川村雅則「無期転換逃れ問題の整理──無期転換はどこまで進んだのか」

8月20日(土)に開催された「非正規・無期転換逃れはつらいよシンポジウム」での報告の一部で、川村雅則「無期転換逃れ問題の整理──安心して働き続けられる社会の実現に向けて」の続きです。大幅に加筆修正を行っています。どうぞお読みください。

なお、軽微の修正は行う可能性があります。大幅な修正を行った際にはその旨を明記します。

 

出所:シンポジウムの記録より。

 

■はじめに

本稿では、無期転換はどこまで実現したか、逆に、無期転換逃れはどこまで広がっているかを確認していきたいと思います。この問題については実践的に関わる機会が少なからずありましたので、そこでの拙い経験なども念頭においてお話しします。

はじめに、私の認識や問題意識を述べておきます。

第一に、無期転換は一定程度実現したことは間違いありません。

この点について、厚生労働省内に設けられた「多様化する労働契約のルールに関する検討会(以下、検討会)」の報告書では、「有期労働契約に関する実態調査(事業所)」(2020年4月1日調査時点)に基づきながら次のように推計しています。すなわち、「常用労働者5人以上の事業所において、2018年度及び2019年度に無期転換ルールにより無期転換した労働者は、約118万人と推計される等、無期転換ルールにより雇用安定が一定程度図られたと言える」、「企業独自の無期転換制度等で無期転換した人も含めれば、約158万人と推計される」とのことです。

では第二に、この無期転換実績は十分と言えるでしょうか。

言えない、と私は思います。ですから、無期転換は思ったほどには実現していない、というのが私の認識です。

では第三に、無期転換が実現していない理由は何でしょうか。

一つには、本日の企画の主題でもありますが、更新限度条項の導入など、露骨な無期転換逃れの問題があげられます。例えば、1年ごとの有期契約労働者に対して更新は4回・5年まで、などの更新限度条項を設けるケースが広がっているのではないでしょうか。

今一つには、無期転換の要件を満たしても(労働契約の期間が通算で5年を超えても)当該労働者が有期雇用で働き続けているという問題があります。

この問題では、当該労働者の側が無期転換制度を知らなかったり、制度内容や無期雇用概念を誤解して申し込みをしないというケースがあげられますが、本稿でとくに取り上げたいのは、いわば選抜型であったり特別な条件が課されるなどして、無期転換が無条件に認められずに、結果として、当該労働者が無期転換を断念せざるを得ないというケースです。詳しくは本稿の中で言及していきます。

 

以上を詳細に論じるには十分なデータや情報などを持ち合わせているわけではありません。ただ、「現時点で無期転換ルールを根幹から見直さなければならない問題が生じている状況ではないが、各企業における有期労働契約や無期転換制度について、労使双方が情報を共有し、企業の実情に応じて適切に活用できるようにしていくことが適当」という「検討会」の整理(下線は筆者)には違和感を覚えます。事態が正確にとらえられていないのではないか、と感じます。そのことが本稿で共有されるよう、つとめたいと思います。

なお、第一に、本稿で検討するのは、民間の無期転換逃れの現状です。繰り返しになりますが、公務の分野では(非正規公務員については)、無期転換制度そのものがありません。広義の無期転換逃れ状況と呼びます。しかも、雇用安定に逆行した制度が2020年度から導入され、さらには、総務省の助言による3年公募制の3年目を今年度は迎えていることを今一度確認しておきたいと思います。

第二に、本稿では、政府統計のほか、厚生労働省内に設けられた「多様化する労働契約のルールに関する検討会(以下、検討会) 報告書」報告書でも使われているJILPTによる「多様化する労働契約の在り方に関する調査(以下、JILPT調査)」の結果を使います。

■厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会 報告書」2022年3月30日

■JILPT「(調査シリーズNo.224)多様化する労働契約の在り方に関する調査(企業調査、労働者WEB調査)」2022年3月31日

但し、JILPT調査は企業調査のみを使い、労働者調査は割愛します。JILPTによる企業調査の概要は以下のとおりです。

調査期間 :2021年1月 15 日~3月1日。

調査時点 :2021年1月1日時点。

調査対象 :従業員規模30人以上の全国20,000社の民間企業等(企業(会社企業(株式会社、有限会社等)とそれ以外の法人(学校法人や独立行政法人等))。

調査方法 :郵送配布・郵送回収。

有効回収数:5,729件(有効回収率:28.6%)

