川村雅則「第4回なくそう!官製ワーキングプア北海道集会が開催される」『NAVI』2025年1月26日配信

 

 

2025年1月25日(土)13時30分~、北海学園大学にて、第4回目となる、なくそう!官製ワーキングプア北海道集会が開催されました。第1回が2016年第2回が2018年、第3回が2019年の開催だったところ、コロナ禍もあって、長い空白期間を挟んでの開催となりました。主催は、札幌市公契約条例の制定を求める会と、2024年8月に発足した公務非正規問題自治体議員ネット(以下、議員ネット)を構成団体とする実行委員会によるものでした。オンラインを含め50人の参加がありました。強調したいのは、東京集会関係者、大阪集会関係者のリアル参加があったほか、九州や愛知で活動している関係者がオンラインで参加されたことです。ありがとうございました。

 

集会プログラムは以下のとおりです。

 

【1】集会趣旨説明+パネルディスカッション

  • 川村雅則(北海学園大学)「集会の趣旨説明、問題意識と到達点の整理」

3つの自治体の非正規公務員(会計年度任用職員)問題と議員の取り組み

  • 江川あやさん (旭川市議会議員)
  • 神代知花子さん(石狩市議会議員)
  • 新岡知恵さん (恵庭市議会議員)

 

【2】報告

  • 伊藤誠一さん(日本労働弁護団北海道ブロック代表)/「非正規公務員制度立法提言の紹介」
  • 山口裕一さん(札幌地区連合事務局長)/「連合 春季生活闘争の取り組みから 「底上げ」「底支え」「格差是正」の実現を」
  • 太田伸一さん(札幌地域自治体関連ユニオン書記長)/「会計年度任用職員の雇用・賃金などの改善を求める石狩自治体キャラバン」
  • 佐賀正悟さん(札幌地区労連事務局長)/「自治体現場で働く清掃・警備労働者実態アンケート」

 

 

以下、これまでも述べてきたことの繰り返しになりますが[1]、問題意識や集会の感想などをまとめておきます。実行委員会としてではなく、個人によるものです。

 

第一に、北海道・札幌市(政令市)・34市・144町村・122の一部事務組合(以下、全道)には、5万人弱(48198人)の非正規公務員(会計年度任用職員、特別職非常勤職員、臨時的任用職員)が働いています。会計年度任用職員に限定すると4万人強(41245人)です。その多くは女性です。とくに、職種ごとにみるとその傾向が顕著になります。これだけ多くの方々が公務分野で「非正規」というかたちで雇われ、私たちの暮らしを支えることをまずは認識したいと思います[2]

第二に、(会計年度任用職員に対象を限定しますが)公務分野の「非正規」という雇われ方は、民間の非正規雇用問題と共通する部分もありますが、制度設計、とりわけ任用(雇用)制度面は、民間をはるかに下回ります。一会計年度ごとの任用であって、何年働き続けても無期転換はないこと、その上に、実効性ある雇い止め規制がなく、雇い止め不安を抱えて働かざるを得ないこと、さらにその上に、労使対等の雇用関係とは異なる「任用」という雇われ方であって、労働基本権に制約を受けていることから、問題の解決は非常に困難であることです[3]

「民間でも非正規問題はありますよ」──たしかにその通りなのですが、上記のような違い、働く上での困難が、公務の非正規(会計年度任用職員)制度にはあることをぜひ知っていただきたいと思います。

第三に、責任の所在は言うまでもなく、このような制度を設計した国にあります、と同時に、彼らの任命権者である自治体にもあります。

たしかに自治体は、国から、財政難に追いつめられ、地方行政改革に追い立てられている面があります。一方で、会計年度任用職員が安心して職務に従事できるよう、現行制度の制約下でも可能なことはあります。その主要な一つが、現職を一定期間ごとに雇い止めし新規求職者と競わせる公募制を廃止することです。

ところが、任命権者としての自覚を欠いているのか、そのような考えはまったくなく、むしろ、率先して公募を実施するという行為さえみられる状況にあります[4](欠員が続くような状況下においても!)。3年公募に関する例示を削除した人事院・総務省通知が2024年6月に出されましたが、予断を許さない状況が続きます。

 

さて、こうしたなかで本集会は開催されました。自治体議員3名をパネラーにして行われたパネルディスカッション(以下、PD)に関連して幾つか述べます。

強調したい一つは、自治体議員の力(潜在的な力を含む)です。議員ネットの世話人でもあるパネラー3名の自治体(旭川市、石狩市、恵庭市)では、いずれも公募が廃止されています。

これらの3市で公募を廃止することがなぜできたのか。その理由は冷静に分析する必要があるでしょうけれども(昨今の人手不足も背景にあるのは間違いないでしょうけれども)、事実として言えるのは、公募を続けてきた行政に対して、彼ら議員は、公募の廃止を含む、会計年度任用職員の任用・処遇の改善を訴え続けてきた(いる)ということです。こうした取り組みがあってこその、公募廃止であり、処遇改善の実現だということです。

総務省の調べによれば、北海道には2310人の、全国には31779人の、議員がいます[5]。全員とは言わずともこれだけの議員の一定数に、非正規公務員(など公務非正規)問題への関心がもたれ、行政に対する監視機能や政策立案機能が発揮されることになれば、問題を是正する上で大きな力になる──パネラー3名の力強い発言からそのことを思いました。

