田中綾「(書評)郡山吉江著『しかし語らねばならない 女・底辺・社会運動』」

『北海道新聞』日曜版2022年12月11日付「書棚から歌を」からの転載です。

 

 

医師らみな 成功せしとはげませば

術後のわれがとまどいてきく

郡山吉江

 

がんを患い、術後にこう歌った作者は、「三里塚夜戦病院日記」や「ニコヨン歳時記」などの著書を持つ社会活動家である。

 

1907年(明治40年)、仙台市生まれ。「プロレタリア詩」に寄稿した縁で詩人の郡山弘史を知り、結婚。ところが夫が失職し、戦後30年ほど、日雇い労働者として生計を支え、病弱な子らを育てた。

 

夫の病没後、転機が訪れた。1968年、国際反戦デーの新宿騒乱を機に救援運動に関わり、70年代は「思想の科学」「女・エロス」などに寄稿。精力的に社会運動を続けたという。

 

ほぼ晩年のエッセーに、次の朝日歌壇の投稿歌を知り、「全身に電流が走ったかと思うほどの衝撃をうけた」とあった。

 

・徴兵は命かけても阻むべし母・祖母・おみな牢に満つるとも

  石井百代

 

1978年9月18日付の紙面に掲載された一首である。投稿者は当時75歳で、福田赳夫首相が有事立法の研究を指示したことを受けての作だったという。

 

戦時中、郡山は子育てに追われており、「反戦の思想をもちながら(略)極めて消極的にしか生き得なかった」ことを、この歌を読んで猛省したと書いている。猛省し、「書く」ことで「生き方の点検」をし、女性の底辺労働、天皇制についても考察し続けた。

 

亡夫の「郡山弘史・詩と詩論」を編集し、後記を書き終えた1983年に没。享年76。

 

◇今週の一冊 郡山吉江著「しかし語らねばならない 女・底辺・社会運動」(共和国、2022年)

 

 

 

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