川村雅則ほか「非正規雇用問題の何が問題か、取り組むべき課題は何か/非正規雇用の実態──「第1回非正規労働者の権利実現のためのオンライン学習交流会」より」

労働組合「道労連」らの主催で「第1回非正規労働者の権利実現のためのオンライン学習交流会」が2020年9月13日に開催されました。筆者は、「非正規雇用問題の何が問題か、取り組むべき課題は何か」を基調報告しました。

筆者の基調報告の後には現場からの当事者報告が行われました。ここではそのうち、北海道大学で働く非正規労働者の報告と、国の公務職場(ハローワーク)で働く非正規労働者の報告をまとめます。お二方とも労働組合(北大職組、全労働)の組合員です。

北海道大学では、労働契約法第18条の趣旨を潜脱する規定が就業規則に設けられ、非正規職員が5年で雇い止めされています。また、非正規公務員には無期雇用転換制度そのものがありません。そればかりか、雇用更新時に公募が強制されており、パワハラ公募と現場では呼ばれています。詳細は、全労働が加盟する国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)が作成したパンフレット『非正規公務員を差別しないで! 国の非常勤職員の手記』を参照。

(参考資料)

 

本企画の主役である当事者=非正規労働者(右)と対面で話をしながらオンラインで配信(2020年9月13日)

 

 

(基調報告)川村雅則「非正規雇用問題の何が問題か、取り組むべき課題は何か」

1.非正規雇用の何が問題か

非正規雇用の何が問題か。①不安定な雇用、②低く不公正な賃金、③権利行使や決定過程からの排除という3点にまとめてみました。

①は、有期雇用をめぐる問題ですが、加えて、仕事は恒常的でありながら半年や1年など期間を定めて雇われ続ける、有期雇用の濫用問題でもあります。

②は賃金水準が低いだけでなく、昇給や一時金、退職金がない(あるいはわずかである)など、賃金の決定基準をめぐる問題です。当事者の言葉を借りれば、何年勤めても賃金が一切上がらないのはなぜなのか、一時金や退職金が一切出ないのはなぜなのか、という素朴な疑問です。

③は、権利行使や発言が封じられていることだけでなく、労働条件の決定過程からも排除されている、という問題です。非正規労働者だけでなく、未組織労働者に共通する問題でもありますが、ただ、労働組合がある職場でも、この現象は見られます。つまり、非正規労働者は労働組合からも排除されている、という問題です。皆さんの職場はこの点、どうなっているでしょうか。

 

2.無期雇用転換は進んだか

図表1 無期雇用転換の仕組み

出所:厚生労働省「労働契約法改正のポイント」(2012年11月)より。

 

さて、①は労働契約法第18条を根拠とする無期雇用転換権の行使で改善が図られる予定でした。1年契約の非正規労働者で、法律の定め通りで推移していれば、2018年4月から無期雇用転換権が発生し、19年4月から無期雇用に転換しているはずです(図表1)。

しかし統計数値をみる限り、期待したほどには非正規雇用者中の無期雇用者は増えていません。5年を前に雇い止めが行われたり5年を超えても申し出をできない労働者が多数いると思われます。前者は、本日報告をされる北海道大学でも「5年で雇い止め」がルール化されています。後者は、総務省「労働力調査(2019年平均値)」によれば、593万人、有期雇用者全体の41.7%が、在職期間を5年以上と回答しています。

 

3.同一労働同一賃金の取り組みに着手できているか

図表2 就業形態、現在の会社における各種制度等の適用状況別にみた労働者割合

出所:厚生労働省「2014年就業形態の多様化に関する総合実態調査」より作成。

 

②は、労働契約法第20条、パートタイム労働法を前身とするパートタイム・有期雇用労働法が2020年4月から施行されました。欧州のそれとは異なりますが、同一労働同一賃金の考えが強化されたと評価し、活用していくことが労働組合に期待されています。皆さんの職場での進ちょくはいかがでしょうか。

図表2は厚生労働省による調べで、例えば退職金制度の有無には非常に大きな格差がみられる。まずは職場における一つ一つの賃金・労働条件格差の点検、検証作業を行い、その上で、不合理な格差は是正していくことが求められています。パートタイム・有期雇用労働法によって、格差の根拠を説明する義務が強化されていることも活用できるポイントです。格差の根拠を使用者に質しましょう。

