理研非正規問題解決ネットワーク「理研労が文科省に要請 理研の雇い止めに手を貸すな!」

理研の非正規雇用問題を解決するネットワーク(理研ネット)発行による「理研非正規問題解決ネットワーク」第7号(2022年12月)の転載です。

なお、理研ネットでは、2023年1月16日に文科省・厚労省に対して、理研に対して雇止め撤回の指導を行うことなどを求めたオンライン署名を開始しました。

署名はこちらから https://chng.it/sjH5JkTv 

署名へのご賛同ならびに拡散のご協力を、なにとぞよろしくお願いいたします。

発行:理研の非正規雇用問題を解決するネットワーク
〒353 0001 埼玉県志木市上宗岡 3 丁目 11 47 北足立南部地区労働組合 協議会内
連絡先: rikenhiseikinet@gmail.com

 

 

理研労が文科省に要請 理研の雇い止めに手を貸すな!

 

理化学研究所労働組合は12月23日、参議院議員会館で、理研が強行しようとしている約400人の雇い止めの撤回を指導するように文部科学省に要請しました。

大学・研究機関の有期雇用の研究者が、来年3月末で大量に雇い止めされるおそれがある問題で、文科省が各大学、研究機関に対し、無期転換逃れの雇い止め・解雇は「望ましくない」として円滑な無期転換を依頼する通達を11月7日付で送っています。

一方通達は、理研が9月30日に発表した「新しい人事施策の導入について」を改善に向けた参考例として紹介しています。

理研は3月末の雇い止めを強行

新人事施策は雇用上限を撤廃するとしていますが、それは来年4月からで、理研は通達が「望ましくない」としている3月末の雇い止めを強行しようとしています。

理研労の金井保之委員長は、通達から理研の例を削除することを求めました。雇い止めの危険にある研究者らが受給しているプロジェクト研究のための競争的資金は105件、8億2千万円にのぼるとして、「雇い止めで多数のプロジェクト研究を中断させる理研を評価していいのか。これを認めたら、日本の研究が土台から崩れる」と懸念を述べました。

通達に理研を紹介するのは裁判への介入

雇い止めの撤回を求めてさいたま地裁に提訴している研究者らは、「通達に新人事施策を紹介するのは、文科省が理研の雇い止めにお墨付きを与えているということになる。理研側が裁判で、雇い止めを正当化する証拠資料として、使う可能性がある。文科省は、裁判に介入するようなことはやめるべきだ」と抗議しました。

 

〈理研労の文科大臣あての要請文は以下の通り〉

平素より日本の科学技術の発展へのご尽力、厚くお礼申し上げます。

我々、理化学研究所労働組合は文部科学省所轄の特定国立研究開発法人理化学研究所(五神真理事長)の職員等によって構成されている労働組合です。

理化学研究所は、2023年3月末に380人の研究系職員の雇止め(「10年の雇用上限」による雇止め203人、その影響による雇止め177人)を強行しようとしています。

現在、理化学研究所は第4期中長期計画(2018年4月から2025年3月)に基づいて研究を遂行しており、今年度末で雇止めとなる研究者はこの中長期計画の研究を担っている研究者で、各人が担う研究プロジェクトは継続しています。さらに、「10年の雇用上限」による雇止め203人の内68人には来年度の競争的資金も配分が予定されております。このように、研究プロジェクトは実質的に継続しているにも関わらず、理化学研究所は9月30日に「新しい人事施策について」を発表し、上記雇止め対象者の研究プロジェクトが終了すると誤解を与える文章を発表しています。また、理化学研究所はこの文章中で、現在募集を行っている件数及び今後募集が予想される件数を示し、雇止め対象者が新規募集に採用されると誤解を与えています。募集中の件数、新規募集件数とも、すべての研究分野にわたるものを単に件数だけを合計し示したもので、雇止め対象者の研究分野に合致していない場合には、応募しても採用されることはありません。

