柳恵美子「使おう 変えよう「パート・有期法」」(非正規差別NG・均等待遇実現に向けた生協労連のとりくみ)

2021年6月5日・6日に「【オンライン】第29回パート・派遣など非正規ではたらくなかまの全国交流集会in愛知」が全労連非正規センター主催で開催されます。2日目の「トークセッション」では、「非正規でもまともに暮らせる社会へ~雇用不安と格差を正す運動のいまとこれから~」が労働組合と研究者で議論されます。登壇者の一人である、全労連非正規センター代表であり生協労連委員長でもある柳恵美子さんの報告内容をご紹介します。生協労連で力を入れている、パートタイム・有期雇用労働法を活用した「非正規差別NG!」・均等待遇運動についてです。皆さまの職場では、均等待遇実現に向けた取り組みは進んでいるでしょうか。どうぞお読みください。

出所:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法が施行されました」より。

 

 

はじめに

2018年12月の通常国会で成立した「働き方改革一括法」により、「パート労働法(「パート有期法」に変更)「労働契約法(労契法)」「労働者派遣法(派遣法)」が改正されました。この法改正により、雇用形態別の待遇差について、正規労働者と、短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者との間で、「不合理な待遇差」を禁止する規定が義務付けられました。全労連非正規センターでは、この法改正に伴い「非正規差別NG!」のキャンペーンにとりくみ、学習パンフを発行し組織内の学習とともに、未組織労働者に対して労働組合への加入し、不合理な格差を是正させようと呼びかけてきました。

今回の報告では、私の所属する生協労連での「非正規差別NG!」のとりくみを報告します。

 

1.生協労連の組織の概要

生協労連の組織人数は約6万5,500人で、そのうち約6割がパートやアルバイトといった非正規職員です。またこの数年の間に地域限定や職種限定の非正規職員が増加しています。

生協は店舗と宅配が主な事業となっており、そこで中心となって働いているのは非正規職員です。この間非正規職員の中からも店長やリーダーなど、役割を担う人たちが出てきました。

そして、正規職員が現場へ配属された際には、パート職員が仕事を教えるということもあります。そのような状況の中で、この法改正は決して十分なものではありませんが、なんとか法を活かして一つでも二つでもでも均等待遇を実現させようととりくみを開始しました。

 

 

2.まずは「同一労働同一賃金ガイドライン」を知ることから

2018年11月8日、生協労連は全国のなかま約100人が集まった中央行動の中で、厚生労働省から「同一労働同一賃金ガイドライン(たたき台)」についてレクチャー(説明)を受けました。

厚生労働省の担当者から今回の法改正の趣旨は、「①今回の法律改定では、正規雇用と非正規雇用の不合理な格差をなくすことが大きな目的である。②正規雇用と非正規雇用との間に不合理な格差が生じている場合には格差を是正する目的がある。③正規雇用の処遇をさげて、非正規にそろえるのではなく、非正規の処遇をあげて正規にそろえていくということ」ということを述べられました。

そして、参加者からの質問では、具体的にこの事例は処遇を同一にする必要があるのか?といくつものやり取りをおこない、厚生労働省としての考え方を引き出しました。生協労連ではそれらをまとめ、2019春闘資材で「同一労働同一賃金ガイドラインの活用のポイント」として発行しました。

 

 

3.4つのポイントを活用して

ガイドラインの活用として、4つのポイントを掲げ、地連や単組、パート部会などで学習をおこないました。

 

4つのポイント

ポイント1.

一時金はその水準に一定の差があっても、貢献に応じて支給される。不合理な格差をなくすための一時金を要求しよう

ポイント2.

店長など、同じ役割を担っている場合は、同じ役職手当を要求しよう

ポイント3.

通勤手当について、補助などではなく実費を要求しよう

ポイント4.

正規職員に福利厚生制度(有給の慶弔休暇や生理休暇など)があれば、パート職員にも同じ制度を要求しよう

 

そして、このポイントについて、厚生労働省とのやりとりを事例にあげ、確信をもって要求し、実現させようと提起してきました。厚生労働省とのやりとりの事例を一つあげます。

【生協労連と厚生労働省のやりとりから】 (生)は生協労連(厚)は厚生労働者省

(生)正規労働者に賞与の制度があれば、パートにも水準は別にしても賞与の制度を設けるべきという解釈でよいのか?

