NPO法人北海道地域・自治体問題研究所が発行する『ニュースレター』第50号(2022年4月10日号)に掲載された、森国教さん(全日本建設交運一般労働組合北海道本部 執行委員長)による原稿・加筆版です。どうぞお読みください。
減少するダンプ数
全道のダンプ数は、1986年の18,866台をピークに減少し、2020年には14,157台となっています。札幌圏(石狩、後志、空知を含む)でも6,697台から6,264台に減少しています。
北海道の公共事業費は、1999年のピーク時には2兆円を超えていましたが、2018年には約半額の1兆円にまで減少しています。この事業量の減少はダンプ需要の減少に直結し、ダンプ数が減少した大きな要因となっています。
圧倒的に多い中小零細企業
ダンプ業界の特徴の一つに、ダンプ事業者は中小零細企業が圧倒的に多いことがあげられます。
札幌圏には、ダンプを1台以上所有する事業者が997社(2020年12月末)ありますが、その内ダンプを10台以上所有している事業者は115社しかなく、全事業者の88%が中小零細企業もしくは1台持ちの個人事業主という状況です。また、50台以上所有している事業者は1社もありません。
これは、仕事量の季節変動が非常に大きいことが原因の一つと考えられます。ダンプの土砂運搬や骨材運搬の繁忙期は10月から12月の雪が降る前までです。その後は排雪作業が主な仕事となります。今年の札幌圏は異常な降雪量のために排雪作業が3月下旬まで続いていますが、例年では3月初旬で一区切りつきます。その後が大変です。新年度の建設工事が始まるのは早くて5月の連休明け以降となりますので、多くのダンプは仕事からあぶれることになります。当然その間の収入はありませんが、ダンプの維持費をねん出したり運転手への賃金は払わなければならず、夏場の仕事量に見合ったダンプしか保有できない実態にあります。
劣悪なダンプ労働者の労働条件
一昨年、労働相談を受けたダンプ労働者の賃金は、「1日1万円。25日就労して1カ月25万円にしかならない」というものでした。休日出勤しても割増はされず残業代も支払われていませんでした。しかも、この賃金水準は10数年前と変わりません。休日も日曜日だけという会社が多く、冬期間は特に雪が多ければ夕方から朝までの勤務も加わります。
この安い賃金は重層下請け構造のもとで、末端の中小零細企業で働く労働者の実態を如実に示す典型的な例と言えます。これでは、ダンプの運転手になろうとする労働者はいません。
ダンプの単価の仕組み
ダンプの仕事は大きく分けて常用作業と骨材(砂や砂利、砕石など)運搬作業とに分かれます。排雪は常用作業が一般的です。
常用作業の単価とは1日8時間稼働した場合の単価で、骨材運搬の単価は1トンあるいは1立方メートル運んだ場合の単価で決められますが、ベースとなるのは常用単価です。すなわち、骨材運搬の仕事を1日8時間おこなった単価と常用作業を8時間おこなった単価が同じ価格になるように設定されるのです。
公共事業の常用単価は、運転手の労賃に加えてダンプ損料(維持・管理費)、タイヤ損料などを加味して積算されます。北海道での直接工事費(原価)は1日8時間で約60,400円になります。これに法定福利費や安全管理費などの間接管理費を加えると68,000円になります。この単価は、北海道開発局や道庁などの公共工事発注部局とも一致している金額です。この際の運転手の労賃は、実勢調査によって決まる「設計労務単価」によって計算されます。ダンプは「一般運転手」に分類されていますが、直近10年間で67.6%引き上げられ日額26,200円となっています。しかし、実際に受け取る賃金は前述したとおりです。
私たち建交労には、ダンプカーを所有して仕事をしているいわゆる「ダンプ持ち労働者」が加入しています。これらの組合員が手にする単価は、中小零細企業が元請から受け取る単価と大きな差異はありません。現在の常用単価は、「1時間当たり」4,500円から5,000円程度になっています。1日に換算すると36,000円から40,000円です。積算単価の6割以下という状況です。さすがに今年の排雪作業では、一部で1時間当たり6,500円に引き上げた元請がありましたが、それでも52,000円にしかなりません。
加えて、本州では、「1日当たり」の単価となっており、一般的には現場で一度でも運搬作業に携われば、午前中に終わった場合には半日分、午後にかかった場合は1日分の単価が支払われます。ところが、北海道では「時間単価」になっています。例えば、本州で1日4万円の契約が北海道では1時間当たり5,000円という契約(口約束)になります。このために、6時間で作業が終わってしまえば3万円しか受け取れません。残り2時間の仕事などありませんから、結局はその日の稼ぎは3万円になってしまいます。このために、労働条件の改善やダンプの買い替えなどができなくなっており、少なくない組合員が、平成10年以前のダンプを修理しながら使い続けざるを得ない状況になっています。ダンプカーは1台1,500万円以上しますから新車の購入など到底無理です。1本3万円のタイヤを10本はいていますが、履き替え時期がきてもすり減ったタイヤを使い続けざるを得ない状況になっていますし、冬タイヤも購入しなければなりません。
今年は異常
今シーズンの札幌圏の降雪量は異常です。ダンプに積み込んだ雪は札幌市内にある雪堆積場に運び込みますが、雪の量が多いためにすぐに満杯になり閉鎖されてしまいます。そうすると、遠方の堆積場まで運搬せざるを得なくなり、運搬時間が長くなってしまします。加えて道路状況が悪いためにさらに時間がかかってしまいます。そもそも今年はダンプやタイヤショベルなどの除排雪機材の不足と運搬時間が伸びたことが排雪作業の遅れの原因となりました。
また、排雪作業は、昼間ばかりではなく、国道などの幹線道路は夜間作業になります。例年ですと夜間作業は若干単価が高めで設定されることもあり、夜間専門で走るダンプと昼間のダンプに分かれてダンプは稼働するのですが、今年は多くのダンプが昼夜掛け持ちで運行する(非常に危険)ことが多数みうけられました。これは運転手不足が原因です。ダンプを手放して引退した76歳になる元組合員や80歳を超えた組合員に「運転手としてダンプに乗ってくれ」との声がかるほどです。
ダンプ不足を解消するために
ダンプの多くが建設業に携わっています。したがって、ダンプ不足を解消するためには、建設工事を請け負った元請である大手建設会社が、適正なダンプの単価を設定し、確実に末端のダンプを所有する事業者にわたるようにすることです。そうすれば、耐用年数を経過したダンプを買い替えることができ、適正な積載量を積んで運搬業務に携わっても運転手に設計労務単価に匹敵する賃金を支払うことができます。
そのことが、建設業の健全な発展につながることは明らかです。
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