この記事は、首都圏青年ユニオンが発行するUnion Newsletter第292号(2025年7月号)からの転載です。どうぞお読みください。
個別事件ファイル K社による技能実習生解雇事件
担当:尾林哲矢
事件の発端
この事件は、今年3月、組合員有志が水俣に訪れたのに同行したとき、現地で案内をしてくれた市議会議員の方から相談され、引き受けたものです。熊本の工場で働いていたスリランカ人技能実習生が解雇され、留学生として日本に来ているパートナーが住む千葉にいるからと、青年ユニオンが対応することになりました。6月末に本人の希望もあって和解したものの、ひどい事件でした。
事件概要
当事者は「技能実習2号ロ」という在留資格で働いているスリランカ人です。名古屋に本社を置く大手企業K社が運営する、熊本の自動車工場に勤めていました。「技能実習2号ロ」とは、管理団体を通じて日本に来て、企業で2年間の技能実習期間を修了するまでの在留資格です。その間に試験を受けて「特定技能」(長くて5年在留できる)に移行することが、日本で長く働く外国人労働者のよくあるケースです。当該組合員は同社で働きながら、自動車整備分野の特定技能の試験を合格していました。しかし、技能実習期間が残り2ヶ月足りない2024年11月に、会社からいきなり解雇されてしまいます。
解雇の経緯
解雇理由は、会社が貸与していたケータイで国際電話を使って自国に電話をかけていたため、会社に20万円の費用請求がいってしまい、それを理由に解雇通告をされてしまいました。本人はすぐに謝罪をし、給与と相殺する形で費用相当額を会社に支払いました。
既に反省して会社の損害もなくなった以上、解雇という最大の処分まで行う理由はありません。残りの雇用期間もわずかでしたし、技能実習期間中の労働者を解雇をしたら強制帰国を迫られることは明らかなので、尚更解雇は慎重になるはずです。
しかし、会社は2024年11月に、解雇を実行しました。突然寮に会社の人間が来て、車に乗せられ、数時間かけて名古屋の本社まで連れていかれました。その場で解雇の旨記載された懲戒申渡書を渡されました。さらに、驚くべきことに、同席していた管理団体の人間が、本人を空港まで連れていき、スリランカに帰国させようとしたのです。解雇になってもすぐに在留資格を失うわけではないためそのような扱いは嫌がらせでしかありません。企業、管理団体両方に差別意識があるとしか思えません。
そのときは偶然パスポートをパートナーに預けていたので、帰国せずに済み、各所に相談して回っていたそうです。
現在まで
実は、この件は別の大きな労組が最初に相談を受けていたのですが、個別団交ができないということで、そこが入管対応を行い(地方の入管に出ていける資力がある)、青年ユニオンが労使交渉を引き受けるという分担になりました。
会社は申し入れと電話によって、すぐに解雇を撤回しました。しかし、本人の事情もあって職場復帰はかなわず、在留資格の問題が残りました。技能実習期間の途中で退職となったので、残りの期間をどこかで雇ってもらわなければ、特定技能への移行ができません。しかし短期間で雇ってくれる企業は見つからず、数ヵ月は在留期間を伸ばせたものの、結局帰国することとなってしまいました。
その間、先程の大きな労組と、複数の支援団体と連携をとってやり取りしていたのですが、技能実習期間中の解雇はもっとも難しいケースでした。ユニオンが和解案として会社に渡航費と慰謝料相当額を支払わせたことで金銭面の負担は失くし、支援団体が再入国にあたっての支援をすることとし、やむ無く本人は今帰国しています。
外国人労働者はもはや日本の産業にとって欠かせない存在ですが、それにもかかわらず、日本人の非正規も同様ですが、企業の側に生活保障の観点がありません。そのため、今回のような重大な事件はいくつも発生していると思われます。
最近、別の組合やかつや(ミャンマー人が多い職場)の組合員からの紹介で、外国人労働者からの相談対応が増えてきました。今年に入って3件対応し、労使交渉や入管への同行も行っています。飲食業界を組織化していく目標を掲げているので、必然的に特定技能の労働者や留学生の相談対応もできるようになっておく必要があります。引き続き、実践を積み重ねていきます。
【スクールカウンセラー裁判報告】東京都スクールカウンセラー裁判 公共やケアを蔑ろにする制度を許すな
担当:原田仁希
