田中綾と学生たち「学生アルバイト短歌2022(1学期編)」

2022年度も、北海学園大学人文学部1部「人文学演習A(田中綾担当)」で、アルバイト体験や労働についての短歌創作を試みました。2年生19名による作品です。授業の最後には、合同歌集『歌欒(がらん)』も刊行しました。

コロナ感染対策も進み、学生たちのアルバイト先も、コンビニや外食産業、塾講師など、コロナ以前の状況に戻りつつあるようです。とはいえ、〈22・アルバイト有休とれるの? 初耳よ 雇用主の搾取無知の恐怖 (居酒屋/現在)〉のように、ワークルールを十分確かめないまま働いている場合もありそうです。

また、最低賃金の動向についても授業内で確認しましたが、〈32・もしかして最低賃金上がっても物価も上がってプラマイゼロかも? 〉という素朴な感想も。

他方、〈25・特に無しバイト先への悪口は全てが楽しいなんて幸運 (塾講師/現在)〉に対する巻末の学生同士の評のように、働きがいや成長実感に対する関心も生まれています。

今後はどのような短歌が生まれるのでしょうか・・・? どうぞ最後までご覧ください。

※短歌中の【 】はルビです。

 

 

【アルバイトの現場】

 

1・「初めてかい? これから一緒に頑張ろう!」そう言った人は既にやめてる。 O・S

(コンビニ/現在)

2・メール来てヘルプで入ると店長言う私に向かって「ああ、救世主だ」 H・K

(コンビニ/現在)

3・何件も落とされた俺救われたこの店は絶対辞めませんから H・K (コンビニ/現在)

4・年近い大先輩に何あった? 労働終わり蒸発したの S・K (コンビニ/現在)

5・日没を見た数時間後夜明け見る毎日通る青看板下 S・K (コンビニ/現在)

6・バイト先年末年始のシフト表たらい回しが五巡目突入 T・Y (コンビニ/過去)

7・突然の体調不良で早退す残される人の悲壮な表情 T・Y (コンビニ/過去)

8・レジ打ちに品出し清掃次は何? 初日に覚える容量オーバー A・N (コンビニ/過去)

9・14【に】時上がり私と9時終えパート主婦共に店出る時差ボケないの? K・H

 (コンビニ/過去)

10・「はあ?」怖い17歳の私だけどしなくちゃならぬ地獄作業【年齢確認】 K・H(コンビニ/過去)

11・行きのバス一日どうやって乗りきろう「いらっしゃいませ」もう忘れてる M・A(カフェ/現在)

12・君はよく仕事ができて助かるよ責任転嫁を頑張ってるだけ M・A (カフェ/現在)

13・そこに居ない人への陰口各ペアで人集まれば小さな社会  M・A (カフェ/現在)

14・新人の研修終了その時に「今月で辞めます」せまるGW【連休】 S・K(飲食店/現在)

15・注文を聞くと聞こえず聞き返す逆切れしてくる客に笑みを Y・M (飲食店/過去)

16・職場への道中でもう帰りたい「お金のため」と精神保つ Y・M (飲食店/過去)

17・同じ曲流れ続ける職場先無意識のうちつい口づさむ  Y・M (喫茶店/過去)

18・バイトテロやめてくださいその前に貴方のハラスメントもやめて W・K(レストラン厨房/現在)

19・休み希望理由なんて聞かないで疲労の塵が溜まってきただけ W・K (レストラン厨房/現在)

20・やかましくこうしろああしろ指示とぶが言うは現場を知らぬ者達 S・N (寿司屋/現在)

21・あと何分? 確認の声に疑問持つマニュアルに時間書いてませんか? S・N(寿司屋/現在)

22・アルバイト有休とれるの? 初耳よ 雇用主の搾取無知の恐怖 M・M (居酒屋/現在)

23・やめてやるそう言い続けてもう1年気づけば一番年長さんに M・M (居酒屋/現在)

24・自宅では指導の準備時間外? いえいえもちろん奉仕のこころよ T・S (塾講師/現在)

25・特に無しバイト先への悪口は全てが楽しいなんて幸運  M・Y (塾講師/現在)

26・正月の短期バイトは良い条件きっと普通はもっと厳しい T・M (おせち詰め短期/過去)

27・「カチッ」発信怒鳴るジジババ聞き取り不可「カチッ、ピッ」切断鳴らない「ポキっ」 K・H

 (コールセンター/過去)

28・電話口劈くような暴言も時給に換算 いくらになるかな  M・R (コールセンター/現在)

29・日曜のお局今日も絶好調寸秒遅刻で半刻説教  M・R (スーパー/過去)

 

 

【労働全般】

 

30・労働法? 何かあったねそんなものただの紙切れでも就業規則最優先【うちはうち】 M・Y

31・明日どう? 明後日いける? 来週は? わたしの本業学生ですけど(友達の体験) T・S

32・もしかして最低賃金上がっても物価も上がってプラマイゼロかも? T・M

33・能力とセクシュアリティは関係ない未だに事実【それ】がわからぬ上司 I・W

34・いつかする労働について無知すぎてバイト始めて勉強したい M・S

35・何のため? 自分のための労働で体をこわしちゃもともこもない M・S

 

 

【学生同士の評(の、一部を紹介します)】

 

8・レジ打ちに品出し清掃次は何? 初日に覚える容量オーバー  A・N (コンビニ/過去)

 

【評】上の句で「レジ打ち」「品出し」「次は何?」というiの音で終わる語を並べていることでリズムが生まれている。はずむような印象を受ける一方で、コンビニバイトのブラックな一面が垣間見えるという、リズムと内容との間でギャップを感じさせる一首。(S・N)

【評】コンビニバイトの大変さを端的にあらわしている一首である。「容量オーバー」という単語がすばらしい。これが初日に学ぶ量が多すぎるというのをあらわしているのはもちろん、「容量オーバー」だから、何か先にあったことや言われたことを消していかないと新しい情報を頭に入れられないということもあらわしていると思い、明日、「昨日教えただろ! 忘れたのか!」と言われてしまう未来を思い浮かべることができると考えた。(K・H)

【評】リズミカルな歌である。上の句の語呂が良く、非常に読みやすい歌であると感じた。「レジ打ち」「品出し」「清掃」と名詞を続けることでテンポの良さが表れている。(M・M)

【評】「レジ打ちに品出し清掃」と、初句から二句にかけて助詞が抜け、名詞がつながることで、次から次へと覚える仕事が降ってくる恐怖が現れている。最後の「オーバー」も、もうお手上げという感じがよく伝わってくる。(H・T)

【評】仕事の大変さが感じられる一首。「何?」という表現から一度にこんなに覚えられないと少し怒りと呆れのようなものを覚えているのが感じられる。多くの仕事を覚える大変さがとても伝わってきた。(Y・M)

 

25・特に無しバイト先への悪口は全てが楽しいなんて幸運   M・Y (塾講師/現在)

 

【評】アルバイトで短歌を書くと暗いものばかり集まるという先入観があったためか、ひときわ目を引く印象的な歌。得意、不得意、向き、不向き、様々な理由があるが、誰もがそう思えることが理想的である。(K・H)

【評】労働についての歌とい言うと悪いことやグチが多くなりがちさが、その中でバイトを楽しんでいる明るさを放つ一首である。初句で「特になし」と言い切ることで、なんとなく暗い労働のイメージを断ち切るような印象を受ける。(M・A)

 

 

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