山口県地方自治研究所「【特集】会計年度任用職員の現状と課題」

           

声を届けるために組織化を

-周南市会計年度任用職員の現状と課題-

 亀谷 忠史(かめがい ただふみ)

(周南市職員労働組合書記長)

 

はじめに

2020年(令和2年)に地方公務員法改正により導入された会計年度任用職員制度は、本年で4年目を迎えます。しかしながら、会計年度任用職員の待遇については、いまだ多数の課題を抱えている状況です。本稿では、周南市の会計年度任用職員が置かれている現状を職員数やアンケートの結果から分析し、課題の整理及びその解決に向けての考察を行っていきます。

(周南市には現在も臨時・嘱託職員が雇用されており、本稿では「会計年度任用職員」にそれらの職員も含めて解説しています)

 

1.周南市会計年度任用職員の現状

(1)職員数と職種の分布

周南市の職員数は正規職員1,354人に対し、会計年度任用職員は1,192人で、全職員のうち約半数が会計年度任用職員という構成になっています。職種別の実数は表1のとおりで、「福祉職員」「図書館司書」「学童保育指導員」「消費相談員」は会計年度任用職員の比率が100%となっており、特に学童保育指導員は職員数279人で、一般事務職員312人に続く人数が雇用されています。他に保育士等も116人と多数雇用されており、特に出先職場では会計年度任用職員の比率が高く、周南市の市民サービスを支えるために、会計年度任用職員の存在は欠かせないものとなっています。

(2)アンケートからみる会計年度任用職員の現状

周南市で、昨年(2022年)12月に実施した「働くみんなの要求・職場アンケート(表2)」の回答者の構成をみると、会計年度任用職員の多くは「女性(約70%)」で、「家計の従たる生計維持者(約50%)」という結果が明らかになっています。このことから「女性が従たる生計維持者となる傾向」が示されていますが、逆に、会計年度任用職員が「主たる生計維持者、または主たる生計維持者として考えられている」世帯も、半数程度存在していることになります。会計年度任用職員の給与水準は後述の理由もあり決して高額とは言えない状況であり、会計年度任用職員制度が、官製ワーキングプアやジェンダー差別を助長する現実を物語っています。

 

(表1)職種別の実数

職 種 正規職員(人) 会計年度任用職員(人) 比率(%)
一般事務職員 716 312 30.3
技術職員 226 0  0.0
医療技術員 11   8 42.1
看護師等 41 16 28.0
福祉職員 0 20 100.0
保育士等 99 116 53.9
図書館司書 0  36 100.0
給食調理員 2  47  95.9
技能労務職員 14   0   0.0
教員・講師 21 13  38.2
学校司書 0 0   0.0
学童保育指導員 0 279 100.0
消費相談員 0 3 100.0
税等徴収員 0 0   0.0
ケースワーカー 21 0   0.0
その他 203 342  62.7

※調査元:周南市人事課(2023年4月1日時点)

 

(表2)働くみんなの要求・職場アンケート(抜粋)     (単位:人)

○回答者の性別

 

○家計の主たる生計者

 

 

2.周南市会計年度任用職員の課題

(1)パートタイムしかいない周南市会計年度任用職員

周南市は、会計年度任用職員の雇用形態に関し、「フルタイム」および「パートタイム」について、条例で定めています。しかしながら、現実には「パートタイム」形態のみで会計年度任用職員は雇用されており、フルタイムの会計年度任用職員雇用については、組合が市当局との交渉を通じ再三その必要性を求めてきたにも関わらず、未だに雇用されていないのが現実です。

 

(2)一時金支給条件は県内でも指折りの悪条件

山口県は全国的に見ても会計年度任用職員の一時金待遇が悪いことが知られています。周南市の会計年度任用職員制度は、条例(「周南市会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例」)により「任期6月以上」で、「基準日において、1週間の勤務時間がフルタイム会計年度任用職員の4分の3以上の勤務時間」がある会計年度任用職員にのみ適用されます。(フルタイムの場合は勤務時間の条件はありませんが、現時点では存在しないため省略)

これにより、実際に一時金の支給を受けられている会計年度任用職員は全体の約2割程度に留まっており、過去のたたかいの結果として会計年度任用職員の一時金「支給額」については改善されましたが、支給対象については極めて劣悪な条件になっていることから、会計年度任用職員間においても格差が生じる結果を生み出しています。

 