また、「新しい人事施策について」において、理化学研究所は「通算契約期間の上限撤廃」を行うとしていますが、実施は2023年4月1日であり、今年度の雇止め対象者に対しては適用されません。さらに、理化学研究所の就業規則の改定では、「通算契約期間の上限」の文言はなくなりますが、「アサインド・プロジェクト」という名称で契約期間の上限を、従事する研究プロジェクト期間とは関係なく任意に設定し、雇止めの正当化を行っておうとしています。この結果、来年度以降も職員が従事する本来のプロジェクト期間に関係なく、雇止めが行われることが危惧されます。

文部科学省は2022年11月7日付けで「貴法人における無期転換ルールの円滑な運用について(依頼)」(4文科科第556号)と題する通知を全国の大学法人、文部科学省所管の研究開発法人あてに発しました。通知は「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めや契約期間中の解雇等を行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない」と明記しています。理化学研究所の雇止めは研究プロジェクトの終了によるものではなく、文部科学省が「望ましいものではない」としている、無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的とした労働契約法に反する雇止めそのものです。

文部科学省は上記通知の中で、法に反する雇止めを行おうとしている理化学研究所の「新人事施策」を、「研究者、教員等の雇用状況の改善に向けた取組例等」として紹介しており、これは文部科学省が理化学研究所の法の趣旨に反した研究職員の大量雇止めを肯定する内容であり、看過できません。即刻、この取組例等からの理化学研究所の例の削除を要請致します。

理化学研究所労働組合は、理化学研究所に対して本年度末の研究系職員の大量雇止め撤回と通算契約期間の上限の即時撤廃を求めて交渉を行っていますが、上記の様に理化学研究所は本年度末の研究系職員の雇止めを強行する姿勢を崩さず、誠実な対応を取っていません。雇止め期日が迫る中、不本意ながら他の研究所、企業、外資の企業に職を求め、あるいは研究職を断念して転職をせざるを得ない研究者が後を絶ちません。監督官庁として、理化学研究所に対して、法の趣旨に反する雇止めの撤回を指導することを要請致します。

 

要 請 内 容

1:「貴法人における無期転換ルールの円滑な運用について(依頼)」(4文科科第556号)の「研究者、教員等の雇用状況の改善に向けた取組例等」から理化学研究所の例を削除すること

2:労働契約法の趣旨に反する雇止め撤回の指導を理化学研究所に行うこと

 

 

理研の雇い止めの違法と「新人事施策」の欺瞞
(理研の非正規雇用問題を解決するネットワーク)

*理研の非正規雇用問題を解決するネットワーク(理研ネット)とは、2018年 11 月に開催された「理研の非正規雇用問題を田村智子参議院議員と語り合う集い」で雇い止めの当事者からの切実な訴えをうけて結成された有志グループ。北足立南部地区労働組合協議会や理化学研究所労働組合の役員、理研OBなどの有志で構成。

 

文科省は11月7日付で「貴法人における無期転換ルールの円滑な運用について(依頼)」と題する通知を全国の大学法人、文科省所管の研究開発法人あてに発しました。通知は「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申し込み権が発生する前に雇い止めや契約期間中の解雇等を行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない」と明記しました。

これをうけて首都圏のある私立大学では11月中旬、大学側から非常勤講師に「文科省から通達があり、雇い止めは撤回する」と表明するなど、いくつかの大学非常勤講師の雇い止めが撤回される動きが広がりました。これは重要な成果です。

しかし、文科省の通知は理化学研究所の「新しい人事施策の導入について」(9月30日)を「研究者、教員等の雇用状況の改善に向けた取組例」として紹介しています。「新人事施策」は様々な問題があり、10月15日に理研ネットとして声明「理研『新人事施策』は雇止め強行宣言」を発しています。にもかかわらず、文科省がこれを肯定的に評価したことは看過できません。

 

悪質な理研の雇い止め

労働法制から見ての問題

理研は、引き続き約400人の雇い止めの強行をねらっています。その違法性はあきらかです。理研は2016年に、事務職員には5年、研究系職員には10年の通算雇用上限を労働組合の反対を無視して押し付けました。その起算日は2013年(平成25年)に遡及しています。