青年ユニオンの上部団体である東京公務公共一般労働組合が取り組んでいるスクールカウンセラー(以下「SC」)雇い止めの裁判闘争について紹介させていただきます。
東京都の公立学校では、1校に1人ないしは2人のSCが配置されています。SCという職をご存知でしょうか。不登校や虐待、いじめや発達に課題がある子、ヤングケアラーの問題、進路の不安など、現代の子どもが抱える事情は多岐にわたります。そんな子どもたちやその保護者の話を聴きながら、寄り添いながら、信頼関係をつくりながら問題の解決に向けて取り組んでいくのがSCという職種です。学校現場では、いじめや不登校などの問題が年々深刻化しており、いじめ認知件数や不登校児童数が過去最多を更新する状況で、SCの必要性が高まっています。
SCは臨床心理士資格ないしは公認心理師資格を要する専門職です。発達検査や性格検査、行動観察やカウンセリングを通じたアセスメント、外部機関との連携など知識と技能と経験が必要です。そして何よりも、その専門性を発揮するための安定した働き方が求められます。しかし、今の日本ではSCのほとんどは非正規雇用です。期限のある雇用契約でいつ更新が切られるかわからない不安定な働き方をせざるを得ないのです。東京都での大量雇い止め事件 東京都が採用するSCも例外ではありません。東京都SCは会計年度任用職員という形態の非正規公務員として採用され、その名のとおり、1会計年度つまり1年の任用(公務の場合「雇用」ではなく「任用」という)を繰り返し更新しながら働いています。つまり、来年度の任用があるかどうかわからない中で日々の業務を行わなければなりません。
そんな中、2023年度末に1500人ほどの東京都SCのうち250人が雇い止めされるという事件が起きました。しかも、その多くが10年や20年以上もの長期間の勤続経験があるベテランの方々でした。校長や教員など学校現場からの評価が高く、頼りにされている人たちでした。なぜ、このような雇い止めが起きたのか。それは、地方公務員法が改正され2020年度から会計年度任用職員制度がはじまり、東京都はその制度と国が示した制度運用指針にもとづき任用の更新回数の上限を5回と定めたためです。2020年からちょうど5回目の任用を終えた方々が再度の任用の採用試験を受けたにも関わらず、採用されず、結果的に雇い止めとなってしまったのです。
多くの東京都SCはこれまで1年任用(会計年度任用職員の前も特別職非常勤という形態で1年任用だった)であっても繰り返し更新されていたことから、当然2024年度についても任用が更新されるものと考えていました。しかし、東京都は無惨にも5年の上限に基づいて大量の首切りをしました。
民間労働者の場合、通算5年以上の勤務があれば有期契約を無期契約に転換できます。また、繰り返しの労働契約の更新がある場合には社会通念上合理的な理由がなければ雇い止めは認められていません。しかし、これら労働契約法に規定されるルールは公務員には適用されず、多くの会計年度任用職員は不安定な働き方を強いられています。
SCの大量雇い止めによって、SCが時間をかけてつくってきた子どもや保護者との関係性は断ち切られました。子どもや保護者の中には、信頼していたSCが辞めることを聞いて泣き出してしまったり取り乱してしまうなどの事例もあり、大きな不安を与えました。立ち上がった原告10人 行政の任用行為は労働契約と異なるため労働契約法が適用されません。そのため、前述したように無期転換権や雇い止め法理がなく、任用の不更新を裁判で争って勝利したケースはほとんどありません。しかし、このような雇い止めをもたらす東京都の会計年度任用職員制度を許すことはできない。会計年度任用職員のような細切れ不安定な働き方は継続的な支援を目的とするSCの専門性を軽視するものであり、何より子どもたちや保護者に皺寄せがいってしまいます。
昨年2025年10月に雇い止めされた東京都SC10人が雇い止めは不当であるとして裁判に立ち上がりました。勝つことは難しくても、裁判闘争の中でこの理不尽な制度を変える運動をつくっていくこともひとつの目的です。
大事な公共の仕事、ケアの仕事、これらの担う者たちが不安定で蔑ろにされている社会であってはならない。そんな思いで闘う原告のスクールカウンセラーをぜひ支援してください。
次回の裁判期日は、10月21日(火)13時半から東京地裁611号法廷です。傍聴大歓迎です。
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