安田真幸「4労組でILOに情報提供しました(2024年9月1日)」

今年(2024年)のILOで、非正規地方公務員に関する大きな勧告が二つ出されました。

1 2月に公表された専門家委員会報告で、以下の「見解」が示されました。

① 「委員会は、この情報に注目し、政府に対し、この新制度の実施5年後に、公共部門における潜在的な不十分さを特定し、雇用政策を改善することを目的とした評価を実施する意向があるかどうかを示すよう要請する。」

② 「社会的パートナーおよびその他すべての利害関係者と協議し、条約第2 条および第3 条に従って、条約の目的を達成するために講じられた措置を継続的に見直し、影響を受ける人々の経験と意見を十分に考慮し、そのような政策の策定と支持の取り付けにおいて全面的な協力を確保することを視野に入れて、影響を受ける人々の代表と協議されることを要請する。」

2 6月のILO総会の基準適用委員会の「結論」として、以下の勧告が採択されました。

① 地方公務員が条約に定める権利と保障を享受できるよう、地方公務員法その他の関連法を見直すこと。

② 委員会は、政府に対し、2024年9月1日までに、上記のすべての事項に関して達成された進捗状況に関する報告書を専門家委員会に提出するよう要請した。

 

 私たちはこの二つの勧告を念頭に、日本政府が報告書提出を要請されている9月1日に合わせて、今回の情報提供を行いました。ぜひご注目ください。

 

これまでの経過については、下記のホームページを参照ください。

連帯・杉並 日本政府による自治体22万非常勤の一方的労働基本権はく奪を許すな!― 非正規公務員の労働基本権確立を求めて ー

 

 

ILO 事務局長様

2024年9月1日

連帯労働者組合・杉並
ユニオンらくだ
連帯労働者組合板橋区パート
あぱけん神戸

 

私たちは、2024年の専門家委員会の「見解」と基準適用委員会の「結論」を踏まえて、以下の情報を提供します。

 

 

2024専門家委員会への情報提供

 

<第1 87号条約:労働基本権について>

1 私たちは、2024年ILO総会「基準適用委員会」の「結論」を歓迎します。

① 私たちは、基準適用委員会(CAS)が日本政府に対して、消防職員と刑事施設職員の問題に加えて「地方公務員法の見直し」を促したことを、大変嬉しく思っています。

② 同時に、日本政府に対して、2024年9月1日までに専門家委員会への報告書提出を求めたことも高く評価しています。

2 私たちは、日本政府が前進的な報告書を提出することを期待します。しかし、以下の残念な現状を指摘せざるを得ません。

① 今回提出される2024年日本政府報告書も、連合には事前に提示して協議に付されていますが、私たち独立系労組には非公開で協議はなされていません。(おそらく全労連にさえも提示・協議がなされていないと思われます。)つまり、私たちは2024年日本政府報告書が公開されない中、専門家委員会に情報提供するしかない現状にあります。

② 私たちは「できれば連合に提示すると同時に、遅くともILOへ送付直後に」公開することを求めています。しかし、日本政府はかたくなに拒否し続けています。その理由は「国際機関との信頼関係を損なうため」とのことです。

③ このため、私たちは2024年日本政府報告書を検討した上で、意見や反論をILOに届けることができません。私たちはこの日本政府の態度をぜひ改めてほしいと考えています。

3 日本政府は、ILOからの勧告や意見を国と自治体の公務員および議員に伝え、広く社会に知らせるべきです。

① 国連の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」では、2013年5月13日「日本政府への総括所見」のパラグラフ36「本総括所見を社会のあらゆるレベル、特に公務員、司法当局及び市民社会団体に広く普及させることを強く求めています。

② ILOからの勧告・意見についても、同様に広く普及させることが欠かせません。しかし、厚労省のホームページには、今回の基準適用委員会の「結論:地方公務員法の見直し」は掲載されず、自治体にはまったく知らされていません。自治体労働組合でさえも、ほとんどが知らされていない現状です。

③ これでは、国際労働基準を生かすことが全くできません。私たちはIL0の勧告・意見を、厚労省ホームページに掲載すること、総務省が自治体に知らせること、記者会見を行って報道機関に広く知らせること、の3点を強く求めます。

