是村高市「〈全印総連〉戦争法は許さない 職場からストライキで反撃」

ストライキそのものがともすれば組合員から忌避されかねない風潮もある今日、いわゆる政治ストや政治的な課題に労働組合が取り組むことをどう考えたらよいのか。労働運動総合研究所の発行する『労働総研クォータリー』第101号(2016年冬季号)に掲載された、是村高市氏(全印総連顧問)による論文の転載です。お読みください。

 

 

労働組合の根源的権利、ストライキ

全印総連の各地方連合会は、労働法制改悪と戦争法案に反対し阻止するために、7 月に開催された全国大会で地連ごとの産別ストライキ権の確立を提起し、北海道地連、東京地連、京都地連、大阪地連が確立をし、様々な行動に参加をしてきた。東京地連では、これまで春、秋の臨時大会で産別スト権を確立・行使してきたが、定期大会でのスト権確立は初めてだった。既に、春の臨時大会で、「集団的自衛権行使容認の閣議決定」に対して、産別スト権を確立して反対をしてきた。この臨時大会では、経済スト権とともに、この政治課題のスト権を確立したが、あまり議論にもならずに例年通り確立した。

労働組合が、スト権を確立し行使する割合が年々減少し、日本は世界的に見てストが圧倒的に少ない国の一つになっている。戦争法でのスト権確立は、ただ確立するだけではなく、実際に行使し、経営者ともそのスト権行使について、交渉しなければならず、労働組合の本気度が試されていた。経済要求前進のためのスト権は、実際に行使する数は、圧倒的に少ない。スト権行使は、争議状態のところや労使関係が不正常なところは行使しているが、要求実現のためにストを構える単組は少ない。それは、全印総連が組織している企業規模は圧倒的に中小企業が多く、またユニオンショップの組合は、一定の労使関係を構築しているので、団交で決着することを暗黙の「前提」にしている単組が多く存在するからである。

ストライキはあくまでも手段であって、目的ではないので、スト権を背景として交渉していくことが大切だ。しかし、戦争法阻止のスト権は、当然行使を前提としており、なおかつ、経営に直接回答を求めるものでもない。ましてや、生産に支障をきたすことでもない。そのような性質のスト権なので、全印総連では各経営に対して、スト権行使の見解と理解を求める要請書を提出した。要請書は、各経営に対して次のように呼びかけ、要請した。

「今回の『労働法制改悪反対、戦争法反対』のストライキ権については、通常の春闘や秋年末交渉でのストライキ権とは違い、直接経営各位に回答を求めるものではありませんし、生産に支障を与えるものでもありません。労働法制に対しては、その改悪が与える悪影響が、直接働く者に及び、労働組合としては、看過できない重大事です。その反対表明を社会的にすることが、今、多くの労働者から求められており、今回のストライキ権確立の考えの底流にあります。

いわゆる「戦争法」については、集団的自衛権の行使を前提にしたもので、これは現憲法違反のものです。政権与党がどう言い繕うとも、まぎれもない憲法違反の法律です。憲法98 条にはこうあります。『この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。』また「戦争法」によって、戦争の危機、戦争に日本が巻き込まれる危険が一層高まります。また、言論や表現の自由が規制され、印刷物が自由に配布・販売できなくなり、新聞や出版などの紙メディアが萎縮してしまえば、平和を前提に成り立っている印刷出版産業の疲弊にもつながります。」

各経営に対してこう要請をしたが、いくつかの経営からはスト権について、「政治ストは違法だと考えるが、処分などは考えていない」、「頑張ってほしい」、「理解している」等の反応があり、普段経済要求ではやり合っている労使だが、この戦争法に対しては、一定の理解が経営側にもあった。また、「居ても立っても居られない」として、自ら国会前に足を運んだ経営者もあった。戦争法反対の大義は、国民の側にあり、ストが権利として認められている労働組合は、スト権確立と行使によって、戦争法阻止のための闘いに立ち上がることが自明だった。

 