理研はその理由を「平成25年4月1日からとしないならば、雇用期間の長さを基準に自動的に無期転換を可能とする者が多数出ること」となるからとしています(2016年3月17日付理研理事長松本紘「回答書」27特101号)。

まさに無期転換逃れのための雇用上限の押しつけです。

立憲民主党の大西健介衆議院議員の質問に対して、厚生労働省労働基準局長は「有期労働契約の締結後に新たに更新上限を設けることは労働条件の不利益変更にあたる」と国会で答弁しています(2022年10月26日、厚生労働委員会)。労働契約法9条は、使用者は労働者の合意なしに、労働者に不利益な労働契約の変更はできないと定めています。無期転換逃れのために雇用上限を遡及して押し付け、それを口実にして雇い止めを強行するのは違法に違法を重ねる暴挙です。

理研は、2018年にも5年の雇用上限を理由に事務系職員の大量の雇い止めの強行を企てました。しかし、労組の反対、野党の国会での追及により、雇い止めの1カ月前に5年上限を適用しないことを発表して、雇い止めを回避しました。今回の雇い止めは、法的には2018年のケースと同じです。違法であることは、誰よりも理研当局自身が理解しているはずです。

 

約400人を雇い止め

理研は3月末で通算契約期間の上限を理由に契約更新を行わない人数を203名(4月1日現在)と公表しています。

研究チームリーダーが雇い止めになれば、研究チームも解散となり、その数は42にのぼります。そこに所属する任期付きの研究者や職員も雇い止めとなります。理研はその人数を177名と公表しています(同前)。結局、203名と177名の合計380名が契約更新を拒まれ、雇い止めの危険に直面しています。一連の理研の不誠実な対応の中で、雇い止め期日が迫る中、不本意ながら他の研究所、企業、外資の企業に職を求め、あるいは研究職を断念して転職せざるを得ない理研の研究労働者が相当数います。そのうちの一人のTさんは、イスに座ったり寝ていたりする時などのゆっくりした人の動きで電力を生みだす小型発電機の開発で成果を上げ、マスメディアからも注目されていましたが、研究職を断念し、外資系の民間企業に転職しました。

こうした中で7月27日、理研の研究チームリーダーのAさんが雇い止め通告の撤回と研究妨害への損害賠償を求め、さいたま地裁に提訴しました。Aさんは、大学特任教授などを歴任し、2011年4月から理研で1年更新の有期労働契約を結び、関西の研究チームのリーダーをつとめています。当初、契約期間の上限はありませんでした。

Aさんの研究チームは業績が評価されて、2025年3月までの科学研究費が交付されており、契約更新の期待権があると強調しています。すでに理研から研究設備を撤去するよう指示が出ていますが、このような研究妨害をやめるよう求めています。

さらに11月24日、新たに2名の研究者が地位確認などを求めて、さいたま地裁に提訴しました。2名が所属する研究チーム、研究室は存続するのに、10年の契約更新上限をもっての雇い止めは、有期労働契約の乱用にあたると主張しています。

提訴に踏み切る研究者はさらに広がる見込みです。

 

中長期目標の研究が中断

そもそも理研は、独立行政法人通則法で中長期目標・計画にもとづいて研究活動を行うことになっており、現在、2018年4月~2025年3月末までの7年間の第4期中長期計画にもとづいて研究活動を行っています。

理研当局は、原告Aさんの科研費にもとづく研究は、Aさん個人の研究であって、理研のプロジェクト研究の期限は、来年3月で終わると主張しています。

しかし、Aさんの研究チームの主要課題は、“生きた個体中で分子、細胞の状態を非侵襲で光イメージングする技術の開発”で、この研究は第4期中長期目標・計画での戦略的研究開発の推進内容に沿ったものです。

