唯物論研究協会第48回研究大会・市民公開企画のご案内
「特別講演 和解と平和の森――北海道・朱鞠内で戦時下強制労働犠牲者の遺骨を掘る」
「シンポジウム 戦後民主主義が見たもの/見てこなかったもの――記憶と黙殺の80年を問う」
(2025年11月8日、唯物論研究協会第48回研究大会@北海学園大学)
私ども唯物論研究協会(全国唯研)は人文・社会・自然科学系研究者が学際的に集うかたちで、1978年7月5日に創立されました。日本学術会議協力学術研究団体でもある本会は、1932年に戸坂潤らが設立した唯物論研究会の歴史を踏まえつつ、唯物論研究の発展と交流をはかるとともに、現代の社会・文化を批判的にとらえ考えようとするすべての人々の開かれた交流の場を目指しています。
さて、来たる2025年11月8日・9日、本会は、北海道札幌市の北海学園大学豊平キャンパスにて、第48回研究大会を開催いたします。
その初日にあたる11月8日、殿平善彦さん(NPO 法人東アジア市民ネットワーク代表理事、一乗寺住職)をお招きして特別講演を開催し、また大会シンポジウムを市民公開企画として行ないます。
第二次世界大戦が終わって80年を迎える今年、日本社会が残そうとする「記憶」のなかで、「黙殺」してきた何かがあるのではないか――これが本企画のテーマです。
ご関心のあるみなさま、是非ともご参加ください。
共に考える機会となれば幸いです。
(唯物論研究協会会員・大屋定晴)
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(プログラム)
□ 日時:2025年11月8日(土) 14時開会(13時30分受付、13時50分開場)、18時10分閉会(予定)
❶ 14:00-15:00
《特別講演》 和解と平和の森――北海道・朱鞠内で戦時下強制労働犠牲者の遺骨を掘る
講演者: 殿平善彦(NPO 法人東アジア市民ネットワーク代表理事、一乗寺住職)
❷ 15:10-18:10
《シンポジウム》「戦後民主主義が見たもの/見てこなかったもの――記憶と黙殺の 80 年を問う」
シンポジスト:報告テーマ
佐々木啓(東洋大学): 日本人徴用工の戦後史 ――語られる体験/語られぬ体験
中野敏男(東京外国語大学):
継続する植民地主義と合理的社会科学 ――植民地主義に参与する歴史を断ち切るために
日暮雅夫(立命館大学): 勃興する権威主義 ――批判理論から見た戦後民主主義
司会:鈴木宗徳(法政大学)
□ 会場:北海学園大学豊平キャンパス8号館4階B41教室
〒062-0911 北海道札幌市豊平区旭町4丁目1−40
地下鉄東豊線「学園前駅」下車(3番出口直結)
□ 資料代:500円(学生無料)
□ 参加申し込み: 次の参加登録フォームからご登録ください(2025年11月5日締切)。
□ 講演・シンポのポイント(第48回大会プログラム・レジュメ集より抜粋)
《特別講演》 和解と平和の森――北海道・朱鞠内で戦時下強制労働犠牲者の遺骨を掘る
今から49年前の1976年、北海道・朱鞠内で戦時下の強制労働犠牲者の調査が始まりました。私たちの調査は笹ヤブの下に埋められた犠牲者の遺骨発掘に至り、1997 年からは日本人、韓国人、在日コリアン、アイヌの青年たちが共同で遺骨を発掘し、遺族を探して遺骨を届け、対話しながら友情を交わす「東アジア共同ワークショップ」へと発展していきました。〈……〉昨今の日本社会に外国籍の人々への排外主義やヘイトスピーチがはびこるようになりました。大日本帝国が終焉を迎えて 80 年になりますが、私たち日本社会が植民地主義を克服できないまま過ごしてきた結果ではないかと思われます。〈……〉2025 年 9 月「笹の墓標強制労働博物館」として朱鞠内の地に甦りました。〈……〉朱鞠内のこの場を私たちは「和解と平和の森」と名付けました。植植民地主義を越え、東アジアに和解と平和を育てる明かりが灯されています。これからも多くの人々の応援で希望のともし火を灯し続けていきたいと願っています。
講演者: 殿平善彦
1945 年北海道深川市生まれ。龍谷大学大学院文学研究科中退。浄土真宗本願寺派一乗寺住職、NPO 法人東アジア市民ネットワーク代表理事。 1976 年に北海道朱鞠内・光顕寺で強制労働犠牲者の位牌に遭遇、80 年から犠牲者の遺骨発掘と遺族への返還に努める。24 年9 月、朱鞠内に笹の墓標強制労働博物館を建設。 著に『和解と平和の森――北海道・朱鞠内に朝鮮人強制労働の歴史を刻む』(高文研、2025年)ほか
