鈴木亙(2024)「2023年度北海道・函館市公共現場調査」『建設政策』第215号(2024年5月号)pp.44-45
2023年度北海道・函館市公共現場調査
鈴木 亙
はじめに
2023年度の函館市での公共工事現場調査は、新型コロナやインフルエンザのウイルス感染が広がる中で行われました。アンケート調査票を事前に現場事務所へメールやFAX にて送付し、現場事務所からメール・郵便、訪問で回答を回収しました。
また、函館市土木部の協力で、土木現場4 現場、建築現場7 現場、北海道渡島総合振興局入札契約課の協力により土木現場1 現場を選定し、調査しました。
12現場から67名(函館調査64名と北海道調査分3 名)のアンケートを回収しました。そのうち40名(59.7%)が氏名・住所を記入、前回(2022年度)と同水準の回答率でした。
設問項目は、性別、年齢、経験年数、身分と雇用形態(①事業主②一人親方③労働者(通年雇用)④労働者(季節雇用)⑤アルバイト)、職種、会社名、いまの会社で働いた年数、会社の次数(①元請②1次下請③2次以下の下請)、雇入通知書の有無、賃金形態と基本単価(昨年と今年の日給、月給、請負金額)、諸手当(基本賃金以外の手当の有無、一時金の有無など)、毎月の決まった休日(月の休日数、コロナ禍での昨年に比べての仕事量の増減、有給休暇が昨年とれたか)、建退共(手帳所持の有無、手帳に貼られている証紙の枚数を見ていますか、など)、公的年金(加入している年金の種類と加入状況、加入していない人の理由)、健康保険(加入している健康保険の種類など)です。
調査結果の特徴
調査結果の特徴は以下の通りです。
1)建設業の経験年数では、30年以上との回答が最も多く17名、次いで20年~25年未満が11名、25年~30年未満が9名で20年以上が37名と、回答者の半数以上を占めました。
他方20年未満では1年未満が7名、1年~5年未満が3名、5年~10年未満と10年~15年未満がそれぞれ6名、15年~20年未満が5名と1年未満が最も多く、前回と同じく中核を担う人材の少なさが目立ちました。
2)建設業の就労形態では、通年雇用の回答が47名と2023年度も例年通り多くなりました。未回答が12名で、全体の把握は出来ませんでしたが、季節雇用が3名、一人親方とアルバイトが2名ずつ、事業主が1名でした。
3)会社の元請/下請は、1次下請が40名、2次下請以下の下請が16名とこの二つで83.6%を占めました。元請は9名で、例年より多い回答者数だったと思います。
4)雇入通知書について、雇入通知書をもらったが52名、未回答が2番目に多い8名でした。わからないが5名、もらっていないが2名で、この点が気になるところです。
表1 函館市日給者・平均日給および積算単価比率(23年)
職種 | 日給平均 (円) |
積算単価 (円) |
比率 (%) |
普通作業員 | 9,625 | 19,100 | 50.4 |
警備 | 8,703 | 16,200 | 53.7 |
塗装 | 8,333 | 26,100 | 31.9 |
防水工 | 13,000 | 28,900 | 45.0 |
左官 | 9,000 | 26,700 | 33.7 |
鉄筋工 | 11,150 | 26,300 | 42.4 |
設備機械工 | 15,000 | 25,300 | 59.3 |
大工 | 10,906 | 27,300 | 39.9 |
型枠工 | 10,666 | 25,200 | 42.3 |
運転手(一般) | 11,000 | 19,200 | 57.3 |
5)函館市の賃金については表1の通りです。建築現場での現場調査の回答が多かったため、例年よりも多くの職種から回答をもらうことができました。
6)毎月の決まった休日は、毎週日曜が44名、毎週土曜と日曜が7名、毎週土曜2日が6名。その他が5名、未回答が4名、月2回日曜が1名でした。
7)コロナ禍の中の仕事量について、仕事の量が変わらないは40名、減ったが16名であり、67名のうち83.6%を占める結果となりました。仕事が増えたは6名でしたが、詳細な増減を確認したいので、今年の秋から行う新たな現場調査でアンケートの新しい設問と選択肢も検討したいと考えています。
8)有給休暇について、有給休暇をとったが24名、とっていないが26名、未回答が17名でした。有給休暇の取得は年間5日間が義務化されましたが、全く進んでいない状況であることがわかりました。
9)建退共の証紙を見たことがないが36名、毎年見ているが7名、未回答が24名でした。67名の半数以上が証紙を見たことがないとういう点は気になる結果です。証紙を貼ってもらっているかは、公共・民間両方と公共のみが12名ずつとなり、まったく貼ってもらっていないが3名、自分で証紙を買って貼っているが1名、未回答が最も多く39名でした。
10)公的年金について、通年で厚生年金が54名、年間を通じて国民年金が4名、夏場は厚生年金、失業期間は国民年金が2名、未回答が10名でした。
表2 協会けんぽ加入者数・比率
単位:名、%
職種 | 健康保険の種類全回答者 | 協会けんぽ加入者 | 比率 |
普通作業員 | 22 | 17 | 77.3 |
左官 | 2 | 1 | 50.0 |
運転手(一般) | 1 | 1 | 100.0 |
鉄筋工 | 8 | 7 | 87.5 |
板金工 | 1 | 1 | 100.0 |
保温工 | 1 | 1 | 100.0 |
配管工 | 2 | 2 | 100.0 |
警備 | 4 | 2 | 50.0 |
塗装工 | 3 | 2 | 66.7 |
大工 | 8 | 4 | 50.0 |
11)協会けんぽの加入者数・比率は表2の通りです。
おわりに
函館市での自治体交渉を毎年行っている事により、11年連続で現場調査に入り労働者の実態把握をする事が出来ています。函館市建築公共現場に、20代の外国人技能実習生が3名働いていることが分かりました。警備員の現役労働者が全日本建設交運一般労働組合(建交労)函館支部に加入することで、警備で働く現場の状況が分かりつつあります。現場調査アンケートは実態把握をすることは出来ますが、労働者の対話の面では物足りません。現役労働者の声を掴むために、私たち労働組合のなかまが実際に聞き取りをすることも大事なことだと考えています。
現場労働者の生の声を、これからも函館市などの自治体に伝える役割が労働組合の専従として大事であると考え、今年の秋に行う現場調査は、これまでの経験を活かしながら、さらに工夫して行っていきます。
(すずき わたる 全日本建設交運一般労働組合函館支部書記長)
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