ナショナルセンターとして初の女性議長に就任した全労連・小畑雅子さんと、女性委員長として活躍中の新聞労連・吉永磨美さんによるトップ対談です。
昨年7月に全労連議長に就任した小畑雅子さん。日本の労働組合ナショナルセンターで初めての女性の議長だ。新聞労連でも吉永磨美さんが2人目の女性委員長として活躍中。目を覆うばかりの日本のジェンダーギャップ指数を見ても、ジェンダー平等社会に向けて労働組合が果たす役割は大きい。2人が労働組合におけるジェンダー平等の課題について話し合った。
吉永 磨美さん (左)
日本新聞労働組合連合中央執行委員長、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)議長(2020年9月~)98年から毎日新聞記者。教育、ジェンダー、福祉、情報公開などを取材し、労働組合ではメディアのセクハラ問題の改善に向けて運動を展開してきた。
小畑 雅子さん (右)
埼玉県浦和市(現在さいたま市)生まれ。埼玉大学教育学部卒。同県志木市の公立小学校勤務を経て2002年に埼玉県教職員組合(埼教組)の専従に。15年全教書記長、19年委員長を経て、20年7月の全労連第30回定期大会で全労連議長に就任。
《自分事としての語り 労働組合の取り組みに》



機関紙が出たあとに、元財務次官による取材記者へのセクハラが明るみに。当時の委員長から声明を出す提案があった。それまでの声明は中執の男性中心に作成されていましたが、私たちの現場の女性組合員の声を吸い上げて声明文はできました。声明文はかなり評判がよくて、勇気づけられたという声が上がった。 そして開催した女性集会では、セクハラを含むジェンダー格差の問題を解決するにはどうすればいいのかをグループごとに議論しました。その結果、解決策として出てきたのが意思決定機関における女性の登用でした。となれば私たち自身が意思決定機関へ入っていかなければ、という結論に至りました。

それはやはりみなさんの要求の中から出てきたそこが強いなと思う。女性3割とか理念だけでなく、自分たちの要求を実現するためには、自分たちの声が届くような仕組みがなければ実現しない。そこが大きな強みですね。 私は教職員組合出身ですが、小学校は8割近くを女性が占め、女性にとって働きやすい場であったと思う。しかし、高校現場は女性が少ない。産育休、介護休暇が当たり前の文化ではないので女性の離職率が全然違います。そういう状況を変えることと、長時間労働の問題がある。女性が働きづらい職場は男性も働きづらいわけですから、みんなで一緒に変えていくために、女性が意思決定の場に入り、声を反映させる。職場の女性の声を受け止め、労働組合の中に声を反映させるサイクルをつくれるかがすごく重要だと改めて思いました。

18年7月の定期大会前の中央執行委員会でも運動方針案にあった女性役員3割にする目標については賛否を含めて、いろんな意見が出ました。女性集会で訴えた3人も含め、その場にこなかった女性組合員の意見をメッセージとして代読し最終的に全会一致で承認されました。やはり当事者の声は大きい。

《共通する生きづらさの解消をめざして》


特別中執独自の活動もあえてやっています。長崎での女性集会では、取材中にあった長崎の性暴力事件のシンポジウムもやり、長崎の女性と連帯したフラワーデモも企画しました。独自の活動で、労連全体にメッセージが届けられ、メディアの労組のこういう動きは社会的にも影響があると思う。単組でも女性の委員長、書記長が誕生しています。執行部の中心的役割を出産後2、3年の子育て中の方が引き受けることで、私もという広がりを感じています。もうひとつの影響は、女性だけではなく男性にも浸透をしてきたこと。男性の育児休暇問題、仕事と子育ての両立問題、介護の問題など要求づくりも活発化しています。
男性組合員対象のアンケートでは「職場で男性として生きづらさを感じますか」という質問に「感じる」という回答が3割あった。ジェンダーや生きづらさという言葉が、男性の方にも受け止められてきている。男女共通の問題として、今後取り組める段階まできている実感はあります。
《女性が意思決定の場に》

ジェンダー平等が実現したらみんながもっと多様性を認められ、生きやすい社会になりますよね。女性が意思決定の場に入ることの重要性の議論が進む一方で、仕事と生活の両立だけでも忙しく組合まではという声も根強い。両立させていくには組合の活動スタイルも変えなければいけないですよね。

