NPO法人建設政策研究所が隔月で発行している雑誌『建設政策』第211号(2023年9月号)に掲載された、宮澤毅さん(全日本建設交運一般労働組合(略称、建交労)北海道本部書記長)の原稿です。どうぞお読みください。
なお、『建設政策』第211号の特集は、「「働き方改革」への対応と建設産業の課題」です。研究所への入会とあわせて雑誌の購入をご検討ください。
「札幌市の施設清掃・警備で働いているみなさんの実態調査アンケート」集計結果概要──2022年度を中心に
宮澤 毅
札幌地区労働組合総連合・北海道自治体ユニオン・建交労札幌合同支部では、表記の実態調査アンケート調査を2018年度に再開し、年末から年始にかけて札幌市の施設で働く労働者へアンケートを直接手渡すなどして、5年間にわたり実態調査を行ってきました。以下、2022年度集計結果を報告します。
なお、調査結果の詳細な評価や今後の活動方針は十分に練られておらず暫定的なものとご理解ください。
1.集約状況などについて
表1 アンケートの回収数の推移
施設清掃 | 警備業務 | 施設管理 | 無回答(不明) | 合計 | |||||
男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | ||
2022年度 | 5 | 13 | 5 | 0 | 4 | 1 | 0 | 0 | 28人 |
2021年度 | 0 | 12 | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 16人 |
2020年度 | 5 | 29 | 10 | 0 | 2 | 1 | 1 | 1 | 49人 |
2019年度 | 5 | 33 | 10 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 49人 |
2018年度 | 3 | 29 | 6 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 40人 |
2021年度調査ではアンケート配布直前に複数年度契約の「更新年」だったこともあり、とくに地下鉄清掃員の顔ぶれが変わりアンケートの受け取りがよく、集約枚数増加の期待が高まった。しかし、回収できた数は地下鉄以外の施設を含め全体で16人となり、アンケート調査を再開してから過去最低の集約数となった(全体配布数は集約していない)。
2022年度調査では、集約数は28人と若干増え、設備管理のアンケートが例年よりも多く回収できた。なお、2022年度調査では札幌市の何区の施設で働いているかについて項目を追加した。
2.年齢構成など
2021年度と比較し、2022年度の特徴として、施設清掃と設備管理で男性から回答が得られたこと、そして施設清掃で女性30代(正社員)から回答が得られたことがあげられる。
表2(表2~9は39ページに一括掲載〔ウェブ版では、適切な場所に配置〕)のとおり、全体では男女ともに14人から回答を得て、女性は30~50代で4人(28.6%)、60代~70代以上10人(71.4%)に対し、男性の50代以下は警備業務の1人のみで、60代~70代以上で13人(92.9%)となった。
表2 性×年齢×業主〔種〕別にみた回答者数
性別×年齢 | 男 | 女 | ||||||||||||||
全体 | 30未満 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代以上 | NA | 全体 | 30未満 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代以上 | NA | |
施設清掃 | 5 | 2 | 3 | 13 | 1 | 2 | 5 | 5 | ||||||||
警備業務 | 5 | 1 | 4 | 0 | ||||||||||||
設備管理 | 4 | 3 | 1 | 1 | 1 | |||||||||||
NA | 0 | 0 | ||||||||||||||
計 | 14 | 0 | 0 | 0 | 1 | 9 | 4 | 0 | 14 | 0 | 1 | 0 | 3 | 5 | 5 | 0 |
3.時給について
2020年度調査では、『全体(清掃・警備・設備)』で900円以下が32人(64.6%)、900円超が月給者と不明者を含めて17人(35.4%)であった。
2021年度調査では、『全体(清掃・警備・設備)』で900円以下が8人(50.0%)、900円超が月給者と不明者を含めて8人(50.0%)であった。
表3 各業種の時給
時給 | 施設清掃 | 警備業務 | 設備管理 | 計 | 構成比 | 備考 |
920円 | 3 | 5 | 3 | 17 | 60.7% | 区民、体育、病院、学校、分庁舎、保健所 |
925円 | 1 | 区役所 | ||||
930円 | 1 | 区役所 | ||||
950円 | 3 | 図書館 | ||||
980円 | 1 | 区役所 | ||||
1,096円 | 4 | 9 | 32.1% | 区役所、区民C | ||
1,100円 | 5 | 市役所、区役所、区民、水道局 | ||||