(3)条例により定められた「給与遡及の壁」

会計年度任用職員の待遇改善に大きな障害となっている点に、条例で、「フルタイム会計年度任用職員の給料(パートタイムの場合もこれを参照する条文あり)は、「任用する年度の前年度末」における給料表を準用する」、と明記されてしまっていることが挙げられます。

物価高騰の波が家計に深刻な影響を与えている昨今、フルタイム雇用なし、一時金の支給状況、遡及を阻む条例など、周南市で従事する会計年度任用職員、特にアンケート調査の回答で、自分が主たる生計維持者であると回答した会計年度任用職員にとって、大変切迫した経済状況を招いていることは、想像に難くありません。

 

3.課題の解決に向けて

(1)待遇改善を阻むシステムから改正を

周南市会計年度任用職員の待遇改善に大きな壁として立ちはだかっているのは、条例にうたわれた(給料の支給については)「前年度末の給料表を準用する」という文言にあることは明白です。これにより柔軟な対応が妨げられ、結果として物価高騰に際しての賃上げ交渉に対しても「条例にある通り」と錦の御旗のごとく掲げられ、現場職員の切実な賃上げの願いを一蹴する状況になっています。

また、新型コロナウイルス感染症の取り扱いが2類から5類(インフルエンザなどと同等の扱い)に変更されたことに伴い、周南市では会計年度任用職員「本人」については特別休暇の取得が可能になっていますが、「家族」については看護休暇が無給休暇扱いとなっています。これについて当局からは「家族についての情報の提出を行っていない」ことを挙げており、これも現状のシステムによって待遇改善が阻まれています。

 

(2)条例改正を視野に入れた交渉の展開

条例や現在の雇用に伴うシステムを変えていかなければ、会計年度任用職員の待遇改善を図ることは極めて困難な状況となっています。特に、報酬額を決定するための条例に問題がある以上、条例改正までを視野に入れて、今後のたたかいを展開していくことが重要になってきます。

 

4.多くの声を届けるための組織化

(1)アンケートから見える不安・不満の声

このような状況の中、「働くみんなの要求・職場アンケート」の調査結果をみても、会計年度任用職員制度自体の問題である雇用の継続に対する不安だけでなく、報酬額の低さに伴う不満や、同じ職場で働く正規職員との格差による職場間の軋轢を生む結果につながっていることがわかります。

自身の生活に対する不安・不満が増大すれば、市民サービスへの影響も強まり、サービスの質の低下にもつながっていくことになります。このような不満の中、会計年度任用職員の中には組合加入を望む声も上がっています。

 

(2)会計年度任用職員の組織化に向けて

こうした状況の中、会計年度任用職員の組織化を進めることは急務と言えます。組合員の声を汲み、それを当局にぶつけるのが労働組合の活動として非常に重要なことはご存じの通りですが、会計年度任用職員を取り巻く状況を、生々しく、かつ現実味のある声として届けるためには、会計年度任用職員にも交渉の場に立ってもらい、ともにたたかいを進めていく必要性があります。

正規職員の執行委員が、会計年度任用職員の声を聴き、その声を当局に届けることは可能なものの、それだけではどうしても説得力が不足してしまいます。厳しい待遇にあり、日々懸命に市民サービス向上のために奔走する会計年度任用職員自身であるからこそ、その切実な状況を真に伝えることができるのです。

周南市職員の約半数を占めている会計年度任用職員を、同じように市民サービスの向上のため日々奮闘する仲間として一人でも多く組合に迎え、さまざまな立場から、多くの声を届けていくことが必要になっています。

 

おわりに

周南市会計年度任用職員を取り巻く環境は、全国的にみても極めて劣悪と言わざるをえません。このような劣悪な雇用条件にあるため、会計年度任用職員の募集は何度も募集期間の延長を余儀なくされ、ひいては所管課の事務量増大を招くことにもつながっています。

そのような状況で雇用されたとしても、官製ワーキングプアを助長するかのような条件の中で心身ともに疲弊し、職場間の軋轢を生む結果となっていることが示されています。この状況を打破していくためには、会計年度任用職員が置かれている状況を把握し、その状況の中で働く仲間を一人でも多く増やし、当局に切実な声を届かせることが必要になってきます。

会計年度任用職員の組織化、ひいては交渉の場で声を届けるということは、一刻も早く成立させるべき急務の課題です。

 

 

 

 

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