4 日本政府は、非正規公務員に「有期雇用の濫用防止」の国際労働基準を適用する考えがまったくありません。労働基本権の確保は急務です。

① 私たちは「有期雇用の濫用防止」が国際労働基準であると考えています。

ILOに限らず、「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」は、2013年5月13日「日本政府への総括所見」パラグラフ16で「有期労働契約の濫用を防止する措置を講じること」を勧告し、「有期契約労働者との契約が不当に更新されないことを防ぐこと」を求めています。

② しかしこれらの「有期雇用の濫用防止」政策は、日本の非正規公務員には適用されません。それどころか総務省は通知で「毎年改めて採用する。更新ではない」ことを強調しています。つまり、「雇用不安定」を基本とした雇用政策を採用しているのです。その上、労働基本権まで奪っています。労働基本権を確保することは急務です。

5 外国籍者も参加する、東京の合同労組「Tozen Union」が「労働基本権はく奪は憲法違反」として、東京都を被告として裁判に訴えています。

 以下は、訴訟代理人の弁護団からの報告です。

 

「東ゼン労組ALT訴訟」に関する報告

2024年8月

東ゼン労組ALT訴訟弁護団
 指宿昭一、山田省三、加藤桂子、谷村明子、宮城知佳、山本志都

 

●訴訟提起

会計年度任用職員から労働組合に団結して交渉する権利を奪うことは許されるのか、そんな根源的なことを問う訴訟が、東京地裁で争われている(2023年3月提訴、6月第1回口頭弁論期日)。

都立高校で長年にわたってALT(Assistant Language Teacher=外国語指導助手)として働いてきた労働者2名の雇用継続や労働条件等に関し、労働組合が東京都教育委員会に団体交渉を求めたところ、拒否された。労働組合がこれを東京都労働委員会に救済申立てしたところ、労働委員会は「救済の審理対象にあたらない」として申立てを却下した。この却下決定の取消しを求める裁判である。

ALTは、英語の授業において、学級担任または教科担当教員と共にチーム・ティーチングを行う。授業だけでなく、指導教材の準備・作成の補助、言語や文化的背景に関する情報の提供、児童生徒との会話や交流など幅広い役割が期待されており、小学校から高校まで日本全国で約2万人存在する。JET(語学指導等を行う外国青年招致事業)、民間事業者の労働者派遣、請負及び自治体直接雇用などの雇用形態がある。問題となっているのは自治体直接雇用のALTだ。

●訴訟をおこすに至った経緯

当該労働者は、1981年にアメリカから来日、2003年4月以降、「特別職非常勤職員」として東京都に任用され、ずっと都立高校でALTとして働いてきたMさんと、1995年にアメリカから来日し、2015年4月以降勤務してきたAさん。2人とも、2020年4月に一方的に会計年度任用職員に切り替えられた。

2人は以前から、ALTの待遇向上や国籍差別の改善などを求めて、東ゼン労組という労働組合に加入していた。2人が特別職非常勤職員だった時は、労働組合は2人の雇用主である東京都教育委員会に対して、非常勤労働者の雇止め問題について団体交渉を実施してきた。

ところが、会計年度任用職員制度発足後の2020年7月、労働組合が都教委に対して、新型コロナウイルス感染症の対策や安定した雇用などを求める内容の団体交渉を申し入れたところ、都教委は「会計年度任用職員には労働組合法が適用されない」として団体交渉に応じることを拒否し、以後、一切の話合いを拒否した。そこで労働組合は東京都労働委員会に救済申立てを行うが、2022年7月、申立ては却下された。東京都が任用するALTは、昨年度と就労状況や仕事の内容は全く変わらないのに労働組合で闘う権利を一方的に奪われたということになる。

組合は、会計年度任用職員制度の施行によって、非常勤公務員から労働条件の維持向上の手段が奪われ、もともと不安定・低賃金雇用を強いられてきた非常勤公務員がさらに不安定な地位に追い込まれた状況を社会に訴え、問題を改善するために提訴を決意した。