なお、言うまでもないことですが、同一労働同一賃金という課題とあわせて、低すぎる水準問題を見逃してはなりません。週40時間というフルタイム(月173.8時間、年2085.7時間)で働いたと仮定しても、北海道の最賃額である時給861円では、月額15.0万円、年179.6万円に過ぎません。時給1000円でも、月17.4万円、年208.6万円です。最低生計費調査の結果に基づく労働界の目標値である時給1500円で、ようやく年収300万円に達します(年312.9万円、月26.7万円。以上は税・社会保険料などは考慮していない)。皆さんの職場で働く非正規労働者の賃金水準はこれらをクリアしているでしょうか。

 

4.労働組合自身が排除の主体になっていないか

図表3 労働組合の加入資格及び組合員の有無

注1:組合加入資格の有無「不明」を除く。
注2:組合員の有無「不明」を含む。
出所:厚生労働省「2017年労使間の交渉等に関する実態調査の概況」より。

 

③は、権利行使や決定からの排除としましたが、労働組合がある職場では、かなりの改善ができるはずです。労働組合に非正規労働者を迎え入れればよいだけなのですから。

しかしながら厚生労働省の調べによれば、非正規労働者の加入資格があるという労働組合は4割に満たない(図表3)。派遣労働者に限定すれば、1割に満たないそうです。皆さんの職場ではどうでしょうか。

就業規則の改定時や36協定の締結時に、非正規労働者も決定過程に参加できているでしょうか。正規と非正規とでは与えられる情報に格差(情報からの排除)がみられる、などのことはないでしょうか。同じ組織で働く仲間として認識されているでしょうか。皆さんは、職場を代表していると言える労働組合でしょうか。

 

5.非正規労働をめぐる官民格差

図表4 民間非正規と公務非正規の制度設計の違い──雇用にみる官民格差

注:公務におけるaの墨塗箇所は、条件付採用期間(試用期間)。b の点線は勤務実績に基づく能力実証が認められた箇所。cの実線は、公募制による能力実証が必要とされる箇所。
出所:川村(2020b)より。

 

 

以上に述べたことの官民格差にも注目をする必要があります。

私たちの社会ではよく、民間ではおよそありえないという言葉が聞かれます。公務員の世界の慣行や労働条件を揶揄して使われる言葉です。

その否定的評価の妥当性自体が検証される必要がありますが、ここで言いたいのは、そういうことではありません。非正規の公務員は、民間の非正規労働者に比べて不利な状況にある、ということです。無期雇用転換権もない、同一労働同一賃金の規定もない。そもそも労働基本権は制約をされています。労使対等の雇用契約と異なり、任命権者に大きな権限がある任用関係の下にある、と解されています。

ですから皮肉を込めて言えば、同じ非正規でも、公務部門では、民間部門ではおよそありえない制度設計の下で、労働者は不条理を強いられているのです。

地方公務員の世界で今年の4月から、新たな非正規公務員制度が始まりました。

言いたいことは色々ありますが、雇用面に焦点をあてると、国の非正規公務員ですでに行われている、いわゆる3年公募制が導入されました。不十分ながらも雇用安定の道が切り開かれた民間部門に対して、公務部門では、3年という一定の年数で、ほかの求職者と一緒に再度試験を受けなければならないのです(図表4)。パワハラ公募とも言われています。国から地方自治体へこれが広がりました。仕事の経験者を一定の年数ごとに公募に応じさせる──なんと無駄なことをしているのかと思います。

以上の問題を解決する取り組みを進めましょう。その前に、まずはやはり出発点に戻って非正規労働者の現状や思いなどを共有する必要があります。それではここからは現場からの報告に移っていきます。

 

 

現場からの報告

 

北海道大学で働く非正規職員

1年ごとに契約更新しながら北海道大学で働いている非正規職員です。北海道大学は,日々職員の入れ替わりがあるため正確な数を抑えることは難しいのですが4000人程度の非正規職員がいまして、その数は年々増えています。正規職員はほぼ横ばいですが,非正規を増やすことで業務量の増加に対応しています。

私も昨年度までは、また別のポジションで働いておりまして、そこでは技術補助員という職名で、時給ベースで最高額でも1120円という職種でした。このような形で働いている方は、大体3000人います。その他には、日給制であるフルタイムの非正規職員もいますが、日給は8700円で頭打ちです。

正規職員への登用試験もありますが、一般事務職のみに限られております。非常勤の職員には、技術職や研究職もありますので、その方々は実質試験の対象から外れます。また、受験できたとしても、合格者は毎年数名~5名程度です(全非正規職員の0.1%)。最近では合格者数すら発表されていません。

 

・5年雇止めについて

非正規職員は基本的に1年ごとの契約更新で、契約年限は最大5年です。北海道大学の契約職員や短時間勤務職員就業規則の第6条2には、「当初の採用日から起算して5年を超えることはしない」とあります。5年を超えて契約更新されると無期転換ができるため、川村先生ご指摘のように、これを阻止するために脱法行為を行っている可能性が非常に高いと思われますが、一部の例外を除いて5年以上の労働契約の更新はありません。