二つ目には、交流、学習の意義です。議員ネットでは、お互いの実践(議会活動、議員質問)や問題意識、悩み、課題などが交流されてきました。そのことが、それぞれの議員の活動に役立っていると見受けました。

今回のPDでも、公共サービスの質を担保する上で不可欠な非正規公務員の任用・処遇という大きなテーマを、会派をこえて議会全体で議論していくにはどうしたらよいか(議会のあり方)といった大きな論点から、公募廃止後の能力実証手段として人事評価制度をどう適切に設計していくか/会計年度任用職員・非正規公務員を被扶養者とみなすのは妥当なのか(そのような客観的な事実は確認されているのか?)/実効性あるハラスメント防止の方策にどのようなものが考えられるか、などの個別具体的な論点まで、それぞれの自治体情報や議会活動を紹介しながら議論が展開されました。PDの場自体が学びや気づきの機会になりました。

なお、非正規雇用問題への労働組合の対応という、民間労組/公務労組を問わぬ、労働組合にとって古くて新しい課題[6]も、大きな論点としてPDであがったことを付記しておきます。

三つ目には、以上のこと(一つ目、二つ目)と内容が重なりもしますが、つながることの意義を強調したい。議員同士がつながることはもちろんですが、議員と、当事者や労働組合、弁護士[7]、政党関係者、報道関係者、そして、研究者ら、この問題に関心をもつものがつながることです。本集会はまさにそのようなねらいをもって開催され、成果を得たと思います。

北海道における議員ネットの拡大はもちろんですが、議員ネットが全国各地に発足することを切望します。労働組合関係者も、そのような働きかけを意識して行っていくことが必要ではないでしょうか。非正規公務員問題の解決・公共の再生には、長きにわたる構造改革・新自由主義政治の克服や、ジェンダー差別と重なる日本型生活保障をめぐる問題の克服が必要であることを踏まえれば、なおのことそう思うのです。克服すべき課題は大きく、我々の力は小さい。そのことの自覚が運動を大きくしていく上で不可欠ではないでしょうか。

2024年には、東京集会(第16回)、大阪集会(第12回)、そして、九州で第1回集会が開催されました。北海道も、引き続き、それぞれの立場で取り組みを強化していきながら、第5回目となる集会開催に向けて準備を進めたいと思います。

 

 

 

 

 

(追記)

1月30日から、官製ワーキングプア研究会主催で連続学習会(計3回)が開催されます。ぜひご参加を。

 

 

[1] 例えば、川村雅則「非正規公務員が安心して働き続けられる職場・仕事の実現に向けて」『KOKKO』55号(20245月号)を参照。

[2] 以上は、総務省「令和6(2024)年度会計年度任用職員制度の施行状況等に関する調査」より。川村雅則「(暫定版)総務省・会計年度任用職員制度等の2024調査データの集計」『NAVI』20241230日配信を参照。

[3] 川村雅則「会計年度任用職員にも民間並みの雇い止め規制を」『NAVI』20241011日配信

[4] 例えば名古屋市のケースを参照。なお、労働組合の抗議でこの問題は「可視化」されましたが、公募を導入している(廃止していない)自治体では、こうした行為が粛々と行われている、つまり、問題は名古屋市だけではない、ことは認識する必要があります。

古川晶子・ライター「名古屋市が保育士ら1200人を雇い止め 市長は責任放棄か」『週刊金曜日』第1493号(2024年10月18日号)。川村雅則「名古屋市非正規保育士雇い止め事件からみえてきた国と自治体の共犯関係」『NAVI』20241226日配信

[5] 総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等(2023年12月31日現在)」

[6] 連合評価委員会「連合評価委員会最終報告」2003年9月12日など参照。

[7] 日本労働弁護団から出された「非正規公務員制度立法提言」をしっかり学習し活用していきましょう。

 

(参考資料)

表 北海道/札幌市/市群/町村群別にみた、正職員、非正規職員計、会計年度任用職員、特別職非常勤職員、臨時的任用職員の人数及び非正規職員割合  単位:人、%

正職員 非正規職員計 非正規職員割合(%) 女性割合(%)
会計年度任用職員 特別職非常勤職員 臨時的任用職員
北海道 61,623 8,083 4,427 2,334 1,322 11.6 75.7
札幌市 23,069 4,820 4,118 155 547 17.3 63.7
市群 29,678 18,157 17,094 1,063 0 38.0 72.9
町村群 20,412 16,730 15,202 1,397 131 45.0 81.0
一部事務組合 408 404 2 2 74.1
合計(全道) 134,782 48,198 41,245 4,951 2,002 26.3 72.8

 

表 北海道/札幌市/市群/町村群/一部事務組合 × フルタイム/パートタイム別 及び 男女別にみた、会計年度任用職員の人数  単位:人、%

総数 フルタイム パートタイム 男女 女性割合(%)
6か月以上 6か月未満 6か月以上かつ19時間25分以上 6か月未満又は19時間25分未満 男性 女性
北海道 4,427 22 21 1 4,405 1,796 2,609 1,608 2,819 63.7
札幌市 4,118 121 109 12 3,997 2,707 1,290 1,115 3,003 72.9
市群 17,094 1,961 1,836 125 15,133 11,475 3,658 3,249 13,845 81.0
町村群 15,202 3,327 3,284 43 11,875 7,855 4,020 3,941 11,261 74.1
一部事務組合 404 67 67 0 337 298 39 110 294 72.8
合計(全道) 41,245 5,498 5,317 181 35,747 24,131 11,616 10,023 31,222 75.7

 

 

 

 

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