自治体問題研究所が発行する『住民と自治』通巻第704号(2021年12月号、特集「会計年度任用職員制度導入から1年半──自治体非正規労働者の悲鳴」)に掲載された、はむねっと副代表である瀬山紀子さんによる論文(転載)です。どうぞお読みください。
はじめまして、「はむねっと」です
「はむねっと」は、公務非正規女性全国ネットワークの略称で、「公」という文字の「カタカナ読み(!)」に由来します。
私たちの団体は、2021年3月20日に東京で、インターネットでの配信も交えて開いた緊急集会「官製ワーキングプアの女性たち コロナ後のリアル」を起点にスタートしました。この集会は、2019年に開いた「『女性』から考える非正規公務問題」シンポジウムの記録がもととなって2020年9月に出版された岩波ブックレット『官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人たちのリアル』(岩波書店)がきっかけとなって実現した集会でした。
コロナ禍に襲われたと同時に、会計年度任用職員制度が施行された2020年度の年度末に、公務非正規の現場からの声を伝え、疲弊や切迫感を共有し、つながりをつくり、多くの人たちと、この先の公務労働/公共サービスのよりよいあり方を共に考え合う時間をつくりたいと企画した集会でした。
集会への賛同を呼び掛けたところ、公務非正規問題に取り組んできた団体、労働組合、女性団体、図書館や社会教育の課題に取り組む団体など、とても幅広い領域で活動する全国の65団体と、199の個人が賛同してくださり、多くの人たちの思いが集まる集会となりました。その集会の熱気と思いを、次につなげていこうとしてできたのが、「はむねっと」です。
インターネット調査を実施
はむねっとは、団体として動き始めてすぐに、インターネットによる調査を実施しました。3月20日集会開催の際に、多くの賛同メッセージが集まったのですが、そこには、非正規公務員として働く方々からの「悲鳴」や、変革を切実に望む声が少なくなく、そうした声がまだまだ現場にあると感じたことが、急ぎ調査を実施する背景にありました。
調査をはじめたのは4月30日(金)。そこからゴールデンウィークをはさんで、6月4日(金)までの1カ月強、インターネット上のグーグルフォームを使い、無記名で、必要最低限の必須項目を設け、公表時に職種等によっては都道府県名を明示することに不安を感じる人がいることを予想し、勤務地記入は必須とせず、表示は地域区分に留めることを明記するなどの配慮を掲載し、アンケートを実施していきました。
調査項目は、回答者の性別、勤務地の地域、職種、勤務先の運営主体、就業形態、雇用契約期間、所定勤務時間、2020年の就労収入、主たる生計維持者であるか否か、世帯の収入、通算した勤務年数、現在の職場の勤務年数、ここ1カ月の体調、将来への不安、そして、日頃感じていることについての自由記述、加えて、回答送付や今後の活動情報を希望する方には名前や連絡先、はむねっとに期待することについても記入していただきました。調査結果報告は、はむねっとのホームページ(https://nrwwu.com/)で公表しています(注)。
全国から届いた公務非正規の声
アンケートは、当初、せめて3桁、できれば300回答は集めたいと、3月20日集会の賛同団体・個人、また、運営メンバーがそれぞれに関わりのあるグループ、登録しているメーリングリストなどで広報をしていこう、と話し合いました。また、動き出したばかりでしたが、ツイッターやホームページも活用しようということになりました。
そして広報を開始して2日目の5月1日。この時点で、100人を超える方からの回答が集まってきました。続々集まってくる全国からの回答に、大きな反響を感じました。
「やりがい搾取」を感じながらそれでも現場で専門職として踏ん張っているという声、フルタイム会計年度任用職員として働いているにも関わらず自立することができない低い給与であることへの怒り、残業をしても残業代がまったく支払われないという声、将来への不安を訴える多くの声、ハラスメント被害を訴える切実な声、いまの職をより安定した職にしてほしいという心からの願い。そうした全国の非正規公務の現場で働く人たちからの切実な声が、その後、最終日の夜12時まで、連日、続々と届いてきました。
調査回答期間中、朝日新聞全国版で、調査実施についての記事を出してもらえたこと、また東京新聞/中日新聞、河北新報でも記事が出たことも回答につながりました。
職場で新聞を読み、自分と同じような経験をしている人がいることを知り涙が出たと回答を寄せてくれた方、新聞を読み、自分の経験がこの先のよりよい社会づくりに少しでも役立てばと思い回答しますという方もいました。
最終回答数は、当初の目標をはるかに上回る1305件。全都道府県からの回答が寄せられる結果になりました。
広く社会に知らせる必要のある声
調査の回答を締め切った後、約1カ月、集まった4桁のデータ整理と集計、自由記述のまとめ作業などに当たりました。
はむねっとの運営メンバーは、日常的には、それぞれに、仕事や活動を持っている個人です。そのため、データ整理や集計、自由記述のまとめ作業などは、メインとなる数名が、それぞれ、自分の使える時間を使いながら行い、メーリングリストでの情報共有やオンラインの会議で検討を進め、最終のとりまとめ作業を行っていきました。
