川村雅則「軽貨物運送自営業者の就業・生活・安全衛生(2001,2002年調査より)」

 

Ⅳ.協同組合調査の結果

宅配調査でみられた就業・生活に関する特徴は軽貨物運送業者にひろくみられることなのか。Ⅳでは、協同組合調査の結果を示す(但しあらかじめことわっておくと、彼ら組合員の仕事の内容は後述のとおり宅配だけではないし、荷主(契約先)も運送業者だけに限らない)。

同調査では100人の組合員に調査票を配布し、79人から返送があった(督促を一度行った)。そのうち欠損が多かった3部を除いて76人の回答を分析の対象とした。

 

1.回答者の属性(年齢、世帯構成)

76人中男性が74人で、女性が2人である。年齢は、中高年に偏って分布しており、「50歳代」が半数弱(47.4%)、ついで「40歳代」(27.6%)、「60歳以上」(19.7%)となっている。40歳未満は5.3%に過ぎない。世帯構成を年齢別にみると、「60歳以上」の高齢の層では配偶者との2人暮しの比率が高い。

 

2.事業状況

(1)事業経験、事業体制、事業内容

表Ⅳ-1 年齢別にみた世帯構成及び軽貨物経験年数

 

表Ⅳ-2 事業内容別にみた売上高比率

表Ⅳ-1のとおり、①業経験年数は、約55%が10年以上、20%弱が20年以上である。その一方で、「5年未満」という者も4分の1弱を占めている。②事業体制は、「本人のみ」(以下、雇無業主)というのが70%を占めている。従業員を使用しているという者(22人)についても、そのうち半数強(12人)は本人を含め2人のみで事業を行っており、かつ、その場合、従業員は家族という者が多い(11人)。③事業内容(・契約形態)として、「チャーター」、「スポット」、「引越し」、「宅配」、「その他」という五つの項目を設定しその売上高別構成を尋ねた(表IV−2)。平均値でみると、「チャーター」(36.3%)、「宅配」(31.5%)の順に比率が高い。

 

(2)ここ2,3年での契約・取引上で経験した困難

表Ⅳ-3 雇無業主/雇有業主別にみたここ2,3年での契約・取引上での困難

表Ⅳ-4 事業内容別にみた、ここ2,3年における運賃の減少比率

ここ2,3年のあいだで、荷主との契約・取引上において困難を経験したことはないか尋ねたところ(表Ⅳ-3)、まず、運賃水準の引き下げがあったと回答した者は約70%に達し、また仕事の量が減少したという者も40%、さらには突然の取引の解消という事態を経験した者も4分の1に及んでいた。

運賃引き下げの有無とその下げ幅を事業内容別にみると(表Ⅳ-4)、チャーターに従事する者のなかでは50%の者が、宅配では60%弱の者が引き下げを経験したと回答している。またその下げ幅は、チャーターでは30%弱の者が、宅配では約45%の者が、10%以上の引き下げをそれぞれ経験している。

 

(3)事業経営の状況

表Ⅳ-5 雇無業主/雇有業主別にみた事業経営の状況

表Ⅳ-6 雇無業主(年齢別)/雇有業主別にみた年間の粗利益

表Ⅳ-5のとおり、①業況水準は「やや悪い」が約30%、さらに「悪い」も4分の1を占め、また、一昨年度から昨年度にかけての売上の変化をみても約70%の者が「減少」と回答しており、しかも「1〜3割以内の減少」が40%弱、「3割以上の減少」が15%弱を占める。

②年間売上高は、全体の平均売上高は約606万円だが、雇無業主に限定すると、約40%が400万円未満、70.0%が500万円未満となり、平均売上高も約450万円にまで低下する。

表Ⅳ-6のとおり、売上高から諸経費を除いた粗利益をみると、平均値は278万円で、約60%の者が300万円未満という水準である。500万円以上も11.4%いるが、雇無業主に限定すると、200万円未満が約35%、そして300万円未満が70%強を占め、平均値は230万円にまで低下する。退職金のないことや年金で不利なことを考慮しても、総じて、低い水準に位置しているといえるだろう。雇無業主の粗利益を年齢別にみると(同表中)、平均粗利益はどの年齢層でも250万円に満たない。

 

(4)医療保険、年金保険加入の状況

表Ⅳ-7 年齢別にみた医療保険及び年金保険の加入状況、最近の保険料の滞納経験

 