 

 

■「2017年 就業構造基本調査」にみる有期で長期で働く労働者の人数規模

 

図表1 雇用形態×雇用期間の定めの有無別にみた労働者数/単位:万人

全国 北海道 札幌市
総数 雇用契約期間の定めがない 雇用契約期間の定めがある わからない 総数 雇用契約期間の定めがない 雇用契約期間の定めがある わからない 総数 雇用契約期間の定めがない 雇用契約期間の定めがある わからない
総数 5584 3721 1356 478 220 143 58 17 84 55 23 5
正規の職員・従業員 3451 3134 179 139 130 117 9 4 50 46 3 1
非正規の職員・従業員 2133 587 1177 339 89 26 50 12 33 9 20 4
うち、継続勤続期間が5年以上 3315 2502 616 184 132 96 29 7 48 35 11 2
正規の職員・従業員 2404 2223 106 74 92 84 6 3 35 32 2 1
非正規の職員・従業員 912 279 510 110 40 12 23 4 13 4 8 1
うち、継続勤続期間が10年以上 2360 1858 378 114 95 72 18 5 35 27 7 1
正規の職員・従業員 1814 1685 78 51 70 64 4 2 26 24 2 1
非正規の職員・従業員 545 173 300 63 25 8 14 3 8 2 5 1

注:「雇用契約期間の定めがない」には、定年までの雇用を含む。「わからない」は雇用期間の定めがあるかどうかがわからないケース。
出所:総務省「2017年 就業構造基本調査」第61表(全国)、第9表(都道府県)より作成。

 

時期を少し遡ります。

図表1は、2017年に総務省によって行われた「就業構造基本調査」(以下、「就調」)から作成したものです。「就調」は5年に1度行われる大規模な調査なので、都道府県別のほか、政令市や人口30万人以上の自治体についても状況が分かります。ここでは全国、北海道、札幌市のそれぞれについて、雇用形態×雇用期間の定めの有無別に労働者数を整理してみました(無期雇用者の直近の人数などは、総務省「労働力調査」で後で確認します)。

図表のとおり、継続就業期間が5年以上のもの、さらには10年以上のものがどの位存在するかを抽出しました[1]

結果は、5年以上のものは、全国では616万人、北海道では29万人、札幌市では11万人となります。5年「超」ではなく5年「以上」の数値でありますから、ここから目減りするとはいえ、これだけの労働者に無期転換の可能性がある、と見込んでいました(10年以上のものに限定しても、その人数は、全国で378万人、北海道で18万人、札幌市で7万人)。

しかし、そうはなりませんでした。当時から懸念されていたとおり、無期転換逃れが発生しました。その実態をみていきましょう。

 

■無期転換に企業はどう対応しているのか

有期の労働契約期間が通算5年を超えないような運用

図表2 改正労働契約法で規定された無期転換ルールに対する対応状況(左側の図表は複数回答(可)、右側の図表は単一回答)/単位:%

出所:JILPT調査の図表2-2-11を転載。

 

まず、本シンポジウム(「非正規・無期転換逃れはつらいよシンポジウム」)の問題意識でもありますが、無期転換が回避されているのが明確なケースです。それはどの位存在するでしょうか。

図表2は、JILPT調査結果で、「改正労働契約法で規定された無期転換ルールに対する対応」が企業に尋ねられています。フルタイム契約労働者とパートタイム契約労働者とに分けて回答がされています。左側の図表は、複数の回答が、右側は単一の回答がされています(JILPT調査の表記にならって、以下の図表では、単一回答はSA=Single Answer、複数回答はMA=Multiple Answerと表記します)。

結果は、フルタイム契約労働者でもパートタイム契約労働者でも、「通算5年を超える有期契約労働者から、申込みがなされた段階で無期契約に切り替えている」割合が最も高いです。しかしそれでも、MAでは45.0%、45.3%で、SAでは29.9%、30.9%にとどまります。条件を満たして申し込みを行った労働者は自動的に無期転換に切り替わっている──この状況が一般的ではない、ということになります。

