瀬山紀子「公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題(2)会計年度任用職員制度改正の実情と課題」

公務非正規女性全国ネットワーク副代表である瀬山紀子さんから、労働法学研究会報に掲載された下記の原稿をお送りいただきました。「連載(1)当事者による実態調査の試みから」とあわせてどうぞお読みください。

 

公共サービスを支える非正規公務員の現状と課題(2)会計年度任用職員制度改正の実情と課題

瀬山 紀子 労働法学研究会報 73 (7), 4-7, 2022-04-01

 

 

はじめに

今回は、2017年に改正され、2020年4月に施行された、地方公務員法及び地方自治法に規定された、「会計年度任用職員」を取り上げる。法律施行から、早くも3年目を迎える来年度は、本稿の最後でも取り上げる、「3年目公募」が大きな課題となる可能性が高い年だ。そうした地方自治体で直接任用されている公務非正規の人たちが直面している直近の問題点を共有し、課題や展望を考えていくために、制度の概要や実態、問題点について記していきたい。

 

会計年度任用職員について

会計年度任用職員とは、2020年以降、非正規で地方自治体に直接任用されて働く人たちの多くが位置付くことになった職の名称を指している。この職名で働いている人は、総務省が2020年に行った調査によれば、全国で62.2万人おり、うち、フルタイムの会計年度任用職員は6.9万人、パートタイムは55.2万人いる[1]。性別では、その約4分の3(76.6%)を女性が占めている。

地方自治体の非正規職員は、国が統計を取り始めた2005年以来、増え続けてきた。しかし、その多くは、任用根拠が明確ではない状況に置かれていた。また、年度末などに、雇用期間を中断させ、「空白期間」を置くことで、年休や退職金支給の対象から外すなどの対応をしている自治体があったこと、また、労働者性が高い非正規職員についても、期末手当の支給ができないことなど、さまざまな課題があることが指摘されてきた。

こうした流れを受け、国は、2016年7月に「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会(座長: 高橋滋 法政大学法学部教授)」を設置した。そして、2017年2月には、臨時・非常勤職員の適正な任用・勤務条件の確保が図られるよう、可能な限り立法的な対応で制度改正を検討すべき、とする内容の報告書が公表された。

この報告書の提案を受けるかたちで、2017年5月に、地方公務員法及び地方自治法の改正がなされた。法律改正の際には、衆参両院で、下記を含む付帯決議が付けられた。

三 現行の臨時的任用職員及び非常勤職員から会計年度任用職員への移行に当たっては、不利益が生じることなく適正な勤務条件の確保が行われるよう、地方公共団体に対して適切な助言を行うとともに、厳しい地方財政事情を踏まえつつ、制度改正により必要となる財源の十分な確保に努めること(下線筆者)

この法改正で作られたのが、「会計年度任用職員」制度だ。確かに、この法律改正前から、臨時・非常勤職員として働く人たちの多くは、1年毎に任用の更新をしながら働いていた。その意味で、この制度は、それまでの1年毎任用を、そのまま「会計年度任用職員」という言葉に置き換え、法定化したものに見える。

しかし、現実をみると、非正規職員の人たちは、1年毎の更新というかたちを取りながら、長期継続的に働いてきた実態があった。このことは、2016年に総務省が行った調査でも明らかになっている。調査では、同じ職場で10年以上働いている人がいるとした自治体が、保育所保育士で41%、消費生活相談員、事務補助職員、給食調理員で31%と、かなりの割合となっていた[2]

職場には、異動をしていく少数の正職員と、1年毎任用といった不安定任用で、それ故に昇給や賞与等もないことが前提でありながら、継続的に職場を支えてきた“ベテラン非正規”が存在し、後者の働きに負うことで、職務が回ってきたという側面があったのだ。

しかし、法改正は、そうした実態を踏まえた非正規の適正な条件の整備には踏み込まず、1年毎任用という側面に着目し、実態とは乖離した建前を強化したものとなってしまった。

加えて、会計年度任用職員制度は、フルタイムとパートタイムの区分を設け、フルタイム会計年度任用職員であれば退職金を支給できるものとするなど、大きな待遇格差をその制度内に設けた。そして、フルタイムの勤務時間から15分短いと、パートタイムにされるという点も、地方公務員の制度の特徴だと言える[3]

では、「会計年度任用職員」と位置付けられた人たちはどのような思いで働いているのか、また、付帯決議に示されたような制度移行期の不利益変更は、実際に起きていなかったのか。以下では、公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)の調査を参照しながら、その実態を掘り下げていこう。

 

会計年度任用職員制度の実態について

「会計年度職員になって、勤務時間を15分短縮され、パートタイム会計年度職員へされた。昼休みも取れないくらい忙しい職場で、別途に休み時間もとれず、将来の事を考えると、精神的にやられてきつい。」

「会計年度任用以前はフルタイム勤務だったので、退職金が出るようになるという話だったが、勤務時間を1日あたり15分カットされてパートタイム会計年度任用職員としての任用になり、退職金がでない。とても腹立たしい。」

「フルタイム任用にしたくないという当局の意向に押し切られ、ほとんどのフルタイム職員がパートタイム任用となりました。無理やりパートタイムにするために勤務時間を短くされ、それを補うためにさらにパートタイム職員を採用するという本末転倒な有様です。」