●許されない労働基本権剥奪

1990年前後から、特別職非常勤職員は労働委員会を活用して団交権を確立しようとし、非正規公務員の雇用安定や均等待遇実現に向けての取組みを重ねてきた。原告組合も2019年3月には組合員の継続雇用について団交を実現し実質的に雇止めを食い止めるなどしている。特別職非常勤職員にとって、状況によってはストライキを構え、労働委員会への不当労働行為救済申立てを背景として団体交渉を行うことができる、労働基本権は大切な武器であった。

会計年度任用職員制度によって、労働組合法の適用が排除されるとすれば、ストライキを行うことはできず、労働委員会は使えず、労働組合制度ではなく職員団体制度を強制される(職員団体は、事前に登録しなければ当局を交渉に応じさせることができず、交渉事項が地公法で限定され、雇止めや次年度の任用に関する交渉については「管理運営事項」として切り捨てられる可能性がある)。

会計年度任用職員は、任期1年で身分保障もない。勤務条件は規則で定められていることが多く、法律で決まっているわけではない。効果的な代償措置も存在しない。とすれば、定年までの雇用が保障された常勤公務員と異なり、労働基本権を制限する理屈は全く成り立たない。

●裁判の経過

論点を整理する中で、裁判長から、被告東京都に対して、「立法事実や法制度の検討経過などについて説明できないのではないか。総務省を巻き込んではどうか」という提案があった。

そこで、原告側からは、今年4月に総務省に対して照会したい事項を提出した。具体的には、会見年度任用職員制度を制定した目的、代償措置が設けられなかった理由、自治体の特別職非常勤公務員採用の裁量の範囲などである。

総務省は、今後訴訟の当事者として訴訟に参加することが予定されている。

私たちは、今回の裁判を通して、非正規公務員の置かれた状況を可視化し、労働基本権の確保と労働条件の改善につなげていきたいと考えている。

以上

 

<第2 122号雇用政策条約について>

1 私たちは、2024年2月公表のILO専門家委員会の「見解」を大いに歓迎します。

① 専門家委員会が日本政府に対して、a)「新制度実施5年後の改善」を促し、b)「すべての利害関係者との協議」を求めていること、は極めて重要な指摘と受け止めています。

② つまりILOが、a)「新制度は改められるべき」と判断し、b)「(改善に向けて)自治体非正規公務員の当事者及び労組と協議すべきこと」を強く求めている、と理解しているからです。

2 東京都で、スクールカウンセラー250名が「公募不合格」で雇止めされました!

① 2024年3月、東京都はスクールカウンセラー約1,500名の内、250名を3月31日に雇止めにしました。「5年公募制」により再度任用がされなかったためです。総務省の考え方を体現する東京都教育委員会の指導企画課は「雇用機会公平性の確保のため。スクールカウンセラーをやりたいという市民の方々に広く挑戦する機会を持ってもらうため」と説明しています。もっともらしいですが、屁理屈にすぎません。今働いている人を辞めさせて、新しい人を雇い入れる。このようなやり方が肯定されれば、雇用の安定を図ることはできません。毎年毎年、自治体が率先して失業者を大量に生み出す。このような雇用政策が社会的に許されるものではないことは明らかです。

② 思わぬ雇止めに、当事者はもちろん配置先の学校でも困惑が広がっています。東京都は毎年「勤務評定」を行っています。新聞報道では、ある校長は「勤務評定は毎年A評価としていた。突然(慣れた人が)いなくなるのは困る」と語っています。保護者の方からも「息子の成長を見守ってくれるパートナーを失うことに等しくて不安」と話しています。校長の「勤務評定」は考慮されず、専門性のない面接担当者の判断で採用・不採用が決められています。

③ 東京公務公共一般労働組合心理職ユニオンは、継続雇用を求めることと合わせて、雇止め(不採用)とした理由や採用基準の説明をするよう団体交渉で求めています。しかし東京都は「管理運営事項である」として拒否しています。心理職ユニオンは「勤務年数の多いSCが雇止めになるなど、狙い撃ちの疑念が尽きない」「雇い止めの理由を説明しないのは民間では違法」と語っています。