政治ストの違法、効果論の議論

しかし、「政治スト」の壁は大きかった。特に、政治ストは違法、という最高裁判例が議論の前に立ちふさがった。法治国家では、悪法も法、受け入れがたい判例も適法なので、これは認めざるを得なかった。しかし、政治ストは違法という事は、経営者から懲戒処分や損害賠償を求められた場合、免責にはならない、という事であって、経営が懲戒処分や損害賠償などを求めなければ、政治ストでも行使することは、何ら問題はない。また、求められても、財政や団結の問題がなければ、行使することはできる。

そもそも、憲法では、スト権の保障をその種類によって制約していない。従って、労働組合としての正式な手続きによって確立したスト権は、その行使は組合自らの判断でできる。今回のスト権議論で、もう一つ克服しなければならなかったことは、組織率が少ない労働組合が、それも一部民間の産業別組合がスト権行使をしても、戦争法阻止のために一定の効果があるのか、との指摘であった。

戦争法廃止でスト権議論を開始していた時、まだ、産業別組合の産別スト権を確立しているところはほとんどなかった。ましてや、全印総連東京地連では、春と秋の臨時大会での経済スト権と共に政治課題のスト権は確立していたが、定期大会で、それも戦争法反対のためのスト権確立提案は、初めてのことだった。

「スト効果論」は、ちょうど選挙権行使と似ている。投票率が下がっている現在、有権者の中には、「自分一人くらい投票しても、政治は変わらない」という意識が少なからずある。しかし、実際は、有権者一人一人の投票の結果で、政権が代わり政治も変わる。スト権行使も、まったく同じである。一つでも多くの労働組合が、戦争法反対の声をあげ、具体的行動の一つとしてスト権を確立することが必要であって、その声をあげ具体化することが出来る労働組合が、まず率先して戦争法反対のスト権確立と行使を実施することが、大事であると議論した。「私一人くらい」「うちの組合ひとつくらい」という、消極的な議論は、職場討議や討論集会で克服していくことが出来る。討議に蓋をしてしまえば、組合としての要求実現や活性化は、望めない。ましてや、目前にある戦争法阻止と労働法制改悪反対の闘いに立ち上がることはできない。

戦争法でのストライキ確立で、組合員が戦争法とどう向き合うかを議論した。戦争法阻止の行動で、学生や女性の参加が目立ち話題にもなっていて、その反面、職場からの組合員の行動が目に見えない、今までのような「動員」では主体的行動にはならない、などの声が聞こえてきた。シールズのような活動スタイルでないと盛り上がらない、今までのような労働組合の動員スタイルではダメだ、との意見も耳にした。

既存のやり方を否定して、新たなやり方を肯定する、という対比の図式を持ち込んでも、反対運動の活性化にはならないのでは、と考える。時々、運動内部や政党間に、既成組織や既成政党を否定するような議論が起きる。悪意の為の議論はともかく、良心的な主張もある。しかし、果たしてそうだろうか。これらはともに、それぞれの運動体を対立構図でとらえようとする見解だ。

労働組合は、その組織上の利点を基礎に、より効果的な議論を展開し、各運動体との共闘を進めることを前提に、憲法で保障されたスト権と戦争法阻止のために何が出来るか、何をしなければならないか、一人一人の組合員の前に、討論の素材を提供することが、求められている。

スト権は、労働組合だけに保障された固有の権利であり、根源的権利である。学生団体や市民団体にはない。また、職場討議や大会討論を通じて決定された運動方針は、組合員の権利であり義務である。その具体化が、行動に表れるとき「動員」という形をとるが、方針の具体化は組合員自らの決定に基づく自主的行動である。その点で、学生団体や市民団体の行動と「動員」という組合の行動に、その自主性において違いはない。

戦争法阻止のスト権確立議論は、職場の組合員一人一人が、戦争法をどう捉えるか、それにどう向き合うかを投げかけ、問いかけた。ある地連では、職場討議の中で、政権与党の支持者もおり宗教団体の構成員もいる中でギリギリの議論をし、組合の団結を優先して、結局、スト権確立は断念したが、組合用務や年休を使って、戦争法阻止の行動に参加をする組合もある。スト権が確立できなければ、闘いが出来ない、との教条的な判断をする必要はない。スト権議論をする中で、一人一人の組合員が戦争法にどう向き合うか、問い直すことが大切てある。

