川村雅則「会計年度任用職員の雇用安定を目指して──東京集会実行委員会・北海道の取り組みから」

NPO法人官製ワーキングプア研究会が発行する『レポート』第48号(2024年12月に発行予定)に掲載予定の原稿です(2024年11月7日脱稿)。これからの校正で加筆修正を行うかもしれません。ご了承のうえお読みください。NAVI投稿では分量に制限がないので若干加筆をしています。(2024年11月9日記)  →『レポート』が発行されました(2024年12月■日)

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写真は、2024年11月2日に大阪で開催された、第12回なくそう!官製ワーキングプア大阪集会。午後の部(全体会)の最後のパート「非正規公務員をどうする──日韓「労働政治」の視点から」の風景です。

 

 

会計年度任用職員の雇用安定を目指して

──東京集会実行委員会・北海道の取り組みから

 

川村雅則(北海学園大学)

 

はじめに

11月2日、大阪で開催された、第12回なくそう!官製ワーキングプア集会に参加し、山下弘之氏(官製ワーキングプア研究会理事、東京集会実行委員会メンバー)と二人で約1時間の報告を行った(レジュメはこちらを参照)。報告では、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の中核をなす雇用安定を会計年度任用職員の世界にも実現するためのそれぞれの取り組みを紹介した。全国各地で同様の取り組みが広がるのを願ってのことである。当日の報告のポイントを紙面であらためて報告する。

なお、本稿は筆者が共同で管理・運営しているウェブサイト「北海道労働情報NAVI」(以下、NAVI)に掲載している。元データにリンクを貼っているので活用されたい。

 

民間ではあり得ない!──「有期雇用の濫用」の制度化

何度でも強調したいのは、会計年度任用職員制度の不条理である[1]。民間非正規制度との比較で言えば、1年ごとの雇用(任用)が厳格化され、無期雇用転換制度がない上に、実効性ある雇い止め規制がそもそも存在しない。それゆえ、不合理な雇い止めが容認されてしまう*。自分がなぜ雇い止めにあったのか分からない、雇い止めの理由が示されない、雇い止めに納得ができない、人事評価の上でも問題はなかった(どころか高い評価が得られていた)、などの声が現場からは聞かれる。民間であれば「出るところに出たら勝てる」ケースであっても、「出るところに出ても勝つのが非常に難しい」状況におかれているのが会計年度任用職員(非正規公務員)である[2]。同じ非正規でも、民間と公務でこれだけ異なるのだということを、あらためて広く知らせていくことが重要である。なお、労働基本権を制約されていることも、上記の問題解決をより一層困難にしている。

 

*民間非正規であれば、「労働契約法第19条 〔略〕使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」が適用される。

 

人事院・総務省からの通知(2024年6月)と自治体の動き

そのような中で今年の6月、いわゆる3年公募に関する文言が国の非正規公務員に関する人事院通知から削除された。それをうけて、総務省マニュアルからも、3年公募に関する助言規定が削除されることとなった。

 

期間業務職員を再採用する場合も最初の採用の際と同様に公募を行うことが原則であるが、面接及び従前の勤務実績に基づき能力の実証を行うことができるときは公募によらない再採用を行うことができる。この公募によらない再採用について、局長通知ではその上限回数を原則2回までとするよう努めることと記載していたが、今回この部分を削除する。

出所:人事院「「期間業務職員の適切な採用について」の一部改正について」2024年6月28日より。

 

この通知をうけて公募廃止の動きが自治体で広がっている[3]。国の通知を後ろ盾にして公募を続けてきたものの、そもそも人手不足で欠員さえ生じている職場・職種もあるなかで、このような無意味・有害な業務(ブルシットジョブ)を行うことに対しては、公募・選考を行う側もまた矛盾や負担を感じていたのではないか。

一方で、こうした動きに逆行して早々に公募実施の名乗りを上げたのが、名古屋市である。名古屋市は、1200人もの非正規保育士の公募・選考を(人数が多くぎりぎりでは間に合わないからと)前倒しで開始すると労働組合に通告してきた。

公募がそもそも義務でなかったように、公募の廃止も義務付けられたものではない。名古屋市同様に、公募に固執する動きも一方で続くだろう。楽観せずに公募廃止に向けた取り組みを確実に進めていこう。

 

大量離職通知書調査という取り組み

ところで、公募規定が削除された人事院・総務省通知の背景には、当事者・労働組合などによる粘り強い様々な取り組みがあった。その一つが東京集会実行委員会による「大量離職通知書」調査の取り組みである。この制度や取り組みの詳細については、NAVIに掲載された、安田真幸氏(実行委員会メンバー)を参照いただくとして、ここでは、各地で同様の作業に取り組もうという行動を提起したい。