3 雇止めの現状を把握しようとしない総務省

① 2023年総務省調査によれば、会計年度任用職員は約97万人で、かつ約80%の自治体が「毎年公募制」や「3~5年公募制」を採用しています。このような制度の下で、毎年何人くらいの会計年度任用職員が雇止めされているのか? が私たちの最大の関心事です。私たちは総務省に雇止めなどの状況を全国調査することを求めてきましたが、頑なに拒否しています。

② そこで私たちは「大量離職通知書」に着目しました。日本の「労働施策総合推進法」で、「30人以上の離職者が生じる場合」は「1ヶ月以上前」に、「公共職業安定所に届出る」ことが義務となっています。やむを得ず雇止めをする場合は事業主と「公共職業安定所」が連携して、再就職を促進するためです。

③ しかし、国や自治体は長年にわたりこの届出を無視してきました。このため、私たちは厚労省との話し合いを重ね、自治体に提出を促すよう働きかけてきました。その結果、2023年6月27日に厚労省、6月28日には総務省が、それぞれ「大量離職通知書」提出を自治体に促す通知を発出したのです。

④ 自治体の場合は年度末の3月31日が契約期間満了となり、雇止めを含めた離職者が最も多く生まれます。そこで私たちは厚労省に「提出された大量離職通知書」の情報公開請求に取り組みました。その結果、235自治体機関から提出され、会計年度任用職員がほとんどを占める非常勤職員29,343人が離職を余儀なくされていることが判明しました。

⑤ しかし、私たちは提出義務のある自治体の大半が未だ提出しておらず、この結果は「氷山の一角」ではないのか? と考えています。このため、私たちは首都圏4都道府県の「人口10万人以上の106自治体」に離職者数の情報公開請求を行いました。そこで明らかになったことは、多くの自治体がa)離職者数を把握していないb)自治体の責務とされている「離職者への再就職支援」が全く行われていない、つまりc)自治体が、雇用主としての責務の自覚がないまま雇止めしている、ということでした。

※現在集約中で、集約後に追加の情報提供する予定です。

4 人事院と総務省は「3年公募制」廃止を打ち出しました。

① 2024年6月28日、人事院は「3年公募制廃止」の通知を発出し、総務省はQ&Aから「国では3年公募制」との記述を削除しました。労組と非正規当事者団体、国会と自治体議会、研究者や報道関係者などの、長年にわたる取組の大きな成果です。

② しかし全く残念なことに、総務省がQ&Aを改定するにあたって、私たち4労組との協議は一切行われていません。私たちの申し知れにより、6月20日に総務省公務員課と面談することができましたが、新制度の改善について「(改善内容と協議すべき団体については)検討中」と、具体的な回答は得られませんでした。

③ 私たちは会計年度任用職員制度発足以降、自治体に対して「模範的使用者」であることを求めてきました。「3年公募制」などによって自治体が率先して失業者を生み出すことを、直ちに中止するよう求めてきました。これらの取組などを踏まえた国会での質疑の一例として、2024年5月13日の伊波洋一参議院議員の質疑を資料として、末尾に添付しました。

5 現実に「3年公募制」を廃止するためには、各省庁や自治体に廃止の決断を迫ることが欠かせません。

① 総務省が「3年公募制」を削除したとはいえ、「各自治体の判断」としているからです。さらに言えば、総務省はいまだ「1年ごとの任用=毎年改めての採用と試用期間」、「会計年度任用職員を繰り返し任用することは、人材配置や身分・処遇の固定化などの問題を生じさせるおそれがある」、「長期任用を避けるべき」との考え方を維持しています。この助言によって「長期任用を避けるためにはどこかで任用を打ち切る必要がある=3年公募制を維持する」自治体が少なくないと推測しています。

② 公募不合格で雇止めする場合、具体的な理由を説明する必要はありません。裁判で争っても「ほかにもっと良い人がいたから」、「任命権者の裁量」と退けられています。1994年に最高裁が、国の非常勤職員の雇止め裁判で「再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものとは認めることはできない」と判示しました。この判示により、国・自治体は広範な裁量権を手にしています。ましてや「公募不合格」であれば、理由を言わずに雇止めすることができます。会計年度任用職員が、解雇理由をめぐって裁判で争う可能性をも奪う制度といっても過言ではありません。