一方で、「有期契約期間が更新を含めて通算5年を超えないように運用している」がフルタイム契約労働者で8.4%、パートタイム契約労働者では6.4%みられます。SAでも、フルタイム契約労働者で4.5%、パートタイム契約労働者では3.3%になります。この回答が露骨な無期転換逃れ、ということになるでしょうか。

なお、JILPT調査では続けて、その理由を尋ねています(JILPT調査の図表2-2-14)。

図表は省略しますが、結果は(n=353、MA)、多い順に、「従来からそのような契約管理を行ってきたから」──これはさらにその理由を尋ねたいところです──が38.8%、「高年齢の労働者は、無期で雇用するのが困難であると考えるから」が30.3%、「定期的に人材の新陳代謝を図りたいから」──非正規・有期雇用者だけがその役割を担わされているようです──が28.6%、「契機の変動等に雇用の調整余地を残しておきたいから」が26.6%、などとなっています。

さて、「申込みがなされた段階で無期契約に切り替えている」と「通算5年を超えないように運用している」割合をみてきましたが、残りはどうでしょうか。

 

「対応方針は未定・分からない」

この調査は原則として2021年1月1日時点のことを回答させています。

ところが、この時点でも「対応方針は未定・分からない」が、フルタイム契約労働者で14.1%、パートタイム契約労働者で17.1%みられます。SAの場合でも8.1%、10.5%です。これらの回答企業が、上記の「通算5年を超えない」ような運用に傾斜していくおそれはないでしょうか。

関連して気になるのが、無期転換ルールに関する知識の有無を企業に尋ねた設問です。

 

図表3 無期転換ルールに関する知識の有無/単位:%

n 内容について知っていることがある 名称だけ聞いたことがある 知らない 無回答
合計 4268 77.6 7.8 7.2 7.4
従業員規模 49人以下 1149 62.1 11.3 14.8 11.8
50~99人 1291 75.8 9.2 6.7 8.2
100~299人 1257 87.0 5.6 3.2 4.1
300~999人 402 93.5 2.2 1.0 3.2
1000人以上 139 95.7 2.2 0.0 2.2

出所:JILPT調査の図表2-2-1より。

 

結果は(図表3)、「内容について知っている」が77.6%ですが、一方で、「名称だけ聞いたことがある」が7.8%、「知らない」が7.2%です。「名称だけ聞いたことがある」や「知らない」は従業員規模の小さな企業ほど割合が高いです(例えば「49人以下」では「知らない」が14.8%)。

加えて、図表は省略しますが、「内容について知っていることがある」企業を対象に尋ねた「知っている内容」(n=3314、MA)で、「契約期間を通算して5年を超える有期契約労働者から申込みがあった場合には、更新後の契約から、無期転換しなければならない(使用者は承諾したとみなされる)」は91.5%ですが、「契約社員やパート、アルバイト、再雇用者、嘱託、季節・臨時労働者など呼称を問わず、また、高齢者を含めてすべての有期労働者に適用される」は73.7%とやや低くなります。

無期転換ルールが「すべての有期労働者に適用される」ことは、「内容について知っていることがある」企業にさえ十分に理解されていないように思えるのですが、どうでしょうか。労働者からの申し入れがあった際に、「内容について知っている」企業でさえ、適切に対応しているのか、懸念が残ります。

 

 

選抜型(?)の無期転換

先の図表2に戻ります。

他には、「有期契約労働者の適性や能力などを見ながら、無期契約にしている」割合が、フルタイム契約労働者で26.6%、パートタイム契約労働者で22.5%みられます。SAで15.0%、12.7%です。仮で、選抜型無期転換とでも名付けましょうか。

このこと、つまり、労働者の適正や能力が無期転換の要件になっていることはどう評価されるべきでしょうか。「試用期間」を終えて雇われ続けた──つまり、雇うに問題ないと判断・評価された──労働者に、無期転換段階であらためて選考を行うことは適切でしょうか。有期か無期かは、仕事の恒常性/臨時性で決められるべきではないでしょうか(なお、ここでは、無期転換で雇用期間以外の条件変更はないケースを想定。無期転換にあたり職務や働き方などの条件変更が行われるケースについては後述)。