○大量離職通知書調査が必要な理由

大型小売店や工場の閉鎖で大量離職が想定されるとハローワーク内に対策本部が設置される。失業対策、就職支援は個々人にとってはもちろんのこと、地域にとっても重要な課題であるからだ。ところが、会計年度任用職員の場合、制度上雇用が不安定で、しかも実際に少なからぬ離職が発生しているのに、そもそも、離職者数の把握さえ適正に行われていないのが実態だ。一か月に30人以上の離職者の発生など、一定の条件に合致すれば、ハローワークへの通知書の提出は法で義務付けられたものであるにもかかわらず、である。

年度末ぎりぎりになって公募・選考がされたり、雇い止めや離職の回避努力がされない背景には、離職に関する手続きのこうした軽視がある。逆に言えば、法に定められた手続きを自治体にとらせることが、任命権者としての自覚をもたせることになる。そして、自発的理由を含めてこんなにも離職者数が毎年発生していることを「可視化」することが会計年度任用職員制度のおかしさを浮き彫りにすることにつながる。

○2024年度末に向けて各地で取り組みを始めよう

東京集会実行委員会の取り組みが、厚生労働省や総務省の動きを後押した。しかし、この制度は自治体ではまだ十分に浸透していない。意図的に通知書を提出していない自治体もある。状況を変えられるのは各地の取り組み以外にない。

北海道のを例に、取り組みの手順を述べる。(1)法に則って手続きをとることをお願いした文書を年明けに各自治体に送付する。北海道は基礎自治体の数が多いので、送付先は北海道(庁)と35市に限定している。(2)年度が替わったら労働局に、各自治体から提出された通知書の情報開示請求を行う。(3)開示結果を受け取る。通知書は思ったほどに提出されていないかもしれない。提出を怠っている自治体もあるからだ。そこで上記(1)でお願い文書を送付した自治体に対して電話による照会を行う。自治体への啓発活動の一環でもある。この段階で通知書の提出を約束してくれる自治体もある。(4)労働局に対してあらためて情報開示請求を行う。最終的に、北海道では、2023年度末の非常勤職員の離職者数は、7市1町で合計1113人であった[4]。基礎データの把握は現状の検証と改善に不可欠である。(5)把握した情報は労働組合や自治体議員に伝える。(6)労働局に対して質問状も出す[5]。通知書未提出の放置は、職業安定行政の存在意義にも関わると思うからだ。通知書は、提出してもしなくてもよい代物なのか?

なお、以上の取り組みは、離職の適正な手続き(法の遵守)を自治体に求めていくという極めて「穏健」な考えに他ならない。東京集会実行委員会の苦労を各地で活かしていこう。

 

自治体議員と共同・連繋しよう

北海道では、公務非正規問題に関心をもち、議会質問などに取り組む議員らで構成された「公務非正規問題自治体議員ネット」(議員ネット)が2024年8月に立ち上がった[6]

議員・議会には、行政監視機能、政策立案機能がある。公務非正規問題に自治体労働組合が必ずしも十分に関われていないなかで議員・議会に課せられた役割は大きい。

もちろん、個々の議員はともかくとして、総じて言えば、議会が現状を「容認」「スルー」してしまっているから公務非正規問題が存在する。また、議員の性や年齢の偏りを考えると、圧倒的に女性が多い非正規公務員問題への理解を広めることも容易ではなかろう。実際筆者らは、2023年の統一地方選挙で首長や議員候補者に公募廃止の是非を問うたが、公募廃止を明言した候補者は思ったほどに多くなかった[7]

だが、こうした状況、つまり、公務非正規の実態が議会で十分に知られていない状況を変えることも、我々が掲げる「公共の再生」の具体的内容なのではないか。公務非正規問題に取り組む議員(「推し」)を探し、ともに活動を始めよう。各自治体から1人以上の議員が集えば、関連情報の自治体別比較表・一覧表の作成が可能になる。総務省に対抗する、ボトムからの情報収集・配信を目指そう。

なお、複雑な(詭弁的な)会計年度任用職員制度の理解は容易ではない。議会質問を想定した実践的な学習会が必要だ。また、そうして行われた議会質問は、他の自治体議員にとっても有益な情報である。すぐれた取り組みや議会質問の情報を共有するためにも、個々の議員の議会質問の「アーカイブス」化などを進めよう。幸い、議会質問はテキスト化されて議会のデータベース上で配信されている。動画も配信されている。当該議員の了解・協力の下で活用しやすく整理をしよう。以上は、北海道の取り組みを参照されたい。

 

雇用安定に関する「応急処置」を急ごう

公募が廃止された後、能力実証には人事評価制度が使われることになるだろう。実際、そうしている自治体もある。ただ、人事評価は悪用されるおそれがある。公募に代わって今度は人事評価制度が、雇う/雇われるという支配・服従構造を強化しハラスメントの土壌となりかねない。そもそもの人事評価制度の設計にあたって、何を評価の対象とするのか、評価によってどこまでの不利益処分を認めるのか、評価とその根拠情報に対するアクセスや抗議の権利などに労働組合規制を張り巡らせることが重要である。