「職場唯一の専門職で判断を求められる立場にあり、経験も20年近くあるが、待遇は改善されないままで給与は手取り10万と少し。仕事内容に比して報酬の少なさにやりがい搾取を感じる。」

上記したのは、いずれも、はむねっとが、2021年にウェブ調査として行った、「公務非正規労働従事者への緊急アンケート」の自由記述に寄せられた声だ。

調査からは、制度移行期に、少なくない自治体で、それまでフルタイムの非正規職員として働いていた人たちが、仕事内容は変わらないまま、パートタイム職員へと移行させられていた実態が見えてくる。そして自由記述からは、こうした勤務時間の切下げは、一方的なものであり、フルタイムであればあったはずの退職金を出さないためといった財政的な理由によるものだと感じられていることがわかる。

国の行った調査では、前回の2016年調査時には、フルタイムの非正規職員は、特別職非常勤職員、一般職非常勤職員、臨時的任用職員をあわせて約20万人いた。それが、制度改正後の2020年の調査では、フルタイム会計年度任用職員は、6万9千人に激減している。

国は、2020年に地方自治体に対して行った調査で、こうした、フルタイムからパートタイムへの移行は、「「業務内容に応じて勤務時間を積み上げた結果」や「施設の運営時間や窓口の開設時間等を考慮したもの」」であり、「単に財政上の制約を理由とする回答は見られなかった」とまとめている[4]。しかし、この調査結果は、働き手の側から見える現実とは、大きく異なるものであることは確かだ。

加えて、給与設定に関してみると、はむねっと調査で、会計年度任用職員として任用されている女性(n=857)のみを取り出して再集計を行ったところ、フルタイムでも、年収額が200万円未満の人が4割近く(39.7%)となることがわかっている[5]。自由記述でも、4割を超える人が給与の低さを問題と感じていた。

国は、これについても、2020年の調査で、「9割を超える団体が常勤職員の給与表を基礎とし、業務経験を考慮して給与(報酬)を決定」しており、概ね問題はないとしている。しかし、自由記述からは、自らの担う仕事と給与が見合わない、何年たっても給与が上がらず、業務経験が考慮されていない、「やりがい搾取」を感じる、といった現場の声が見えてくる。

さらに、はむねっとでは、2021年9月に、緊急アンケートの回答者のなかの5人の方に追加でオンラインでのインタビュー調査を実施した。このインタビューからも、制度移行に伴い、一方的な給与の減額が行われたこと、時間数が減らされたこと、任用形態の変更で給与が大幅減となること、労働組合法上の権利はく奪にあったことなど、様々な問題が指摘されている[6]

総じて、当事者調査からは、2020年度の制度移行がもたらしたと言える多様な手段、方法による不利益変更の実態が見えてきていると言える。

 

“会計年度任用”の根本問題

2022年度は、制度が開始されて早くも3年目の年となる。そのため、少なくない自治体が、国が示したマニュアルに例示された国の期間業務職員制度にならい、現に働く人も対象にした公募を実施する可能性が高い[7]。民間で働く非正規には、さまざまな課題はありながらも、無期転換ルールの適用がはじまっているが、会計年度任用職員は、こうしたルールの外側に置かれている。

現在「会計年度任用職員」として働いている人たちは、これまでも、人によっては10年以上といった長きにわたり、地方自治体の公務職場で基幹的業務に就き、公務サービスを支えてきた。それらの職は、単年度では身につけることができない経験や知識に裏付けられた職であり、そうした非正規の働き手が継続的に存在してきたことで、公務職場は、その業務の質を担保してきたとも言える。それは、会計年度毎に切り替え可能な職だとは言えず、本来は、公務員としての身分の保証がある中で、正当な評価を得て、公の仕事として積み上げられるべき職のはずだ。しかし、現実には、こうした職が、非正規の担い手たちによって、担われてきた現実があった。この現実に向き合い、根本から、公務職場のあり方を考え直していく必要があった。しかし、実態とは乖離した建前を元にした制度ができてしまった。

制度が3年目を迎える今、この制度の根本的問題に、声をあげる必要がある。

[1] ここでは、総務省の『地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果』(2020年)のうち、任用期間6か月未満、又は勤務時間が19時間25分/週未満の参考数字を抜いた数を記している。

[2] 『地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査結果』(2016年)に、「同一任命権者において10年以上同一人を繰り返し任用する事例のある団体」についての記載がある。

[3] 国の非正規職員(期間業務職員)の制度では、「1週間当たりの勤務時間が38時間45分の4分の3を超えない職員」がパートタイム職員と位置付けられている。

[4] 調査のまとめについては、総務省が公表している「地方公共団体における会計年度任用職員等臨時・非常勤職員に関する調査について(ポイント)」を基にした。

[5] 調査結果の追加集計については、池橋みどり「公務非正規労働従事者への緊急アンケート調査結果と追加集計概要について」『生活経済政策』No.296(2021年9月)による。

[6] 追加インタビュー調査の詳細については、以下のURLにある筆者の2021年社会学会報告に詳しい。https://nrwwu.com/report-2/

[7] 総務省が示した『会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)』に、「例えば、国の期間業務職員については、平等取扱いの原則及び成績主義を踏まえ、公募によらず従前の勤務実績に基づく能力の実証により再度の任用を行うことができるのは原則2回までとしている。」とある。

 

 

(参考)

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