木下忠親「ついに、雇用年限 撤廃へ !! 連帯労働者組合・杉並、36年の要求実現」

木下忠親「ついに、雇用年限 撤廃へ !! 連帯労働者組合・杉並、36年の要求実現」『NAVI』2025年10月7日配信

 

(用語解説)

・雇用年限

1年単位の任用の更新回数に、上限を設ける制度。

最近は「公募によらない再度任用の回数制限」と同じ意味です。このことを、私たちは36年前の組合結成当時から「雇用年限」と表現してきました。単に「年限」とだけ表現していることもあります。

※詳しくは、(ナビ既掲載)安田真幸「非正規公務員に無期転換を!均等待遇を!労働基本権を!」の「はじめに」の注[4]、[5]を参照ください。

 

 

1 2024年12月26日、雇用年限撤廃で区と大枠合意

 

わたしたちは1989年の組合結成以来、雇用年限の撤廃を最重点の要求として掲げ、体を張って闘ってきました。10年間もの団交拒否に立ち向かい、歴代区長と管理職に直接対峙しての団交要求、組合員の解雇撤回闘争、労働委員会闘争を繰り広げ、団交権を確立してきました。

常勤-非常勤問わず、組合加入問わず、職場では、業務に精通した人を応募させ、プライドや尊厳をふみにじり、精神的に不安定にさせることに、怒りと疑問の声が連綿とあったのです。

岸本区長就任以降は、区長要請を重ねながら粘り強く撤廃を要求し続けてきました。2024年12月12日区側提案を受け、12月26日に行われた団交で雇用年限の撤廃を大枠合意しました。2025年度中に要綱などを改定し2026年度から年限なしの運用をする、取り扱いの詳細はおって交渉で決める、というものです。

この合意は、わたしたちの組合のみならず、全ての組合が雇用年限の撤廃要求に至ったことに加え、区議会でもたびたび取り上げられてきたことが、最終的な杉並区の決断へと結実したことによります。

 

 

2 前史

 

杉並区は都内自治体のなかでもいち早く、1985年に雇用年限制度を導入しました。当時、雇用年限は全国的にも珍しい時代でした。

杉並区の雇用年限は5回まで=通算6年が基本(導入当時は2回まで=通算3年の雇用形態も)。そして一任用期間(一年)を空けないと再応募・再採用ができませんでした。

以来、杉並区は3年や6年の年限で、毎年度末に200~300人もの非常勤を一律に雇止めにしていたのです。文字どおりの「安上がり・使い捨て」でした。

2010年度からは、雇用年限がきた人も1年空けずに応募できるようになったものの、再採用されない限り働き続けることはできませんでした。このため再採用で選別されることになり、働く者が安心して働き続けられる制度とは言えませんでした。実際に働く希望を持ちながら、再採用されずに職場を去らねばならなかった人も少なくありません。職場・職種にもよりますが、経験者の合格率はおおむね85%~95%で推移してきました。

職場の仲間を不安におとしいれるこの制度の撤廃を、わたしたちは1989年の組合結成以来、強く求めてきました。

2024年6月28日の人事院通知の改正を受け、総務省もマニュアル変更の通知をしました。23区でも約半分が雇用年限の撤廃するに至り、ようやく杉並区も撤廃を決断したのです。先にも述べましたが1985年、年限を23区の中でも最初に導入し、2010年までは毎年200〜300人も一律に雇止めしてきた杉並区。これを自ら撤廃提案をしたことは、とてつもなく大きいことです。

その核心は、人事院・総務省に6.28通知を出させた国や自治体の労働運動の力と全国各地での「官製ワーキングプア」をなくすための取り組みの前進に加え、働く人が集まらない状況を危惧し年限を撤廃する自治体が相次いだことによります。

 

 

3 撤廃の喜びも束の間、怒りの6.12提案

 

大枠合意では、その他の取り扱いの詳細は追って提案し協議する、となっていました。私たちは「定期的な組合との協議」で具体的内容を詰めていくことを提案しましたが、区側が受け入れることはありませんでした。

年が明けても提案が出ない、年度がかわってもなかなか提案をしてこなかった杉並区。区人事課に折衝で交渉促進と年限撤廃の最終的確定を求め、すみやかに提案を行うよう要求書も提出していました。

