NPO法人官製ワーキングプア研究会が発行する『レポート』第43号(2023年8月号)への投稿原稿です。どうぞお読みください。
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【お詫び】札幌市会計年度任用職員の2022年度末の離職者数は、570人ではなく561人でした。お詫びして訂正します。詳細は下記をご覧ください。(2024年1月10日記)
■川村雅則「(お詫び)札幌市の会計年度任用職員の離職者数の訂正」『NAVI』2024年1月10日配信
https://roudou-navi.org/2024/01/10/20240110_kawamuramasanori/
会計年度任用職員の3年公募の結果・離職の状況などを調べよう
川村雅則(北海学園大学)
会計年度任用職員に対するいわゆる3年公募が2022年度末(2023年3月)に多くの自治体で行われました。
実際には、能力や経験の点から現職が公募で受かって継続的に任用されたケースが多かったのではないかと思います。そもそも、そうしなければ(職員の大勢が入れ替わる事態が発生したら)行政・公共サービスがまわらないのが実状ではないでしょうか。
図 公募問題を検証する上で把握・整理すべき基礎データ
出所:筆者作成。
図には、この公募問題を検証する上で把握すべき基礎データをあげてみました。(a)何人の職員が公募(3年公募)の対象となり、(b-1)そのうち何人が公募を受けて、(c-1)そのうちの何人が継続任用されたのか、あるいは、(c-2)何人が不合格で離職を余儀なくされたのかを明らかにする必要があります。また、(b-1)に関連して、公募への応募がどの位あったのかの把握も必要です。
(c-2)不合格者については、その理由を明らかにする必要があります。合理的とは言えない理由で離職を余儀なくされたという元職員からの告発も見聞きします。後で述べる「再就職のための措置」があったかの確認も必要です。加えて、(b-2)公募に応じずに離職を選んだ者の人数とその理由も明らかにすべきでしょう。自発的な離職は、公務職場や任用のあり方に対する異議申し立ての可能性もあります。
なお、3年公募といっても、途中で離職者や新規の職が発生すれば、そこから3年が開始されますから、3年公募の対象が大量に発生する基本年(2022年度末の次は25年度末)以外にも公募は行われている点に注意が必要です。
さて、筆者もこのたび、札幌市からのヒアリングと提供資料に基づき、札幌市の公募制と離職に関する調査の結果を取りまとめました。
当研究会の過去の『レポート』にも書きましたとおり、札幌市の場合には特殊な任用ルールがあります。(1)他の自治体では、公募に受かり続ければ、同じ職場・同じ仕事で働き続けることが可能であるのに対して、札幌市の場合には、同じ部で働くことができるのは3年が原則であって、その後も働き続けることを希望する場合には、他の部に移らなければなりません。マンネリ化、モラルや士気の低下を防ぐことが目的と説明されています。(2)一方で、この同一部3年ルールには例外(同一部の考え方の例外、任用限度の例外、公募の例外)が設けられていて、その対象は少なくありません。(3)加えて、旧制度下から継続任用されている職員の一部は、公募なしで65歳までの任用が可能になっています。
以上のような制度の複雑さに加えて、市に登録・整理されている情報の制約という事情もあって、さほど複雑ではないはずの調査や結果の取りまとめに苦労しました。
それでも多くのことが明らかになりました。
例えば、ある年度末(一時点)において3年公募の対象となる職員数は数多いことです。4000人強の会計年度任用職員のうち2022年度末で任用期間が3年に到達する職員数は1620人でした(札幌市では、旧制度の経験も含めて3年のカウントがされていたので、22年度末を待たずに3年公募はすでに発動)。そのうち「同一部の例外職場の職員数」は710人でした。彼らは、勤務場所を変更すれば、公募を経た上で、同じ部でも勤続は可能です。言い換えれば、同じ仕事で働き続けるには(部は同じでも)勤務場所は変更しなければなりません。例えば、保育所、学校、図書館がこの例外ルールの該当先です。
労働施策総合推進法第27条に基づく大量離職通知書も入手しました。
(1)2022年度末の札幌市会計年度任用職員の離職者数は、561人です。2023年3月1日から31日までの札幌市の「非常勤職員」の離職者数は、570人です。全員が3年公募の対象者というわけではありません。予想外に、短期で離職している職員が少なくありませんでした。例えば、2022年度当初に任用され1年間働いて年度末に離職した者だけで156人に及びます。離職は自己都合によると推測されるとのことでしたが、その自己都合の中身を調べることが課題です。
(2)通知書の「⑦再就職のための措置」や「⑧再就職先の確保の状況」の記載はありませんでした。記載していない理由は、原則として3年で公募にかけられることは当事者に伝えていることや、部を移れば会計年度任用職員として働き続けることは可能であるから、と説明されました。
課題を多く残す不十分な調査成果に終わりましたが、拙稿をお読みの上、各地の取り組みに役立てていただければ幸いです。
さて、3期目となる札幌市長が施政方針を発表しました(2023年6月12日)。「誰もが、住み慣れた地域で自立した生活を送り、社会との関わりの中で、生きがいを感じながら充実した毎日を過ごすことができる、そのような街をつくり上げていくことが求められている。」との問題意識や、「誰もが安心して暮らし生涯現役として輝き続ける街」が「私が描く未来のさっぽろ」として披瀝されています。公共サービスの従事者であり札幌市民でもある非正規公務員の存在は、任命権者である市長の視野に果たして入っているでしょうか。
(追記)
本文中でふれた、今回取りまとめた拙稿の情報や、参考文献の情報は、紙幅の都合で『レポート』には掲載できませんでした。以下のとおりです。
(今回取りまとめた拙稿)
川村雅則(2023)「札幌市非正規公務員(会計年度任用職員)調査報告」『北海学園大学経済論集』第71巻第1号(2023年6月号)pp.17-37
(参考文献)
川村雅則(2021)「札幌市の会計年度任用職員制度の現状──2021年調査に基づき」『北海道自治研究』第634号(2021年11月号)
川村雅則(2022)「札幌市会計年度任用職員制度における「同一部3年ルール」の例外について」『北海道労働情報NAVI(以下、NAVI)』2022年1月7日配信(2022年1月25日追加更新)