労働組合の団結や行動は、討論を通じて話し合うことでしか、具体化できない。それを厭うことは、自らの権利を放棄することでもある。戦争法阻止の行動も職場討議を通じてしか、具体化できない。

 

東京地連は、定期大会に続き、臨時大会でもスト権確立

全印総連東京地連では、7 月の定期大会で戦争法案廃止の産別スト権を多数で確立したが、10 月の臨時大会では、強行採決された戦争法の廃止の産別スト権確立を再度提起し直し、定期大会よりも高率で確立した。定期大会で確立したスト権は、7 月24 日の日比谷野音で開催された安倍政治ノーの大集会やデモ参加で行使し、国会周辺への行動や座り込みにも、スト権を行使した。このスト権行使を通告した際に、経営から組合に言われた見解が、前述した経営の対応であった。北海道地連や京都地連でも、抗議集会やデモにスト権を行使し、戦争法阻止の闘いに立ち上がった。経済スト権や争議支援のスト権行使は、少なくなってきているとはいえ毎年実施をしているが、戦争法阻止という政治課題でのスト権行使は、年金スト以来である。

まだ、スト権を確立していない単組がいくつもある。確立あるいは批准状況を引き続き点検していくことは、産別スト権を確立した産別執行部の責務である。戦争法は、今後発動され実際に自衛隊が海外に出ていくこともある。そのために安倍政権は、あらゆるメディアや場、場面を通じて戦争法容認の世論形成に躍起となっている。また、自衛隊員募集の告知や宣伝も露骨になっている。

このような事態の中で、労働組合に求められている運動は産別スト権を確立し、すべての加盟組合が批准し、スト権を行使して、戦争法にしっかりと向き合うことである。スト権投票は、この戦争法に対して、自らはどう評価するのか、何をしなければならないか、を問いかける行為である。自分自身へのこの問いかけから、戦争法や政治に対して、向き合うことが始まる。

労働組合が政治課題に取り組むことへの消極的な姿勢や反対論が少なからずある。しかし、政治と私たちの生活を切り離して考えることが出来るだろうか。社会保障の引き下げや増税などは、私たちの生活に直結する。言論の自由や表現の自由、労働法制も私たちの仕事や組合、生活に直結している。戦争法は、生活や職場、産業、それて日本の在り様に深くかかわっている。戦争法に対する産別スト権確立の提起は、議論を通じて労働組合と政治の距離を少しでも埋めたい、という提起でもあった。

 

戦争法は平和産業である印刷出版関連産業と相いれない

戦争法阻止や労働法制改悪反対のスト権行使は、「政治スト」だろうか。筆者は、そうは思わない。前述したように、私たちの生活や労働、産業などに影響を及ぼすすべての事柄は、政治だとか経済だとかに区別できない。

労働組合の側が、ことさら、経済スト、政治ストと区分けする必要はない。議論の結果、仮にスト権が確立できなくても、戦争法に反対する意志さえあれば、様々な行動ができる。労働組合の基本は、戦争法阻止のために、何が出来るか、何をしなければならないか、と常に問い続けることである。特に、戦争法が成立し、今後この発動を許さない、廃止して行くために、新たな闘いが始まっている。参院選挙に向けて、共産党の「国民連合政府」の呼びかけや野党共闘、戦争法に賛成をした議員の落選運動も起きている。

印刷出版関連産業は、平和産業である。戦争のない、平和な社会でなければ、産業として開花しない。印刷出版関連産業に組織する産業別労働組合として、企業や産業の基盤である日本の政治経済を平和で民主的にしていく責務がある。戦争法廃止のスト権確立とその行使への理解を各経営に求めたのも、そのためである。

戦前のような言論表現の自由が奪われ、基本的人権が抑圧されていた時代、印刷出版関連産業は、委縮し発展しない。集団的自衛権が行使され、戦争法が発動されるような事態は、平和憲法擁護のためと印刷出版産業政策上も、絶対に許されない。

戦争法廃止と労働法制改悪阻止のために、全印総連はストライキを行使して、奮闘することを改めて問い続けている。

 

 

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