そのことを踏まえた上で思うのは、第一に、選抜型では実際にどの程度の無期転換が実現しているのでしょうか。

後で紹介するとおり、国立大学法人の就業規則でも、「大学が特に必要と認める場合を除き」5年を超える更新はしないなどと、無期転換を認めるケースがゼロではないことがうたわれている一方で、無期転換実績はゼロの大学もあります。

そもそもこのようなケースでは、JILPT調査には、「有期契約期間が更新を含めて通算5年を超えないように運用している」と回答するのでしょうか、それとも就業規則上は、例外をいちおうは設けているわけですから、「有期契約労働者の適性や能力などを見ながら、無期契約にしている」に回答するのでしょうか。

第二に、選抜型では、無期転換を労働者が申し入れしてその後に選抜されるのか、それとも、適性や能力などがあると判断された労働者に企業側から声をかけるのでしょうか。前者は、つまり、無期転換を労働者が申し入れをしても認められないことがあるのは、問題ではないでしょうか。後者も、労働者側からの申し入れをもしも封じているのであれば、問題ではないでしょうか。

第三に、選抜型で適性や能力などで無期転換になれなかった労働者は、有期契約で働き続けることになるのでしょうか。つまり、適性や能力などで無期転換になれずとも、雇い止めにはならないという理解でよろしいでしょうか[2]

 

別段の定めの活用状況と、無期転換で変更が求められる条件

以上は、有期契約時と無期契約時とで、雇用期間以外に条件の変更がないケースを想定して話を進めてきました。条件に変更がないのになぜ選抜を経なければならないのだ、ということです。では逆に、条件に変更がある場合、つまり、無期転換時における「別段の定め」がある場合についてみていきます。

この別段の定めとは、無期転換時には、別段の定めがない限りにおいては、契約の期間以外は、有期契約時の労働条件が当該労働者には引き継がれることになります。但し、別段の定めを設けることで、無期転換後の労働条件を変更することが可能となる──そのような仕組みです。

 

図表4 別段の定めの活用の有無及び別段の定めにより有期契約時から変更を求める条件(MA)/単位:%

①別段の定めの活用の有無 ②別段の定めにより、有期契約時から変更を求める条件(MA)
n 活用している 活用していない 無回答 n 職務(業務の内容・範囲や責任の程度) 定年年齢 所定労働時間の長さ 勤務地・配置転換の範囲 時間外労働の有無・長さ 役職登用の有無・範囲 服務規律(兼業規制等) 特殊な勤務時間制の適用 その他 無回答
フルタイム契約労働者 1409 29.0 62.3 8.7 441 38.5 21.8 16.6 14.1 10.2 10.2 8.8 5.2 2.7 37.4
パートタイム契約労働者 1332 9.2 77.0 13.9

注:②は「フルタイム契約労働者」「パートタイム契約労働者」のいずれかにおいて、「別段の定めの活用の有無」について「活用している」とする企業を対象に集計。
出所:JILPT調査の図表2-2-16、2-2-17より作成。

 

JILPT調査によれば、図表4のとおり、無期転換社員がいる企業で、別段の定めを「活用している」のは、フルタイム契約労働者では29.0%、パートタイム契約労働者では9.2%です。フルタイム契約労働者での活用割合が高いです。

また、「活用している」という企業に尋ねた、変更を求める条件(MA)で多いのは、「職務(業務の内容・範囲や責任の程度)」で、その割合は38.5%に及びます。

メンバーシップ型雇用社会では、雇用契約が有期か無期かという点は、職務や働き方とセットであって、仕事の恒常性をもって無期に転換するわけではない(逆に言えば、仕事が臨時的だから有期で雇っているわけではない)ということなのでしょうか。

多様な働き方を否定するものではありませんが、雇用契約が有期か無期かは仕事の臨時性、恒常性で決められるべきではないでしょうか。

 

 

■更新限度条項の設定

先にみた調査結果(図表2)は、「改正労働契約法で規定された無期転換ルールに対する対応状況」でした。同調査結果のうち「通算5年を超えないように運用」に関連して、更新限度条項に関するデータを2点紹介します。

 