③ 総務省が「3年公募制」廃止を打ち出す直前に、東京都調布市が「5年公募制」廃止を決断したことが報じられました。理由はa)「(今働いている人に)継続して働いてもらう方が現実的」b)「採用者側も労働者側も双方の負担軽減につながる」c)「組合協議を経て撤廃を決めた。」、とのことです。

④ この調布市の理由はすべての自治体に当てはまります。私たちは引き続いて廃止に向けた取り組みを進めていきます。

6 「有期雇用の乱用防止」を公務員にも実現させることを求めます。

① 残っている課題は、公務員にも「有期雇用の乱用防止」を実現することです。

公務員法制は「入口規制(有期雇用は一時的・臨時的業務に限定する)」を採用してきました。しかし、2017年の地公法改定で、この入口規制を放棄し、「臨時的・一時的」ではない恒常的業務に「1年有期雇用」を導入したのです。

② 私たちは何よりもまず、非正規公務員にも「入口規制=恒常的業務には無期雇用」を求めます。そして最低限、「出口規制」である労働契約法の「無期転換」を非正規公務員にも適用することを求めます。

③ 残念ながら裁判には全く期待できない現状から、私たちはILOなど国際機関への働きかけをいっそう強め、国際機関からの日本政府への勧告を活用して運動を進めていくつもりです。

 

<結語>

以上の通り、私たちは日本政府が非正規公務員に対して、① 労働基本権を直ちに回復すること、② 恒常的業務には無期雇用を確保すること③当事者および当事者労組と協議を尽くすこと、を求めます。

ILO専門家委員会が、上記3点について直ちに実現することを強く日本政府に働きかけることを要請します。

以上

 

資料:国会議事録:伊波洋一参院議員 

第213回国会 参議院 行政監視委員会 第4号 令和6年5月13日

 

○伊波洋一君 ハイサイ、沖縄の風の伊波洋一です。

地方自治体における会計年度任用職員制度について伺います。

〔委員長退席、理事鬼木誠君着席〕

資料①のように、現在、会計年度任用職員は、二〇二〇年に六十二万人、二〇二三年度に六十六万人です。資料②、③は、雇い止めでベテラン司書が首になった図書館の物語です。是非読んでいただきたいと、このように思います。

今月五月八日に沖縄県の県労連は、資料④のとおり、県内自治体を対象に会計年度任用職員の離職実態調査を公表しました。二四年三月末の全体の離職者数は三千三十六人で、うち再度の任用が実現せず雇い止めに遭った方が二千二百四十六人だということが明らかになりました。また、労働施策総合推進法に基づき事業所ごとに三十人以上の離職者が出る場合に提出が義務付けられている大量離職通知書についても、報告を行った自治体は四十二のうち五自治体にとどまっていました。三千三十六人というのは沖縄県内の全非正規職員の約二割に上ります。本人の意思に反して、任期満了を理由に雇い止めに遭い、しかも大量離職通知も出されていません。

様々な任用形態にあった自治体非常勤職員を法律に位置付けて、任用と待遇の適正化を図るものとして会計年度任用職員制度が施行されたのが二〇二〇年です。

総務省によれば、二〇二三年四月の時点で全国に六十六万一千九百一人の会計年度任用職員がおり、役所の半分以上を会計年度任用職員が勤めている職場も少なくありません。多くは臨時的、一時的な家計補助的なパート労働ではなく、生計の主たる担い手です。年収二百万から三百万程度の極めて低い賃金水準を強いられており、官製ワーキングプアを生み出しています。就労する七割以上が女性であり、女性に対する間接差別ではないかと厳しく批判されてもいます。

二〇二〇年度からの三年は、まさに社会全体が新型コロナウイルス感染症に苦しめられていた時期です。その深刻な時期にエッセンシャルワーカーとして公共サービスを支えていたのが、この七十万近い会計年度任用職員の皆さんです。二〇二二年度末にかけて、その皆さんが再度任用は二回までとされて、継続雇用する人は三年経過後に改めて自治体の公募に応じて選考を受けなければならず、大量雇い止めに遭うのではないかという二〇二二年末問題が危惧されていました。