山下氏は、人事評価に関する「4つの原則」と「2つの要件」を強調された。すなわち、前者は、公平・公正性、客観性、透明性、納得性で、後者は、苦情処理・不服解決制度の整備と周知(情報開示を含む)である。いずれも首肯される。

そもそも、会計年度任用職員の場合、昇進・昇格や配置・異動、さらには昇給に評価結果を使われることは(現時点では残念ながら)想定されないのだから、人事評価の目的は「人材育成」に置かれるべきだろう。仕事ができない、勤務成績が不良である場合でもいきなり雇い止めするのではなく、教育訓練の機会などが必要である。

○労働・勤務条件通知書のチェックを

もう一点、山下氏から重要な提起があった。労働・勤務条件通知書におけるチェックである。すなわち、労働基準法第15条は地方公務員にも適用されるのだから、労働条件を明示させるのはもちろんのこと、通知書に示された「契約の更新の有無」において、「更新する場合があり得る」にチェックをつけさせることが最低限必要である。同時に、更新の判断基準を書面で示させることも重要になる[8]

出所:厚生労働省「労働条件通知書」モデルより抜粋。

 

無期雇用を原則とした制度が出来上がるまでのあいだ、以上の応急処置の実現が各職場での急がれる課題となる。

 

「隣」の公務非正規問題にも取り組む

取り組み・運動を大きくしていくための幾つかの提案を集会報告では行った。「大量離職通知書調査」など実施する上でも、基盤整備として、当事者・労働組合・弁護士・議員など関係者で問題解決に取り組む組織作りや、情報の整理・配信・共有などプラットフォームの整備も課題である。

その上で、筆者と山下氏が強調したのが、委託や指定管理など公共民間労働問題への取り組みである。期末・勤勉手当の支給など、会計年度任用職員制度で不十分ながらも処遇の改善が進めば、逆に、民間化(民営化、業務委託)の進むことが懸念される。公共民間の分野にも労働組合の規制や公契約条例を張り巡らすことが必要である。

2点補足する。(1)札幌市の公共調達や総合評価落札方式に関わって、業務委託や指定管理に関するデータを整理した[9]。民間委託の際に積算される予定価格のうち人件費部分(労働者の賃金)では、会計年度任用職員の賃金も使われている。会計年度任用職員問題と公共民間問題とは一蓮托生の関係にある。(2)山下報告によれば、民間委託に伴う雇用保障・雇用継続に関して、自治体間で大きな差があることが大量離職通知書調査で明らかになっている。埼玉県のT市では、学校給食センターの民間委託に伴い離職者数が70名を超えた。しかし、就職先確保の取り組みは大量離職通知書に何ら記載されていなかったばかりか、別ルートからの情報によれば、委託会社は最低賃金による雇用を提案し、結果として、会計年度任用職員は雇用継続を希望しなかったという。地域を崩壊させるダンピング合戦を止めることが急務である。

 

最後に

地方行政改革など、長く続いた新自由主義政治によって、自治体は、構造改革の推進母体に追い込まれているという一面もある。なかには、改革を推進してきた首長・議会勢力も存在する。任命権者/発注者の姿勢を変えることを起点に、地方政治・政府を変える、地方から中央(政府)を変えることが私たちの課題である。

 

 

 

[1] 拙稿「会計年度任用職員にも民間並みの雇い止め規制を」『NAVI』2024年10月11日配信を参照。

[2] この問題が大きくクローズアップされたのは、東京都のスクールカウンセラー大量雇い止め事件である。原田仁希「公共を破壊する会計年度任用職員制度──スクールカウンセラー雇い止め問題」『学習の友』第853号(2024年9月号)pp.42-45などを参照。

[3] 渡辺百合子「首都圏106自治体情報公開請求の報告~大量離職通知を使って会計年度任用職員の離職状況を調べてみました」『NAVI』2024年9月15日配信を参照。

[4] 拙稿「北海道における会計年度任用職員の年度末の離職者数は何人か(暫定版)」『NAVI』2024年7月29日配信を参照。

[5] 拙稿「大量離職通知制度に関する北海道労働局への質問とご回答」『NAVI』2024年6月15日配信を参照。

[6] もっぱらFacebookで情報配信を行っている。フォローをお願いしたい。

[7] 例えば、無期転換逃れ阻止プロジェクト「公開質問/札幌市議会議員選挙立候補予定者からのご回答」『NAVI』2023年3月28日配信を参照。

[8] 山下氏の提起をうけて、どのような通知書が使用されているのか、全国町村会のウェブサイトを閲覧してみた。「会計年度任用職員の任用(再度の任用を含む)時に交付する「勤務条件通知書のイメージ」の作成等について【令和元〔2019〕年12月13日追記】」を参照。

出所:上記ページのうち、全国町村会「(2)-1.勤務条件通知書のイメージ(PDF) [PDFファイル/811KB]」

[9] 拙稿「札幌市の公共調達及び総合評価落札方式に関する中間報告(4)──2024年調査に基づき」『建設政策』第218号(2024年11月号)pp.40-45

 

 

 

 

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