月給制 | 2 | 2 | 7.1% | 学校、地下鉄、区民C | ||
計 | 18 | 5 | 5 | 28 | 100.0% |
表3のとおり、2022年度調査では、『全体(清掃・警備・設備)』で900円台が17人(60.7%)、1,000円超が月給者を含めて11人(39.3%)であった。
『施設清掃』では、920円が3人(16.7%)で、この5年間の調査で「指定管理者」から清掃委託をしていると思われる体育施設、保健所などで北海道地方最低賃金もしくは最賃近傍に張り付いていることがわかっている。一方、「区役所」や「図書館」では900円台で推移してきており、2022年度は950~980円が4人(22.3%)の他、時給がはじめて1,000円を超え、1,096円・1,100円が9人(50%)という結果となった。
2020年度調査で、900円以下の19人(55.9%)と915~950円の11人(32.3%)をあわせて、時給1,000円以下が30人(88.2%)で、時給1,000円を超える清掃員は「地下鉄のみ」であったことを踏まえれば、最低賃金の引き上げによる恩恵は大きいと言える。しかし、建築保全業務労務単価とは程遠く、清掃労働者がいかに最低賃金やその近傍に据え置かれてきたかということを改めて裏付けた。
『警備業務・設備管理』では、2020年度調査(最賃861円)で、区役所や図書館などの警備業務で「深夜労働」があるにもかかわらず、回答者全員が最低賃金若しくはその近傍の「861円+α」の900円以下であり、「深夜割増」が支払われていない可能性があることがわかった。残念ながら2021年度調査では月給制との回答は1人だったため評価できないが、2022年度調査でも同様に回答者全員が時給920円と回答(1人だけ月給制・時給920円と回答)している。このことからも、「深夜割増」が支払われていない可能性が高い。
また、2020年から2022年までに北海道最賃が59円上がり920円となり「861円+α」の900円以下の時給を完全に追い越すカタチとなり、2022年度は全員が北海道最賃920円に張り付くカタチとなったと推察される。
4.勤続年数と時給について
表4には、勤続年数と時給の関連を事例(施設清掃)ごとに示した。
表4 勤続年数と時給の具体例(施設清掃)
いまの施設の勤続年数 | 23年 | 10年 | 8年 | 6年 | 5年 | 4年 | 1年 |
いまの会社の勤続年数 | 2年 | 2年 | 3年 | 3年 | 5年 | 3年 | 20年 |
時給・給与形態 | 1096円 | 1096円 | 950円 | 月給制 | 920円 | 950円 | 月給制 |
2022年度調査の施設清掃で、「70代女性」が「いまの施設の勤続年数23年」・「いまの会社の勤続年数は2年」で「時給制」とあるように「会社での勤続年数」より「施設での勤続年数」が上回っているケースが特に清掃労働者に多いことがこれまでの調査でもわかっている。対して、サンプル数は少ないものの「65才男性」のケースでは「いまの施設の勤続年数1年」・「いまの会社の勤続年数は20年」・「月給制」というように、「会社の勤続年数」が多い人ほど月給制である場合が多いことがこれまでの調査結果の傾向でもある。
また、総合評価落札方式が掲げる「履行品質の確保、企業経営および労働者雇用の安定化が狙いである長期継続契約(3年)」は札幌市の「大義名分」は果たしても、受注者と労働者の思惑に大きな隔たりを生んでいるのではないだろうか。「無期転換逃れ」はもってのほかだが、企業側にとって「複数年契約=3年」は労働者を切り捨てるには好都合だが、労働者にとって「労働者雇用の安定化」が本当に果たされているのかは疑問が残る。仮に2回連続(6年)同じ企業が落札し雇用継続され無期転換権を行使できたとしても、さらにその先も同一企業が落札するとは限らないし、無期転換したことで働き場所が変わってしまうようなことは、労働者の本意ではない場合も多いはずである。また、年次有給休暇の付与日数の発生要件を考えても働く側にとっては万能ではない。前者の「70代女性」のように、複数年契約=3年で落札企業が変わることなどに起因して、働き場所は変えずに落札企業への“再就職“を繰り返していると考えられるが、同じ場所で働いていても会社が変わることで労働時間短縮や時給が下がったなどの声があることも付言しておきたい。
5.労働時間と時給
表5 賃金の増減
上がった | 13 |
上がっていない | 14 |
前より下がった | 0 |
不明・NA | 1 |
表5のとおり、『全体』で、賃金が「上がった」と答えたのは、13人(46.4%)となったのに対し、「上がってない」と答えたのは14人(50.0%)にのぼった。
表6-① 就業時間と時給(施設清掃)
時間 | 3時間 | 3時間30分 | 4時間 | 5時間 | 7時間 7.75h含む |
8時間 8.45/8.5h 含む |
人数 | 5 | 2 | 2 | 2 | 4 | 3 |
時給 | 1096・1100 | 920・1096 | 950 | 920・950 | 月給・920・1100 | 月給・980・1096 |