沖縄県で雇い止めに遭った会計年度任用職員の割合は全体で約二割です。毎年七十万人近い職員の約二割が公募、雇い止めされるとすれば、全国で毎年度末に十四万人から十五万人の方々が失業するという極めて深刻な事態が、国が法律で生み出した制度によって繰り返されることになります。しかも、一事業所で三十人以上の離職が生じる場合には地域労働局に大量離職者通知を提出することが法的に義務付けられています。しかし、沖縄県の事例のように、自治体が法的義務を無視して大量離職通知を出さない実態が広がっています。

〔理事鬼木誠君退席、委員長着席〕

厚労省に伺います。自治体に大量離職通知書を促してきたと思いますが、自治体はきちんと取り組んでいるのでしょうか。二〇二二年度末に大量離職者通知を提出した自治体はどのくらいで、そして離職した人数は合計はどれぐらいでしょうか。

○政府参考人(石垣健彦君) お答え申し上げます。

大量離職通知書制度の趣旨は、会計年度任用職員も含めまして一時的に大量の離職者が発生する場合に、ハローワークが事前に状況を把握し、離職者の再就職支援に迅速かつ的確に対処できるよう、大量離職通知書の提出を義務付けているところでございます。

二〇二三年二月及び三月に大量離職通知書を提出した地方公共団体は五十九機関でございまして、離職した非常勤職員の数は、会計年度任用職員のほか、短時間勤務の職の方も含めまして七千四百十六人となっております。

大量離職通知は一つの事業所で一か月三十人以上の離職者が生じる場合に国に報告をいただくこととなっておりますので、全てを対象としているわけではございませんけれども、改めて本制度について周知徹底を行うため、令和五年六月に通知を発出するなど、地方公共団体に対する周知を行っているところでございます。

離職者の雇用の安定を図るため、今後とも、機会を捉えて地方公共団体向けに周知を図ってまいりたいと考えております。

以上です。

○伊波洋一君 全国で千七百自治体があるわけでありますが、そのうちで提出したのは五十九団体でしかない。さらに、より多くの皆さんが今回離職したと思いますけど、七千四百十六人しかいない。極めて少ない、沖縄の例と同じように極めて少ないと言うべきです。

二〇二二年度末問題については、当事者団体から国会に働きかけを受けて、総務省も、建前上は会計年度の任用だから原則は一年限りとしながらも、問題なく働いていた方々が就労継続を希望する場合は、任用期限切れのみをもって機械的に不合格にしたり雇い止めにするということは避ける思いもあって、二〇二二年十二月の事務処理マニュアル改定を資料⑥のように取り組みました。丁寧な見え消しの改定です。

この総務省のマニュアル改定では、公募選考において従前の勤務実績に基づくことも認め、これまで再任用は原則二回までと誤解されてきた国の非正規職員である期間業務職員の原則二回までの再任用という文言についても、あくまで一つの例示であり、具体的な扱いは地域の実情に応じて実施してよいとする考えも示しました。

総務省は、このマニュアル改定の通知の趣旨が自治体に周知されたと、理解されたと考えておりますか。理解されたかどうか。二〇二二年末の動きなどについてはどのように考えているんでしょうか。

○政府参考人(小池信之君) 御指摘の事務処理マニュアルの修正につきましては、それ以前の質疑応答においても、できるだけ、できる限り広く公募を行うことが望ましいこと、国の取扱いは例示として示されていること等の内容が記載されていたものと考えていますが、さらにその趣旨をより分かりやすくお伝えする観点から修正をしたものです。

具体的には、公募等において国の取扱いと同じ取扱いをしなければならないかとの問いを追加するなどした上で、各自治体において、平等取扱いの原則及び成績主義を踏まえ、地域の実情等に応じつつ、適切に対処、対応していただきたい旨助言しているところであり、その趣旨は自治体にも伝わっているものと考えております。

○伊波洋一君 理解されるかどうかは、二〇二二年度末の会計年度任用職員数、あるいは、そしてまた、現職のうちの公募に応じた人数、そして、合格し再任用された数と不合格となり雇い止めになった数などについて実態調査をして、実態調査、具体的な数字を把握しなければ検証できませんが、総務省として調査を行いましたか。また、行っていないのであれば行うべきでありませんか。

