(『週刊金曜日』(2020年10月23日1301号)論考からの転載)
労働組合で働き始める
大学を卒業して、今年(注・執筆当時)の4月から労働組合で働くことになった。
札幌近辺約80の中小企業に支部組合を持ち、個人加盟もでいる「札幌地域労組」という労働組合だ。
新型コロナ感染拡大とそれに伴う日本政府の対応の粗悪さを理由のひとつとして、事務所には毎日、非正規・派遣を含む窮地の労働者からの電話が鳴る。アルバイト以外で賃労働をしたことのない自分が労働組合で良い働きができるのかは不安だが、日々、目の前の課題をこなしている。
ベトナム人技能実習生の解雇
わたしが働き始める直前、北海道栗山町でベトナム人技能実習生の不当解雇事件が起きた。きのこ工場で働く実習生17人が、突然即日解雇されたというもの。賃金補償や次の実習先など何もかも不明だったため、不安に思った実習生は札幌地域労組に駆け込んだのだ。
しかし、団体交渉には社長が現れず、会社側の弁護士は事前に通知している質問についても「分からない」「確認していない」と、どこか政治家のような回答を繰り返すのみ。これでは議論も団体交渉も成り立たない。
「誠実さ」を守る労働組合法第7条2号
人生で初めて労働法を勉強する中で、会社に対して労働組合と誠実に交渉する義務を課す労働組合法第7条2号があることを知った。
「誠実に」というのは、団体交渉に出席して、ただ椅子に座っていればいいというものではない。
会社には、正当な事情により組合の要求に応えることが難しい場合であっても、資料を提示した上で十分な時間をかけて説明・協議することで紛争解決の努力をする義務がある。
質問に答えないのはもちろん、主張の根拠を具体的に説明しなかったり、事実を故意に秘匿したり、団交時間を一方的に短く設定したり、団交の場をちゃかしたりすることなどはすべて不誠実団交とみなされる。
会社が不誠実団交をした場合は、行政機関である労働委員会から救済命令が下され、それも無視すると過料制裁を受ける。
先述した実習生解雇問題の団体交渉中の弁護士の対応も不誠実交渉にあたるため、労働委員会に救済申し立てを行った。
民主主義の根幹である労働組合
労働者と会社の権力差は絶対的である。労働組合がなければ、労働条件の決定権は経営者の慈悲に委ねられるほかない。
しかし労働者が団結し、労働組合として団体交渉を申し入れた場合、不誠実な対応をとることは法律で禁止されている。会社が不誠実に振る舞ってきたときに、労働者が会社と対等に対峙することは難しいからだ。
相手に誠実さを求める切実性があるのは権力のない側だけだ。不誠実さをたたける仕組みがあるということは、本当に心強い。
対等な議論の場の確保は民主主義の根幹だと思う。「誠実さ」という、非常に曖昧でありながら、民主主義を機能させるのに不可欠な概念を守る労働組合法第7条2号に、わたしはとても感動した。これから労働運動で闘えることがうれしい。
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