川村雅則「学校で労働法・労働組合を学ぶ2013:大学生が労働法・労働組合と出会うとき」

以下は、雑誌『経済』第217号(2013年10月号)に掲載された原稿「大学生が労働法・労働組合と出会うとき」の転載です。

 

聞き取り通じ、労働問題へ接近

ゼミでは文献研究もさることながら、「働く人たちの現実に迫る」ことを心がけている。具体的には、労働者からの聞き取り調査や現場訪問だ。タクシー運転手、福祉(介護・保育)、公共サービス領域の民間委託で働く人たちや、ハローワーク前での求職者からの聞き取りなどに取り組んできた。

肉声で語られる彼らの窮状と向き合う中で、なぜこんな問題が発生するのか、どう解決したらよいのか、学生なりに必死で答えをさがす。いわば、現場と座学の往復である。(その成果は、例えば『介護に希望と笑顔を』2010年12月、『なくそう!官製ワーキングプア』調査報告書、2012年1月。これらの報告書・記録は筆者のHPに掲載)。

また学生自身、労働問題の当事者であり、アルバイト先で各種のトラブルにぶつかる。

学生という時間に融通の利く低賃金労働力へのニーズは高い。結果、長時間労働や勤務シフトの拘束でゼミ運営に支障が出る。

ゼミでは、2011年、12年と、本学の学生たちの実態を、『アルバイト白書』にまとめた。そこでの問題事例も多種多様だ。定番の不払い労働に加え、約束された賃金が払われない、商品の買い取り、ゆとりなき「社員さん」からのパワハラ的な扱い(飲食店)、給与の遅配やはてには企業倒産で未払い(相談を受けた中での最大は10万円超)などなど、一通りの労働問題が出そろう。

契約を結んで働いているという意識が、企業の側はむろん、学生の側にも希薄で、指示されたことには従わなければならないという「働く」観を実感する。

 

労働法だけでなく労働組合も

ゼミでは、自分たちのバイトトラブルの解決法を考えることを入り口に、労働法や労働組合の学習を重視している。

最近でこそ、労働法を教える重要性が認識され、すぐれた取り組みもみられるものの、その一方で、労働組合はちゃんと教えられているだろうか。労働法の意義を最大限強調した上でだが、では法を武器に一人で問題を解決していく「強い個人」を想定するのは現実的だろうか。アルバイト先の違法性をわかっても、彼らに言わせれば、「わかっちゃいるけど…」の心境だ(繰り返しになるが、まずは法違反だとわかるだけでも重要)。もう一歩、アクションに進む力──それが労働組合との出会いだ。

むろん学生にとって「ロードークミアイ」は、労働法以上に遠い存在だ。だからこそ、ここでもリアルさが重視される。

一例をあげると、「若者と労働組合が出会うとき─その意義と可能性を考える」(12年11月)と題した公開授業を開催。若者当事者と支援者(札幌地域労組)に、労組結成の取り組みを語ってもらった。曰く、職場の問題に悩み、ネット経由で労働組合にたどり着き、助言を受けながら仲間と一緒に労組(支部)を結成。そく経営側から不当労働行為が加えられるも、事前学習通りに慌てずに撃退。さらには団体交渉で職場の改善を勝ち取る、という一連のドラマティックな過程全てを、いわば「フツー」の若者が語るのだ。

「中学、高校で暗記させられた労働三権が具体的にわかった」「就職後に困ったときには地域の労組に相談してみようと思う」(受講生の感想)など、労働問題を解決する武器=「団結剣(同労組書記長・鈴木一氏による造語)」を「伝授」する絶好の機会となった(同公開授業のリポートは筆者HPに掲載)。

 

「キャリア教育」の克服を

若者は、昨今の就職状況の厳しさを背景に、早い段階から就職を意識している。大学の側も、雇用の椅子取りゲーム状態を十分に自覚することなく、例えば正規と非正規の生涯収入を比較し、正規雇用への就職を促してみたり、「新卒一括採用」という方式に疑問を持つこと無く、早期の「適職」探しを彼らに促す。こうした、いわゆる「キャリア教育」は、今日の労働市場の構造分析や学校と仕事の接続の現状に対する批判的意識を欠き、就職活動に心理主義的あるいは適応主義的にのみ対応することを求め、自己責任の内面化を強めるものでしかない。

キャリア教育全てを否定はしないが、「ふくらませた職業教育」(熊沢誠・甲南大学名誉教授)が必要であり、ここでは教育・学校関係者のがんばりが求められるところだ。

 

若者との交流─組合の「本来業務」

調査から報告書の作成までの一連の作業は、学生にとって悪戦苦闘の体験である。

だがこの作業は、個人化された「働く」観を修正し、私たちの暮らしを支える無数の労働(社会的分業)を意識させる。場当たり的なインターンシップよりも、すぐれた労働観の育成機会といえよう。聞き取り協力の労働者からかけられる「報告書、頑張って」「期待しているよ」との声や報告書に対する感謝は、学生に貴重な「承認」の機会ともなり、その後の勉強にも熱が入る。

いや、それよりなにより、労働組合関係者に想像して欲しい。高校時代からのバイト体験で労働法違反にも無自覚となり、就活では、職場の実際や労働条件に関する質問は御法度で、労働条件は企業が決めるという感覚に慣らされたまま、若い労働力が労働市場に参入してくることの問題性を。

こうした、個別企業・地域の労働条件の引き下げ要因を、社会に出る前に防ぐのはもちろんのこと、逆に、学生・若者に状況改善の力を与える(エンパワーメントする)という意味で、彼らとの接点、交流を広げる活動は、労働組合の本来業務と考えるがどうだろうか。

 

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