科研費で採択された“ヒト乳がんの光診断を目指した短波赤外蛍光分子イメージング技術の開発”は、光を使うことによって女性の体に負担をかけずに乳がんを早期に発見する技術の開発であり、中長期目標・計画にも位置付けられるものです。Aさんの科研費研究は、理研で実験を行うことを前提に、Aさんと理事長の連名で申請をしています。それを不利益変更で押し付けた不当な雇用上限を理由に、打ち切りを命じるのは、二重に成りたちません。

Aさんだけでなく、雇い止めの危険にある380名は、基本的に中長期目標・計画にもとづいて研究活動を行っています。理研の常勤職員3417名(2022年4月1日現在)の11%にあたります。これだけの規模の研究者を7年間の中長期目標・計画の5年目で雇い止めすることは、中長期目標・計画に基づく研究活動を阻害することになります。

 

研究プロジェクトが中断

雇い止めとなる203名のうち、雇い止め後も継続が予定されている外部資金などを受給している研究代表者、研究分担者は、68名います(2022年11月9日時点)。その2022年度の受給総額は105件、8億2250万5千円にのぼります。
雇い止めの危機にある研究者たちは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から9件、合計で1億5048万6千円を受給しています。AMEDは、政府の医療分野研究開発推進計画に基づき、医療分野の研究開発の事業を公募して大学や研究開発法人の研究を支援しています。

 

雇い止めの危険のある研究者が獲得している競争的資金の一覧

制度名 件数 受給額(万円)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) メディカルアーツ研究事業 1 52.0
革新的がん医療実用化研究事業 1 2,455.7
革新的先端研究開発支援事業(AMED -CREST) 1 793.9
次世代がん医療加速化研究事業 1 910.0
次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業 2 6,006.0
先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業 2 3,731.0
創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS) 1 1,100.0
日本学術振興会(JSPS) 科研費(基金)・基盤研究(C) 28 2,366.0
科研費(基金)・挑戦的研究(開拓) 1 403.0
科研費(基金)・挑戦的研究(萌芽) 3 676.0
科研費(補助金)・学術変革A 3 1,443.0
科研費(補助金)・学術変革B 2 1,261.0
科研費(補助金)・学術変革領域研究(学術研究支援基盤形成) 1 910.0
科研費(補助金)・基盤研究(A) 7 370.5
科研費(補助金)・基盤研究(B) 23 7,306.0
科研費(補助金)・基盤研究(S) 2 390.0
科研費(補助金)・新学術領域研究(研究領域提案型) 3 2,496.0
科研費(補助金)・特別推進研究 2 8,859.5
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) ムーンショット型研究開発事業 2 1,170.0
戦略的創造研究推進事業・ACT-X 1 260.0
戦略的創造研究推進事業・CREST 2 4,053.4
戦略的創造研究推進事業・さきがけ 1 2,470.0
創発的研究支援事業 1 910.0
地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム 1 1,648.7
未来社会創造事業 1 14,815.5
NEDO 先導研究プログラム 1 720.5
農研機構 ムーンショット型農林水産研究開発事業 1 5,337.3
文科省 先端研究基盤共用促進事業(先端研究設備プラットフォーム) 1 4,592.1
AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業 1 2,550.0
理研内ファンド 独創的研究提案制度(奨励課題) 3 575.0
個人助成財団 5 1,618.5
総計 105 82,250.5

 

 

理研当局は研究者が雇用上限の10年を迎えたという理由だけで、AMEDから支援を受けてがん医療やバイオ創薬などの研究プロジェクトを行っている研究者たちを雇い止めし、中断させようとしています。

日本学術振興会(JSPS)からは科学研究費助成事業として75件、合計で2億6481万円の助成を受けています。科研費助成事業は、人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする競争的研究費です。数万人の最先端の研究者が参加する審査(ピア・レビュー)を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。科研費の2021年度の採択率は27.9%です。

理研当局は、厳しい審査で採択された研究者たちの研究プロジェクトを雇用上限の10年を迎えたという理由だけで中断させようとしています。

理研当局による雇い止めは、ピア・レビューを否定し、科学研究を発展させる学術振興会の事業を妨害するものです。

この他、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業、戦略的創造研究推進事業などの研究プロジェクト(9件、2億5327万6千円)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の先導研究プログラム(1件、720万5千円)などが含まれています。