○政府参考人(小池信之君) 委員御指摘の、現職のうち公募に応じた人数ですとか、合格し再度任用された数、不合格となり雇い止めになった数のような特定の属性の人の応募状況や合否に関する調査につきましては、各自治体の具体的な任用に関わることでもあるため、総務省において調査をすることは考えておりませんけれども、会計年度任用職員制度の施行状況につきましては、先ほどの出ました事務処理マニュアル修正後の令和五年四月一日現在で、会計年度任用職員数や公募によらない再度の任用回数の運用状況などを調査をしているところでございます。

○伊波洋一君 やはり、実態を把握しないのであれば、通知の実効性が検証できません。

委員長、二〇二二年度末の全国の自治体ごとの会計年度任用職員の数、現職のうち公募に応じた人数、そして、そのうち合格し再度任用された人数、不合格となり雇い止めになった人数などについて総務省において調査し、本委員会に提出するようお取り計らいください。

○委員長(川田龍平君) ただいまの件につきましては、後刻理事会において協議いたします。

○伊波洋一君 総務省は、このような会計年度任用職員の雇い止めに際して、「複数回の任用が繰り返された後に、再度の任用を行わないこととする場合には、事前に十分な説明を行う、他に応募可能な求人を紹介する等配慮をすること」を自治体に求める通知を出しています。

埼玉県内における自治体の例では、二月や三月になって初めて雇い止めが告げられた、応募可能な求人の紹介などきちんと取り組んでいる自治体はとても少なかった、という実態が報告されています。

この通知は守られていると考えますか。

○政府参考人(小池信之君) 御指摘の通知につきましては、会計年度任用職員に関して、結果として複数回にわたって同一の方を同一の職務内容の職に再度任用している場合に、何の予告もなく再度の任用を行わないことはその方に多大な影響を及ぼすことが想定されるなどの事情を踏まえ、事前に十分な説明を行うなどの配慮が望ましいことを助言しているものでありますが、一律の対応を義務付けているものではございません。

こうした対応を含め、会計年度任用職員の任用に係る具体的な運用につきましては、制度の趣旨に反しない限りにおいて各自治体の判断に委ねられているものであり、各自治体において通知の趣旨を踏まえ適切に対応いただきたいと考えております。

○伊波洋一君 このような日本の会計年度任用職員制度による公務非正規労働の問題については、国際的にも関心が寄せられています。

二月九日に公表された、国際労働機関、ILO第百二十二号条約、いわゆる雇用政策条約に関するILO条約勧告適用専門委員会の二〇二四年年次報告書では、資料⑧のように、委員会は、この情報に注目し、政府に対し、この新制度、つまり会計年度任用職員制度の実施五年後に、公共部門における潜在的な不十分さを特定し、雇用政策を改善することを目的とした評価を実施する意向があるかどうか示すよう要請する、と記載されています。つまり、二〇二〇年に開始された会計年度任用制度について、実施五年後の二〇二四年末時点でどのように改善するか、あるいは改善したかどうかという報告がILO専門委員会から求められているわけです。

日本政府として、この要請にどのようなプロセスで対処をすることになるんでしょうか。

○政府参考人(富田望君) お答え申し上げます。

国際労働機関憲章に基づきまして、加盟国が批准した条約の実施状況について数年ごとに年次報告を提出しておりますけれども、条約の実施状況を監視するILO条約勧告適用専門家委員会から指摘があった場合には、その条約に係る年次報告において当該指摘に対する政府意見を提出しております。

御指摘の第百二十二号条約につきましては、現時点で二〇二六年に年次報告を行うこととなっており、その際に今回の御指摘に対する政府意見を提出することが予定されております。

○伊波洋一君 今申し上げたように、会計年度任用職員制度の見直しについては、ILOも問題を認識して、日本政府の対応に注目しています。この答弁のようにこれまで何度もやっておりますけれども、これ自治体の問題であるかのような言いぶりで解決する、そのままにしておくわけにはいかない問題だということをまず認識してほしいと思います。

当初、様々な任用の形態をきちんと法律で定め、正規職員との格差を是正する、待遇と任用の適正化という目的で、善かれと思って会計年度任用職員制度が創設されたこと、それに沿って総務省が努力してきたことは一定評価します。