『施設清掃』では(表6-①)、3時間・3.5時間未満が合計7人(38.9%)、7・8時間が7人(38.9%)を占め、それぞれ時給920~1100円であった。最賃920円の労働者が3人(16.7%)いるが1,000円を超える労働者11人(61.1%・月給制の4人含む)も出てきている。2020年度調査では「施設清掃」に関しては時給にかなりのバラツキがみられたが、ここ数年で最低賃金が大幅に引き上げられたことにより時給900円台が“平準化”された印象を受ける。
超短時間(3.0・3.5h)と長時間(7.0h・8.0h)では人が集まりづらいため人材確保のために「否応なしに時給を上げている」と推察される。その反面、“中間”の4・5時間勤務の場合は920~950円で時給が抑えられている印象を受ける。
表6-② 就業時間と時給(設備管理)
時間 | ①18:00-22:00 | ②17:15-22:00 | ③7:30- 21:00 |
④8:00- 18:30 |
⑤8:30- 8:30 |
⑥7:00- 11:15 |
⑦7:30- 11:30 |
人数 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
場所 | 学校 | 分庁舎 | 区民センター | 体育施設 | 体育施設 | ||
時給 | すべて920円/h(月給制としながら時給記載あり) |
注:①②および③④は同一人物。
『設備管理』では(表6-②)、区民センター等で、14時間勤務(8:30-8:30と記載)で月10日の勤務、月給65,000円(かつ時給920円と記載)、家族手当70,000円と回答する人が1人いた。月額135,000円となるが、勤務時間・日数などを割り返して時給換算しても、深夜割増などが支払われているのかなどいくつかの疑問が残る。。2021年度は体育施設で889円、2020年度は体育施設や学校開放などで863円・866円など、もともと最賃近傍だったが、2022年度の最賃引き上げにより「最賃に張り付く」カタチとなったと推察され、いかに最賃に「据え置かれているか」ということがうかがえる。
表6-③ 就業時間と時給(警備業務)
時間 | ①8:45~8:45 | ②9:00~9:00 | ③23:00~8:00 |
人数 | 2 | 2 | 1 |
場所 | 区役所 | 市立病院 | 保健所 |
時給 | 925・930 | 920 | 920 |
『警備業務』では(表6-③)、区役所、病院、保健所など、5人中5人が深夜帯で働く労働者と思われるが、いずれも時給920・925・930円との回答から、深夜割増が支払われていない可能性がある。また、2022年度調査では「24時間拘束」が5人中4人(80.%)となった。
6.手当・有給休暇について
表7 寒冷地手当の支給
出た | 0 |
出ていない | 27 |
寸志程度 | 0 |
NA | 1 |
2021年4月から中小企業にも適用となった有期雇用・パートタイム労働法による「不合理な待遇差」の是正が求められるところだが、表7のとおり、「寒冷地手当」については「出ていない」との回答が27人(96.4%)(2021年度・14人・87.5%/2020年度・42人・85.7%)と高水準であり、「出た」と回答したのは0人で、2年連続の調査で0人となった。
表8 一時金の支給
出た | 8 |
出ない | 20 |
寸志程度 | 0 |
NA | 0 |
表8のとおり、「一時金」は、「出ない」が20人(71.4%)(2021年度・8人・50%/2020年度・34人・69.4%)で「出た」と答えたのは8人であった。
表9 有休休暇の取得状況
取れた | 20 |
なかった | 7 |
不明・NA | 1 |
また、2019年4月から「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられたところだが、表9のとおり、有給休暇が取れたと答えたのは、全体で20人(71.4%)(2021年度・11人・68.8%/2020年度・36人73.5%)となった。
7.まとめ(課題)
冒頭に書いたとおり、調査結果の詳細な評価とまとめは今後集団的におこなう必要があるが、以下、コメントを残す。
今後の調査課題としては、施設清掃では、雇用される会社が変わるたびに時給や労働時間がどのような扱いになっているのか、また、警備等では、深夜割増が適切に支払われているのかなど、詳細に実態をつかむ手立て・対策等が必要である。
また、総合評価落札方式において一定の時給の改善はみられるものの、札幌市の施設の清掃・設備・警備で働く労働者のほとんどが最低賃金若しくは最低賃金近傍に張り付いているのが現状である。同一企業内において公契約と民間委託などが混在すれば、労働者に一様に建築保全業務労単価“相当”が支払われる期待は乏しく、そもそも他企業の民間委託などへの「波及効果」などは皆無に等しい。しかし、最賃引き上げの影響だけではなく人材確保のために時給をあげる企業も少なくない。公契約条例制定による適正な賃金の支払いと同時に、民間委託などでの清掃、警備、設備管理の賃金・労働条件改善は絶好の機会でもある。
(みやざわ つよし 全日本建設交運一般労働組合(略称、建交労)北海道本部書記長)
(参考)
NPO法人建設政策研究所北海道センターによる投稿は、こちら。