これらの研究は、個々の研究者がまさに人生をかけて取り組んでいるものです。それを10年の雇用上限が来たという理由だけで中断させる権限は誰にもありません。

雇い止めを強行するならば、取り返しのきかない事態を招き、論文数の減少など研究力の低下といわれる事態をさらに悪化させることは明らかです。

 

新人事施策の欺瞞

「新人事施策」は、ご飯論法的なロジックを使って無期転換逃れのために雇用上限を押付けた自らの違法行為を覆い隠し、これを継続することを狙った欺瞞的な文章です。

 

「プロジェクトの時限の到来」というが

「新人事施策」は、「契約の更新を行わない形で任期満了」となり雇い止めとする理由を「個々人が担うプロジェクトの時限の到来に伴い」と記述しています。これを読むと「研究プロジェクトが終了するのなら、雇い止めもやむなし」という印象を持ちますが、実際は違うのです。

理研当局が3月末で任期満了の根拠にしている「従事業務確認書」(2016年度に提出。任期の起算点を2013年に遡及)は、有期雇用契約の上限を「プロジェクト期間内」かつ「通算雇用10年」としていました。つまり、「従事業務確認書」は「プロジェクト期間」の途中であっても「通算雇用10年」となったらそれ以上は雇用しないというものです。にもかかわらず「新人事施策」は、「通算雇用10年」が雇い止めの口実であるはずなのに、研究プロジェクトの期限の到来が雇い止めの理由であると読み手が誤解するように偽っています。

実際にこれまで述べたように理研の中長期目標・計画に位置付けられたり、競争的資金を獲得したりしている研究プロジェクトを雇い止めによって中断させようとしています。

 

「雇用上限撤廃」の欺瞞

新人事施策は「通算契約期間の上限規制を撤廃します」としていますが、ここには二つの欺瞞があります。

一つは、新人事施策にはその時期を明示していないことです。実際の上限の撤廃は4月1日であり、3月末に任期満了となる研究者は対象になりません。雇い止めを回避しようとしているかのように期待を持たせながら、強行するという欺瞞です。

雇い止め対象者が新たな研究プロジェクトに応募できるようにルールを改めるとしていますが、研究プロジェクトのテーマは限定されており、雇い止めとなる研究者が採用される保証はどこにもありません。採用されなかった研究者は“使い捨て”となります。採用されてもプロジェクトのテーマが変わってしまえば、これまでの研究成果は活かされない可能性があります。

もう一つは、新人事施策が「これまでの理研での通算契約期間によらず誰もが応募可能とし、雇用の切れ目なく参画できる道を今年度中に拓きます」としているところです。4月からは「10年雇用上限」は無くなりますが、その代わり任期制職員等就業規程に研究プロジェクト期間と関係のない「アサインド・プロジェクト」なるものを導入し、事実上の雇用上限を規定しようとしています。アサインド(assigned)とは、配属、任命という意味です。

一般的には、研究プロジェクトの期間は、中長期計画や獲得した競争的資金の期間と連動します。しかし、アサインド・プロジェクトは、規程第2条(2)で「所属長が組織の目的を達成するために、任期制職員に対して目標及び期間を伴って指定する、任期制職員の従事する業務」というもので、その期間は所属長の判断にゆだねられています。

したがって、研究プロジェクトの途中であっても所属長が「任期制職員のアサインド・プロジェクトは終了」と判断すれば、雇用契約期間は満了となるしくみです。契約更新の期待権を奪うための詭弁としか言いようがありません。

「アサインド・プロジェクト」で雇用上限を設けるねらいは、「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申し込み権が発生する前に雇い止め」を行えるようにすることにあります。