図表5 有期労働契約に関し、契約更新の回数上限や通算勤続年数の上限の設定の有無、上限の規定内容及び通算勤続年数の上限(年)/単位:%

①有期労働契約に関し、契約更新の回数上限や通算勤続年数の上限の設定の有無 ②有期労働契約に関し、契約更新の回数上限や通算勤続年数の上限の規定内容(MA) ③通算勤続年数の上限(年)
n 上限を設けていない 上限を設けている 無回答 n 契約更新の回数上限がある 通算勤続年数の上限がある 無回答 n 1~2年 3~4年 5年 6~7年 8年以上 無回答 平均値 標準偏差
フルタイム契約労働者 3544 85.6 9.6 4.9 339 35.1 65.2 16.5 221 6.3 20.8 67.4 0.5 0.9 4.1 4.4 1.2
パートタイム契約労働者 3921 89.2 7.0 3.8 275 31.3 66.2 18.5 182 6.6 17.0 70.9 5.5 4.4 1.2

注:通算勤続年数の上限は、「通算勤続年数の上限がある」とする企業の通算勤続年数の上限を集計。契約更新の回数上限の調査結果は割愛。
出所:JILPT調査の図表2-2-4、図表2-2-5より作成。

 

まず、JILPT調査からです(図表5)。

第一に、有期労働契約に関し「上限を設けている」企業は、フルタイム契約労働者では9.6%、パートタイム契約労働者では7.0%です。

なお、図表には示していませんが、従業員規模が大きいほどその割合は高く、例えば、「1000人以上」では、それぞれ、21.8%、15.3%となっています。

第二に、「上限を設けている」企業に尋ねたその内容(MA)のうち「通算勤続年数の上限がある」に注目しますと、その割合は、フルタイム契約労働者で65.2%で、パートタイム契約労働者では66.2%です。

第三に、「通算勤続年数の上限がある」企業に尋ねたその年数ですが、「5年」が67.4%、70.9%となっています。

最後に、図表では示していませんが、JILPT調査の図表2-2-7によれば、「上限を設けている」企業を対象に尋ねた上限の導入時期については、「改正労働契約法の全面施行に伴い、新設した」が、フルタイム契約労働者では56.9%(n=339)、パートタイム契約労働者では62.5%(n=275)となっています。残りは、「改正労働契約法に関係なく、以前からある」と、無回答です。

 

図表6 人事管理上最も重要と考えている職務タイプについての勤続年数の上限の有無と上限年数

有期契約労働者を雇用している、又は、雇用していた事業所計 勤続年数の上限の有無と上限年数
設けていない 設けている 上限年数 無回答
6か月以内 6か月超~1年以内 1年超~3年以内 3年超~5年以内 5年超~10年以内 10年超
2020年 100.0 82.9 14.2 (100.0) (3.8) (24.4) (16.5) (49.3) (5.0) (1.0) 2.9
2011年 100.0 87.1 12.3 (100.0) (1.9) (7.6) (26.7) (51.6) (3.5) (8.6) 0.6

出所:厚生労働省「有期労働契約に関する実態調査(事業所)」(2011年7月1日調査時点、2020年4月1日調査時点)から作成。

 

次に、注釈2でも紹介した、厚生労働省「2020年有期労働契約に関する実態調査(事業所)」[3]です(図表6)。

第一に、2020年4月1日調査時点の調査結果によれば、「有期契約労働者を雇用している、又は、雇用していた事業所」のうち、勤続年数の上限を「設けている」のは14.2%で、当該事業所を100とした場合、「3年超~5年以内」が49.3%とおよそ半数を占めます。

なお、図表には示していませんが、JILPT調査とは異なり、企業規模が大きいほど「設けている」割合が大きいという関係はここではみられません。例えば、「1000人以上」では、「設けている」のは12.9%にとどまり、逆に、「設けている」のが最も多いのは「30~99人」で、その割合は19.8%です。

第二に、2011年調査の結果(図表6の下段)と比較すると、2011年には「設けている」割合は12.3%でしたから、微増にとどまります。

「検討会」報告書でもこのことをもって、「当初は無期転換ルール導入による雇止めの誘発が懸念されていたところ、更新上限の導入は無期転換ルール導入前と比べて今のところ大きく増加はしていないが、今後も引き続き注視することが必要である」と述べられています。

 

さて、これらの二枚の図表で示された、勤続年数の上限(限度条項)が設置された企業[4]の規模をどう評価すべきでしょうか。

最初に思ったのは、ここで示された数値は少なくないだろうか、実際にはもっと多いような印象をもっているのだが、ということです。これは私が、更新限度条項が設けられたケースが多い大学業界で働いていることによると思います。拙稿をご参照いただきたいのですが、国立大学法人の就業規則を調べてみたところ、更新限度条項が入っている大学が多数でした[5]