 

【2回目の発言】

北海道大学教職員組合としては、一番に5年雇い止めの撤廃というのを押し出していますが、成果は得られていません。

同一労働同一賃金の問題では、一部休暇制度について成果が得られました。産前産後休暇、保育休暇、介護休暇、病気休暇は、正規は有給で非正規は無給だったのが非正規も有給になりました。また、結婚休暇、人間ドック休暇、災害復旧休暇などが新設されました。これから要求しなければいけないのが、非正規職員、とくに短時間勤務職員と呼ばれるパートタイム職員の待遇です。北大ではボーナスや退職手当の有無が、フルタイムかパートタイムかで決まります。北大のフルタイムの労働時間は7時間45分ですが、パートタイムである私の勤務時間は7時間です。45分しか差がありませんが、この違いによって寒冷地手当、ボーナス、退職手当等に差がありますので、これらの待遇の改善を求めたいと思っています。

 

 

 

 

ハローワークで働く非正規職員

国の非常勤職員の雇用は極めて不安定です。例えば新規卒業者の雇用情勢がよくなると、翌年の新卒就職支援担当の枠を減らす、求人倍率が高くなると、翌年の求人開拓担当を減らす、反面、政策として企業支援に重点が置かれると助成金担当が増えるなど、年単位で大幅な非常勤職員の職種の増減が起こります。そして、そのことは私たちの雇用にそのまま直撃しています。

短期的な雇用に適任者が不足しても圧倒的に不足する職員でカバーすることは不可能です。そして、非常勤職員とっても雇用が奪われるのは死活問題です。そのため私たちは、組合をつうじてこれまで、非常勤職員の専門性を証明しつつ、能力ある非常勤職員の雇止めが行われないよう努力してきました。

国の非常勤制度の一番の課題は公開公募です。3回目の雇用のためには例え雇用枠があっても再度応募をし直し、書類選考、面接から、一般の応募者と一緒に選考される制度です。私たち労働行政の職場で、公開公募の対象者が600名以上もいた時もありました。契約開始は主に4月ですから、求職者が次の職場を決めようと活動を行う2月、3月のとても大切な時期に、私たち自身が最も不安に駆られた状態にいる状況を生んでいます。

窓口で、自分の現職種を応募したい方が相談に来ても、当然プロとして丁寧にアドバイスします。そして結局、これまでの経験とスキルから現職が多く採用され、後々状況を知った利用者から恨み言を言われるといった矛盾に、仲間は耐え続けています。あつれきは外部とだけではありません。選考の過程での職場の管理職や仲間との人間関係はボロボロになっていきます。さらに、採用事務を行う管理職のみなさんも、膨大な業務量を抱え困難な状況に陥ります。しかし、行政が適切にこの制度を運用しなければ、出来レースとの批判を受けることから、極めて誠実に実施していることもまた事実です。組合では、公開公募を「壮大な無駄を全力でとりくんでいる」と表現しています。

『非正規公務員を差別しないで! 国の非常勤職員の手記』

国の非常勤職員は労働契約法の適用除外であり、無期雇用の申し出はできません。無期転換の法律ができたおり、事業主から色々と質問を受けるのですが、アドバイスしている側が、もしかしたら3年でクビを切られるわけですから。理不尽な思いに駆られます。

一方、組合の成果としては、交通費が段階的に増やされ、ついに3年前から職員と同等になりました。ずっと言い続けてきたボーナスがつき、職員と同月分支給となったことは、大きな改善です。ほか、夏季休暇など色々な休暇制度も改善されつつあります。まだ、病気休暇など無給扱いのものが残されていますので、とりくんでいきます。残業代も組合をつうじて要求し、今すべての職種が対象となりました。こういう活動だとか色んな仲間と交流するようになったのは、この問題がきっかけとなりました。

今後の問題はやはり、地方自治体にも広がっている公開公募の問題です。3年公募なんて絶対に阻止したい。厚労省が「3年公募をやめます」となれば、それがまた全国に広がっていくと思いますし、組合の力でそのようになればいいのではないかと思います。

 

 

川村雅則「まとめに代えて」

皆さん、貴重な報告をありがとうございました。

報告のための報告ではなく、現状を変えようとする報告であり、内容の濃い、とても充実したものでした。皆さんの報告をうけて、三点の問題提起で締めていきたいと思います。

 