実際に新人事施策では「雇用の切れ目なく新たな研究プロジェクトに参画することで、研究者は無期雇用への転換を理研に申し出る権利を獲得する場合があります」とありますが、これは裏返せば、無期転換権が獲得できない場合があるとわざわざ断っています。
このように新人事施策は「通算契約期間の上限規制を撤廃します」といいながら、3月末に雇い止めの危険にある研究者の「10年雇用上限」は撤廃せず、それ以外の現職及び新規採用の任期付き研究者には、「アサインド・プロジェクト」により所属長の判断で雇用上限を設けられるようにしています。

新人事施策は、文科省の通知が望ましくないとしている「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申し込み権が発生する前に雇い止めや契約期間中の解雇等を行うこと」を今後も行えるようにするためのものです。このような理研のやり方が他の研究開発法人や大学に広がるならば、違法行為がまん延し、日本の学術研究は土台から崩れます。

私たちは文科省に対して、理研の新人事施策を肯定したことを撤回するとともに、理研のように無期転換逃れのために雇用上限を遡及して押し付け、それを口実にして雇い止めを強行することは違法であること、国立大学の中期目標・計画、国立研究開発法人の中期目標・計画や競争的資金によるプロジェクト研究を阻害、中断させるような雇い止めは許されないことを徹底する内容で再通知することを求めます。

 

雇用を安定させてこそ

新人事施策は「安定性と流動性を両輪とした研究者のキャリアプランを構築する」としています。言葉通りなら、無期転換ルールに則って、文字通り直ちに「10年雇用上限」を撤廃し、雇い止めを撤回するべきです。

在籍年数のグラフ(図)を見ても、在職年数が5年以下の任期制研究・技術職員の割合は59.8%、10年未満の割合は75.7%と高く、理研の流動性は極めて高い状況にあります。

 

 

一方で、単年度契約を繰り返して長く勤務している任期制研究・技術職員は24.7%を占めています。これらの職員は業績もあり、能力も高く、担っている業務に継続性があるから契約更新が繰り返され、10年以上理研で働いているのです。雇用契約期間が10年になったからと言って研究活動が終了するはずはありません。これまで通り何の制約もなく10年以上働くことを可能とするべきですし、それにとどまらず研究者の雇用を安定化させることこそ求められています。

理研は第4期中長期計画で、2015年度時点で1割であった「任期の設定がなく研究に従事できる研究者」の割合を4割まで増やすと明記しています。そうであるならば、無期転換ルールに従って、有期雇用を繰り返し、雇用期間が10年を超えた研究者には無期転換権を与えるべきです。文科省に対しては、それを促す予算を措置することを求めます。

理研に限らず、日本の研究機関、大学における流動性は極めて高く、むしろ安定性を高める方向に舵を切るべきです。人材の流動性を高めるとして「有期雇用職員を中心とした人員体制」としたことによって、研究職が不安定な職業となり、研究者をめざす若者が減っていることを直視するべきです。

日本学術会議は「この間進められた任期制導入の最大の目的は人材の流動性を高めることにあったが、それもほとんど失敗したといっても過言ではない」と断言しています(日本学術会議「第6期科学技術基本計画に向けての提言」2019年10月31日)。

労働契約法の改定を受け、研究者の任期が短くなり、雇用が不安定になってきています。男女共同参画学協会連絡会の「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」によると任期付の科学技術系職員で任期年数が5年を超えている人は、2016年に男性で46%、女性で56%でしたが、2021年に男女とも約6%に激減しています。調査報告書は、これは労働契約法の改正が原因であることを示唆しています。

公的研究機関の基盤的な研究開発費は2000年度以降、19年度までに1111億円削減され、国立大学の運営費交付金は04年の法人化後、約1470億円を超えて削減されました。その結果、国立大学の任期なし教員がこの20年間(2001→2021年)で1万9153人も減少しています。

雇い止めの危険にある研究者らが転出先を探しても見つからない状況です。

大学と公的研究機関の基盤的経費の予算を抜本的に増額することを求めます。

理研は8割が非正規雇用という異常な職場です。そのことによる様々な歪みが職場にあります。理研ネットとしては、今回の雇い止めを撤回させるにとどまらず、非正規雇用の問題の解決に向けて引き続き取り組んでいく決意です。

 

 

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