私のこの認識について補足すると、上記のJILPT調査(図表2)でも、調査結果を業種別にみた際、「教育、学習支援業」では、「上限を設けている」のは、フルタイム契約労働者で28.7%、パートタイム契約労働者で20.8%と全産業平均の倍にあたる数値でした。

次に思ったのは、無期転換ルールが社会に導入されたにもかかわらず、(少なくとも)14.2%もの企業が勤続年数の上限をあらかじめ設けているのは、決して小さくない数値だと思いました。

しかも、図表2(JILPT調査)に基づく本稿での考察をふまえると、残りの82.9%の企業が無期転換を自動的に行っているわけではないことが推測されるのですから[6]

 

無期転換をめぐる以上のような状況や問題意識をふまえた上で、では、無期契約の労働者はどの位増えてきているかを政府統計で確認します。ここで使うのは、総務省「労働力調査」の結果です。

 

 

■総務省「労働力調査」にみる有期雇用の継続

無期契約者が思うほどに増えていない現状

図表7 雇用形態×雇用期間の定めの有無別にみた労働者数(2018~2021年)/単位:万人、%

総数 正規雇用者 非正規雇用者
総数 無期の契約 有期の契約 わからない 総数 無期の契約 有期の契約 わからない 総数 無期の契約 有期の契約 わからない
2018年平均 5,605 3,680 1,563 331 3,485 3,096 305 84 2,120 584 1,259 247
2019年平均 5,669 3,728 1,467 443 3,503 3,112 274 118 2,165 616 1,194 325
2020年平均 5,629 3,728 1,429 448 3,539 3,135 273 131 2,090 593 1,156 317
2021年平均 5,629 3,746 1,402 459 3,565 3,149 271 145 2,064 597 1,132 314
2018年平均 100.0 65.7 27.9 5.9 100.0 88.8 8.8 2.4 100.0 27.5 59.4 11.7
2019年平均 100.0 65.8 25.9 7.8 100.0 88.8 7.8 3.4 100.0 28.5 55.2 15.0
2020年平均 100.0 66.2 25.4 8.0 100.0 88.6 7.7 3.7 100.0 28.4 55.3 15.2
2021年平均 100.0 66.5 24.9 8.2 100.0 88.3 7.6 4.1 100.0 28.9 54.8 15.2

注:図表中の「わからない」とは、「雇用契約期間の定めがあるかわからない」の略。
出所:総務省「労働力調査(基本集計、第Ⅱ-7表)」より作成。

 

図表8 (参考)雇用形態×雇用期間の定めの有無別にみた労働者数(2013~2017年)/単位:万人

総数 無期の契約 有期の契約 臨時雇・日雇 総数 無期の契約 有期の契約 臨時雇・日雇 総数 無期の契約 有期の契約 臨時雇・日雇
2013年平均 5210 3752 986 472 3302 3173 120 10 1906 579 866 461
2014年平均 5249 3746 1071 432 3287 3160 117 10 1962 587 954 421
2015年平均 5293 3781 1086 426 3313 3179 123 11 1980 602 963 415
2016年平均 5381 3831 1131 418 3364 3224 131 10 2016 607 1001 407
2017年平均 5469 3901 1157 412 3432 3283 139 11 2036 618 1018 401

出所:総務省「労働力調査(基本集計、第Ⅱ-7表)」より作成。

 

図表7は、雇用期間の定めの有無別にみた労働者数を雇用形態別にみています。2018年以降、雇用契約期間に関する回答選択肢が「無期の契約」「有期の契約」「雇用契約期間の定めがあるかわからない」に変更されました(それまでは、参考の図表8のとおり、「無期の契約」、「有期の契約」、「臨時雇・日雇」に分類されていました)。

雇用の中身が複雑になっていることをふまえて、「正規雇用者」も含む有期契約の労働者全体の確認をしたいと思います。図表7の左側の「総数」をご覧ください。

まず、2018年には1563万人だった「有期の契約」が2021年には1402万人にまで減少しています。割合は、27.9%から24.9%にまで減少しました。

代わりに「無期の契約」が増加している、とはいえ、全てが「無期の契約」で吸収されているわけではなく、「わからない(雇用契約期間の定めがあるかわからない)」が増加しています。割合では、5.9%から8.2%です。