表Ⅳ-7のとおり、①医療保険は、90%の者が国民健康保険に加入しているが、最近医療保険を滞納した経験のある者が4分の1にも及んでいる(医療保険に加入していないという者も1人みられる)。②年金保険は、半数が国民年金のみの加入である。国民年金の給付水準の低さは既に指摘されているところだが、問題は、そうした国民年金にさえ加入していない者が10%弱存在することである(年金に「全く加入していない」6.7%、「生保の私的年金12.7%)。また年金をすでに受給している者は除いて集計した、年金保険の最近の滞納経験の有無は、「ある」が36%を占めている。

 

3.働き方と睡眠、睡眠に関する訴え、1か月当りの休日

表Ⅳ-8 年齢別にみた就業に関する時間・睡眠時間(最もよくあるパターン)、普段の睡眠で「よくある」問聞、1か月当りの休日日数

 

表Ⅳ-8のとおり、第一に本調査では、働き方と睡眠の状況についてもっともよくあるパターンで回答してもらった。

①まず「出宅〜帰宅」時間は、平均で12時間弱で、さらに13時間という水準を超える者も4分の1弱を占める。

②しかも、全作業時間でみても、10時間を超えるという者が40%強に達する。③そして運転作業に費やす時間は、平均では6.6時間だったが、9時間という水準を超える者も20%弱を占めた。④休憩がとれるとはいえ、総じて、長時間就業・作業状況が確認されよう。

⑤そして起床時刻と就寝時刻から算出した唾眠時間は、平均は7.5時間だが、7時間に満たない者も4分の1弱を占めた。

第二に、普段の睡眠で「よくある亅問題状況は(同表下段)、約10%が睡眠時間の不足を、また約4分の1が睡眠の質の悪さを、そして約20%が早い時刻の起床がつらいと回答していた。

最後に、1か月の休日日数は(同表最下段)、約30%は休日が全くない、また合計4分の1が1,2日と回答している。週当り1日(以上)という計算になる4日以上の休日を1か月でとっている者は36.0%に過ぎない。とくに60歳未満の各層で休日は少ない。聞取りによれば、休日(空白)を埋めるようにして働かなければ子どもなど扶養家族の多い世帯では生活は厳しいとのことだった。

 

 

4.最近の疲労の回復状況、健診の受診状況と診断結果

表Ⅳ-9 年齢別にみた最近の疲労回復状況、健診受診の頻度、受診しない理由、診断結果、再検査受診・受療の状況

 

表Ⅳ-9のとおり、第一に最近の疲労の回復状況は、疲労高蓄積群(「いつも疲れがたまっている」と「前日の疲れがとれないことがよくある」の計)が全体では40%強を占めていた。高齢の層で疲労蓄積が低かったのは、休日日数の相対的な多さに示されるとおり、ある程度余裕をもって仕事をしていることの反映であると推測される。

第二に健康診断の受診状況は、毎年受診しているという者は70%弱にとどまり、4分の1は受けたり受けなかったり、さらに5.3%(4人)は受けないことが多く、1.3%(1人)は全く受けないという状況である。

毎年の受診はしないという者のその理由は(回答は17人)、多かったのは「仕事が忙しい」(41.2%)とか「健康・体力に自信がある」(23.5%)だが、「病気が見つかるのが不安」とか「病気が見つかっても休めない」などの回答も少なからずみられる。

「仕事が忙しい」あるいは「自信がある」と回答した者のなかにも、「不安」あるいは「休めない」をあわせて選択した者がそれぞれ1人ずつみられた。受診しない・できない背景・条件も視野にいれた対策が求められよう。

第三に健康診断の結果はどうか。異常なしという者は36.5%にとどまり、精密検査や治療を必要とされている者は全体の約40%を占め、「50歳未満」でも結果はよくない。しかもそのように診断された者のうち検査や治療を(最後まで)受けたという者は40.0%にとどまっている。理由は尋ねなかったが、聞取り等から推測すると、時間的な条件や収入的な条件が再検査や治療を受けることの障害のひとつとなっていることが考えられる。

 

Ⅴ.小括

以上の二つの調査の結果で示された、軽貨物運送自営業者の就業・生活・安全衛生の特徴・問題点と課題を以下に整理する。

第一に、過重な労働(就業)負担という特徴である。宅配調査でみられたような働き方は、もし彼らに「改善基準告示」[10]が適用されたならば、内容的には不充分なこの基準にさえ違反していることは明らかだろう。また協同組合調査でも、1か月の休日の少なさに示されるように、過重労働が示唆された。自営業者であるからといって働き方に規制のないのは、とりわけ公道で運転作業に従事する者の場合、問題視されねばなるまい。

こうした働き過ぎの背景にある、収入水準の低さが第二の特徴である。協同組合調査では、雇無業主の70%強が300万円未満の粗利だった。諸経費の内容が検討される必要があるが、売上高の水準自体が低かったことを想起されたい。