・法制度は整備されてきたとはいえなお大きな格差の存在

図表5 第1子妊娠前の従業上の地位別にみた、妻の就業異動パターン

出所:国立社会保障・人口問題研究所『現代日本の結婚と出産:第15回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書』2017年3月31日

 

第一点目は、あらためて確認されるべき雇用形態間格差の存在です。

報告のなかで、妊娠が確認された場合には雇用更新がされない、という規定が職場にかつて存在したという事例が報告されました。まことに時代錯誤であり、その撤廃は当然です。

しかしながらこの分野でもなお格差は大きい。妊娠後の女性労働者の就業異動パターンをみると(図表5)、非正規雇用者では離職を「選択している」者が多い。時代錯誤な規定を撤廃させるだけでも、法制度が整備されるだけでも、格差の解消には、なお不十分である、ということを申し上げたい。それは雇用(無期雇用転換)や賃金(同一労働同一賃金)の分野でも同様でしょう。

 

・職場の問題の解決は労働組合・集団的労使関係あってこそ

図表6 団結権の行使による労使対等の実現

出所:労働組合(札幌地域労組)で使われていた「教材」に学んで筆者作成。

 

格差の解消や権利行使は、労働組合があってこそ実現可能だということです。これが第二点目です。

今日は労働組合とは無縁の方にもご参加、ご視聴いただいているかと思います。そんな方々でも、本日の5人の報告を聞いて、労働組合ってすごいんだなと思われたかと思います。

労働基準法や労働契約法は、労働条件決定の労使対等原則をうたっています。労働条件は使用者が一方的に決めるものではありません。でも労働組合と無縁の皆さんはおそらく、そんなの無理だよと思われることでしょう。このコロナ禍にあっても、休業手当が支給されない、雇用調整助成金を使用者が申請してくれない、などの労働相談を私もうけてきました。ですから、労使が対等? そう疑問に思われるのも無理はありません。

でも、だからこそ労働組合、集団的な労使関係の構築が重要なのです。図表6はそのことを示すものです。

 

図表7 各種雇用問題への対応を切り口とした業種別・職種別非正規ユニオン

(大学非正規ユニオンのイメージ)

出所:筆者作成。

 

加えて言えば、一つの企業・組織内に取り組みをとどめていてはならない。企業横断的に規制をはりめぐらせていく必要があります。そのためには労働界の課題でもある、一つの企業をこえた、業種・職種別の労働組合の結成を視野に入れる必要があるでしょう(図表7)。本日、大学職場からの報告が多く配置されているのはそのような問題意識によるものです。

 

・2020年という重要な年に非正規雇用問題への取り組みを官民共闘で進めよう

図表8 無期雇用転換、同一労働同一賃金、官民格差の是正──関係する法制度の施行状況

出所:筆者作成。

 

第三点目は、本日扱われてきた問題解決を図る上で、今年はがんばりどきだということです。

第一に、無期雇用転換では、法の施行後8年を経過した時点、つまり2021年度以降に、「必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と法の附則事項に定められています。

職場で働いている人を5年で雇い止めして、その上で新たな人を雇うことに合理的な説明がつけられるでしょうか。脱法行為がすでに定着してしまった感もありますが、もう一度、雇用安定に向けて取り組みを始動させましょう。

第二に、同一労働同一賃金の取り組みは、労働契約法第20条を根拠とする、いわゆる20条裁判の実践が先行しています。主要な事件でこの秋には最高裁での判決が出そろうと、先日報道がされていました。職場の取り組みなくして司法を動かすことはできません。一つ一つの作業を急ぎましょう。

第三に、以上の二つの課題を民間部門で強力に進めることによって、民間ではおよそありえない、という公務部門の理不尽さが浮き彫りになるのです。逆を言えば、有期雇用の濫用や不合理な労働条件格差が民間で放置されるなら、民間も公務もどっこいどっこい、という言葉で片付けられてしまいます。労働界における官民共闘で非正規雇用問題への取り組みを強化しましょう。

本日は出発点です。オンライン学習交流会は継続していきます。それぞれの職場で実践を積み重ね、第2回目の学習交流会でお会いできるのを楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。

 

 

 

(参考文献)

川村雅則(2020a)「地方自治体における官製ワーキングプア問題と、労働組合に期待される取り組み」『POSSE』第44号(2020年3月号)

川村雅則(2020b)「労働界における官民共闘で、雇用安定と賃金底上げ・不合理な格差是正の実現を──非正規雇用をめぐる2020年の労働組合の課題」『労働総研クォータリー』第116号(2020年5月号)

国公労連『(パンフレット)非正規公務員を差別しないで! 国の非常勤職員の手記』2019年9月発行

 

 

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