竹信航介「『非正規働き続けたいのシンポ』のご報告」

「非正規/働き続けたいのシンポジウム」が無期転換阻止プロジェクト主催・日本労働弁護団北海道ブロック共催で2023年3月7日に開催されました。シンポジウム当日の状況が、報告者のお一人である竹信航介さん(弁護士)によってまとめられ、日本労働弁護団の発行する労働弁護団通信No.360(2023年5月発行)に掲載されました。

当日の5人のご報告(報告順に掲載)とあわせてどうぞお読みください。

 

竹信航介「雇い止めと無期転換について」

パタゴニアユニオン「パタゴニア日本支社に非正規スタッフへの無期転換逃れ撤回を求めます」

東海大学教職員組合「無期転換逃れに対する非常勤講師組合のたたかいと、懸念される文科省の動向」

くしろ児童厚生員ユニオン「釧路市の学童保育にみる会計年度任用職員制度と労働組合の取り組み」

川村雅則「3つの雇い止め・無期転換逃れ問題の整理と、雇用安定社会の実現に向けて」

 

 

 

 

「非正規働き続けたいのシンポ」のご報告

弁護士 竹信航介(63期・札幌アカシヤ法律事務所)

 

 

民主党政権のもとで労働契約法が改正され、非正規労働者のための無期転換ルールが動き出してから10年になります。しかし、このタイミングで、無期転換直前で労働者を雇止めにする無期転換逃れが全国で問題になっています。また、非正規公務員には、無期転換ルールが適用されず、3年で雇止めにされる運用や、既存の非正規公務員を切り捨て公募により新しい非正規公務員を任用する運用が横行しています。

「ムキムキプロジェクト」(無期転換逃れ阻止プロジェクト)は、このような労働者の生活の安定を壊し、公務員の仕事の専門性を愚弄する雇止めに対抗するプロジェクトです。この運動を具体化し、労働者の連携を深めるために、2023(令和5)年3月7日、ムキムキプロジェクト主催、日本労働弁護団北海道ブロック共催による、「非正規働き続けたいのシンポ」が開催されました。会場参加とオンライン参加を合わせると75名の参加者がありました。

当日は、開会挨拶に続き、まず筆者が無期転換ルールといわゆる無期転換逃れの法律上の説明を行いました。

これに続いて、現状の3つの壁・不条理といえる、(1)更新限度条項の挿入による雇止め法理及び無期転換ルールの潜脱、(2)大学や研究機関の非常勤講師への「特例」(10年ルール)の適用、(3)公務員の会計年度任用職及びその雇止めの濫用にそれぞれ直面する当事者から報告が行われました。

(1)については、パタゴニアユニオン代表の藤川瑞穂さんから報告がされました。藤川さんは、2019年にパートタイマーとして、環境問題への取り組みで有名なアウトドアウェアブランド・パタゴニアの日本支社で働き始めましたが、当初から「この契約は5年までだから」といって更新限度条項が付された契約を結んでいました。パートタイマーとしての契約が終わっても、社員に登用されることもできると聞いていたので、最初はあまり更新限度条項を意識していなかったといいますが、入社から2年余りが経った時期に、同僚のパートタイマーが突然退職し、その背景に無期転換逃れがあることがわかったことから、自分にも更新限度条項による雇止めがあるということを意識し、札幌地域労組に相談・加盟するに至りました。

団体交渉では、会社側から「5年上限ルールは労働契約法18条に対応するため」と正面から無期転換逃れの意図を表明されたほか、「スタッフを入れ替えてフレッシュにしたい」と言われたそうです。藤川さんは、フレッシュという言葉を人間に対して使うことにショックを受けたといいます。

そうして2022年7月にはパタゴニアユニオンを結成し、マスコミにも報道されたのですが、会社の無期転換逃れの態度は変わらず、労働協約の締結も拒否され、さらには札幌地域労組からの郵便物の取り次ぎもされないという状況でした。このような対応は不当労働行為に当たると思われます。

このように、具体的な成果は得られていないものの、今後も権利のために闘う決意を表明されました。

(2)については、東海大学教職員組合執行委員長の佐々木信吾さんから報告がされました。東海大学では、70年間組合がなく、非常勤講師も他大学の倍以上のコマを依頼されて生活してきたのですが、大学側は科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(イノベ法)・大学の教員等の任期に関する法律(任期法)を理由に5年での無期転換を認めず、無期転換には10年の勤続が必要であると主張した上で、理由なく多数の講師に雇止め通告をメールで出してきました。そこで非常勤講師らは組合を結成し、裁判も起こしました。ストライキも実施したところ、1人について雇止めを撤回させるという成果を得ました。

裁判では、イノベ法や任期法の適用対象は研究職に限られるのに、大学は非常勤講師を研究職として扱ってもいない、研究者名簿にも載せていない、科研費の申請の便宜さえ図ってもらえない、そういった状況にあるわけですから、イノベ法、任期法が適用できるわけがない、と主張しています。

裁判は時間がかかり、その間に組合員の9割は雇止めされることが確定的状況ですが、今後も団結を強めて闘っていきたいと決意が表明されました。

また佐々木さんからは、問題の背景には、基幹教員制度を文科省が打ち出し、非常勤講師や有期の専任教員の大学や学部をまたいだ兼務がより広く認められるようになる結果、こうした教員の総数が削減されるということや、教員の待遇が大学の裁量に大幅に任されることによって、企業の役員や元役人のために人件費が集中し、ひいては大学の研究力が低下することも懸念されるといった問題の指摘もありました。こういった風潮に対抗していくために、専任教員も含めた労働者の連帯が必要だという訴えがされました。

(3)については、くしろ児童厚生員ユニオン特別執行委員の中谷公子さんから報告がされました。釧路市で学童の職員として働いている中谷さんは、18年前に組合を作り、法律という縛りがあって処遇が改善せず、人が少なくて子どものための保育が制限される中で働いてきました。2020年度から、臨時非常勤だった肩書が会計年度任用職員制度に変わりました。会計年度任用職員制度を導入するにあたって、国が国家公務員の臨時非常勤は3年に一度公募するという例を出してしまったことから、3年に一度公募する、つまり人を入れ替える形が各自治体に広まってしまいました。次の年に仕事があるかないかも分からないような職場になってしまい、一層人が来なくなることへの懸念が表明されました。

当事者からの報告を、北海学園大学経済学部教授の川村雅則さんが総括し、パネルディスカッションも行われました。

最後に、各地で、無期転換、労働者のエンパワーメントの実現に取り組んでいくことを提起するべく、会場全員で独自の決めポーズをとって終会となりました。

なお、2023年4月23日時点では、当事者の報告及び川村教授の総括の詳細(並びに筆者の報告の概要)を、「北海道労働情報NAVI」(https://roudou-navi.org/)で読むことができますので、関心のある方はご参照ください。

 

シンポジウムのようす。当日は70人を超える参加がありました。

 

 

 

竹信航介さんら日本労働弁護団北海道ブロック団員による記事は、こちらから。

 

 

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