川村雅則「『建設政策』200号発行を機に北海道センターの20余年を振り返る」

NPO法人建設政策研究所が隔月で発行している雑誌『建設政策』第200号(2021年11月号)に掲載された原稿の転載です。冒頭の図と説明文は、ウェブ版で追加したものです。

 

図 北海道における季節労働者数(合計、建設業)及び合計に占める建設業の割合の推移

注:季節労働者の人数は、雇用保険の特例一時金の受給資格決定者数。
出所:厚生労働省北海道労働局『季節労働者の推移と現況』より作成。

北海道労働局の統計によれば、ピーク時(1980年)には30万人に達した北海道における季節労働者も2000年代初頭には半減。同じくピーク時には20万人に達した建設業季節労働者も、2000年代初頭には10万人を割り、2020年度にはおよそ2万人にまで減った。この減少ないし減少の過程が何を意味するのか(通年雇用化という雇用の安定化なのか、とりわけ高齢季節労働者の労働市場からの退出を意味するのか)、丁寧に解明する必要がある。

 

はじめに

北海道センター(以下、センター)は1998年12月に設立された、と当時の呼びかけ文に書かれている。大学院修士課程に在籍していた私には、センター設立の記憶はない。私の指導教員の一人がセンターの設立に尽力された椎名恆先生であった。先生は、かながわ総研、建設政策研究所を経て北大に1996年に赴任された。その2年後にセンターを発足させたことになる。精力的に調査・研究活動をされていたが、大学院生であった私もどこかの段階で誘われてセンターの仕事にかかわるようになったのだろうと思う。記憶をたどりながら、センターの仕事を振り返ってみる。

 

季節労働者の実態に関する調査

センターの重要な仕事の一つが、積雪寒冷地である北海道で、冬になると失業を余儀なくされる季節労働者の雇用・就業、生活、健康に関する実態調査であった。彼らは、冬の間は、雇用保険の特例一時金でしのぐか、出稼ぎに出るなどして対応せざるを得ない。とりわけセンター設立の頃は、公共工事の削減など北海道の建設産業は厳しい状況にあった。

センターのユニークなところは、労働組合や事業者団体など現場をもつものと、研究者とで構成されている点であり、北海道では、建交労(旧・建設一般)がセンターの主力メンバーであった。この建交労からの委託で大規模なアンケート調査活動が行われていた。冬期間(離職期間)に開催されていた技能講習制度が廃止される前には講習会場で直接に、2006年度の制度廃止以降には郵送で、調査が実施されていた。

手元には、センターの編集委員会(代表:松田光一・北海学園大学教授)により作成された『季節労働者白書第3集[1]』(2003年12月発行)がある。8千人を超える季節労働者の実態がまとめられている。

 

季節労働者調査、事業者調査の蓄積

椎名先生が2006年10月に急逝されてから、センター理事長の仕事をどのように引き継いだのか記憶はおぼろげである。私の研究テーマであった交通(自動車運送業)に建設(道路)は先立つのだから、などという冗談まじりの説得が理事から時々になされたことを思い出す。

季節労働者調査は継続して実施してきた。アンケート調査が郵送方式になったことと、季節労働者の高齢化にともない、回収される調査票の数は年々減っていくことになるが、それでも、最初の数年は、1500人から2000人前後の回収が得られていた。そこから見えてくる諸問題──就業機会の減少、雇用保険・社会保険からの排除、若年層を中心とする夏場の過重労働、とりわけ高齢季節労働者の生活の困窮などを世に発信してきた。同時に、新規投資を中心とした産業基盤整備、大規模事業に偏重していた北海道開発のあり方を是正していくことが、季節労働者の就業機会の確保、通年雇用化に向けて必要ではないかということを、労働者調査と並行で行った事業者調査を通じて提起してきた。研究所の政策提言にも多くを学び、提言とタイアップした研究集会も北海道で主催した。

建設産業に造詣の深い椎名先生という重量級から軽量級への理事長のランクダウンを自虐しつつも、センター一丸となって仕事に取り組んで来た。

 

北海道からの調査事業の受託

そうした研究蓄積が、北海道からの調査事業の受託に結実した。緊急雇用創出推進事業の一環として2010年度に行われることになった季節労働者・事業者調査の仕事をプロポーザル方式の入札でセンターが受託したのである(北海道経済部『(緊急雇用創出推進事業)2010年度季節労働者実態調査報告書』2011年3月発行)。

これは思い出深い調査である。自治体から仕事を受託するのも、求職者を雇って調査・研究活動を行うのも、初めての経験だった。しかも期間がかなり短いことと、統轄しながら調査員としての仕事もこなさなければならないことを考えると、入札参加にあたり覚悟を要した仕事であった。その奔走ぶりは、本誌第134号~第141号に掲載の拙稿に書いた。本稿の執筆にあたりあらためて読んでみたが、実質数か月の期間で、調査員の皆さんとともに、仕事に取り組んだことがなつかしく思い出される。

調査は、アンケートとヒアリングの併用だったが、労働者ヒアリングで98件、事業者ヒアリングで54件を得た。全道くまなくとはいかなかったものの、ヒアリングが北海道最北端の稚内市からのスタートだったことが象徴するように、方方をまわった(それが受託の条件でもあった)。労働者の自宅にあがりこんで、生活のにおいを感じながら、生い立ちから職歴、現在の就業と生活に至るまでの話を聞く。季節労働者の仕事の間隙をぬってアポ取りをしながら、各地に散って、その作業を繰り返す。ある種の使命感をいつも以上にもって行った仕事だった。

センターが行った有効回答1千人を超える大規模な調査は、残念ながらこの調査が最後となった。

 

2000年代初頭の雇用創出事業の調査・研究

ほかは、紙幅の都合で簡潔にふれる。第一に、時期は遡るが、センターでは、厳しい雇用情勢を踏まえて、雇用創出を目的に1999年に開始された国の事業(「緊急地域雇用特別交付金事業」)の調査・研究活動に2000年に着手して、報告書をまとめている(『地域に役立ち失業者を支える就労対策を目指して』2002年2月発行)。国からの交付金で造成された基金を使って自治体が事業を行い(直営ではなく主に委託方式が採用)、雇用を創出するという事業である。行政資料に、事業者調査と労働者調査で得たデータなどを組み合わせて、多面的な分析を行った。

 

札幌市・旭川市での公契約に関する取り組みへの注力

第二に、当時の札幌市長によって公契約条例案が2012年第1回札幌市議会定例会に上程される前あたりから、センターの取り組みは、公契約・公契約条例に関する調査・研究、実践へ傾斜していった。札幌市では条例制定はかなわなかったが、旭川市での条例の制定に貢献した。両市での活動は現在も継続中である。

 

センターの今後

公契約条例の取り組みに限っても、10年が経とうとしている。センターの今後は正直、楽観はできないと思っている。研究者や労働組合のセンターへの結集状況は芳しくない。一方で、公契約運動で築かれた、業種や労使、地域をこえたつながりは貴重な財産である。

今後のことを、少し時間をかけてセンターの中で話し合っていきたい。

 

 

 

[1] すでに北海道では、道季労・全道労協によって季節労働者の実態が『北海道季節労働者白書』にまとめられていた。三好宏一氏(北海道教育大学教授)による取りまとめで、第1集は1981年、第2集は1984年に発行されている。

 

 

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