田中綾「(書評)碓田のぼる著『一九三○年代『教労運動』とその歌人たち』」

『北海道新聞』朝刊2020年5月3日付「書棚から歌を」からの転載です。

 

 

文化 書評、短歌

田中綾「碓田のぼる著『一九三○年代『教労運動』とその歌人たち』」

 

 

米の飯もろくに食へない子もゐる 君が代を歌はせてゐて 心が疲れてしまふ

村山俊太郎

 

100年前(2020年)、日本での1回目のメーデーが開催された。また、90年前にあたる1930年、日本で初めての教育労働者の組合「日本教育労働者組合」が結成された。その中に、若き歌人たちがいたことを、碓田のぼるの近著で知ることができた。

 

掲出歌の作者は、1905年(明治38年)生まれ。山形県で小学校の教員となったが、折しも昭和初期の東北は大凶作で、生徒たちは空腹のあまり授業にも身が入らない。そんな子らを前に管理教育を行うことで、心は疲弊するばかりだった。

 

詩歌を作っていた村山は、子どもの自主的な思考を重んじる生活綴方【つづりかた】運動に関心を抱いた。講習会などに参加し、作文教育にいっそう熱を入れたが、全国的に影響が広がると運動は弾圧された。三浦綾子の小説『銃口』にも、北海道での同様の運動が描かれていたが、村山は検挙され、20代後半の若さで教壇を追われたのだった。

 

しばらくして復職した村山は、綴方教育にさらに情熱を注ぎ、再び検挙された。戦後は、合法となった教員組合の前線で活躍したという。けれども、戦時下に崩した健康は戻らず、死去。享年43であった。

 

現在、その短歌や教育実践については「村山俊太郎著作集」全3巻(百合出版)で読めるそうだ。休校が続く今の子どもたちは、どんな思いを作文に託すのだろうか。

 

◇今週の一冊 碓田のぼる著『一九三○年代『教労運動』とその歌人たち』(本の泉社、2020年)

 

 

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