調査は、最終的に、有効回答が1252件。回答者の9割以上が女性でした。また、年齢は、18~20歳代から66歳以上まで、幅広く回答がありましたが、なかでも、40、50代がそれぞれ3割以上を占める結果となりました。職種は幅広く、一般事務や事務補助、学校図書館司書、図書館員、女性関連施設職員、博物館学芸員、公民館職員、婦人相談員、保育士、教員、ハローワーク相談員、スクールカウンセラー、学童保育等々、公務非正規が幅広い職種で働いていることを示す結果となりました。勤務先の運営主体は、都道府県、市町村などの地方自治体が8割、回答者の4人に3人は、「会計年度任用職員」でした。そして、自由記述も、回答者の9割を超える1148人から寄せられました。
これまでの国による非正規公務員に関する調査や、労働組合などが行っている調査でも明らかになっていなかった、公務非正規の置かれた真の実態や、そこで働く人たちの思いがつまったアンケート結果だと感じました。
この結果は、広く社会に知らせる必要があると感じ、7月5日、厚生労働省記者クラブで、緊急アンケート結果報告の記者会見を開かせてもらうことにしました。当日は、現役で公務非正規として働いているメンバー3人を含む、総勢6人で、記者会見に臨みました。
▲2021年7月5日 厚生労働省記者クラブでの記者会見の様子(撮影・はむねっと)
年収200万円未満に関心が
コロナ禍が続く中でしたが、記者会見場には、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットメディアの、たくさんの記者の方が集まってくださいました。そして、記者会見の終了を待たずに、テレビ朝日系のニュース番組が、「半数が年収200万円未満 非正規公務員の厳しい実態」というタイトルで第一報を流してくれたのを皮切りに、会見をした当日のNHKニュース(「非正規公務員 年収200万円未満 約半数 現場で働く人などが調査」)、インターネットメディア弁護士ドットコム(「『人間の暮らしできない』非正規公務員の低収入・雇用不安、コロナ禍で追い打ち」)、朝日新聞(「『過半数が年収200万円未満』非正規公務員ウェブ調査」、「非正規公務員ら、9割超『不安』 過半数は年収200万円未満 団体が初調査」)、レイバーネットニュース(「公務非正規女性たちの『怒りと悲鳴』1252通のアンケート結果を発表」)、毎日新聞(「非正規公務員 年収200万円未満が53% 市民団体が調査」)と報道が続きました。
▲公務非正規労働従者への緊急アンケート第一次結果報告より(2021年7月)
また、はむねっとが記者会見を開いた7月5日の午後には、NHKの記者が、内閣官房長官記者会見で、はむねっとが行った調査をあげて、調査結果に対する政府見解を聞く質問をし、それに対して、官房長官が、「調査結果が公表されたことは承知している。今後も、公務の非常勤職員の適正な任用と適切な処遇改善に努めてまいりたい」といった回答をするという出来事もありました。
その後も、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどで、調査について取り上げていただく機会があり、調査実施時には、調査を実施していることを知らなかったという方から、はむねっとのホームページを通じて声が届くなど、反響が続いています。
▲公務非正規労働従者への緊急アンケート第一次結果報告より(2021年7月)
追加調査を実施
今回、調査から見えてきたことの一つに、2020年度の会計年度任用職員制度移行期に、制度移行に伴う不利益が、多様な手段、方法を通じて、現場に働く人たちに加えられてきたということがありました。私たちはその実態を明らかにしたいと、調査回答者のなかで、追加のインタビュー調査にも応じていただける方にあらためて連絡をとり、2021年9月に、5人の方へのインタビュー調査を実施しました。
該当者のなかには、これは全国的にみられたことですが、制度移行期に、フルタイムからパートタイムに移行させられてしまった方、また、「これまでの給与には期末手当分が含まれていた」として、期末手当を支給する代わりに月額給与が引き下げられた方などが含まれています。この調査の取りまとめについては、後日あらためて、団体のホームページ等を通じて行う予定です。また、実際にお話の中に、明らかな不利益変更の例が見られたことから、何らかのかたちで、改善を要求する活動にもつなげていきたいと考えています。
働き手でもあり、住民でもある立場
今回、はむねっとで行った調査からは、公務非正規労働従事者の方々は、同時に、自分が働く自治体の住人でもある場合が少なくないことが見えてきました。そして多くの方は、自身も保育園の利用者であり、学校に通う子どもの保護者であり、公共サービスの利用者であることを意識していることを感じました。ハローワークなどの国の機関で働く人もしかりです。働き手は、同時に、自分たち公務非正規をまっとうに扱わない自治体や国に、そこで暮らす一住民としても、強い失望や憤り、不安を感じているのだと思います。そして、住民としての立場からも、まともな公共サービスが持続可能なかたちで提供されることを切望していると感じました。
ただ、調査から見えてくるのは、絶望の深さばかりではありません。同時に、そこには、声を出し、変えていきたいとする希望や、声を上げ、行動をおこした一人ひとりの、勇気がつまっているとも感じます。
公務非正規問題は、社会のあり方に関わる重要なテーマです。だからこそ、正規公務員はもちろん、サービスの受け手である住民、つまりは全ての人たちと共に、考えていく必要があると思います。はむねっともホームページ等を通じて引き続き情報発信をしていきます。
【注】
・ ホームページ掲載の調査報告のほかに、池橋みどり「公務非正規労働従事者への緊急アンケート調査結果と追加集計概要について」『生活経済政策』2021年9月号(No.296)が、追加集計の報告を行っている。
(参考情報)
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