(厚)会社の業績などに対して、貢献に応じて正規に賞与を支給しているということであれば、パートも同じように業績に応じて支給していくべき。

(生)再雇用アルバイト、年齢で区切って一時金が出ていない。まったく出さないというのは不合理という理解でよいのか?

(厚)定年後再雇用者だからといって支給しないことは望ましくない。

(生)学生アルバイトもふくめてということでよいのか?

(厚)正社員に比べて労働時間が短い方、有期雇用の方が対象。学生アルバイトであっても当てはまる。

以上のようなやりとりを項目ごとにおこない、それらを共有しながら2020年4月の法施行に先がけて、2019年春闘からとりくみを進めることとしました。

 

3.2019年春闘では、2020年法施行を意識させる回答の引き出しも

2019年春闘では「パートの病気休職期間を正規のそれと比例付与にする」「生理休暇は正規と同様に全職員有給化」「準職員・嘱託職員への退職慰労金制度導入」「パートの忌引き休暇を正規と同様に有給化」といった回答を引き出しています。また、「特別休暇、家族手当については『同一労働同一賃金ガイドライン』にそって、手当など全待遇項目の点検と検討をおこなっており、上期中にまとめる」と2020年法施行を意識した回答を引き出したところもありました。

一方で、生協理事会の多くで、企業側弁護士による「同一労働同一賃金ガイドライン事例

対策」の研修会などに参加し、2020年春闘に向けて、組合の要求への回答対策をおこないはじめていました。

 

 

4.同一労働同一賃金は原資の取り合いではなく、新たな原資を引き出す

2020年春闘を迎えるにあたって、分会や執行委員会の場では、同一労働同一賃金をめぐって、正規職員の処遇を下げてパートに合わせるのではないか?という意見が出始めました。また、理事会もそれらしきことをほのめかすということもありました。

そこで、あらためて「パート・有期法」の改正点と趣旨について確認し、春闘でどう生かし、前進させるかについてまとめ、学習を深めることを提起しました。

そこでは、「原資がないから正規職員の処遇を下げてくる可能性は大いにある。しかし、そこはきっぱりと反対する。正規職員と非正規職員の原資の取り合いではなく、理事会に原資をださせること。非正規職員の処遇改善は離職を食い止め、人手不足の解消にもつながることからしっかりと改善を求める」ことをまずは呼びかけました。そのうえで、個々の待遇についての考えかたと要求について、具体的な要求とガイドラインにおける考え方、この間の労契法20条裁判の判決事例なども示してきました。さらに2019年秋闘での生協労組の前進点を共有するために「2020年春闘での均等待遇(「同一労働同一賃金」)の前進のために」を発行しました。その中に記載した事例を一つあげます。

 

(例)「住宅手当、家族手当」

①具体的な要求として

・住宅手当や家族手当について非正規労働者にも同じ水準で手当を支払え。

②「同一労働同一賃金ガイドライン」における考え方

・ガイドラインには住宅手当、家族手当の記載はないが、考え方は③のとおり。住宅手当については労契法20条裁判においては④のように「人材活用のしくみの違い」によって個別に判断されている。

③家族手当

非正規職員といっても世帯主がたくさんいる。シングルマザーも。世帯主として家族を養う必要性は、正規だろうが非正規だろうが同じ。世帯主だからという理由で扶養手当を支給しているのなら、その必要性に応じて支払うべき。

④住宅手当(労契法20条裁判の判例から)

井関松山ファクトリーでは生活費補助の趣旨で払われる物価手当について、契約社員にも生活費補助の目的は同じように及んでいるので、物価手当は同じように払ってください。井関松山製造所では、精勤手当、住宅手当、家族手当も同じ要件を満たすなら契約社員に払ってくださいという判決が出ています。井関松山製造所では、なぜ住宅手当を契約社員に払えといったかというとハマキョウレックスとは前提が違うからです。

ハマキョウレックス事件では、正社員は転勤あり、契約社員は転勤なしでした。遠隔地に転勤がある人はいつ家を買うか、家を買うタイミングがなかなかないので、賃貸にしている場合に、家賃補助をしましょう。転勤があるかないかで、住宅手当の支給、不支給の差をつけるのは不合理ではないと最高裁はいっています。井関松山製造所では、松山で採用して、正社員も契約社員も転勤なしで、住宅にかかるコストは一緒です。よって契約社員にも住宅手当を払ってくださいとなりました。