満を持して(?)提案が行われたのが6月12日。

その内容は、提案までに時間がかかった割には、とてつもなく酷いものでした。内容は以下のとおり。

① E評価2年連続で、公募なしの再度任用から外れる(杉並区は5段階評価)

② 65歳になった段階で、一律に登録制へ移行 ※本人同意なし

③ 同じく65歳になった段階で、月給制から待遇の劣る時給制に一律に転換 ※本人同意なし

 

というものでした。この酷い内容でありながら、交渉期限を7月末日で切っていました。

 

 

4 6.12提案の問題性

 

(1) 65歳になったら本人同意もなしに労働条件の一方的不利益変更

自治体非正規公務員のほとんどは会計年度任用職員とされ、1年の細切れ雇用(任用)で大変不安定な働き方です。杉並区ではそのうえに雇用年限があり6年間しか安心して働けないため、わたしたちはじめ全ての労働組合はこの撤廃を求めていました。

そして昨年12月にやっと撤廃の大枠合意。これで安心して働き続けられると思ったのも束の間、先述の6.12提案でどん底に突き落とされました。

提案の②③は、定年制が適用されない会計年度職員への実質的な定年制導入であり、労働条件の一方的不利益変更そのものです。

そして65歳登録制とは、a)65歳でいったん「更新を打ち切り」、b)働き続けたい人は「名簿登録して連絡を待つ」、つまりc)「働けるかどうかは区の裁量」という仕組みです。これでは「解雇と失業の隠蔽」としか言いようがありません。声がかかるまでは、次年度に働けるかどうかもわからない制度だからです。そして「クビにされたのか、失業したのか」もハッキリしません。雇う側だけにとって都合がいい制度なのです。

区側の提案の理由は「常勤職員がそうしているから※、均衡のため、取扱いを同じにする」というものでした。

※65歳で再任用を終えた常勤職員が、会計年度職員として働くことを希望する場合は、「登録制」で「時給制」の会計年度職員としてのみ採用する運用をしていました。

おかれた状況の全く違うものを、結論だけ同じにする暴挙と言えます。

常勤は長く働き、年金もある程度の額がもらえる。そして退職金もある。

杉並区の会計年度任用職員の多くは、50代以上の高年齢層の女性たちです(この傾向は全国に共通していると思います)。退職金もなく年金も不十分な人が多いのです。区政運営を彼女らに大きく依拠していながら、この仕打ち。

さらに65歳以降は登録制の名のもと、雇用(任用)更新のない制度になっており、当事者たちには大きな生活不安が広がっていました。

 

(2) ジェンダーの問題 自治体は中高年齢層の女性たちに支えられているのに

非正規公務員は保育や学童指導員、各種の相談員や福祉関係の援助職、事務職、学校図書館司書やスクールカウンセラーなど多岐にわたる職種があり、それぞれが住民に身近な公共サービスを担い、住民のために尽くしています。

杉並区の会計年度任用職員の年代別人数割合をみてください(添付チラシ①の裏面の円グラフを参照ください)。50代以上が73%でほとんどが女性です。自治労連が行った2022年の全国アンケートでも回答者2万2401人のうち、33.6%が60代、50代の32.7%と合わせて50代以上が63%を占めます。また、総務省調査では非正規公務員に占める女性割合は75.8%とされています。

人手不足の中、公共サービスは中高年者、とりわけ高齢層の女性によって支えられていると言っても過言ではありません。65歳以上が約4分の1を占める杉並区の現状で、首切りにつながりかねない「登録制」という仕打ちは酷すぎます。

そして、そもそも期間の定めのある契約に対して年齢制限をつけることは、年齢差別となり違法だと考えられます。

 

(3) 内容も悪いが交渉期間が短かすぎ、そして人事担当者も困る制度

そもそも提案があったのは、6月12日。そして交渉期限を7月末までとした。1ヶ月半程度の、わずかな時間の中では充分な交渉ができない内容です。この区の傲慢は許されるものではありません。丁寧に当事者の声を聞くとともに、充分な労働組合との交渉が必要でした。

そもそも登録制を導入すると新たな登録事務が増え、人事当局や各課の庶務担当が大変になるだけで誰の得にもならないことは明らかでした。わたしたちは業務を十分にこなせる健康状態である限り働き続けられる制度が、働く側の理解も得やすくシンプルで一番良いと訴えました。