「わからない」の中には「無期の契約」も少なくないかもしれません。ただ、そのことをふまえても、「有期の契約」の減少(とりわけ「非正規雇用者」中の「有期の契約」の減少)が少ないと思います。しかも彼らは、次にみるとおり、短期間で雇用が終了しているわけではありません。。

 

長期で働く有期契約者、非正規雇用者の人数規模

図表9 在職期間別にみた有期契約者数の推移/単位:万人

総数 1年未満 1~2年未満 2~3年未満 3~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20~30年未満 30年以上 平均在職期間(年) 5年以上在職者計 5年以上在職者が総数に占める割合(%)
a b b/a
2018年平均 1517 297 186 147 211 269 245 76 54 7.3 644 42.5
2019年平均 1421 281 180 137 203 243 225 70 55 7.3 593 41.7
2020年平均 1378 255 186 139 192 239 211 71 61 7.5 582 42.2
2021年平均 1363 236 175 154 185 239 208 76 68 7.8 591 43.4

注:対象(有期の契約者)には正規雇用者も含まれる。
出所:総務省「労働力調査(詳細集計、第Ⅱ-15表)」より作成。

 

図表10 在職期間別にみた非正規雇用者数の推移/単位:万人

総数 1年未満 1~2年
未満
2~3年
未満
3~5年
未満
5~10年
未満
10~20年
未満
20~30年
未満
30年以上 平均在職
期間
(年)
5年以上勤続者計 5年以上勤続者が総数に占める割合(%)
a b b/a
2018年平均 2120 434 273 212 299 381 344 86 44 6.5 855 40.3
2019年平均 2165 448 275 213 295 386 356 91 51 6.6 884 40.8
2020年平均 2090 401 280 215 288 373 340 97 51 6.8 861 41.2
2021年平均 2064 373 277 230 280 380 334 98 57 6.9 869 42.1

注:対象(非正規雇用者)には無期契約者も含まれる。
出所:総務省「労働力調査(詳細集計、第Ⅱ-15表)」より作成。

 

二枚の図表をご覧ください。

上の図表9は、有期契約労働者の人数を在職期間別にみたもので、下の図表10は、非正規雇用者の人数を同じく在職期間別にみたものです。前者には正規雇用者(正規雇用の有期契約労働者)が含まれていること、後者には、無期契約者(無期契約の非正規雇用者)が含まれていることにそれぞれご留意ください。

図表9の右に示したとおり、5年以上有期契約で働く者は2021年には591万人に及ぶこと、図表10の右に示したとおり、5年以上非正規雇用で働く者は2021年には869万人にも及ぶことが分かります。5年「超」ではない分だけ目減りしますが、申し上げたいのは、無期転換ルールが導入された今日においても、長期で有期で働き続ける者が少なくないということです。

本来は無期契約で雇われるべき労働者なのではないでしょうか[7]

 

 

■まとめに代えて

「検討会」の報告書による、「現時点で無期転換ルールを根幹から見直さなければならない問題が生じている状況ではない」という整理に違和感を覚える、と冒頭で書きました。その違和感を、「検討会」報告書でも使われているJILPT調査や政府統計をみながら報告しました[8]

無期転換がどれだけ実現していて、逆に、無期転換逃れがどれだけ行われているかを、スパッと言い表すことができず、本稿に対してもやもやした感じが残ったかもしれません。

ただ、皆さんの周囲ではどうでしょうか。無期転換は順調に定着しているでしょうか。むしろ、無期転換逃れが水面下に潜っているのではないでしょうか。私の周囲でも、完全な無期転換の事例もあれば、要件を満たしたものに試験を課したり勤務時間数によって無期転換を認めている事例など、問題は様々にみられます。無期転換逃れを掘り起こして明るみに出す必要性を感じます。

この点について最後に、この問題に労働組合はどう向き合っているか、という提起をします。

とりわけ、就業規則上に更新限度条項が設けられておきながらそのことに何らの対応をとらないのであれば、その労働組合は、死せる労働組合と言わざるを得ないのではないでしょうか。ましてや、その就業規則の作成・変更に、過半数組合・過半数代表者として関わったのであればなおのことです。

