常に忙しい様子の場面が目にうかんだ。(T・R)

【評】「足りない」な合計5回も繰り返され、食材だけでなくあらゆるものごとが足りないようすが表現される。野菜のほうれんそうと報連相がダブルミーニングとして機能していて、面白いと思った。(N・N)

【評】「足りない」の連呼な現場の緊迫感を与える一首。あわただしい様子が目に浮かぶ。また、初句に「米」が登場し、報連相を「ほうれんそう」とひらがな表記にしたことで、飲食業であることを連想させる構造が巧みである。(K・R)

 

19・知らぬ間に貯まり溜まった有休でハワイに行こうパリにも行こう   O・Y

 

【評】「ハワイに行こうパリにも行こう」が軽快な印象を与える一首。有休で異国への旅行を企てている作中主体。しかし、知らぬ間に有休を溜めていたくらい労働している現実から、それは実行できない夢物語を歌っているようにも捉えられる。(K・R)

 

 

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