⑤2019年秋闘の成果を全国に広げ、たたかいのレベルを引き上げる

・定時・アルバイトへの住宅手当支給の検討(19春闘、とくしま)

・パートに正規と同額(1人あたり10,000円)の扶養手当新設(19秋闘、日本生協連)

・スタッフに子ども手当5,000円→扶養手当10,000円に引き上げ(19秋闘、日本生協連)

・パート・再雇用者への扶養手当を2020年度から支給(19秋闘、パルコープ)

・パート・再雇用者への扶養手当を2020年度から支給(19秋闘、よどがわ)

・子ども手当の支給対象を2020年5月から全雇用区分に拡充(19秋闘、なら)

・定時職員に家族手当支給(鳥取県)

以上のような事例を共有しながら、2020年春闘は均等待遇を実現させるうえで、もっとも重要で、大きなチャンスだと位置づけました。そのため、ストライキ権を賃上げに限らず、均等待遇前進の課題においても確立し、そのことを背景にたたかうこととしました。また、不誠実な説明や回答が続くようなら、均等室の活用や行政による助言・指導、さらには改正法で適用が拡大した裁判外紛争手続(行政ADR)、また労働委員会へのあっせん申請など、外部機関の活用も視野に入れ、一段引き上げたたたかいの構築も呼びかけました。

 

5.2020年春闘ではより具体的な要求で前進を

均等待遇、格差是正(同一労働同一賃金)を求めて、それぞれの処遇ごとの「不合理な待遇格差」の是正へと具体的な要求が出されました。そのうち、主な前進面は、特別休暇、家族手当、通勤手当、生理休暇の有給化となっています。

生協労組おかやまでは、回答が出た段階で均等室に出向き、回答内容について意見をもらい、団体交渉の場で不合理な格差だと突き付けることで、前進を勝ちとっています。

「2020年春闘の主な前進点」

<さっぽろニュー>慶弔休暇の日数と慶弔見舞金額を正規と同じに。

<あおもり>定時の家族手当を正規と同額に引き上げ(配偶者4,500円→9,000円、その他扶養家族2,500円→5,000円)。定時職員の慶弔見舞金規定を2020年度上期中に見直しができるよう提案する。

<いわて>非正規の特別休暇を正規と同日数に(但し無給)。

<弘前大>5時間以上のパート職員長時間契約日にも早番手当・遅番手当を支給。定時・パートの出張時の勤務時間の上限規定を廃止。全職員共通の通勤手当支給基準に。パートにも半日有休取得可能に”

<岩手学校>パートナー職員の就業規則改定し正規職員とほぼ同等に。

<こーぷ福祉会>現状寸志のみしかないパートに退職金制度を設ける。

<いばらき>アルバイト職員の通勤手当の自転車使用分については、パート職員と同じ基準で支給。

<とちぎ>アルバイト職員の通勤手当の自転車使用分については、パート職員と同じ基準で支給。

<しが>「均衡・均等待遇に関する規定」の施行、アルバイトの賞与「生協の業績及び労働時間等を勘案してその都度決定する」(検討中)、嘱託職員に対して6ヶ月間の休職制度を設ける、嘱託職員の無期転換をパート同様「通算雇用期間を3年」とする、所定労働時間を超える割増率を正規(フルタイムスタッフ)同様125%から130%に引き上げる、パートに対して勤続表彰制度を適用する。

<京都>食事手当(外食手当)を正規同様に専任職員にも1日450円支給(9/11~)。

<京都パート>食事手当(外食手当)を正規同様にパートにも1日450円支給(9/11~)。

<パルコープ>再雇用職員の祝祭日手当をパート同様に支給。再雇用職員の時間帯手当(8~9時)をパート同様に150円/時とし、4月給与から遡り支給。

<よどがわ>時間給労働者への扶養手当を4月から正規と同額(月額8,000円)に。

<ならパート>永年勤続表彰は、入協10年20年対象者を、ならコープで働くすべての職員に適用することについて、入協時からの雇用区分変更を含めて適用できるように検討する。

<わかやま>シニア、アルバイト、嘱託専門スタッフへの交通費支給。

<いしかわ>夕食宅配職員への通勤手当を支給するよう検討。

<鳥取県>パートに有給の生理休暇1日付与。

<おかやま>パート・アルバイトの福利厚生諸制度を正規と同じに(災害休暇は所要日数有給、配偶者の分娩1日有給化、妊娠障害休暇14日うち有給5日、妊娠中の労働時間短縮の有給化、通院休暇・通院時間の有給化)。