ある労働組合役員から、無期転換に取り組まない理由として、「処遇改善がともなわないのであれば意味がないので」と言われたことがあります。果たしてそうでしょうか。有期雇用の濫用を解消し、非正規雇用者の雇用の安定と権利擁護を実現することには大きな意義があるのではないでしょうか。もの言わぬ(言えぬ)労働者が増大することに労働組合は危機感をもたなくてよいのでしょうか。

さらに言えば、「処遇改善がともなわないのであれば意味がない」と感じているなら、処遇改善に取り組めばよいのではないでしょうか。パートタイム・有期雇用労働法など、十分ではありませんが、活用できる法制度もあります。

非正規雇用問題に労働組合がどう取り組むかが問われて長い年月が経ちます。無期転換への取り組みを労働組合「再生」の機会とすべきではないか──私はそう考えます。

 

2018年問題は終わっていません。10年雇い止めが行われようとしている今こそ、そして、雇用安定に逆行する制度が非正規公務員に導入されてしまった今こそ、5年雇い止め問題の掘り起こしも含めて、誰もが安心して働き続けられる社会の実現を目指して取り組みを進めていきましょう。

 

(続く)

 

【注】

[1] 「就調」では、「この仕事にはいつついたのですか」という設問があり、「該当する元号又は西暦について記入した上で年及び月」を回答する設計になっています。

[2] 直接の答えにはなりませんが、厚生労働省「2020年有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)」によれば、次のような調査結果があります。「無期転換ルールによる無期転換を申込む権利が生じた人計」を100とした際、「無期転換を申込む権利を行使した人」が27.8%で、残りは、「継続して雇用されている人」が65.5%と圧倒的に多く、「既に退職している人」は6.6%にとどまります(その多くも「本人の都合により退職した人」です)。この調査結果からは、権利を行使しなかったものでも、有期で働き続けることになることが推測されます。もっとも、本文中でみた、「適性や能力などを見ながら、無期契約にしている」ケースでの、適正や能力がないと判断されたものの行方は、この調査結果からは分かりません。なお、本シンポジウムでご報告いただいた東北大では、「限定正職員」制度が設けられ、同制度に合格しなかった者は雇い止めになっています。

[3] 同調査の簡単な説明をしておきます。同調査は、「2020年有期労働契約に関する実態調査票」によって実施。調査票は、外部の民間事業者から調査対象事業所(民間事業所)へ郵送し、調査対象事業所において記入後、厚生労働省あて返送する方法で実施。調査対象数11473件に対して有効回答数5662件、有効回答率は49.4%です。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/172-2.html

[4] 限度条項を設けている理由はこれらの調査では調べられていませんが、図表2の「通算5年を超えないように運用」しているケースであげられた理由から推測できるかと思います。

[5] 川村雅則「国立大学法人の就業規則等にみる労働契約の更新限度条項・無期雇用転換回避問題(暫定版)」『北海道労働情報NAVI』2022年3月8日。

[6] 労働者を対象とした調査の結果も紹介します。厚生労働省「2021年有期労働契約に関する実態調査(個人調査)」によれば、有期契約労働者を100とすると、通算した勤続年数の上限の有無で「上限がある」と回答したのは52.5%に及びます。また「上限がある」と回答した者を100としたとき、その上限は、「1年超~3年以内」が25.6%、「3年超~5年以内」が29.6%と多いです。なお、この調査の対象は、「有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)」に回答のあった事業所から抽出されていることから、無作為抽出ではなく、有意抽出調査となります。調査対象数及び有効回答数調査対象数は10016件で有効回答数は6668件。有効回答率は66.6%です。詳細は以下を参照。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/172-3a.html

[7] 別の機会に深く掘り下げたいと思いますが、厚生労働省「有期の労働契約に関する実態調査(個人調査)」によれば、有期契約労働者の無期転換の希望の有無は、「無期転換することを希望する」が18.9%に対して、「無期労働契約への転換は希望しない(有期労働契約を継続したい)」が22.6%となっていますが、最大は、53.6%の「わからない」です(残りは無回答が4.9%)。

[8] 「検討会」報告書に対する評価については本文では割愛しますが、下記の団体の意見書などが参考になります(公表順)。

 

 

 

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