確かに、正規職員に準ずるような形で待遇面を整備しなさいというルールは明確になりました。しかし、会計年度任用職員の雇用の不安定さは、既に正当化できる範疇を超えています。

スクールカウンセラー、保育士、各種相談員、図書館司書など継続的な人間関係が重要な対人サービスの職種、本来正規雇用されるべき職種が会計年度職員の皆さんに担われています。これまで継続雇用されて、長年にわたって公共サービスを担い、専門的な知見を蓄積し、地域とのつながりを育んできた非正規の方々が、会計年度任用職員制度が導入されたことによって、本人が継続雇用を希望して公募に応じた後、年度末の任期で雇い止めになり、雇用が不安定になっています。結果として、職場が混乱し、公共サービスの質も低下しています。

正規職員と非正規という上下関係ができ上がって、しかも、年度末に任期が継続されるかどうかについての、常に不安定な状況に置かれる会計年度任用職員がハラスメントの標的にされる事例も数多く報告されています。誰にとっても全く利益をもたらさないような、そういう制度になりつつあります。

毎年、七十万人のうち十万人から二十万人が解雇されること、制度化されて、地方自治体がそれを行い、国が法律でこれを後押しするような実態を放置することは許されないでしょう。

現在、民間の有期雇用の皆さんは、五年間で無期雇用に転換するという労働法制が実現しています。しかし、国と地方の労働、公務労働には、無期転換のルールは適用されていません。公務労働にこそ、民間に率先して雇用の安定といった労働政策の基本的な理念が実現されるべきではないでしょうか。

会計年度任用の雇用の安定は、一義的には自治体の責任ですけれども、政府と、導入した国が求めたものです。会計年度任用職員もILO百二十二号条約にも雇用政策に関する責任は国にもあると考えます。

総務大臣、会計年度任用職員制度は抜本的な見直しを検討しなければならないと考えますが、大臣の所見をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(松本剛明君) 各自治体において住民の皆様に質の高い行政を提供する、その際には効率的に提供することは住民の御負担も考えれば必要な中で、行政需要が複雑化、多様化している中で、どのような職種に任期の定めのない常勤職員に従事していただき、また任期の定めのない常勤職員以外の職員をどのような分野でどのような体制で採用して対応するか、これは各地方自治体に適切に御判断いただかなければいけないところだというふうに思っております。

その上で、非常勤・臨時職員の任用、処遇上の課題に応えるべくこの会計年度任用職員の制度を導入したことは今委員も御指摘をいただいたとおりで、特に処遇の改善という意味で、期末手当を支給可能とし、また勤勉手当も支給可能とし、また給与改定に係る取扱いについても常勤職員に準じて改定するように、委員がお示しいただいた資料にも記載がございますけれども、処遇改善に努めてきたところでございます。

そういう意味で、本日は雇用の安定についての御質問であったかというふうに思いますが、今申しましたように、どのように体制を取られるか、各自治体の判断の中で、先ほど公務員部長からもお話をさせていただいたように、継続して雇用することの取扱いについても丁寧に御説明をさせていただいてきたところでございまして……

○委員長(川田龍平君) 時間ですので、お答えは簡潔に願います。

○国務大臣(松本剛明君) 是非、この制度の趣旨に沿って運用していただきたいと思いますし、最終的にはどのような方にサービスを提供いただくことが住民に一番大きく資するのか、その意味で、引き続き雇用いただく方も含めて御判断をいただくようにお願いをしたいと思っておりまして、特にどのような人事を行うのかというのは地方自治の……

○委員長(川田龍平君) 時間ですので、お答えは簡潔に願います。

○国務大臣(松本剛明君) はい。

において、各自治体において適切に御判断いただけるようお願いをしていくとともに、我々としてはしっかりこれを支えていくようにいたしたいと考えております。

○委員長(川田龍平君) 申合せの時間が参りましたので、質疑をおまとめください。

○伊波洋一君 この件については引き続き取り組んでまいりますけれども、今年度中にILOへの報告がきちんとできるような解決策を求めて、終わりたいと思います。

ありがとうございました。

 

 

 

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