<とくしま>定時結婚の特別休暇は正規と同様に(1日増で7日へ)。

<とくしま>定時結婚の特別休暇は正規と同様に(1日増で7日へ)。

<ララコープ>非正規の生理休暇を正規と同様有給2日に。

<くまもと>4月より嘱託職員正規化。7月から定時職員慶弔規定を正規職員にあわせる。

<おきなわ>パートの生理休暇有給化は2020年度導入に向けて準備を進める。

 

6.2019年、2020年春闘をとおして課題が明らかに

均等待遇の前進については一定の前進が見られました。

しかし、法施行との関係では、「処遇の一つひとつについて「不合理な待遇差の説明求」「全国での前進点を共有し横展開をはかる」ことの徹底が若干弱かったと思います。要求書に「正規職員との不合理な格差をなくすこと」だけしか書かなかったところが数単組あったことから、要求の仕方など早い段階で徹底でききれなかった弱さがありました。

そこで、2021年春闘に向けては、2020年12月に同一労働同一賃金セミナーをおこない、法の趣旨を徹底的に学習するとともに、要求の出し方についても議論し交流しました。さらに、2121年3月には回答を受けて、それぞれが回答を持ちより回答評価交流会をおこない、次の団体交渉に向けての重点課題をだしあいました。その結果、団体交渉では粘り強く説明を求め、制度改善に向けて継続的な協議事項へつなげることができた単組もありました。

 

7.さらに均等待遇を前進させるために

2021年春闘では、残念ながら前年までのような前進が見られませんでした。回答で多く見られたのが「業務の内容・責任の程度・配置の変更の範囲及びその他の事情を比較し、必要に応じて判断します」というものでした。理事会(経営者)側が法律の内容から回答はこれくらいでよしと判断したのだと考えられます。

福利厚生部分については、一つひとつの制度の目的などについて説明を求めていくことで、格差是正をしていくことができます。しかし、賃金や一時金などを均等待遇にしていくためには、仕事内容の違いがないことを、だれが見てもわかるための指標も必要となってきます。そのためには職務評価にチャレンジすることが必要です。

生協労連がおこなった厚生労働省との交渉の中で、担当した課長補佐は、「今の法律の作り方では、職務の内容と、職務の内容・配置の変更の範囲がどうかということから判断していくことになっているので、そのすべてが一緒であったときに初めて正規の方と同一視すべき、いわゆる均等待遇とすべきとなっている」と言っており、「人材活用のしくみ」を理由として格差が許されるという、この法律の弱さが明らかになりました。その上で、私たちができることは、あらゆる不合理な格差問題について労働局や雇用均等室に持ち込み、相談事例を積み上げさせ、法の不十分さを明らかにし、次の法改正に活かしていくことです。

 

 

8.同一企業・同一事業所だけでなく同一労働同一賃金を横断的に

今回の法律は同一事企業・事業所内での不合理な格差の是正となっていますが、生協の職場には子会社や委託会社の労働者も生協直雇用とまったく同じ仕事をしていても、会社が違うことから、この法律は適用されません。このことを明らかにしようと委託労働者と直雇用労働者との職務評価を実施しました(下記参照)。

「委託先労働者にも同一賃金を/生協労連/職務評価調査踏まえ取り組み」『連合通信』2020年4月20日

「委託ドライバー「同一賃金」訴え 生協労連、「仕事の価値」数値化し正職員と比較」『朝日新聞』2020年9月28日5時00分

 

その結果から、仕事の内容はほぼ同じであること、仕事の負荷は委託労働者の方が大きいことがわかりました。たしかに会社が違うことによる賃金制度の違いはあるとしても、この仕事の価値や価格はどのくらいだという水準は一定数必要なのではないかという問題意識を持っています。

正規だから、非正規だから、委託だから、派遣だからという雇用区分の違いでの差別をなくし、仕事や職務に対しての賃金のあり方を検討していくことが必要なのではないでしょうか。

 

 

さいごに

労働組合に多くのなかまを迎え入れ、非正規差別NG!の声とともに、最低賃金を1,500円以上に、全国最低賃金制度の実現に向け、全国のなかまとともに連帯し奮闘しましょう!

 

 

 

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