 

 

5 杉並夏の陣―二労組共闘へ。そして8月最終決着

 

わたしたちはこの6.12提案に強く反発・反対し、それぞれの組合で交渉をしましたが、埒が明きませんでした。連帯労働者組合・杉並としては「なくそう官製ワーキングプア集会」で10年以上の信頼関係のある東京公務公共一般労働組合と、共同の取組を進めることにしました。

力になったのは共同の庁舎前情宣2波(チラシ①、写真①)、そして8月6日の区長要請(写真②)です。

チラシ①表面
チラシ①裏面
写真①
写真②

 

 

交渉期限ギリギリの7月30日、区職員の退庁時間に合わせて夕方の庁舎前情宣行動に取り組みました。横断幕を掲げ、マイクで訴えつつビラまきを行いました。退庁する区長や副区長に声掛けをすることもできました。

区長要請では、公共一般の現場の組合員が切実な訴えを行い(チラシ②)、区長の表情はみるみるうちに険しく変わっていきました。駆けつけてくれた公共一般墨田支部からは「65歳定年制」提案を撤回させたことを力強く発言。この区長要請直後にも、昼休み情宣行動に取り組みました。

 

チラシ②表面
チラシ②裏面

 

そして要請翌日には、折衝の打診(「良い話を伝えたい」とのこと)がありました。8月12日(連帯)、19日(公共)の交渉で、前述の区側6.12提案の②③の提案撤回を勝ち取ることができたのです。

あきらめず、当事者とともに、宣伝、要請を共闘で攻勢的に取り組んだ末の貴重な成果と言えます。このことは、定年制を他自治体に広げさせない大きな歯止めにも繋がります。

(連帯・杉並は、学校現業の当事者組合員の存在により、地公労法適用の「混合組合」です。このことを活用して、区側が提案通り強行する場合に備えて、東京都労働相談情報センターと労働委員会事務局を訪問し、労働委員会に「あっせん」申請の準備を行っていました。強行するようなことがあれば、争うことを労務担当にも伝えてありました。)

 

区提案①については、残念ながら撤回させられませんでした。年限を撤廃させた自治体でも多くがこのような条項を突破できてないことから、長期戦で構えることとしました。そして公募に回され事実上の雇止めとなる他の問題(たった一度の懲戒処分で雇止め、病気休暇の欠勤換算)とあわせ、運動、交渉を続けていきます。

 

 

6 これからの課題

 

今後、会計年度任用職員が安心して働き続けるための課題は、杉並区では以下になります。

① 更新拒否基準=「欠勤が勤務期間の1/2を超える」場合の問題

特に、病休を欠勤として扱うことを辞めさせたい(病気休暇の趣旨を損なう)

② 「軽微な1回の懲戒処分で雇止め」の問題

③ 「低評価」が続くいわゆる「不適格」職員の問題

④ 毎年の試用期間の撤廃

 

とくに③については具体的な事例を基に、区とじっくり議論していくことになります。年限のない他自治体の基準を参考にしながら、恣意的な選別・排除をさせないようにしなければなりません。

今後は人事評価の公正さが課題になるため、以下の取組も重要になってきます。

① 人事評価制度における本人開示や苦情申立て制度など、透明性・民主制の確保

・苦情申出制度における外部機関、第三者機関の導入(ハラスメント対策とも連動)

② 人事委員会への不服申立て制度、措置要求制度を会計年度任用職員に周知すること

③ 現業職員のための「苦情処理共同調整会議」(地公労法13条)を設置すること

 

雇用年限がなくなったとはいえ、現在の単年度任用が、無期の任用になるわけではありません。毎年度、任用されなおす不安定さは変わりません。人事評価によっては再度任用されないこともありえます。

雇う側と雇われる側は、そもそも対等な立場にありません。労働条件の改善・地位向上のために労働組合が必要です。要求と団結を強め、さらに安定した雇用をかちとることが必要です。

雇用年限撤廃の次の目標は、せめて民間と同じ水準の無期転換制度の実現、単年度任用の撤廃です。これらをめざして、これからも北海道はじめ全国の皆さんと交流しあい共に歩みを続けていこうと思います。

今後ともよろしくお願いします!(写真③:庁舎前報告情宣)

写真③

 

 

 

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