《シンポジウム》 戦後民主主義が見たもの/見てこなかったもの――記憶と黙殺の80年を問う
戦争を記憶することが何らかの「語り=ナラティブ」を前提とするならば、まずは、語られなかったもの、そして語り得なかったものとは何かについて押さえておく必要がある。
先の大戦は各国で総力戦体制が敷かれ、前線に送られる兵士だけでなく、それを銃後で支える労働者、女性、子どもまでもが大量に動員され、軍需工場や鉱山で過酷な労働に従事した。さらに満蒙開拓移民が農村からも都市からも動員され、青少年義勇軍も組織された。敗戦による引き揚げと残留孤児にまで繋がるこうした問題は、帝国日本が支配したあらゆる地域に傷跡を残したにもかかわらず、それらが十分に語られてきたとは言えない。そして、植民地責任が清算されず、むしろ旧植民地出身者に対する統治が継続された点も見過ごすことはできない。〈……〉主権在民をうたう憲法とともに始まった戦後民主主義は、外国にルーツをもつ居住者を慎重に消し去ることによって成立し、これは、教育の義務(第26条)を「国民」のみに認め定住外国人に認めないという古くて新しい問題にまで繋がっている。〈……〉戦禍の記憶がまだ生々しかった頃、戦後民主主義は〈……〉必ずしも侵略と植民地支配への反省が十分であったことを意味するものではなく、むしろ戦後も産業予備軍を「動員」する論理を一貫して継続させてきたと言うこともできる。〈……〉
戦後の語りをとらえ直し戦後民主主義を再考するという課題は、他の先進諸国にも共通している。〈……〉戦後ドイツはナチズムを克服すべく、歴史教育を充実させ、庇護権(政治的被迫害者の滞在権)を寛容に認めてきた。しかしドイツは移民・難民の社会統合につねに困難を抱え、東西統一と EUの拡大・深化が新自由主義的グローバリズムを加速させた結果、国内では底辺労働者の、欧州ではギリシャなどの周縁化を進め、分断を深刻化させている。〈……〉語ることのできなかったあらゆる少数者の「承認」を目差す政治が、むしろ分断や対立を際立たせるアイデンティティ・ポリティクスに転化していると批判されている。「再分配」の政治を立て直すとともに、ルサンチマンの素地にある「権威主義」に対抗することもまた、80 年にわたる「戦後」を超えてふたたび課題となっている。
今回のシンポジウムでは次の三つの論点について、それぞれの報告者から問題提起をお願いしている。第一に、銃後で徴用工として動員された日本人男性について、その体験の特徴と戦後における語られ方を検証すること。第二に、戦中からの連続性のなかで戦後知識人が構想した民主化と近代化とは何であり、彼らの視界に植民地支配がどのように映っていたかを考えること。第三に、フランクフルト学派を中心に戦中から現代までのドイツ思想をふり返り、自律した個人の理想を掲げた戦後思想が、なぜ権威主義の復活を許してしまったのかを検討すること。これらの論点を通して、この 80 年間をふり返りながら「記憶」と「黙殺」の問題圏について議論したい。
シンポジスト: 佐々木啓(東洋大学)
専攻は日本近現代史。著に『「産業戦士」の時代――戦時期日本の労働力動員と支配秩序』(大月書店、2019年)ほか。
中野敏男(東京外国語大学)
専攻は社会学。著に『大塚久雄と丸山眞男――動員、主体、戦争責任』(新装版、青土社、2014年)ほか。
日暮雅夫(立命館大学)
専攻はドイツ社会学、批判的社会理論。著に『批判的社会理論の今日的可能性』(共著、晃洋書房、2022年)ほか。
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※ 講演趣旨ならびにシンポジウム企画趣旨の全文、また二日間の大会プログラムにつきましては、唯物論研究協会HPに掲載されている第48回大会プログラム・レジュメ集をご覧ください。
https://www.zenkokuyuiken.jp/wp-content/uploads/2025/09/48taikai-program.pdf
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主催 唯物論研究協会(https://www.zenkokuyuiken.jp/)
(お問い合わせ)
唯物論研究協会事務局
担当 新井田智幸(bureau@zenkokuyuiken.sakura.ne.jp)
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