第三に、健康診断の受診状況がよくない。協同組合調査では、30%強が毎年の定期的な受診をしていなかった。健診受診の必要性の周知はむろん重要なことだが、低収入ゆえの忙しさや休業補償のないことが受診の抑制要因となっていることも視野にいれた対策が必要だろう。関連して、医療保険(や年金保険)での保険料の滞納がみられた(但し保険証の種類は不明)が、疾病の早期発見早期治療のためにも、受診・受療を抑制するような現行医療政策・制度の改善、さしあたりは「国保問題」の解消が求められる。

以上の問題の解決は、すでにふれたように、自営業者の就業の不安定さや社会保障の不利の是正を視野に入れて、あるいは、荷主・元請による不公正な取引などトラック運送業界の輸送秩序問題の解消を視野に入れて、図られることが必要だと思われる[11]が、いずれにせよ、協同組合等に加入する以外のほとんどが未組織と思われる軽貨物運送自営業者の組織化と実態の把握がまずは急がれる。

 

 

【参考文献】

齊藤実(1991)『宅配便─現代輸送のイノベーター』成山道書店。

物流ニッポン新聞社編(1999)『軽貨急配の成長戦略』ファラオ企画。

運輸経済研究センター(1983)『関東地方における営業用トラック利用に関する調査─宅配便システムに関する調査』運輸経済研究センター。

平井都士夫編(1972)『かわりゆくトラック運輸産業』汐文社。

カーゴニュース編(1998)『現代のトラック産業』成山堂書店。

桜井徹ら(2001)『交通運輸』大月書店、2001年。

 

【注】

[1]紙幅の都合上今回は一部を報告するにとどめ、詳細は北海道大学大学院教育学研究科紀要に掲載予定。

[2]社団法人東京都トラック協会(1987)『軽車両等運送事業の実態に関する調査報告書』によれば、軽車両等運送業者は1985年時点で都内には4196者あり、1975年の237者から約20倍も増加した。

[3]国土交通省総合政策局情報管理部『陸運統計要覧 平成13(2001)年版』

[4]社団法人日本物流団体連合会安全対策専門委員会(2000)『物流業における規制緩和の影響と安全輸送に関する調査報告書』。社団法人全日本トラック協会(2001)「輸送秩序に関する実態調査報告書』など参照。

[5]金澤誠一(1998)「社会保障制度から見た自営業者とその家族」『中小商工業研究』55号pp.68-90。

[6]中央社会保障推進協議会(2001)『国保改善全国交流集会報告集』2001年12月。

[7]関連して、「宅配便」の幹線輸送部門を担当する下請運送業者が「翌日配達」を達成するために猛スピードで運行せざるを得ない状況に追い込まれている、という問題が指摘されている。舘澤貢次「ダンピングが横行する宅配便業界の“問題体質”」『政界往來』62巻7号pp.64-67、「同」62巻8号pp.72-76、1996年。

[8]日本産業衛生学会・産業疲労研究会編集委員会編『新装産業疲労ハンドブック』pp.173-174。労働基準調査会。

[9]『交通事故統計年報 平成13(2001)年版』で算出すると、事業用軽貨物が第1当事者となった事故で最大の原因は.「安全不確認」(36.5%)、ついで「脇見」(12.2%)、「動静不注視」(8.2%)、「交差点安全進行」(7.9%)等々となっている。これに対し.事業用大型貨物や普通貨物の場合には、「脇見」が最大で、「安全不確認」は20%強となっている。運行形態の差などを反映し、軽貨物における「安全不確認」の比重の高さがめだつ(なおこの「安全不確認」の比重の高さは、普通乗用(タクシー)にも共通した特徴である)。

[10]労働省労働基準局編著(1997)『改訂新版自動車運転者労務改善基準の解説』労働基準調査会、によれば、原則として、1か月の拘束時間は293時間まで、同じく1日の拘束時間は13時間までだが、宅配調査では、最大限である16時間をも超えた働き方がみられた。なお勤務と勤務の間の休息期間は連続した8時間、運転時間は2日平均で1日当たり9時間、休日労働は2週間に1回以内と規定されている。

[11]本論では詳しくふれられなかったが、貨物輸送のあり方の見直しもあわせて必要だろう。例えば宅配便は、住宅街への車両の侵入を不可欠の要素とする以上、交通事故の可能性を大幅に拡大する。また配達効率は本調査結果のとおり必ずしもよくない(エネルギー問題、環境問題)。こうした外部不経済の観点からの見直しが必要だと考える。

 

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