山口県地方自治研究所「【特集】会計年度任用職員の現状と課題」

 

 粘り強い交渉が成果を生む

    -下松市における会計年度任用職員の現状と課題-

 

谷本 誠一(たにもと せいいち)

(下松市職員労働組合執行委員長)

はじめに

2017年5月に地方公務員法及び地方自治法が改正され、2020年4月1日より会計年度任用職員制度(以下、「制度」とする)が施行されました。

全国の多くの自治体同様、下松市(以下、「本市」とする)においても、本制度が導入されるまでは、特別職非常勤職員、一般職非常勤職員、臨時的任用職員といった自治体非正規職員が混在していましたが、制度の施行に伴いほぼ全ての非正規職員が会計年度任用職員へ移行されました。

今回は、制度が導入されて3年が経過した本市の会計年度任用職員の現状・課題及び下松市職員労働組合(以下、「下松市職労」とする)における取組内容について報告します。

 

1.本市における現状

(1)業務の内容について

会計年度任用職員が担う業務の内容について、総務省が作成した「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」(以下、「マニュアル」とする)では、「業務の内容や責任の程度などを踏まえた業務の性質により判断されるべきもの」とされており、「各地方公共団体において、個々の具体的な事例に則して判断する必要があります」と明記されています。

本市における会計年度任用職員が担っている業務は、パートタイムの職では、経理などの補助的業務や窓口業務が中心となっており概ね適正に運用されています。しかしながら、フルタイムの職では、行政職の育休代替や専門職が任用されていることから、業務内容の整理が不十分な場合や人員が不足している職場においては、正規職員とほぼ同様の業務を担っていることがあります(表1参照)。

 

表1 正規職員及び会計年度任用職員の実数(2023年4月1日時点) (単位:人)

区分 正規職員 会計年度任用職員
一般行政部門 一般事務職員 250 127
保育所保育士 32 28
技能労務職員
給食調理員 4 3
土木技術 24
建築技術 7
その他
小計 317 158
教育部門 教員・講師
一般事務職員 29 68
技能労務職員
図書館職員 5 12
その他
小計 34 80
消防部門 一般事務職員
その他 69
小計 69 0
公営企業部門 一般事務職員 39 2
技能労務職員
その他
小計 39 2
合計 459 240

(出所)下松市総務課資料

 

なお、任期付職員については、専門職の育休代替として採用されていますが、募集をしても応募が無いことや、応募があったとしても採用に繋がらないことが起きています。そのため、人員不足を補うためにやむを得ずフルタイムの会計年度任用職員を任用した結果、残された専門職に過度の負担が生じた事例も発生しています。こうした運用の在り方についても安定した市民サービスを提供する上で、重要な課題となっています。

 

(2)任用について

「マニュアル」では、会計年度任用職員の任用期間は1年で再任用(更新)の上限が2回となっています。しかし、本市においては、毎年度、任用を行う運用となっているため、更新の上限はありませんが、履歴書を毎年度提出し面接を受ける必要があることから、会計年度任用職員にとって大きな負担となっています。

 

(3)賃金(月例給・一時金)について

本市における会計年度任用職員の月例給の格付(基準号給)は、一般事務については1級1号給、専門職については1級16~27号給となっています。全職種で正規職員より低い格付となっていますが、特に一般事務、図書館事務、給食調理員については、一般的にワーキングプアと呼ばれる、年収200万円以下の賃金水準となっており、問題があります。また、前述のとおり、毎年度任用を行う運用ではありますが昇給制度は導入されています。しかしながら、昇給幅は2号給、回数も2回にとどまっています。会計年度任用職員の中には、配偶者等の扶養の範囲内で働くことを希望している人もいますが、生計費の観点から月例給の賃上げが必要です(表2参照)。

 

表2 会計年度任用職員の主な職種の格付一覧

職名 基準号給 上限号給
一般事務 1級1号給 1級5号給
図書館事務 1級1号給 1級5号給
保育士 1級16号給 1級20号給
管理栄養士 1級19号給 1級23号給
保健師 1級27号給 1級31号給
給食調理員 1級1号給 1級5号給
社会福祉士 1級23号給 1級27号給

(出所)下松市総務課資料

 

一時金について、「マニュアル」では「任用期間の定めが6カ月以上」で「週15.5時間以上の勤務が見込まれる場合」には一時金を支給することが適切とされていますが、本市においては「週29時間以上の勤務が見込まれる場合」となっており、全国そして県内の自治体と比較しても低い水準で運用されています。

また、支給月数について、「マニュアル」では「単に財政上の制約のみを理由として、期末手当の支給について抑制を図ること」は「法の趣旨に沿わない」と明記されていますが、この部分についても本市では再任用職員との権衡を保つことを理由に、正規職員ではなく再任用職員の支給月数を準用しています。

一時金の支給範囲及び支給月数について、山口県は全国的に見ても低い水準となっており、更に本市はその山口県内でも最低レベルの水準であることから、早急に是正を図る必要があります。

 

(4)休暇制度について

「マニュアル」では、会計年度任用職員の勤務時間その他の勤務条件について、「国の非常勤職員との間に権衡を失しないように適切な考慮が払われなければならない」とされており、「常勤職員ではなく非常勤職員との間で比較すること」とされています。この点については、正規職員と会計年度任用職員における休暇制度に格差を生むものであることから、全く理解できるものではありませんが、残念ながら本市においては「マニュアル」どおりの運用となっています。

 

2.下松市職労の取組状況

ここまで、本市の状況と課題について報告しました。制度導入前は、多少なりとも非正規公務員の処遇が改善されると期待していましたが、現在の本市の状況は残念ながら、期待は程遠い内容となっています。特に一時金については、支給対象範囲は週29時間以上の勤務の勤務が見込まれる場合で、支給月数は1.45月と低い水準で運用されています。

2021年度の一時金0.05月の引下げは阻止しましたが、満足のいく内容ではありません。すでに全国のおよそ8割の自治体が「マニュアル」に沿った運用となっていることから、本市においても早急に改善するよう継続的に要求しています。

その一方で、年次有給休暇では、制度導入前から付与の時期を正規職員と同様に任用当初とすることを要求してきましたが、ついに2023年4月に実現しました。この成果は、労働基準法に固執する当局の頑なな姿勢を長年にわたる粘り強い交渉により崩したものであり、下松市職労の今後のたたかいにおいても大変意義のあるものと言えます。

また、制度導入当初から給食調理員等の技能労務職員については、「行政職俸給表(二)」での格付がされていましたが、市当局に対して継続的に要求を行った結果、1級1号給の格付ではありますが、「行政職俸給表(一)」での格付を実現しました。

 

3.まとめ

非正規労働者は一般的に低賃金で不安定な雇用であることが多いため、非正規労働者が増えることは社会的な格差や貧困化が広がるという問題をはらんでいます。こうした問題がある中で、社会的に影響力のある自治体職場において会計年度任用職員を増大させることは、非正規労働者の更なる拡大を促すことになりかねません。こうした観点からも、本市も含め、すべての自治体職場において、安易に会計年度任用職員を増やすことがあってはなりません。

最後に、今後下松市職労では、一時金の早期改善に取り組んでいくと同時に、給与の増額改定された場合には、正規職員と同様4月に遡及して改定するよう要求し、少しでも会計年度任用職員の処遇改善につながる取組みを行っていきます。

 

 

 

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