組合は労働者の団体ですから、われわれ自身が主役であるべきで、私たちが活躍できなくて誰が活躍するのかという場所だと思う。魅力ある労働組合活動で要求実現できるとなれば、参加したいという気持ちに変わる。その人任せにせず、周りがいっしょに参加できるように変える。
これだけ多様性やジェンダーとか言われていて、生活条件によって組合にかかわれないではダメだと思う。子育て、介護中の人のように時間に制約があると、夜とか長時間の拘束は無理です。例えば夜間の飲み会があるから無理だとか、あるいは深夜、早朝の活動をしないといっぱしの組合員ではないなどという、そういう考えや価値観を払拭する。
特別中執制度について話し合う中で、「オンライン参加も可能に」という提案をしました。制約がある人が排除されない仕組みを最初に整える。コロナ禍で労働者にとってはマイナスばかりですが、わずかによかったのは会議のオンライン化で参加の機会が広がったこと。子育て中でも積極的に単組の組合の執行部を引き受けるという事例が出てきています。参加したいのにできないという人を排除していくと活動が先細りし、一部の人のための労働組合になってしまう。そうなると必ず労働者の声も一部の人だけの声になってしまい、社会的影響も弱まる。私たち自身がそこを工夫して維持して、持続可能な形をつくっていかなければいけない。

私が教員になった頃の組合の活動のスタイルは、男女問わず小さな子どもがいる方たちばかりだったので、公民館の畳の部屋を借りて子ども連れでした。みんながみんなの子どもをみながら会議をし、子育て中の人も来るのが当たり前の形をつくっていた。
その後教員の採用減で、子育て世代が抜けた時期がありましたが、今は若い方たちが入ってきて活動スタイルを変える取り組みが全国で起こっています。多様で柔軟な方法で組合員の要求を吸い上げる形が広がりつつあると思いますね。


約5割はハラスメント未解決

全労連女性部の調査で、ハラスメントをだれにも相談できず一人で耐えた人が4人に1人(表1)。相談しても解決したのは4人に1人(表2)でした。相談窓口を作らせるとともに、被害者の立場に立った問題解決が必要です。
私たちはハラスメントのない職場づくりとともに、国に対して包括的差別禁止とハラスメント禁止法の制定を求めています。
世界経済フォーラムが2019年12月、「Global Gender Gap Report 2020」を公表し、その中で、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数を発表した。この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示している。2020年の日本の総合スコアは0.652、順位は153か国中121位(前回は149か国中110位)だった。
「#Me Too」とは、性的嫌がらせなどの被害体験をSNSで、告白や共有する際に使用されるハッシュタグのこと。「#Me Too」運動の始まりは2017年10月に、アメリカのハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラ疑惑が報じられ、女優のアリッサ・ミラノさんが同じようなセクハラ被害を受けた女性たちに“me too”と声を上げるよう呼びかけたことで始まった運動とされる。
《メディアはなくてはならない存在》


《民主主義を支える議論の場作りと権力監視》

さらに言えば、信頼をより求められてくる時代に入ってきています。私たち自身の信頼性が問われています。さらにその信頼をもとに、多様な情報、ものの見方、考え方を伝え、多くの人が参加できる議論の場を提供する。その議論がなくなると民主主義の場はなくなります。私たちはそこに寄与する存在だと思っています。正しい情報、さまざまな考え方を伝えるということが、まずメディアの役割としてあります。
権力はやはり増長していくものであることを私たちは身をもって感じています。それはどの政権であろうと、権力はそうなってしまうし、なりがちなものです。モノの見方、間違ったことやおかしなこと、疑問があるところがあればしっかりと指摘していく。権力管理、監視の役割を私たちメディアが果たしていく。その意識でいかなければいけないと思います。
そのメディアとしての意識をもってちゃんと働いている、がんばっている記者やジャーナリスト、もしくはそれを支えている新聞社やメディアに働く人たちをしっかり守っていかなければいけない立場だと思っています。
多くの記者はメディアが果たす役割に自覚をもって働いています。ちゃんとした形で伝えていこうとがんばっている記者を応援してほしい。
そして、メディアがなくなれば何が起きるのかを考えていただきたい。そういう意味でも労働組合としては、経営監視をしっかりしていく。それとともに安心・安全な働く職場を確保していくことを常に要求しつづけていくことも役割としてあると考えています。

私たち報道を見ていると、もう少しこんなふうに報道してくれたらいいのにと思うことはあります。マスコミがこんなだから…というふうに言いがちなところがあります。私たちはメディアの役割を発揮しようとがんばっているみなさんを励ましていく。要望があるからこそ余計にいっしょにつくっていくことが重要だと思っています。
《当事者が前に出て変える》



私が新聞労連委員長なった理由に、「私でもできるよ」と思ってもらいたかったことがあります。新聞労連は明珍美紀さん以降誰も女性委員長がいなかった。これを打破して、ここからの流れは男、女、男、女で。そういうことが当たり前になるきっかけに自分はなりたいと思った。
ずっと子育てしながら記者をしてきたのです。そういう人間でもやれるという証明をしたい。当事者が意思決定機関にいれば、変えましょうと言えます。まずそこを自分がやりたいという思いがありました。

(全労連新聞第534号 2021年1月15日 掲載)
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